第14話 時は巡って
スラリア「…バカなやつ」
べリアル「まぁそう言うな。彼奴の死は魔族として
恥なのはたしかじゃが、おかげで血鬼7人衆の汚点が
取れたわけじゃしの」
ベルゼブブ「あぁ、あんな身勝手な行動をした挙句、
勝手に消えたやつのことを気にかけるほど、
我々は暇じゃなくなったし」
スラリア「そうだね。もう残り4人だし…
次は誰が出る?」
べリアル「ではわしが行こうではないか。わしの計算に
間違いがあることなどないわい。ベルゼブブ、其方は
彼奴らの情報を掴むことに全うせい」
ベルゼブブ「言われなくとも。我々は常に無敵。
フォールも動いているし問題はない」
べリアル「では任せたぞ。ふぇっふぇっふぇ…
わしが出る幕でもないと思っておったのに…」
1節 新年明けたらお出かけ日和!
全員「新年明けましておめでとうございます!」
フラット「本当はここにスラリアとフォールが
いるはずなんだけどね…」
クレア「ま、まぁ、また会えるだろ?
それに大丈夫だって!」
スター「そうだよ!って、いいの?
熱海の宿に向かわなくて」
フラット「この会が終わったら熱海に行くし」
ノール「それより、アスカ達は?」
フラット「あぁ、1週間しか仕事期間が
なかったみたいで帰ったよ…って、
知らなかったの?」
ノール「アスカ達、急にいなくなったから」
フラット「えっ、挨拶なしで…?
アスカらしくないな」
スター「あ、スターには挨拶くれたよ?ノールは
その時トイレ行ってたから」
ベングル「あぁ、俺達にも挨拶くれたぞ。ノールは
いなかったな」
エド「そうっすね。クリスマスの時にも挨拶を
してくれたっすよ」
ダバンゴ「……」
ライ「ダバンゴ殿?あまり浮かない顔してないでござる」
ダバンゴ「あぁ、いや何でもないぜ」
フラット「?と、とりあえず、新年の挨拶も
済んだことだし、熱海に行こうか」
ダバンゴ「……」
フラット「ね、ねぇダバンゴ?行くよ?」
ダバンゴ「!あ、あぁ」
フラット「?大丈夫?いつもの調子じゃないけど…」
ダバンゴ「うっせぇ!」
フラット「⁉︎えっ…えぇ?」
ダバンゴ「あ、すまねぇ」
クレア「…まっ、チェックアウトするぞ。
熱海に行こうや」
フラット「そ、そうだね」
伊豆駅ー
フラット「えっと…8:13発…だよね。ダバンゴ、
切符…あれ?」
ダバンゴ「あぁ?切符…」
フラット「持ってないの⁉︎待ってて、
すぐに持ってくる!」
クレア「…アイツ、忙しそうだな」
ダバンゴ「…はぁ〜」
ノール「…悩み?」
ダバンゴ「何でもねぇ、話しかけんな」
ノール「なっ…!」
ベングル「抑えろ、抑えろって!」
ノール「何なのアイツ!」
ライ「いつも新年を明けるとああなるでござる。
理由は分からないでござる」
エド「にしても、寒いっすね…!」
スター「防寒具持ってきてないからでしょ!
もう…はい。アスカお姉ちゃんがくれた手袋。
スターは兄ちゃんのくれたのがあるからいいけど…」
エド「あ、じゃあ貰うっすね。いい子っすね、スターは」
スター「えへへ…もっと褒めてもいいんだよ?」
クレア「こら!たかるな」
スター「えぇ〜、だって兄ちゃん、
全然褒めてくれないんだもん」
クレア「お前、褒めれば褒めるほど物をたかるだろ!」
フラット「おーい!ダバンゴ、切符」
ダバンゴ「あ、あぁ…ありがとう…」
フラット「うん!あ、ちょうど来た。乗ろっか」
ダバンゴに手を伸ばすフラット。しかしー
ダバンゴ「いらねぇよ!」
その手を強く叩き落とす。
フラット「いって!ってて…」
ベングル「おいダバンゴ!」
フラット「だ、大丈夫。これぐらい…」
ノール「ちょ、腫れてるじゃん!」
皮膚が鱗でできていて硬いガスペラス人の手に
強く叩かれたので腫れていたのは当然でもあった。
スター「えっ…内出血してるけど、本当に大丈夫⁈」
フラット「大丈夫だって。僕、結構痛みには
強いのは知ってるでしょ?」
クレア「で、でも…治療はした方がいいと思うぞ?」
フラット「いいって!電車に乗ろ?行っちゃうよ」
クレア「あ、あぁ…」
フラット「ってて…」
しかし、平気そうな顔だったフラットもだんだんと
辛そうな表情になっていた。
フラット「…大丈夫。これぐらい、大丈夫」
クレア「…おい。痛いんだろ?汗、酷いぞ」
フラット「大丈夫だって…こんなの…!」
クレア「おい!ったく、着いたら即病院な!」
フラット「大丈夫だって!余計なお世話!」
クレア「なっ…お前、折角心配してんのに!」
フラット「あ、いや…ごめん…痛くてつい…」
クレア「そんな痛いんなら病院行くからな!
あと、さっき言ったこと、許さねぇからな」
フラット「…ダバンゴも…もしかして?」
クレア「?」
フラット「ダバンゴも同じなら…どこが痛いんだろ…」
クレア「?おい、痛みでイカれたか?」
フラット「いや…そうじゃなくて…」
と、答えが導かれることなく、電車は熱海駅に着いた。
フラット「あ、着いた」
クレア「行くぞ」
フラット「あっ、ちょー」
クレア「そんな怪我負わせたやつも連れてくし、
問題ないだろ?」
フラット「えっ…でも…チェックインしないと…」
クレア「スター、チェックイン頼んだ」
スター「わ、分かった!行ってくる!」
ノール「私も先に行ってるね。あとの3人は
病院に行ってて。チェックイン済ませたら向かうし」
クレア「んじゃ、行くぞ」
医者「レントゲンの結果、右手の甲の骨に多数、
ヒビが入っています。お湯などの温かい水に
浸さず、激しい運動は避けてください」
フラット「はい…分かりました」
医者「薬と包帯は出しておきますので
あとは受付でお待ちください」
フラット「はい、ありがとうございました」
クレア「どうだった?」
フラット「…右手甲のヒビ多数。激しい運動は
避けるようにって」
ベングル「ダバンゴ!お前、フラットの
ファイター活動に支障をきたしてるじゃねぇか!」
ダバンゴ「……」
ライ「黙っていられても困るでござる」
フラット「いいよいいよ。僕の傷は
酷くはないし、すぐに治るって!」
クレア「それでも1ヶ月はかかるだろ!
どうすんだよ!」
フラット「それでも、骨折じゃなかっただけいいよ」
ベングル「よくねぇだろ!お前、右利きだろ?
生活面まで苦しいじゃねぇか!」
フラット「いや…ぶっちゃけ僕、両利きだから。
昔っからよく利き手も怪我して、仕方なく
左手使ってるうちに左手も使えるようになってさ」
ライ「でも、怪我をしたのは事実でござる。
それを許すのは
フラット「大丈夫!それより、早く宿に行こ?」
ノール「焦る必要はない。チェックインは
済ませたし、ゆっくり行こう」
スター「そうだよ。稽古は十分にやったし、
ゆっくりでもいいと思うよ」
クレア「だが…おいワニ!」
ダバンゴ「その呼び方、やめろと言ってるだろ!」
クレア「余計にやなこった!」
ベングル「それより、ヒーラーはいないのか?」
スター「ナックラーだったら…そういう怪我でも
治せたのに…」
フラット「…そうだね。でも、力を
上手くコントロール出来れば、スターにだって
できるはずだよ」
スター「本当⁉︎じゃあ、頑張るよ!」
フラット「うーん…いつも頑張ってほしいんだけどね」
スター「えぇ〜…めんどくさい〜!」
クレア「これが吹奏楽部の部長か?」
グリオ「へぇ…吹奏楽部か。懐かしいな…」
スター「グリオも吹奏楽部だったの⁉︎何やってたの?」
グリオ「トロンボーンだ」
スター「えっ⁉︎じゃあ教えて!スターのパート、
人に教えにくくて!」
グリオ「いいとも。聞いてあげるとも」
エド「あ、フラットの番号っすね。会計は俺が
しとくっすから先に行っててくださいっす」
フラット「えっ、あ、ありがとう」
ノール「あ、タクシー待たせてるから
ゆっくり行くわけにもいかないか」
スター「すっかり忘れてた!」
クレア「でも、タクシーじゃこの人数は
無理だろ。バスでも使うか…2人はタクシーで
帰ってればいいから、俺達はバスで帰ろうや」
ベングル「そうだな。ダバンゴは歩きで帰ってこい」
ダバンゴ「……あぁ」
フラット「えっ…いいよ!一緒に帰ろ!」
ダバンゴ「親分、今日は俺様機嫌が悪いんだ。
ゆっくり歩いて帰るから先に帰ってろ」
フラット「う、うん…」
エド「帰ったっすよー!それじゃ、宿に向かうっす!」
バス停までの道ー
フラット「ねぇ、ダバンゴ。何かあったの?
機嫌が悪いとかの顔じゃないよ」
ダバンゴ「何でもねぇったらねぇよ!」
フラット「…そう?」
クレア「そんなやつ放っとけよ。お前を怪我させたんだぞ?」
フラット「そんなわけにもいかないよ!だって、
一緒にいる仲間だし、何より、ダバンゴに
そんな顔、似合わないもん!」
エド「やっぱりフラットは優しいっすよ。
何でも許しちゃうっす」
フラット「そんなことないよ。僕だって
全部を許したわけじゃないもん。
だから話してほしかったんだけど…この調子じゃ、
人に話せないことなんだね。なら諦めるよ」
ダバンゴ「親分…」
ベングル「いいのかよ!コイツに罰は!」
フラット「いいって。無理に絡んだ僕にも責任があるし」
クレア「お前なぁ…」
エド「あ、バス停っすね」
ダバンゴ「じゃ、俺様は歩いて向かうぜ」
フラット「…僕も行く。僕も久々に故郷の風は
感じたいもん」
ダバンゴ「……」
フラット「だから、これは僕の勝手。罰じゃなくて
ただのワガママ」
クレア「お前、無茶な運動は避けろってー」
フラット「歩くのが無茶な運動ならこの世に
スポーツは存在しないよ。ここからでも
徒歩20分だし」
エド「じゃあ俺も歩きで行くっすか?心配っすよ」
フラット「いいよ、僕1人で。おじいちゃんじゃ
あるまいし」
エド「…そうっすか?」
フラット「うん。じゃあ、僕も歩きで向かってるね」
フラットは全員のもとから離れて先に徒歩で
宿に向かっていく。
ダバンゴ「……」
フラット「ん〜!やっぱ気持ちいい!海風の匂い…
寒さとか感じないよ」
ダバンゴ「……」
フラット「ダバンゴの故郷もこんな匂いするのかな?」
ダバンゴ「俺様の故郷…?知ってて言ってるのか?」
フラット「やっぱり何かあるんだ。ちょうど新年が
明けた1月1日の事件…忘れもしないよ。タクマが
故郷のギヴァシュをなくした日…まさか、
ダバンゴ、ギヴァシュ出身⁉︎」
ダバンゴ「あぁ、そうだよ。悪いか」
フラット「あっ…そうなんだ…海底国とか、
一度でもいいから行ってみたかったなぁ」
ダバンゴ「……お前は、故郷を失ってどう思ったよ?」
フラット「どうって…子供の時すぎてうろ覚えだけど、
忘れちゃいけないこととは思ってるよ。それに…
バトラーと出会えて、時間はかかったけど
この今に繋がったわけだし、悲しいけど幸せだって
思えてるよ」
ダバンゴ「……そうかよ」
フラット「えっ…変なの」
ダバンゴ「あぁ⁉︎」
フラット「そういうダバンゴこそどうなの?
ギヴァシュのこと、テレビでしか見たことなかったよ」
ダバンゴ「……ギヴァシュはな、ガスペラス語で、
地球だと家族って意味だ。その言葉通り、
そこに住んでたやつらは争うことはなく、平和に
暮らしてたさ。だが……何処のどいつの仕業か
知らねぇが、ガスペラス星を廃棄物処理専用惑星と
認めやがった星があってな。ソイツらのせいで
海は汚れて、ほとんどの国が公害に巻き込まれた!」
フラット「…その中にギヴァシュも…」
ダバンゴ「そっから俺様は賊に入った。海を愛し、
海を愛さねぇやつらを片っ端から片付けてくな。
だが…俺様の心はもう戻らねぇ。地球にいたって、
何にも変わんねぇ。公害で、俺様の仲間も
ほとんど死んだ。生き残ったのは今じゃ俺様だけだ」
フラット「……そうなんだ……」
ダバンゴ「……何でだろうな」
フラット「えっ?」
ダバンゴ「こんなこと、誰にも話したくねぇって
思ってたのによ。親分には、話しちまった」
フラット「…ねぇ。折角だし、寄り道しない?
冬の熱海の海、見に行こうよ!」
ダバンゴ「…あぁ」
フラット「どう?」
ダバンゴ「流石に寒いな…!」
フラット「アッハハ、たしかに寒いね」
ダバンゴ「親分は平気なのか?」
フラット「うん、懐かしくて寒いのとか忘れちゃうよ」
ダバンゴ「…いいよな、故郷があるってのは」
フラット「ううん、ここは僕がよくきてた場所。
故郷は今、復興中。エリアHAと呼ばれたあの場所が
僕の生まれ育った故郷。早く行きたいなぁ」
ダバンゴ「そうだったな…親分、家族はいるのか?」
フラット「知ってるでしょ?僕の父さんは
独裁者として恐れられたヒトラーの血族、ウィーン。
母さんは人柱にされて他界。だからいないよ」
ダバンゴ「…俺様よりも辛かったのか…」
フラット「ダバンゴは?」
ダバンゴ「いるにはいる。だが…公害で今も
苦しんでる。俺様は稼がねぇといかねぇ。
弟のためにも……なのに俺様は賊になんか
入って…!クッソ!」
フラット「あ……ねぇ、それって毒成分による病気?」
ダバンゴ「あ、あぁ…」
フラット「だったら、スターに頼めば―」
ダバンゴ「それじゃ意味がねぇんだ!俺様が
やんねぇと…アイツは俺様の大事な家族なんだ!」
フラット「ダバンゴ…分かった、でも無理はしないでよ。
家族のために無理して倒れて心配でもされたら
本末転倒だよ」
ダバンゴ「……親分は優しいんだな。そうだよな、
でなきゃ、アイツらをまとめられはしないか。
分かったぜ、親分に従う」
フラット「べ、別に命令じゃないんだけど…
まぁ、いっか。それじゃ、ここにいても
冷えるだけだし宿に行こうか」
ダバンゴ「あぁ」
フラット「でも、良かった。ダバンゴも友達だね」
ダバンゴ「なっ…俺様は友達なんか…」
フラット「いていいと思うよ。天涯孤独なんて
辛いだけだもん。僕が誰より知ってる」
ダバンゴ「……親分……辛い時は言えよ。
俺様には聞くことしかできねぇが……」
フラット「……出来ることを行動に移せれば
それで十分だよ。1人の出来ることが、誰かの
出来ないを手助けするんだから」
ダバンゴ「……あんがとな。やっぱ、親分には
敵わないぜ。俺様の出来ることか」
フラット「それを見つけるのは難しいけどね。
じゃあ、一緒に行こ!」
ダバンゴ「了解だぜ!」
宿ー
クレア「あの2人、遅すぎないか?」
エド「徒歩20分の距離っすよ?40分は
もう経ってるっすよ」
ノール「あのガラの悪いやつ、もしフラットに
何かしたなら絶対許さない」
フラット「ごめーん!今来た!」
ダバンゴ「寄り道してただけだぜ」
ベングル「やっと来たか。それじゃ、
イベントの詳細をー」
フラット「待った!その前に、お正月といえば
あれをやらないと!」
グリオ「…あぁ、まだやってなかったな」
スター「早く行こう!」
ライ「年中行事は拙者も行くでござる」
フラット「それじゃ、レッツゴー!」
神社ー
スター「うっわぁ〜…」
クレア「すごい行列だな」
ダバンゴ「こんな待つのか〜?」
ノール「はぁ…こんな列に並ぶなんて…」
エド「分散参拝とかないんすか?」
フラット「あるわけないでしょ!本殿でお参りするのが
普通だし、本殿以外のどこでお祈りするっていうの」
ベングル「そうだな…神社の有名なスポットを
参るっていうのも面白そうだな」
グリオ「そういえば、昨日の新聞に神社のあちこちが
壊される事件が多発してるそうだな。静岡でも
起きていた気がー」
ドカーン!
と、大きな破裂音がグリオの声を遮るように
辺りに響き渡った。
ノール「ば、爆発⁉︎」
ライ「本殿の方でござる!」
フラット「行くよ、皆!」
スラリア「フフフ…もう少し…もう少しで揃う!」
フラット「えっ…スラリア?」
クレア「嘘だろ…スラ…?」
スター「スラリア!やめてよ!また一緒に
なろうよ!皆と…一緒に!」
スラリア「…黙れ。今度は殺す!」
ノール「!危ない!」
ノールはスターを襲おうとしたスラリアに向かって
瓦礫を投げる。
スラリア「うわっと!フフフ、裏切り者が…
あたしは戻る気などない。あの方の御霊を
蘇らせるその日まで…!」
クレア「スラ!何で…何でこんな真似するんだ!」
スラリア「あの方の復活のために、結界は不要。
要となっている霊力を断ち切る。あたしは
そのために動いている。お前達を相手にしている暇は
残念だけどない。じゃ…」
ダバンゴ「待ちやがれ!裏切り者!俺様は
テメェみたいなのが大嫌いなんだよ!」
スラリア「……裏切り者…か。アンタはどうなの?
壊れゆく国、死にゆく人を横目にしたアンタは
裏切り者じゃないの?」
ダバンゴ「っ⁉︎」
ライ「お主、何でそれを⁉︎」
スラリア「魂の全てを見る。死神としては当然の能力」
フラット「…違う。スラリアは…」
スラリア「死神は余命を伝えるのが役目」
フラット「そんなことしなかった!そんな力、
望んでなかった!たとえ相手が自分を
苦しめた存在であっても、最後まで幸せにしようとした!
あの優しさに嘘偽りはなかった!」
スラリア「……黙れ!あたしはもう戻らない!
あの方についていくと契ったんだ!」
べリアル「何をしておるスラリア?」
スラリア「べリアル…すまん、惑わされた」
べリアル「ここはわしが引き受けよう。
其方はもう帰っておれ」
スラリア「…分かった」
クレア「なっ、待て!」
べリアル「貴様らの相手はわしじゃ。容赦はせぬぞ」
フラット「皆、集中していくよ!」
全員「了解!」
べリアル「ふぇっふぇっふぇ…わしの計算に
敵うやつなどおらんわ」
ダバンゴ「なっ、俺様数学とか苦手なんだ…!」
全員「そんなこと言ってる場合か⁉︎」
ダバンゴ「あ、あぁ…」
べリアル「仲間なんぞとほざく貴様らと
わしとは大違いということを教えてくれようぞ。
勝算・焼糸之傀儡!」
ノール「うわっと!」
クレア「突風・水切之旋風・爽!」
べリアル「こんなのまだ序の口じゃよ?
勝算・大滝落」
フラット「審判・凍瀧之結界!」
べリアル「…無駄じゃ」
フラット「えっ⁉︎何で⁉︎」
べリアルの起こした滝は凍ることなくフラット達の方へ
流れていく。
ダバンゴ「……流れに……飲まれる……!」
58年前 1月1日
ダバンゴ「……ここが……ギヴァシュ……?嘘だろ……
違う……違う!こんなの…認めねぇ!」
ダバンゴ「……ダメだ……逆らえねぇ」
ライ「忍術・岩雪崩!」
いくつもの岩が滝の流れを堰き止める。
べリアル「ほう…術をそのままにして
攻撃を仕掛ける気じゃろうが、何もかも無駄じゃ!」
ベングル「そんな口聞けるのも今のうちだぜ!
火炎・フレイムスプラッシュ・散!」
べリアル「闇雲な攻めほど容易く避けられるものなど
ない。猿の一つ覚えじゃ」
ベングル「なっ…!」
グリオ「私の攻撃ならどうだ。
迷森・闇霧之誘」
べリアル「この術…魔術?しかも、まさか無名のやつか。
この程度、余裕でー?」
べリアルの目の前に広がっていたのは鬱蒼とした
森。深夜よりも暗く、木々も見えないほど。
その森の中から聞こえたのはー
アリジゴク「ギャルル……!」
べリアル「なっ…⁉︎アリジゴクだと…⁉︎」
フラット「ね、ねぇ、あの森って…」
グリオ「あぁ、あの森自体がアリジゴクだ。私を
無名と罵った罪も込めてな」
スター「そ、それって大丈夫なの⁈」
グリオ「退治してもいいんだが…そうなるとやつを
救助することにもなるし…無理矢理封印するか」
フラット「そうだね。殺すよりは…いっか」
ダバンゴ「……遊泳・龍蛇之泳舞!」
アリジゴク「ギャウ⁉︎」
フラット「ちょ、何してんの⁉︎」
クレア「お、おさえねぇと!」
スター「か、神業・夢見!」
ダバンゴ「っ…」
ダバンゴは一気に眠りに落ちる。
フラット「ふぅ…あとはこいつを」
クレア「封印どころか、一気に浄化してくれる!」
ベングル「それは無理だ。コイツは浄化できるほど
心が澄んでねぇしな」
クレア「そうか……じゃあ、フラット。封印は頼む」
フラット「オッケー。神業・封印」
ノール「これで、いいんだな。心置きなく
イベント準備に…」
フラット「…でも…何でダバンゴは止めようと
したのかな…話してくれたり…しないよね」
グリオ「フラットにも話してないのか?」
フラット「……うん。ちょっとだけしか。でも…
僕も知ってることしか…」
ライ「……拙者も、ダバンゴ殿のことは
あまり知らないでござる。同じ事務所で、
付き合いも長い拙者にすら話してくれないのでござる」
フラット「うーん…難しいのかも…」
ダバンゴ「……?」
フラット「あ、起きた」
ダバンゴ「アイツはどうなった?」
フラット「ふぇっ⁉︎あ、え〜っと…その〜…」
ダバンゴ「封印したのか?」
フラット「……うん。ごめんね、なんか…
止めようとしてたのを無理矢理…」
ダバンゴ「えっ…」
驚くような目をするダバンゴ。
フラット「ほんっとにごめん!流れに乗るしか
なくって…勝手に眠らしちゃったし…」
ダバンゴ「……親分って、面白いやつだな。
俺様もついカッとなっちまった」
フラット「…あの時、何で止めようとしたの?
どうしても気になっちゃった」
ダバンゴ「親分…」
2節 冬風は別れを告げて
ダバンゴ「親分…しゃあねぇなぁ。ギヴァシュはな…
ただ国として機能できなくなっただけじゃない。
封鎖されたんだ、危険すぎるってな」
フラット「危険すぎる?」
ダバンゴ「あぁ…それを知ったのは、最近だがな」
2年前ー
ダバンゴ「なっ…何だよこれ…!」
看板[この度、ギヴァシュを封印措置にしました。
復興のめども立たず、残したままにしても海を
汚し続けてしまうため、海底に封印しました」
ダバンゴ「ギヴァシュが…封印…?海底に?
何かの冗談だよな?」
タクマ「ダバ…お前もいたのか。今年で4周忌だ。
俺も驚いてるよ。ガスペラス星の大都市でもあった
ギヴァシュを簡単に手放すとはな」
ダバンゴ「……もう、元には戻らねぇのか」
タクマ「あぁ…二度と、泳ぐ光を浴びることはない。
これも……アイツらのせいだ…!」
ダバンゴ「……タクマ。俺様がやつらをぶっ潰す。
テメェは絶対に手を出すな」
タクマ「……分かった。俺は先に帰ってる」
フラット「……封印……だから、つい止めようと…」
ダバンゴ「あの時はすまなかった。謝るのは
俺様の方だ。悪かったぜ」
フラット「えっ……」
ダバンゴ「ど、どうしたんだ?」
フラット「……っハハ!ダバンゴ、泣いてやんの!」
ダバンゴ「えっ……あ…」
フラット「さぁてと!ダバンゴが珍しく謝ったことだし
僕は先に部屋に行ってるかな」
ダバンゴ「な、なぁ…俺様も一緒に行ってもいいか?
その…あれだ。アイツらに顔合わしにくくてな」
フラット「分かったよ、まぁ、顔は合わしにくいよね。
一緒に部屋まで行こうか。どこが僕達の部屋かも
分からないもんね」
ダバンゴ「あ、あぁ。色々とすまねぇな。親分、
本当に助かるぜ」
フラット「う、うん…」
(お礼を言うダバンゴって……なんか不思議)
ベングル「アイツ、本当にどうしたんだ?」
ライ「邪魔だて致すとは、ファイターの風上にも
置けないでござる」
グリオ「だが…あの目はまるで何かを思う目だった。
やはり…何かあるのだろう。アイツの心を固く閉ざす、
何かが。それを開くのは他でもない、フラットなんだろう」
フラット「ただいまです!」
ベングル「よ、よう…」
クレア「お、来たか!にしても…ワニ、縮こまったなぁ」
ダバンゴ「だぁから!その呼び方はやめろと
言ってるだろうが!」
ベングル「あちゃ〜、また尖っちゃったぜ」
フラット「で、イベント準備に行こうと思うんだけど
大丈夫?急な戦闘で疲れてると思うけど」
グリオ「たしかに、疲れてるやつもいるだろう。
ここは先に温泉にでも入って体を休めておこう」
ダバンゴ「それより、エドはどうした?」
フラット「そういえばいない…」
クレア「あぁ、アイツなら中庭だぞ。
なんかハウス農園が気になるとか…」
フラット「ハウス農園⁉︎ちょっと行ってくる!」
ダバンゴ「お、おい親分⁉︎」
エド「ぐっふっふ…これだけあれば大量っす!」
フラット「エ〜ド〜?何やってるの〜かなぁ?」
エド「げっ…!」
フラットはニヤリとした笑顔でエドの目の前に
立ち塞がる。
エド「い、いや、何でもないっすよ!」
フラット「そう?じゃあ、その袋、見せてくれる?」
エド「も、もちろんいいっすよ!特にいやしい物は
入ってないっすし…問題はないかと思うっす」
フラット「そ?ありがと。で……やっぱり、
キウイだらけだけど…これは?」
エド「バイトっすよ、バイト。と言うよりは
ただの手伝いっすけど…」
フラット「まっ、今回は分かってたよ。ごめん、
冗談。エド、いい子じゃん」
エド「そうっすよ!俺は超絶いい子っすよ!」
フラット「じ、自分で言うこと?」
エド「じゃあ、これ、届けてくるっす!」
フラット「うん、行ってらっしゃい」
張り切って届けに行くエドを見送り、視線を下げる。
するとエドの言っていた手伝いの内容が書かれた
看板を見つけた。
看板[キウイの収穫を手伝ってくれた方には、
無料で3つのキウイをプレゼント!]
フラット「……へぇ〜……エド、考えたねぇ…でも、
見ちゃった以上は仕方ないね」
数分後ー
エド「フラット〜!キウイ貰ってきたっす!」
フラット「…へ?」
エド「帰ったら、ナックラーさんのお墓に
お供えするんすよ!天国じゃ、あるのはりんごだけっすよ」
フラット「…それもそうだね。ごめん、僕って
嫌なやつだね。エドのこと…疑っちゃった」
エド「全然気にしてないっすよ!元はと言えば
隙あればキウイ食ってた俺が悪いっすもん」
フラット「…ップ!アハハハハ!」
エド「きゅ、急に何すか⁉︎」
フラット「いや…やっぱり、エドは変わったなぁって。
僕さ、初めてだったんだ。誰かと、あんなに
友達になりたいって思ったの。だから、
エドに会えて本当に良かった。僕も変われたし…
きっかけをくれた!誰かを想う…力のね」
エド「フラット…俺もっすよ!これからも、
ずっと一緒っすよね!」
フラット「もちろん!それじゃ、そのキウイを
冷やすためにも持ってこ!」
エド「はいっす!」
ノール「もうちょっと術の威力を下げないと、
ステージが壊れる。8割ぐらいで頼む」
ベングル「おう!8割ぐらいだな!」
クレア「流石カメラ担当!ちゃんと映像から
反省点見出してるじゃねぇか!」
ノール「あ、ありがと…」
フラット「あ、盛り上がってるね。僕はイベントは
無理だから、ダバンゴはライと手合わせお願い」
ダバンゴ「合点だぜ親分!」
ライ「ダバンゴ殿…調子戻ったのでござるか。
それなら情け無用でござる!」
ダバンゴ「元から俺様には情けなんざ無用ってんだ!
本気でかかってこいや!」
フラット「うん、いい感じ」
スター「ねぇ、スターも出たい!」
フラット「えっ…うーん…じゃあ、エドの相手を
頼もうかな。できそう?」
スター「もちろんだよ!スターは挑戦したいんだ!
挑戦して、ナックラーにもスターの輝きを
見せるんだから!」
フラット「分かった、じゃあ頑張れ!」
スター「うん!」
エド「スターが相手っすか。てことは…」
フラット「ユーリックと相手するね。まっ、
死なないように気を付けて」
エド「えっ、死⁉︎」
フラット「冗談だよ冗談。今のユーリックなら、
もうあんな真似はしないと思うよ」
エド「そ、そうっすよね!」
ダバンゴ「親分……俺様のせいで…」
フラット「どうしたの?ダバンゴ、そろそろ
手合わせしないと!」
ダバンゴ「あ、あぁ…」
フラット「何?ガラにもなく心配してくれてんの?
ありがと、でも気にしなくていいよ。これぐらい、
すぐに治るって!」
ダバンゴ「親分……ありがとよ。だが…俺様は
辞めようと思ってんだ。四大・水の長も、
ファイターもな」
フラット「へ⁉︎辞めるって…何で⁉︎」
ダバンゴ「俺様は誰かの上に立つべき存在じゃねぇ。
それに……もう分かってんだ。俺様の神力は
弱まってきてる。元から俺様の神力は
強かったわけでもねぇ。ただ、願望が強かっただけ…
また故郷に帰るっていう、水の泡になった願望がな」
フラット「ダバンゴ…」
ダバンゴ「親分……悪いが、もう決めたことなんだ。
これ以上残ったとしても、俺様には何もできねぇ。
役立たずは引っ込むのが礼儀だ」
フラット「…そっか。残念だな…
もっと色々話したかったけど…」
ダバンゴ「親分、俺様は地球にも残らねぇ。賊に戻る。
あそこは、俺様を受け止めてくれる。俺様にとって、
第2の故郷なんだ。弟もそこにいる。
帰らなくちゃなんねぇんだ」
フラット「それじゃ、仕方ないね。弟もいるなら、
なおさら止められないよ」
ダバンゴ「…今まで世話になったな。今日になって
それが分かったんだ。親分のおかげでな」
フラット「えっ?」
ダバンゴ「いや、何でもねぇよ。これ以上言っても、
傷つけちまうだけだ」
フラット「……頑張ってね!」
ダバンゴ「!」
フラット「寂しいけど…応援してるよ!」
ダバンゴ「何言ってんだ?賊に戻るんだぞ?」
フラット「ギヴァシュ移民船でしょ。分かってるよ」
ダバンゴ「……」
フラット「素直に言ってくれたらいいのに。
それに、本当はまだ納得してないでしょ」
ダバンゴ「っ!」
フラット「まぁ…これ以上付き合い続ければ続けるほど
その思いが胸を痛めるってのは事実だけど…
その時までは、僕がずっと隣にいるよ」
ダバンゴ「親分……」
フラット「辛くなったら、いつでも来て。あの浜辺で
歩きながらまた話そ。色んなこと」
ダバンゴ「…あぁ!」
ノール「おい!ダバンゴ、早くこい!ライが待ってる!」
ダバンゴ「す、すまん!親分……別れってのは……
辛いな。ライとも…別れるのか。これが最後の勝負……
ライと出会ったあの日から始まって……
俺様、幸せ者だったぜ!」
フラットに大きな笑顔を見せるダバンゴ。その瞳からは
一筋の涙が伝っていた。
フラット「……うん。早く行ってきなって。
待たせるのは悪いよ」
ダバンゴ「……そうだな」
涙を拭い、フラットの言葉を噛み締めるように
ゆっくり頷いたダバンゴは、スッと振り返り、
振り向くことなくライのいる方へ走っていった。
フラット「……バトラー。やっぱり……勝手すぎだよ。
別れの挨拶もなしに…いなくなっちゃうなんて…
ダバンゴより……最低……!」
クレア「フラット…?泣いてるのか?」
フラット「へ⁉︎クレア……ううん、泣いてないよ。
僕が泣くわけ……あれ?何で……涙が……」
クレア「……そうか。ワニがいなくなるのか。
四大も…寂しくなるな」
フラット「でも……別れの挨拶はくれた。
それだけで満足だよ」
クレア「……そういうことか。すっとこどっこいは
たしかに…くれなかったもんな」
フラット「それに……後悔も無さそうだし、
言うことなしだよ。幸せに、ダバンゴ」
夜ー
ダバンゴ「……すまんな親分。俺様は、もう行くんだ。
今まで、ありがとうな。それじゃ」
深夜の男部屋から出て行くダバンゴ。
夜空には既に宇宙船が待機していた。
船長「ダバンゴ。いいのか?」
ダバンゴ「あぁ、挨拶も済ませてある。荷物も
まとめてあるからよ」
船長「そうか。では、乗れ」
ダバンゴ「あぁ、そうさせてもらうぜ」
フラット「?何、この音…!あれ、宇宙船⁉︎まさか…!」
フラットはすぐに、それがダバンゴの別れを
意味していると理解した。
ダバンゴ「ふぅ…この宇宙船は何年振りだろうな」
船長「では、行くぞ。この戦争にケリをつける」
ダバンゴ「……なぁ、地球圏を出るまでは
カーテン、開けててもいいか?」
船長「あぁ、もちろん」
ダバンゴ「それじゃ…よっと」
思い切りカーテンを開くダバンゴ。しかし、
その景色は随分と静かだった。
離れていく陸地を目に、ダバンゴは目を逸らす。するとー
フラット「ダバンゴ〜!」
ダバンゴ「!親分…!」
すぐに声のした方へ目を向ける。それは富士山の
てっぺんだった。そして、フラットは宇宙船に合わせて
飛行する。
ダバンゴ「親分……」
フラット「挨拶したからって嘘つかないでよ!
でも…ダバンゴらしいや」
ダバンゴ「親分……勝手に出てってすまねぇ。
だが…これで心置きなく出て行ける。親分は俺様のこと
本当に応援してくれる。そう信じられる!」
フラット「当たり前だよ…!だって…たとえ離れ離れに
なっても、友達だもん!だから……忘れない。
一緒に過ごした日々……ありがとう!
楽しかった!」
ダバンゴ「親分…俺様もすごく楽しかったぜ!
地球に帰ることはねぇかもしれねぇけど…
親分がいてくれて良かったぜ!久しぶりに…
泣いちまった!アンタみたいな優しいやつに会えて、
俺様は決意を固められた。悔いなんかねぇ!」
フラット「うん、それならいいんだ!じゃあ…
そろそろさよならだね。頑張ってよ!
ずっと、ずーっと僕はそばにいるから!」
ダバンゴ「…あぁ!絶対に離れるんじゃねぇぞ!」
フラット「もちろん!それじゃ…体には気を付けて。
頑張れ、ダバンゴ!」
そう告げると、フラットは宇宙船から離れていく。
ダバンゴ「……親分……優しすぎるぜ。
物寂しいじゃねぇか」
翌日ー
フラット「ということで、本日からダバンゴは
アカデミーからも退社し、完全にファイターを
引退することになった」
ライ「ダバンゴ殿……」
ベングル「どういう了見だ!こんな大変な時に
抜けるとは!フラットもフラットだ!何で止めねぇんだ!」
グリオ「当たり前だろ。ダバンゴの神力は
弱まり始めていた。同じく願望も。ダバンゴは
気づいていたんだろう。だから邪魔者になる前に
身をひいた。実にアイツらしい」
フラット「そういうことだよ。スポーツ業界からも
脱退表明はしてたみたいだし…」
ノール「また…騒がしいのがいなくなったな」
スター「なんだかんだ言って、いい人だったもんね。
素直じゃないのは…うん」
クレア「…それじゃ、俺達は俺達でスラリアと
フォールを連れ戻さねぇと」
エド「騒がしいやつが消えていくっすね…
ショックっすけど、俺達で頑張らないといけないっすね!」
フラット「そういうこと!じゃあ、イベントに向けて
僕達もこれからまた頑張ってこー!」
全員「「おーっ!」
ベングル「フラット、アイツは今頃どうしてるだろうな」
フラット「…宇宙で最愛の家族と過ごしてると思うよ。
大海原の中で、ゆったりとね」
ベングル「だといいな。アイツのこと、俺達何も
知らないままだけどよ」
フラット「…そうだね。何も知らない。でも、
それだけ言いたくない秘密だってことだよ」
ベングル「だな。俺にもそういう秘密はあったし、
誰にでもあるものなのかもな」
フラット「そうそう。じゃ、イベント稽古に移ってよ」
ベングル「了解っと!」
ダバンゴ「…テラス。入るぞ」
テラス「…兄貴?」
ダバンゴ「…声で分かるんだな」
テラス「…うん。どうしたの?」
ダバンゴ「俺様、ファイターをやめたんだ。もうすぐ、
俺様の神力は失せちまう。テラスのために金を
稼いでいたが…すまん」
テラス「……」
ダバンゴ「テラス…?」
ダバンゴ「うおっと!やるようになったじゃねぇか!」
クレア「こんなの序の口だ!くらえ!
突風・クロスハリケーン・激!」
ダバンゴ「なっ…!」
フラット「はい、またしてもクレアの勝ち。
うーん…相性悪すぎ?」
グリオ「なぁ、私とベングルを交代してくれるか?」
フラット「わ、分かった。続きできる?」
クレア「当たり前よ!さっ、来いよ!」
グリオ「……迷森・殺木竹林!」
クレア「なっ…おい、これって⁉︎」
グリオ「アリジゴクではない。類似空間ではあるがな。
抜け出せないと、神力を吸収されるぞ?」
クレア「げっ…!」
フラット「あぁ〜…降参する?」
クレア「くっそ〜!負けたくねぇ〜!」
フラット「と、言いながら白旗振ってるし」
グリオ「やっぱり私がいれば
スター「でも、ずるくない?空間に封じ込めるって…」
グリオ「まぁ…分かってはいるが、私の能力は
空間を操る。だからこれしか出来ないんだ」
フラット「ファイターの能力はそれぞれ違うし、
ズルとかは特に考えなくていいと思うけど」
ノール「そしたら私の術破壊もズルになる。
まぁ、敵に回したら1番にヤバいやつだな」
フラット「まぁ、たしかに…ていうか、
フォールもそうじゃない?」
エド「たしかに、闇を操る能力っすもんね。
でも…何の神の力っすかね?」
グリオ「魔族だが……何だろうな。検討がつかない」
フラット「そういえば、べリアルが言ってた無名って
何のこと?聞いたこともないけど…」
グリオ「あぁ…前にも言ったが、私達、四大・樹は
名誉のない魔族の集まり。中には堕ちかけたやつも
いなくはない。そして、私も例外ではない。
名誉の無い魔族。それが無名の魔」
クレア「ノールは違うのか?」
グリオ「たしかにこの世界にいた魔族ではないし、
魔族のような動きは見せなかった。ただ、元の世界で
恐れられていた存在。十分魔族だ。名誉がないわけでは
ないからな。名誉が全くない魔族こそだ」
スター「そうなんだ…ねぇ!それよりイベントの稽古を
やろうよ!もっとやりたいもん!」
フラット「そうだね…よし、それじゃ稽古再開!」
夜ー
フラット「ふぅ…」
フラットは夜空を見上げて一つため息をつく。
白い吐息が星の瞬きを濁す。
フラット「この星のどこかに…ダバンゴがいる。
見えなくても、どこかに。約束通り、ここから
見守ってるよ。ダバンゴの故郷からは、
どんな星が見えたのかな?」
ベングル「フラット、ここにいたか。
星でも見てるのか?綺麗だよな、不規則に並んで、
フラット「…ハハ!」
ベングル「な、何だよ⁉︎何かおかしいこと言ったか⁈」
フラット「いや…ベングルの口からそんな台詞が
飛び出すとは思ってもなくて…!」
ベングル「お、俺だって言う時は言うぞ!悪かったな!」
フラット「…本当に変わってく。初めて会った時の
ベングルより馴れ馴れしくて面白いよ」
ベングル「だからあん時は初対面で
気を遣ってただけだと…だが、変わったのは
事実かもな。俺もこんなにハキハキと他人と話したのは
久しぶりだったもんな」
フラット「へぇ〜…そうだ!僕さ、寝付けないし
困ってたんだ。話してれば眠くなると思うし
話し相手になってくれない?」
ベングル「いいとも!俺も眠れなくてな」
フラット「良かった!じゃあ、何話そっかな〜?」
翌朝ー
クレア「ったく、アイツらどこに行ったんだ?
もう朝食の時間だってのに…?」
フラット「スゥ…スゥ…」
ベングル「グゥ〜…グゥ〜…」
クレア「…風邪ひくぞ!起きろ!」
フラット「うわっ!って寒っ⁉︎」
ベングル「ベックシュン!」
クレア「言わんこっちゃない。ほら、今日は
出番じゃないし部屋で休んでろ。ホットミルクと
お
フラット「いや、僕は別に風邪ひいてないよ?」
クレア「あぁ…ベングルの体温を奪ってたのか」
フラット「い、いやそうかもしれないけど、
言い方。それじゃ僕が悪いみたいじゃん!」
クレア「あ〜…分かったから怒鳴るなって。
じゃ、ベングル連れてきてくれ。俺は先に部屋で
料理してるからよ」
フラット「うん、ありがとう」
クレア「ん…こんなもんか。あ、そういやベングルの
好み、知らねぇや……肉…っぽいが、
風邪ひいてるしな。普通に卵でいいか。
あ、茶漬けって手もあったな」
フラット「何1人でブツブツ言ってんの?って…
クレア、卵は僕が割るよ。貸して」
クレア「ぐっ…何でお前がいるんだよ…」
フラット「いや、寝かせてから結構時間経つのに
なかなか来ないから…で、来てみたら卵も
上手く割れないクレアだったのすっかり忘れてたよ」
クレア「なっ…馬鹿にすんな!」
フラット「だって…こんなに不器用だと…ハハハハ!」
クレア「わ、笑うな〜!俺が1人でやるからあっち行ってろ!」
フラット「分かった分かった、そう押すなって!
それじゃ看病してるから、ちゃんと作ってよ?」
クレア「余計なお世話だっつの!上手く作って
見返してやるからな!」
フラット「ハイハイ、期待してるからね〜」
クレア「全っ然期待してねぇの分かってるからな!
ぜってぇアッと言わせてやる!」
フラット「あんなカッカしてると、美味しいものなんか
作れたしないのに…まっ、そうさせたのは僕か」
クレア「…ったく、なんか俺と絡むアイツは
昔のアイツなんだよな」
グリオ「どうだ?」
フラット「熱はそんなにないけど、咳と鼻水が
酷いかな。汗はそんなにかいてないし、
息も苦しそうじゃないから心配するほどでもないね」
クレア「ほら。どいたどいた。食事の用意が
出来たのでさっさとお下がりくださいってんだ」
グリオ「不満のある執事みたいな態度だな」
クレア「どこぞの無礼な法天使のせいでな」
フラット「で、結局は焦がしちゃったか。
じゃ、僕は黄桃でも切ってこよっと」
クレア「俺がやる」
フラット「クレアに任せると黄桃が紅く染まっちゃう」
クレア「ど、どう意味だ⁉︎」
フラット「無理に出しゃばんなくて良いってこと。
僕がやっとくから、クレアはー」
クレア「出しゃばりはお前だぞ!俺がやるから一切
手出すんじゃねぇぞ!」
フラット「あ…知らないからね。怪我しても」
グリオ「あんなに頑張ろうとしてるやつをお前が
あんな風に言うとは珍しいな」
フラット「いや…出来ないことを無理にやるのは
無謀な行動に繋がるから心配してるんだけど…」
グリオ「あぁ、そういうことか」
フラット「うん…大丈夫かな?」
コンコン…と部屋の扉がノックされた。
ノール「おい、早く来い!出番がないとはいえ、
照明とか出店があるだろ!」
フラット「あ、今行くよ!行こ、グリオ」
グリオ「あぁ、向かうとするか」
2人は部屋にベングルとクレアを残して
イベント会場に向かう。
クレア「あいった!いって!テェ〜!」
3節 ラブソングは動き出す
フラット「ん〜…あ!」
クレア「おい、さっきからうるさいぞ!何回、
ん〜…あ!って言ってんだ!」
フラット「いや、歌詞を考えてたんだ。音楽イベントは
休止中だけど、皆揃ったらまた始めるんだし、
曲作りは終わらないでしょ?」
ノール「えっ、歌詞作りは私の仕事じゃ…」
フラット「なんか書けそうなんだ。いいラブソングが」
クレア「ララララ、ラブソング⁉︎」
フラット「うん、ヴォーカルはクレアに
任せようかなって考えてるんだけど…」
クレア「しかも俺が歌うのか⁉︎や、やめてくれ!
俺がスポットライトとか、絶対無理!」
フラット「ふぇ?」
スター「兄ちゃん、人前で何かをするのが
ちょっと苦手でさ。ヒーローショーとかなら皆で
同じ所に立つからいいけど、ライブじゃ、ヴォーカルに
注目が集まっちゃうから…ね?」
フラット「あぁ〜…そゆこと。じゃあ、
誰に歌ってもらおっかな…恋したことのある人に
歌ってほしいんだけど…」
グリオ「ヒナはどうなんだ?」
エド「そうっすよ!ヒナ姫なら絶対に
上手く歌ってくれること間違いなしっす!」
フラット「う、うん…そうだね」
ノール「で、どれどれ…」
[恋詩(ラブソング)
見つめあった瞬間 感じたんだ 運命の予感
恋心? 違う ドキドキの予感
混ざり合う時間は ふと過ぎ去る また今日が終わった]
ノール「うぅん……微妙」
フラット「だよね……」
ノール「あ、いや、歌詞はいいとして、リズムは
作ったの?メロディは?」
フラット「もちろん。こんな感じ」
フラットはウォッチフォンからメロディを流す。
ノール「あ…何これ…凄い!」
エド「心まで透き通るっす…!」
フラット「でも……これにはヴァイオリンが必要だから
スラリアが必要になるんだよね」
クレア「…大丈夫に決まってるだろ。スラも
戻ってくるに決まってる!」
フラット「だよね。僕が信じないで誰が信じる。
よし、続きを書かないと!」
グリオ「それより、もうチェックアウトしないと
まずくないか?」
フラット「あっ!ていうか…ベングルはどこ⁈」
エド「そういえば…見当たんないっすね」
フラット「もしかして、先に駅に向かっちゃったとか⁉︎」
グリオ「ありえるな。アイツならやりかねない」
ベングル「おい、便所言ってたくらいで
何そんなに騒いでんだ?」
フラット「あ…いたんだ」
ベングル「それより…なぁフラット?何で俺が
1人で駅に行ってると思ったんだ?それとグリオ。
俺ならやりかねないってどういう意味だ?」
グリオ「えっ、えっとな〜…」
フラット「やだな〜、冗談に決まって…ヒッ!」
ベングルの顔はもはやナマハゲのような顔で
2人をじっと見ていた。
フラット「え、えっと…その…わざとじゃ…ないよ?
そう!えっと…そう!そうなんだ!あれなんだよ!」
クレア「焦りすぎておかしくなってる…プッハハ!」
ダバンゴ「こんのー!」
フラット「い、いゃ〜流石は永久之寅雄と
呼ばれたベングル!怒ると怖い怖い!」
グリオ「おい!永炎之虎男だ!
火に油注いでどうする⁉︎」
フラット「ふぇ⁉︎」
ベングル「ほーう…俺の呼び名を間違えるたぁ、
いい根性してんなぁ…!」
フラット「ス、スター!眠らせるよね⁉︎」
スター「さぁてと、不毛な争いに巻き込まれる前に
チェックアウト済ませちゃおっか」
クレア「だな」
グリオ「賛成」
フラット「なっ、グリオまで⁉︎」
ベングル「かくご…!」
フラット「うわァァァァ!」
熱海駅ー
ベングル「ふぅ…久々に肩こっちまった」
フラット「あぼー…ぼぶぼばおぼうばっべぶ?」
(あの〜…僕の顔どうなってます?)
ノール「え〜っと…その……油だらけ」
ベングル「ギットギトにさせてもらったぞ!」
グリオ「良かったな、油地獄ですんだだけ」
クレア「こ、これでもマシな方なのか?俺だったら
絶対無理だわ」
スター「でも、冬季休暇楽しかったね!」
フラット「ぞうだね」
(そうだね)
グリオ「お前は……個人客室で良かった。着替えと
シャワー、先に譲るから早く済ませてくれよ」
フラット「わがっでるー…」
(分かってる〜…)
ノール「…フフッ、いい気味!」
クレア「あっ……ノール、フラットの方見てみろ」
ノール「えっ?」
フラット「ノール〜?じょうどいいや、おばえぼ
みぢづれじゃぁ!」
(ノール〜?丁度いいや、お前も道連れじゃぁ!)
ノール「いやぁ!ちょ、そんな油だらけの手で
触らないでよ!やめてって!悪かったから!
やめてぇぇぇぇ!」
そのノールの叫びと同時に、大爆発が起きる。
全員「うわぁ!」
数分後ー
フラット「ぷはぁ!な、何とか出れたー」
瓦礫の山から顔を出せたフラット。
フラット「って、えっ⁉︎」
しかし、待っていた景色はぼろぼろになった熱海駅だった。
フラット「えっ……嘘……」
ノール「えっ…今、私…神力使えたの?」
クレア「ゲホ、ゴホッ!ったく、何だ?急に大爆発が
起きたが、どっかに爆弾でも仕掛けられてたか?」
スター「ううん…今の、ノールの神力だったよ」
グリオ「戻ったのか⁈」
ノール「ち、違う…ただ暴走しただけで…」
ベングル「んなことより、これどうすんだ⁉︎
どう考えても、責任は俺たちだぞ!」
フラット「……ごめん……」
ノール「いや、フラットを怒らせる発言をした私が
悪いんだから、気にしないで」
フラット「ノール…」
エド「ノールも優しいっすね!」
ノール「でも、久しぶりに神力が使えて嬉しい!
偶然でもね。それで…修理はお願い」
フラット「ハイハイ、いつも通りね…アッハハ!」
ノール「なんだ?」
フラット「元通りになるんだなぁって。
ちょっと嬉しいというか、面白いというか…」
クレア「そうだな。何があっても、俺達は
変わることなんかねぇな。変わったとしても、
変わらない…そう思えるな」
スター「えっと…どういうこと?」
フラット「あ〜…難しい話しちゃったね。じゃ、
サクッと元通りに…神業・原子合成」
ベングル「うぉぉ…スッゲェ!一瞬で元通りじゃねぇか!」
フラット「へへ、僕の特技みたいなものだよ。
じゃあ、リニア待とうか」
グリオ「それにしても、始発の時間1時間前で
良かったな。客がいなくて助かった」
ノール「宿の人もあんな早い時間から営業してるって
大変だな…」
フラット「まぁ、人気の宿だからね。時間交代で
営業してるし、ほとんど夜間は営業ロボットだから
関係ないしね」
ノール「えっ⁉︎あれ、ロボット⁉︎」
グリオ「人間だと思ったが…」
フラット「あぁ、半分は人間。知ってる?
ロブエイド星って」
ベングル「あぁ、たしか気候変動でそこにいた生物の
ほとんどが死滅した星だろ?」
フラット「そう。で、知的生命体のロブエイド人は
人工的に気候変動から身を守るために脳と心臓、
肺を機械に変えて生きてるんだ」
ノール「脳まで…それって、もしかして遺伝まで
できるものなのか?」
フラット「そうみたい。たしか、パラレルストーンの
力で可能になった技術だね」
グリオ「物知りだな…どこでそういうの覚えてくるんだ?」
フラット「いや、教授から聞いた話だよ。講義中に
時々話してくれるんだよ。旅行談」
ベングル「そんな星にまで旅行しに行くなんて
とんだ物好きだな、その教授」
フラット「まぁ…考古学の教授だし旅行して
なんぼなんじゃない?」
クレア「考古学か…面白そうだよな。謎に満ちた遺跡で
探検したり、遺跡を掘り当てたり…!」
スター「えっ、そんな授業があるの⁈スターも
やってみたい!」
エド「俺、探検とか大好きっす!」
フラット「いや、教授がやるものであって
生徒がやるものじゃ…」
クレア「たま〜に付き添いとかやれるんだろ?」
フラット「僕はやらないよ⁉︎流石に怖いし…」
ノール「あ、ごめん。連絡きたからちょっと
向こういってる。すぐに戻るから」
フラット「あ、うん」
ノール「もしもし?」
キルユウ「ノール、そっちはどうだ?」
ノール「特に問題はない。逆にそっちが不安だ」
キルユウ「あ、こっちなら心配無用だ。
魔物しか現れてないしな」
ノール「あぁ、低級魔族か。どんなやつだった?」
キルユウ「コウモリみたいなやつだったな。
他にもトカゲみたいなやつが出たとかって情報も
あったな。それがどうかしたか?」
ノール「いや…なんでも。ただ聞いただけ。ありがと、
教えてくれて。で、用事は?」
キルユウ「それだけだが…楽しめたか?」
ノール「うん、キルユウも来れたら良かったんだけど」
キルユウ「何だ?心細かったか?」
ノール「ち、違う!ただ……」
キルユウ「アハハハ、昔っからからかわれるのは
苦手だよな!」
ノール「…もう切る。じゃ」
キルユウ「あ、待てまだー」
フッと通話画面を切る。ノールのその顔は
ほんの少し笑っているようにも見えた。
1時間後ー
フラット「あとは帰るまでのんびりだ〜!」
ベングル「あぁ、心いくまで寝てても怒られねぇしな〜」
フラット「心いくまで……あ!」
ノール「何?また浮かんだの?」
フラット「うん!」
クレア「お前は想像力じゃないんだな」
フラット「いやぁ、想像力でもいいんだけど、
ラブソングは難しくてさ」
グリオ「にしても、別れを経験して出会いを歌う
ラブソングを描こうとするお前も凄いな」
フラット「あ、これ実は前から作ってはやり直しを
繰り返してて…やっとできそうなんだ」
エド「じゃあ、ずっと前から書いてたんすか?」
スター「ノールって結構大変な作業してたんだ」
ノール「えっ…いや、そんなに難しくないと思うけど…」
フラット「才能あるノールには、一生分からない
気持ちだよ。羨ましいなぁ」
ベングル「尊敬するのか妬むのかどっちなんだよ」
グリオ「矛盾する心…あ、これ使えそうだな」
フラット「うん、まさに恋心だよ。あ、じゃあさ、
歌詞は皆で作らない?」
スター「え、ぐちゃぐちゃにならない?ほら、
恋って皆違うし…」
フラット「あ〜…そうだね」
ノール「でも、歌詞を皆で作るっていうのは
面白そうだな。それが出来たらやってみたい」
エド「俺もそう思うっすよ!」
フラット「分かった…あ!富士山!」
エド「あ、写真撮っとくっす!」
ノール「えっ、見たい!」
バサッと音を立てて、読んでいた本が落ちた。
スター「ノール、落とし…?恋愛不器用少女と
怪盗ブルーメイル?これって…ノールもこういうの読むんだ!」
ノール「なっ……こ、これはキルユウが買ってくれたやつだ!
べ、別に?読む気はないけど、折角だから…」
クレア「にしては、8割ぐらいは読破してるみたいだぞ?
それに、これが初読みじゃないだろ?」
ノール「な、何でそんなこと分かるんだ⁉︎」
クレア「ほれ、読んでないページの角、少し
よじれてるだろ?一回めくった証拠だ」
ノール「…はぁ、別にいいだろ?私がこんなの読んだって」
エド「そうっすよ、決めつけは良くないっすから」
ノール「エド…だよな!私がどんな本読もうと私の
勝手だよな!」
エド「そ、そうっすね…」
フラット「ほら、エドが困ってるじゃん」
クレア「別に悪いとか言ってないだろ?ただ、珍しいなぁとは
思ったけどな」
スター「うんうん、ノールって恋愛とか興味が
なさそうだったから」
ノール「えっ…」
フラット「あ〜…それは一理あるね。ノールって
誰かを好きになるイメージ薄いもん」
ノール「そうか…私、これでもキルユウと
付き合ってるのに」
全員「えぇっ⁉︎」
ベングル「マジか…!」
グリオ「いや、驚いた。まさかノールにボーイフレンドが
出来てるとは…」
エド「ぜ、全然そんな素振りなかったっすから…
本当っすよね?嘘じゃないっすよね?」
ノール「こ、こんな嘘ついて何になるの?私にも
誰にも得がないことが大嫌いなのは分かってるでしょ?」
フラット「えっ…知ってた?」
スター「ううん、だってナックラーと喧嘩してたのは
どっちにも得がないし…前にフラットから聞いた
ノールの破壊活動も、別に得をする人は…」
ノール「うっ…案外私って…やりたいことできてないな」
フラット「ま、まぁ、生きてるってそういうことだよ」
クレア「嫌な教訓だな」
ベングル「にしても、ライがいたらこの場も
もっと盛り上がったんだろうなぁ」
グリオ「いや、アイツがいたところで
騒がしくなることはないだろ。
静かなやつだし、隙あれば修行に行ってるんだぞ?」
フラット「今頃は疾風で東京に向かってるんだろうな。
ビックリしたっけ」
宿ー
ライ「拙者は走って帰るでござる。忍びの極意があれば
ものの2時間で東京には着くでござる」
フラット「なーんて、真顔で言われたからね」
スター「忍者ってそんなに凄いの?」
ベングル「あぁ、分身の術ってのは、本当に
自分を増やしてるわけじゃなく、ものすごい速さで
動いてるだけなんだ!」
グリオ「アイツは…違うがな」
ベングル「えっ、そうなのか?」
グリオ「一応言っとくが、アイツも神の力の継承者だぞ。
アイツの剣、見ただろ?」
ベングル「ん〜…そういや、
グリオ「そうだ、日本の雷神だ」
フラット「えっ、でもライも雷神じゃ…」
グリオ「あぁ、妖の世界においてのな。それに、
ライは剣術もお手のもの。なにせ、剣の神でも
あったらしいからな。あと、剣を作るのもな」
ノール「す、凄い人だったんだ…」
フラット「じゃ、じゃあ、いっそのこと雷になって
東京まで行けばいいのに」
グリオ「危険すぎるだろ。一瞬で辺りが
なくなるぞ」
フラット「流石に冗談だよ。間に受けないで」
ノール「お前の冗談は分かりにくいんだ」
エド「その通りっすよ!俺も時々、
信じ切る時があるっすもん。フラット、
詐欺とか得意そうっすよ」
フラット「するわけないでしょ!変なこと
言わないでよ」
ベングル「それで、ライの居場所分かったぞ」
フラット「えっ、本当⁉︎」
ベングル「…ここだ」
ベングルは天井を指差す。
フラット「…へ?」
ノール「まさか、通気口の中にでもいると?
忍者と言っても、時代劇じゃあるまいし…」
クレア「それに、それって無断で乗車してるって
ことになるぞ?流石にライがそんな真似…」
ベングル「もちろん初めからじゃない。途中からだ。
多分だが、走ってった矢先が湖の上だったから
仕方なくだろうな」
フラット「あぁ……2時間で着くってそういうことか。
近道するならありえる」
ノール「だったら一旦引き戻ればいいのに」
グリオ「ライは時間を無駄にしないタイプだから、
せっかちなんだ。バレずに飛び出すつもりだろうが、
こっから先はもう東京だ。都市で飛び出すのは
いくらライとはいえ無理だろ」
ライ「無理ではないでござる」
フラット「うわっ、本当にいるし」
ライ「湖の端が来たら飛び込むでござる。拙者でも
泳ぎは不得意でござるからな」
フラット「忍者が水泳苦手って…なんか不思議」
ライ「余計なお世話でござる。拙者は
泳ぐ機会などなかったでござるから」
フラット「…でも、今どきござる語尾の忍者って
古いよね。侍みたい」
ライ「これは…癖でござる。ベングル殿と知り合う以前は
普通の言葉遣いであられたでござるが…舞台の役で
語尾の癖をつけていたらいつの間にかでござる」
フラット「ベングルの仕業だったか…」
ベングル「仕業って…ひでぇ言い方すんな!」
フラット「アッハハ、ごめん。でも、流石に
ライのやってることは犯罪だからね。帰ったら
覚悟してよ?面白い罰を用意しとくから」
ライ「拙者にとってはどんな罰も修行になるでござるよ?」
フラット「分かってるよ、でも、修行にしても
辛い罰だから。誰でも絶叫しちゃう、あれだから」
ノール「…?それって私にやったあれ?」
フラット「あ、言っちゃダメだよ」
ノール「あ、あぁ…でも…」
ライ「それ程の罰なら楽しみにしておくでござる。
ん…どうやら時が来たようなので、拙者は
行くでござる」
天井からゴトっと音がした。
フラット「…どうやって入ったんだろ…」
エド「セキュリティにひっからずに通気口の中に
入ることなんてできるんすかね?」
フラット「うーん…やったことないから分かんない。
あ、そろそろ湖上大橋抜けるね」
放送「本日はリニアモーターカー、ファルコン号を
ご利用いただき、誠にありがとうございます。
間もなく、浅草です。降り口は左側です。
お乗り換えのお客様は、14番乗り場に移動してください。
お忘れ物のないよう、ご注意ください。
ご乗車、ありがとうございました」
フラット「あ、てことで忘れ物したら久々に
罰ゲームやるからね」
ノール「えっ⁉︎」
ベングル「マジかよ⁉︎え〜っと、俺の荷物は…」
グリオ「私は大丈夫だが…一応確認しておこう」
クレア「俺は大丈夫だ。このキャリーバッグしか
荷物はねぇしな。土産もこん中だしな」
スター「そんな余裕でいると罰ゲームだよ?
ノールだって大丈夫って言って忘れ物したんだよ?」
クレア「……確認しておくか。え〜っと…
あれ、あれ…⁈ねぇ!ねぇ⁉︎たしかに仕舞って…
あ…まさか…!」
フラット「どうしたの?まさか、宿に忘れ物したとか
言ったりしないよね?」
クレア「ま、まさか〜!俺がそんなヘマ、するわけが…」
スター「…兄ちゃん、マフラー、朝から
してなかったよね。いつも首元冷えるって
言ってる兄ちゃんが珍しいね」
クレア「えっ…あ、アハハハ〜…マフラー、俺、
デ・ロワーに置いてきちまったんだ、アハハハ〜」
ノール「何言ってんだ、伊豆に行くまでずっと首に
巻いてただろ?」
クレア「い、いやあれは…ネックウォーマー!
ネックウォーマーだ!で、でもよ、風が強すぎて
飛んでちまって…ようは無くしたってことだ!」
フラット「明らかに目が泳いでるし…嘘は僕の前では
無意味って前にも言わなかったっけ?」
クレア「う、嘘じゃねぇ!俺がそんな真似すると思うか?」
フラット「うん、すると思う」
クレア「だよな〜…はぁ」
フラット「もう忘れ物どころの騒ぎじゃないじゃん!
伊豆のホテル?熱海の宿?」
クレア「いや…それが…」
フラット「はぁ⁉︎よりにもよって焼津港の食堂⁉︎」
クレア「本当にすまん!また買い直せばいいし、
この件は水に流してくれ!」
フラット「あれって、スラリアがクレアに買ったやつでしょ?
しかもブランド品!誕生日プレゼントのお返しで
貰ったやつなんだから大事にしないとダメでしょ!」
ノール「…フラットがあんなに必死で…フフッ、
変なの。普通必死になるのはクレアのはずなのに」
スター「でも、どうするの?また伊豆に向かうの?」
フラット「ううん、電話して落とし物で届いてるかどうか
聞いてみるよ。たしか転送ロッカーがあったはず。
でも、手数料はクレアが払ってよ。ファイターだし、
そこまで痛手じゃないでしょ?」
クレア「そんぐらいなら…迷惑かけて、本当にすまん」
ベングル「じゃあ、とりあえずオフィスに戻るとするか。
長旅でクタクタだし、とりあえずシャワー浴びてぇ!」
グリオ「そういえば、ワンコとも久々に会うな…
なんて名前だったか…」
クレア「スピカ!忘れんなよ、俺達のペットの名前」
グリオ「仕方ないだろ。こっちに来て間もないし、
あっちこっち行っててデ・ロワーにいられなかったから
しょうがないだろ。にしても…あと3人か!」
スター「?何が?」
グリオ「何がって…残ってる敵対魔族がだ」
フラット「そうだね。ノールの話だと、あとは
スラリアとベルゼブブ、フォールに正体不明の親玉…
って、4人じゃん!」
グリオ「あ、あれ…?数え間違えたか」
クレア「とりあえず早く戻ろうや!さ、寒い!」
スター「そうだね、風邪ひいちゃうよ」
フラット「よーし!それじゃ帰ろっか!」
ペーター「バジー、急に飛び出すなんてどうかしてるぞ。
許可なしに君が動くとは…」
バジー「申し訳ありませんでした。ですが、私も
何かお力添えをしたいのです!ただ皆様の活躍を
御覧してるだけのペーター様とは違って、私はー」
フラット「ただいま帰りました」
バジー「……失礼致します」
ペーター「……皆を見ているだけ…か」
フラット「?あの〜」
ペーター「あ、ごめんね。お帰り、皆」
ベングル「ペーター、聞いたか?ダバンゴのこと」
ペーター「あぁ、驚いたよ。でも、止めなかったよ。
アイツの目はもう、覚悟を決めていた」
クレア「フラット、電話ありがとな。もう届いた」
フラット「そっか。じゃ、僕は詩を作らないと!」
スター「じゃあ、スターも書いてみよっかな。
兄ちゃんも一緒にどう?」
クレア「お、俺か⁉︎いや、そういうの苦手ー」
スター「いいからいいから!」
ノール「強引だな。さて、私はフラットに指導でも
してやろっかな。お節介させてもらう」
フラット「う、うん!ありがとう、ノール」
ノール「いいんだ、これぐらいは私にもできる…
これが、フラットに教えられたことだから」
フラット「へ⁉︎」
ノール「…私にできることをしろって言ったのは
他でもないフラットだ。礼を言うのは私の方だ」
フラット「…ううん、バトラーがいなかったら
その言葉を言える僕はいなかった。やっぱり、
この今に導いてくれたのはバトラーだよ」
ノール「でも、バカ虎、いやナックルに教えられて後に
変わろうとしたのはお前だ。私も同じ。フラットから
バトンを受け継いだと言ってもいい」
フラット「…アッハハ、ノールって詩人だね。
僕からのバトンか…ノールのバトンは誰に行くのかな」
ノール「…また戻ったりしてな」
フラット「えっ…」
ノール「冗談に決まってるだろ。私にはキルユウって
彼氏がちゃんといるしな」
フラット「もう…」
ノール「でも、さっきの言葉は間違いだったな。
バトンを受け継いだんじゃない。フラットのバトンを
真似したくなった、の方が良かったな。私が受け継いだら
フラットのバトンがなくなる」
フラット「あ、それもそうだね」
ノール&フラット「アハハハ!」
最終節 再び全てが巡り会う
スラリア「……アイツも調子に乗りすぎだ」
フォール「…俺達の出る番か?」
ベルゼブブ「いや……あの方の期待を
裏切らないためにも…サリエル、行ってくれるな?」
スラリア「…分かった。任せとけ」
(クレア……)
フラット「うん、いい感じ!」
クレア「……」
フラット「クレア…?」
クレア「…!あ、な、なんだ?」
スター「あ!これ、スラリアお姉ちゃんと兄ちゃんの
ツーショット⁉︎わぁ〜、恋人みたい!」
クレア「おい、見るな!」
スターが手に取った写真をサッと奪い返し、
手帳の中に丁寧にクレアは戻す。
ベングル「デ・ロワーも、案外柔らかくなったなぁ」
フラット「ま、まぁ、一応四大みたいな立ち位置には
なったけど…独特な集まりだったね」
ノール「魔族、堕天使の集まりか。で?四大にも
魔族の集団はいるけど…」
グリオ「ちゃんとゼウス様からスカウトを受けてる。
スカウトというより、拾われたか。無名の魔族は
行き場も住処もない。私は無名の魔族の頭として
この上界に住処を探してたらゼウス様がくれた。
無償でな。そこから四大・樹が始動した」
ライ「そうござったな。拙者達みたいな努力もなく
四大になって恨まれていたでござるな」
グリオ「努力してないと言われても、気にしなかったからな。
たしかに、私達は四大のやつらみたいに努力は
していなかった。だが、生きるために毎日努力した。
仲間全員で食料を集めて…寝床を探して…
ケンカしたり、宴を開いたり…楽しかったな」
全員「……」
グリオ「あ、あぁ!すまん、昔話なんか興味ないな!
今のは忘れてくれ!」
クレア「……」
スター「兄ちゃん…?ねぇ、元気ないよ?」
クレア「いや、何でもねぇよ」
フラット「……それよりさー」
スラリア「生あるものは…死す…それは必然」
クレア「…!スラリア⁉︎」
スラリア「久しぶり、かな?ちょーっと、
キャラ変ってやつ?」
ノール「…?やる気あるのか?」
スラリア「もちろん。以前に見逃しちゃった子も
ちゃーんと残ってるし」
スター「えっ…スターのこと?」
ライ「好かぬでござるな。自身よりか弱き女子を
狙うとは……」
スラリア「何か悪くて?弱き者から戦場で
死んでいく…違う?」
スター「……ふぅん……スターをただの女の子って
思ってるんだ……大間違いだよ?」
フラット「あ、また勝手に…殺さないでよ?」
クレア「……俺も戦わせてくれ」
フラット「えっ、こんな街中で⁉︎公園とはいえ
危ないから…」
クレア「……くっ!」
フラット「あっ、勝手に…まさか、これが狙い⁉︎
だったら…ノール、カメラ任せるよ!3人はこっちに!」
ベングル「あ、あぁ…?」
グリオ「何か察したのか?」
ライ「それは参れば分かることでござる!」
ベルゼブブ「フフフ…流石に安易すぎましたか。ですが
まだ私の出る幕ではない。サリエル、貴様は
もう用済みだ。帰っていい」
フラット「…いた!」
ベルゼブブ「おっと。私はあなた方に
一切手出ししていませんよ?それでも私を殺そうと?」
ベングル「お前は俺達に敵対してるんじゃないのか⁉︎」
ベルゼブブ「あなた方にならお話ししても
よろしいでしょう。実は、私達血鬼7人衆は
我らが主人、サタン様の復活を目指し集結した。
そして、既に手はず通り…もうあなた方と敵対する必要も
なくなったということです」
グリオ「……地球最凶の魔族、サタン…既に復活を
果たしているのか?」
ベルゼブブ「もちろん。無名の魔族よ、喜ぶがいい…!
貴様らも、有名魔族として我ら魔軍として任命された。
どうだ?戻ってくる気はないか?上界にいても、
苦しいだけ。貴様にとっての幸せはない」
グリオ「……」
その問いかけにグリオはうつむいてしまった。
ベングル「おい、グリオ⁉︎」
グリオ「たしかに、魔族である私にとっての幸せは
この上界にはない…けれど、私個人にとって、
仲間達全員にとっての生きがいも、幸せも
ここにある!もう私は魔族ではない!1人の、
いや、四大・樹の頭だ!」
ベルゼブブ「……やれやれ……あなたには失望しました。
主人の命令を無視なさるとは…愚か者には、制裁を…
蠱毒・暴虫食之宴!」
フラット「うわわっ!」
グリオ「……迷森・木葉隠之陰謀」
グリオの詠唱でベルゼブブの召喚した大量の虫が
大きな木の葉の下敷きになる。
ベルゼブブ「ほう…流石。ですが…虫は葉を好む。
こんな単純理論を忘れるとは…」
グリオ「いや、忘れてるわけがないだろ。あくまで
時間稼ぎだ。準備は万全、整った」
ライ「忍術・電纒抜刀!」
ベルゼブブ「何⁉︎上から…!」
ライ「ハァァァァァァ!」
ベルゼブブ「くっ!アブ変化!」
ベルゼブブは1匹の小さなアブになって一瞬で
どこかに飛んでいった。
ライ「逃したでござる。拙者も甘くなったでござるな」
グリオ「いや、逃げ足の速いやつだ。だが、
サタンの復活か。まずいぞ」
ベングル「地球最凶の堕天使、サタン…このままだと
地球が支配される…」
フラット「うん…とりあえず、クレア達の方に戻ろう!」
全員「了解!」
スラリア「フフッ、この体の記憶通り、強い…!
でも、負けるわけにはいかない。あの方の復活を
祝福するためにも…!」
クレア「スラ…もう辞めようや。聞こえてる、
風の声が。スラの心の声が…戦いたくないと…
無理してるんだろ?」
スラリア「黙れぇぇ!」
クレア「うわっと⁉︎まず、弓が…折れる⁉︎」
フラット「神業・束縛!」
スラリア「ぐっ⁉︎」
フラット「……無理をしすぎて、自我が崩壊…
自分に言い聞かせてたんだね。多分、自分は魔族だから
魔界である闇世界こそ自分の居場所だって」
スラリア「……違う!」
フラット「だって…スラリアの神力だもん。もう、
魔力は一切感じない」
スラリア「っ!黙れ、黙れぇぇ!あたしは…
もう戻れない!知ってる!なっくんが
死んだことも!だから…いいんだ!皆のことも
裏切って、何人もの人を殺して、物を壊して…
だから、もう魔族でいいんだ!」
スラリアは神器を呼び出し、全員の方へ駆け出す。
クレア「スラ!」
そのスラリアの前にクレアが立ち塞がった。その肩には
スラリアの斧型神器がめり込んでいた。
スラリア「……!クレ…ア?」
クレア「…何泣いてんだ…?こんぐらいの傷、
気にすんなよ。俺がどんな傷を負っても…
お前の心の傷より痛いなんてことはないだろ?」
スラリア「……クレア……あれ……目が……」
スラリアの目の中に入れられていた魔魂石が
ポトっと落ちた。
フラット「ス、スター!とりあえず、クレアの傷を
治療してほしいから!」
スター「分かった!神業・叶夢治療!」
クレア「……」
スター「ね、ねぇ!兄ちゃん、目覚さないよ⁈」
フラット「大量出血で気絶してるだけだよ。
それより早く医務室に連れてかないと!」
医務室ー
ベングル「先生の話だと命に関わることはないらしい。
クレアに至ってはもう目を覚ましてもいいとな」
グリオ「ただ、スラリアは疲労困憊と鬱状態で
目を覚ましてもコミュニケーションを取れるかどうか…」
フラット「だよね…でも、それを解く鍵はー」
全員「クレア!」
フラット「だよね。で、クレアのベッドは?」
スター「あれ⁉︎いない…?」
ノール「でも、スラリアのベッドも空だけど」
フラット「あ、あれ?いつの間に…」
ノール「まさか…戻ったのか⁉︎」
グリオ「どうする…?流石に闇世界に入るのは危険だぞ?」
ベングル「だが連れ戻さねぇとまずいな。行くとするか」
フラット「えっ⁉︎入り口どこか知ってるの⁈」
ライ「四大においての秘密でござる。フラット殿も
独立グループの頭領、教えても問題はないでござる」
フラット「あ、ありがとう…」
ベングル「浅草からの入り口は浅草寺だ」
フラット「えっ…」
浅草寺ー
ノール「それじゃ、入るぞ」
と、闇世界へ続く階段を開くと、強風が
その中に突き抜けていく。
フラット「うわっ、まさか…クレア⁉︎」
ノール「1人で行く気か⁉︎」
ベングル「バカかアイツ⁉︎」
グリオ「悪いが、私はここで待つ。私が行くのは
まずいからな」
フラット「そうだね。スター、ちょっとの間、
ユーリックを出してもらっていい?」
スター「えっ…?」
フラット「スターじゃまずいよ。低級魔族が
ウジャウジャいるからね」
スター「わ、分かった」
ユーリック「…いい判断じゃない?私を呼んだのは」
フラット「それはどうも。行くよ!」
全員「了解!」
スラリア「戻ら…ないと…」
ベルゼブブ「?サリエル…いや、もうスラリアか。
貴様はここにいるべきではない。戻るんだ」
スラリア「ダメ…あたしはここに残る!」
ベルゼブブ「貴様はもう神の者だ!残ってしまえば
殺されるんだぞ⁉︎」
スラリア「それでいい!私はー」
ベルゼブブ「死んでもいいなんて思うな…?
おっと、迎えが来たみたいだ」
スラリア「えっ…?」
クレア「スラ…いい加減にしろ!」
スラリア「…もう放っといてよ。あたしは…
やっちゃったんだよ。死神としてやっては
いけないことだよ。だから、堕天使のあたしはもうー」
クレア「何言ってんだ!俺だって…俺達だって
魔族だ!スターは堕天化し、ノールは魔族の末裔、
フラットも堕天使、俺だって堕天化したスターの身内。
だから、お前だけの悩みじゃねぇんだ!」
スラリア「…ふざけないで!あたしは…あたしは…!」
クレア「さっ、ドンと来いよ!俺を殺してみろ。
やれるもんならな。魔族に戻るって言うなら、
出来なくちゃいけねぇな?」
スラリア「……っ!」
クレア「神業・風変化」
風になったクレアはスラリアの斧型魔器の刃の所で
術を解いた。案の定、先程と同じく肩に
めり込んでいた。
スラリア「えぇっ⁉︎」
クレア「さっきも言っただろ…俺がどれだけ傷つこうと
お前の心の傷に勝る痛みは…ないってよ」
スラリア「……」
ベルゼブブ「スラリア、殺せるのか?」
スラリア「……ムリ……ムリだよぉ〜!」
フラット「いた…⁉︎クレア⁉︎」
ユーリック「アンタ…2回目か。キャハッ!」
ノール「や、ヤバ!」
フラット「抑えて!抑えて、ね?」
ベングル「どうすんだよ⁉︎」
ベルゼブブ「…仕方ない。魔族が神の者を
手助けするのは違反だが…今回だけだ。
蠱毒・毒牙之浄化」
ノール「凄い……毒って傷薬にもなるのか…」
ベルゼブブ「…私も、魔族にはなりきれないな。
フォールも早く気づけばいいのだが…」
フラット「えっ…?」
ベングル「アンタもこっちに戻ってくれば…」
ベルゼブブ「いや、やめておこう。私は生き残りの
本物の魔族。戻る場所もない」
ノール「じゃ、ありがとう。ベル」
フラット「ベル…えっ⁉︎」
ベルゼブブ「…あの時はごめんね。反省はしてる。
もうあんな真似はしないよ」
フラット「じゃあ…バジーって⁉︎」
ベルゼブブ「あぁ、だが秘密でお願いするよ。私の
大事な妹だ。分かってくれ」
フラット「……うん。約束はする。じゃ、
僕の目が開くまでにどっか行ってくれる?」
ベルゼブブ「あぁ、さらば!」
スラリア「……あたしに行き場なんてないのに…」
ベングル「フラット、アイツと知り合いなのか?」
フラット「僕の母さんを人柱にした張本人だ。
僕のこともそうしようと…ね」
ライ「あぁ…浅草病院付近で起こった脅威大量発生時の…
懐かしいな、あの時から現れた、独裁者のフラット殿も」
フラット「そ、その話はやめて。僕も…
もう忘れたいことなんだよ」
ベングル「それより…コイツら連れて帰るぞ」
フラット「そうだね…」
スラリアはいきなり起きた出来事にショックを受けて
気絶していた。そして、ある夢を見ていた。
スラリア「あたしは……居場所なんて…」
クレア「……」
スラリア「あ!クレア…」
クレア「元に戻ったか…良かった。俺は……
行かなくちゃなんねぇ」
スラリア「えっ…行くって…どこに⁉︎」
クレア「行くべき場所に」
スラリア「それって…あたしのせい⁉︎」
クレア「?まっ、行くわ。じゃ」
スラリア「ま、待ってよ!あたしも!」
ナックル「お前はまだ行くべきじゃないだろ?」
スラリア「⁉︎なっくん…?」
ナックル「お前はここに残るべきだな。まだ、
見つけるべきものがあるからな。じゃあ、
俺は行くぜ。ありがとな」
スラリア「えっ…行かないで!あたし、何もー」
遠くへ流れていくナックルに手を伸ばすスラリア。
しかし、後ろからとある声がした。
クレア「…スラリア、早く帰って来い…」
スラリア「えっ…」
後ろにはクレアの部屋が広がっていた。ベッドの上で
手帳の中の写真をクレアは見つめていた。泣きながら。
スラリア「あっ…」
クレア「プレゼント…まだ渡せてねぇのに…」
スラリア「プレゼント…あ、あれか…
忘れて…なかったの…?バカみたい…あたしは…
クレアのこと……どこまで裏切るところなんだったんだろ…
もう会えないの?…あたし…もう…会えないの…⁈」
そして、周りの世界は光に包まれていく。
スラリア「あっ…ここは…医務室?」
スラリアは目を覚ます。開いた窓から風が入り、
白いカーテンが揺れていた。その度にスラリアの顔を
日光が照らす。
スラリア「そっか…あたし…目、覚しちゃったんだ…
クレア…ごめん…ごめんなさい…!」
「何謝ってんだ?」
医務室の扉の向こうから、陽気な声がした。いつもの
軽い口調のあの声が。
スラリア「……!」
ガチャっとゆっくり扉が開く。スラリアはその容姿を
足元から顔にかけて目を疑ったがすぐにベッドから
飛び降り、今にも崩れ落ちそうなほど震えた足で
クレアのもとへ駆け寄り、抱きしめた。
クレア「スラリア…?」
その肩は震えて、頬は涙でびしょ濡れになっていた。
スラリア「よかった…良かったよぉ〜!
クレア…生きてた…!ごめんなさい…ごめんなさい!」
クレア「…だから、何で謝るんだ?俺が自分で
やったことだ。謝るのは俺の方だ、すまなかった」
スラリア「……うん……!大好き……!大好きだよ……
クレア!ずっと……ずっと!」
クレア「…あぁ、俺も大好きだ。お帰り、スラ」
2人は口づけを交わす。
スター「どうかな?スラリアお姉ちゃん、
元気になったかな…?あれ…いない?
またどっか行っちゃったの⁈」
ちょうど扉と壁の隙間にいた2人に気づかず、
スターは慌ててフラットに報告しに行こうとする。
クレア「へ⁉︎ま、まずい!スター!ここにいるから安心しろ!」
スター「えっ?」
スラリア「えっ、ちょっ、クレア⁉︎」
スター「…キャァァァ!」ー
フラット「えっ、何何⁉︎悲鳴⁉︎」
ノール「医務室の方だ!」
ベングル「行くぞ!」
フラット「どうしたの⁈」
スター「えっ…あ、いや…キャハハ?」
ノール「なんだ…スラリア、目さましたか。
良かった。心配させるな」
ノールは優しくスラリアの頭を撫でる。
スラリア「ノール……」
フラット「本当にもう、厄介な死神なんだからさ」
スラリア「フラット…」
ベングル「これで、一件落着か?ったく、
とんだ一日だったな。コイツのせいで」
ベングルはスラリアをデコピンする。
スラリア「いてて…ベングルさん…」
ベングル「さんはいらねぇ、呼び捨てで
構わん。同じ釜の飯を食う仲間だろ?」
スラリア「…はい!」
グリオ「で、さっきの悲鳴は?」
スター「えっ…え〜っと…兄ちゃんとスラリアのお姉ちゃんが
医務室の中でー」
クレア「ストップ!ストーップ!」
スター「ムギュ!」
慌ててクレアはスターの口を塞ぐ。
フラット「2人が…医務室の中で…えっ、
もしかして…!」
クレア「…フラット…神業・熱風」
フラット「うわっ、あちち⁉︎」
クレア「はぁ…」
ライ「若者は血気盛んでいいでござるよ」
クレア「だから、違うって言ってるだろ!」
スラリア「…うん!もう少しでクレアに
襲われちゃうとこだったよ〜!」
フラット「へぇ〜…」
クレア「おいスラ!」
スター「えっ…ただキスしてただけじゃ…」
ノール「なんだ、いつもの冗談か」
スラリア「えへへ、バレちゃった」
クレア「っくぅ!」
フラット「うーん…まぁ、キスぐらいなら
許容範囲だよね」
ベングル「そうだな。まっ、元気になったなら
オフィスに来い!歓迎会開くからよ!」
スラリア「えっ…いいの?」
クレア「何迷ってんだよ?当たり前だろ?
お前が主役なんだ」
スラリア「皆…ありがとう…!」
フラット「泣いてる暇あるなら早く行こうよ!
スラリアの大好物も用意できてるしさ!」
ノール「クレアからのプレゼントもな」
クレア「おいノール!言うなよ!」
スラリア「…フフフ…アハハハハ!なっくんがいなくても
デ・ロワーは健在だね!」
クレア「あぁ、俺達は何も変わっちゃいねぇ。
フラットが教えてくれたんだ。アイツがいなくても
いるってな!」
スラリア「…いなくてもいるか…今なら分かる気がする。だって…」
(あの時のクレア…なっくんにそっくりだった)
クレア「よっしゃ、そうと決まれば行くぞ、スラリア!」
クレアはスラリアに手を差し伸ばす。
スラリア「…うん!行こう!」
その手を、スラリアはギュッと握る。そして2人は
互いに足音を合わせて、歩幅を合わせて走っていった。
夜ー
クレア「なぁ、ナックラー。俺、約束は叶えられたか?
素直に、誰かの力になれたか?さぁて、こんなくだらない質問は
お前、大っ嫌いだよな。じゃ、この矢、置いとくからな。
一応…鏃に巻いてあるのは手紙だからな。
読んどけよ、じゃ…?スラリア?」
スラリア「あたしも…挨拶したくて」
クレア「そうか。俺は…行った方がいいよな?」
スラリア「…そうだね。おやすみ、クレア」
クレア「あぁ、おやすみ」
スラリア「行っちゃったか…なっくん、
最後まで…幸せだった?後悔とかしてない?
…なんて、どの口が言ってるんだろう…あたし、
なっくんの最後に立ち会ってないのに…
何で泣けるんだろう…!最低だよね、あたし…
本当だったらここにいる資格もないのに…!」
クレア「…そんなことない!」
スラリア「えっ⁉︎」
クレア「すまん…聞いてた。だが…スラ、
資格がないわけないだろ!ナックラーだって、
お前に会いたいに決まってるだろ!アイツが
一度でも仲間だと思ったやつを嫌うやつか⁈
そんなことないだろ!」
スラリア「でも…あたしは…裏切っちゃった…
なのに、何で皆は許してくれるの⁈」
フラット「許すよ。スラリアはさっき、殺したって
言ったよね?誰を?いつ?」
スラリア「えっ…それは…」
フラット「適当に言ったでしょ?たしかにアザゼルは
東京の警察関係者を殺した。でも、それ以外の被害者は
なんとバトラー以外にいないんだよ。だから、
咎める理由がないってこと」
スラリア「えっ?嘘でしょ?ありえないよ!」
クレア「本当だ、日本だけでの話だがな」
スラリア「そう…だよね」
フラット「でも、スラリアはちょっと考えすぎかな。
ノールは…まぁ、背追い込みすぎだけど…ね」
クレア「な。アイツも早く気付けばいいんだがな」
スラリア「本当に…いいの?」
フラット「もちろん。誰も責めたりしないし、
過ごそうよ。楽しいよ!」
スラリア「……うん!」
フラット「それじゃ、挨拶も済んだことだし、
帰ろっか。僕は挨拶してからだけど」
スラリア「あ、だからフラットも来たんだ。
じゃあ、帰らせてもらうね。ありがとう」
フラット「うん、それじゃ、また明日。おやすみ」
スラリア「…また明日!」
翌日ー
フラット「で、アレをしてなかったね」
スター「エドが出張でいなかったから…ね」
エド「俺が帰ってくる前日にかぎって何で
そういうことが起きるんすか!俺も行きたかったっす!」
ベングル「ガッハッハ!まっ、いいじゃねぇか!
あと3人!ゴールも近いぜ!」
グリオ「調子に乗りすぎるな。気の緩めが
このタイミングにとって1番の大敵だ」
ベングル「分かってるっての。今だけだ」
ライ「ベングル殿の言葉は信用できないでござる。
まぁ…アレ、やるのでござろう?拙者も賛成でござる」
フラット「それじゃ、スラリアとクレアを
真ん中のに…出番のなかったエドは端っこで
ベングルはクレアの方に、グリオはスラリアの方で
ライは2人の中心。僕はベングルの隣で…うん、
いい感じ!それじゃ、いくよ!セーの!」
全員「勝利のVサイン、キメっ!」
フラット「そして!」
全員「お帰り、スラリア!」
スラリア「えっ⁉︎」
カメラはスラリアの戸惑った顔を最後に撮った。
フラット「うん、バッチリ!」
スラリア「ちょっ、返して!そんなのどうすんの⁉︎」
フラット「この、デ・ロワー思い出日記に
貼りまーす!」
スラリア「ちょっ、マジでそれだけはやめて!
新入社員に見られたら最悪だから!」
フラット「アッハハ、それもまた一興ってことで」
スラリア「一興じゃな〜い!」
ペーター「うわっ、騒がしいな…」
バジー「でも、いいじゃありませんか。ナックル様が
おられなくても、こんなにも明るい雰囲気が
続いているんですもの。本当に…フラット様は
お優しい方ですわ」
ペーター「…そうだね。ナックラーの跡を…
ちゃんと引き継いでいるみたいだ」
フラット「ぜーったいにやなこった!」
スラリア「フラットの意地悪〜!」
ナックル「…フラット。お前の笑顔で俺も
生きれたんだ。アイツらのことも頼むぜ。
俺はお前に教えられてばっかりだったからよ」
フラット「?」
スラリア「取〜った!」
フラット「……」
スラリア「?フラット、どうかしたの?」
フラット「えっ、ううん。あ、あと取られても
問題ないよ。カメラにデータが残ってるから」
スラリア「え〜⁉︎」
フラット「残念でした〜!」
スラリア「この〜!待て、フラット〜!」
全員「ぷっ…アハハハハ!」
第5話 時は巡って 完!
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