第13話 突風に包まれて
地球連合緊急会議
大統領「さて、まず言おう。魔族が動き始めた」
連合軍軍曹「それは分かっている。しかし、被害は
さほど出ていない。地球1のアカデミー、四大の方が
動いていないが、デ・ロワーがいい働きをしてくれている」
防衛管理長「そうだな、まだ彼らに委ねてもいいだろう」
財務大臣「もうしばらく、様子を見るとしよう」
大統領「少し問いたい。霊的防衛をも視野に
入れているのだが、
防衛管理長「いえ、まだです。東京のどこかにはいると
見解はついていますが、全く手掛かりがないのです」
大統領「そうか…いざとなれば、ゼウスを呼べ。
日照家の者に、力を借りなければならない時が
来るだろう。それでは次の題材だー」
1節 居場所
フラット「うーん…」
クレア「どうした?新聞眺めて。珍しいな」
フラット「いや、ゴンが持ってきたんだけど…
変なこと言ってたんだよ」
今朝ー
ゴン「フラット、ほれ」
フラット「ほれって、新聞ならコンビニでー」
ゴン「違う違う。新聞じゃないよ。
それは、極秘情報だ。地球連合緊急会議のな」
フラット「えっ⁉︎」
ゴン「こっそり盗み聞きしてな。読んどいてほしい」
フラット「?分かりました」
フラット「ってことがあってね」
クレア「極秘情報?」
フラット「でも、よく分かんないんだよね。
アカデミーの四大の人達が動いてなくても、僕達が
魔族を倒せてるから信用されてるみたい、地球連合から」
クレア「お、いいことじゃねぇか!」
フラット「そこはね。でも…日照って誰?」
クレア「?日照…?何だいきなり」
フラット「霊的防衛とか意味分かんないし…」
ノール「霊的防衛は、東京中を結界で覆って
魔族の攻撃を無効化するというもののことだ」
フラット「あ、ノール、お帰り」
クレア「ほえー、そんな計画が」
ノール「それより、早く熱海に行く準備済ませろ。
エドは寮に帰ったぞ」
フラット「そうだね。あと、ありがと」
ノール「でも、霊的防衛は不可能だがな」
クレア「へ?」
ノール「この東京を覆うほどの霊力を使うには、
何人もの一般人を生贄にする必要がある。あ、でも…
日照家が存在してたらいいのか」
フラット「日照家⁉︎知ってるの⁈」
ノール「あ、あぁ。平安時代から続いた血族だ。
一般人の持つ霊力の何百倍という霊力を
持っていたらしい」
フラット「いたって…今はいないの?」
ノール「お前ら、歴史の成績いくつだ?
魔器の封印のために生贄にされたカグラが末裔だ」
クレア「んなこと、習ってねぇぞ」
フラット「僕は歴史の授業は中学レベルまで」
ノール「…?月では取り扱ってないのか?」
クレア「そこまでは知らんが、習ってないのはたしかだ」
スター「授業終わったよ〜!」
クレア「お、帰ったか!じゃ、俺達も帰るわ」
フラット「あ、もうこんな時間だったんだ!
帰んないと!ノール、色々教えてくれてありがと!
明日、朝7:00に!」
ノール「うん、また明日」
寮ー
エド「あ、やっと帰ってきたっす!」
フラット「ただいま。疲れた〜」
エド「今日は何もなかったっすよ?」
フラット「大学だよ大学」
エド「あぁ、そっちっすか。それより、
準備しちゃおうっす!」
フラット「そうだね」
一方その頃
クレア「えっと…スターの手袋…これがいいか!
マドール!この生地の手袋ってあるか?」
マドール「そのタイプの生地ね…今はないわ。
すぐに作っちゃうから、待っててくれるかしら?」
クレア「どのくらいかかるんだ?」
マドール「そうねぇ…大体1時間かしら」
クレア「じゃ、待合室借りるわ。
終わったら教えてくれ」
マドール「分かったわ」
クレア「ふぅ…」 ガチャ
アスカ「ダメでしょ、セイ!人前で霊力を
使っちゃだめって言ってるでしょ!」
セイ「怪我してたんだもん!お姉ちゃんは、
怪我してる人をほっとけって言うの⁉︎」
アスカ「普通に治療しなさいって言ってるんだけど!
誰もそんなこと言ってないでしょ⁈」
セイ「お姉ちゃんはいつもそう!日照家だからって
怖がってばっかで!」
クレア「えっ…日照?」
アスカ「⁉︎クレアさん⁉︎いつからそこに⁈」
クレア「ついさっき…」
セイ「あ…」
クレア「あ、聞き間違いだったかもしんねぇな!
アッハハ!」
アスカ「…クレアさん…」
クレア「あと…使っていいかな?」
アスカ「あ!すみません!どうぞ」
セイ「…お姉ちゃん、それでも使うから」
アスカ「だからー」
クレア「別にいいと思うぞ?霊力を使ったところで、
どこの誰かなんて分からねぇし」
アスカ「でも、こんな高い霊力を持ってたらー?
クレアさん⁈知らんぷりしててくださいよ!」
クレア「?…あ!忘れてた!」
アスカ「もう…言わないでくださいよ?」
クレア「それは固く約束する!」
アスカ「絶対ですからね?」
セイ「…」
翌日ー
ベングル「よーう!招待ありがとな!」
ライ「遅刻せずに来たでござるよ」
ダンステード「徹夜や…リニア来るまで寝ててもええか?」
ダバンゴ「アンタ、酔ってるだけだろうが。
昨日わんさか酒飲んでただろ」
フラット「な、なんか個性豊かだな〜」
ノール「ペーター達は休みだったか?」
フラット「スターもね。防寒具は持ってきた?」
クレア「勿論!」
ノール「私は見ての通り」
ダバンゴ「寒いのは大丈夫だ」
ライ「寒気こそ修行にはもってこいでござる」
ダンステード「グー、グー」
ベングル「俺は寒いの苦手だからな!持ってきてるぜ!
おい、起きろダンステード!」
ダンステード「!何や?」
フラット「そっか、で…」
エド「……」
フラット「エドは喉風邪なのでうまく声が出ません」
ノール「何があった?」
フラット「睡眠中暖房」
クレア「あぁ、あるあるだな」
フラット「で、ケーベス達はあれで行くから
いいとして…じゃあ、もう全員集まったのかな」
マドール「あら?」
クレア「へ⁉︎」
アスカ「皆さん…もしかして静岡に?」
フラット「そっちも⁉︎」
ノール「すごい偶然だな」
マドール「あくまで私のお仕事の付き添いだけど…」
ベングル「だ、誰だ?」
ダバンゴ「俺に聞かれても困る!」
ダンステード「マドール・ジェフィカや。日本の
トップモデラーやで?」
ライ「ダンステード殿が…名前を覚えてたでござる…」
ダンステード「そないに驚くことかいな⁉︎」
マドール「私達は静岡に行くのだけど、そっちは?」
フラット「熱海です。ちょっと早めの冬休みで」
アスカ「魔族の方は大丈夫なんですか?」
クレア「静岡でも、それなりに魔族の被害が
出てるんだってよ。しかも、俺達が相手してる
血鬼七人衆によるな」
ベングル「その調査も兼ねての温泉旅行ってわけだ!」
ダバンゴ「俺は海鮮巡りだが」
ライ「荒業巡り旅でござる」
ダンステード「バラバラやな〜、わいは開発中の
作品でも作るつもりやしな」
セイ「いいなー…私達も行きたい!」
アスカ「ダメに決まってるでしょ。お師匠のお手伝いを
しに静岡に行くんだし」
マドール「別にいいわよ?熱海でマジックショーでも
してきなさい」
アスカ「えっ、ですがー」
マドール「お願いするわ、フラット君?」
フラット「分かりました。3人分、宿泊券あるんで」
アスカ「お師匠⁉︎」
マドール「羽を伸ばすのも大事よ」
アスカ「…はい。お師匠がそう言うなら」
セイ「マドールさん、ありがとう!」
マドール「セイちゃんはダメよ。
修学旅行が近いでしょ」
セイ「え〜!月なんて何度も行ったよ!」
マドール「そういうワガママを治してくれたなら、
考えなくもないわ」
セイ「ワガママじゃないもん!欲求だもん!」
ノール「それをワガママって言うんじゃないか?」
マドール「まぁ、いいんじゃないかしら?姉妹揃って
仲良く家族旅行でもしてきなさいな」
放送「間もなく、リニアモーターカー、ファルコン号が
参ります。自動フェンスが展開されますので、
黄色い線より内側にお下がりください」
フラット「こういう放送の時、大体…あ、今日は
大丈夫だったね」
エド「……!」
フラット「ごめんごめん。って、ノール!荷物!」
ノール「あ!」 ガシャン!
ノールの荷物は、自動フェンスが展開される衝撃で
線路に落ちていく。そしてー
キィィ!
フラット「だ、大丈夫だよ!リニアって浮いてるから!」
ノール「大丈夫じゃない!あの中に最新型のカメラが
入ってるんだ!磁力で壊れたらショックすぎる!」
クレア「おい」
ノール「い、急いで取らないと!」
クレア「おいってば!」
ノール「?」
ノール「ライが取ってくれてるぞ」
ライ「ギリギリだったでござる。」
アスカ「ライって…あの陸上選手の⁉︎
あの、サイン良いですか⁉︎」
ライ「今はダメでござる。他の客の邪魔だてを
することになるでござる」
アスカ「あ、すみません。つい興奮しちゃって」
ライ「拙者にファンがいるとは驚かされたでござる」
フラット「やっと乗れた〜…ちょっと疲れた」
ノール「今まで色々あったからな。だが、残り5人は
残っているぞ」
クレア「スラリアも、数のうちか」
ノール「仕方ないだろ。今は魔族だ」
ベングル「おっと、席はここか。フラット、
お前も大変だな。前は俺とグリオでスカウトした
フォールが敵なんだろ?」
フラット「うん、だから僕達も実力をつけないと!」
ダバンゴ「テメェらの実力は十分だろ。足りねぇのは
チームワークな気がするぜ?」
ノール「チームワーク…か。たしかにな」
アスカ「ありがとうございます!大事にします!」
ライ「いやはや、嬉しい限りでござる。そんなに
笑ってくれるだけで嬉しいでござるよ」
アスカ「ライさんのサイン…本物だぁ〜!」
セイ「お姉ちゃんって、ライさんのこと大好きだよね。
部屋中ブロマイドだらけじゃん」
フラット「えっ…アスカの部屋ってそんななの⁉︎」
アスカ「ちょっとセイ!言わないでよ!」
クレア「にしても…眠い」
ダンステード「わいも寝させてもらうで〜…ホンマに
眠うて敵わんわ」
フラット「まぁ、皆、集合時間に間に合ったし、
休憩とっていいよ。とは言っても、1時間も
かかんないけどね」
クレア「俺はよく寝れたし、今のうちに作戦でも
考えてよっと」
フラット「あ、チーム言ってなかった。まず、
チームはタッグ制で、今回は8人だから4チーム。
赤・白・青・黄に分けて戦闘イベントを開催するよ。
赤はクレアとダンステードさん。白はエドとライ。
青は僕とダバンゴ。黄はメダイとベングル。
映像はノールで、照明は当番制で。こんなものかな」
クレア「エド、大丈夫なのか?」
フラット「動き回れるんだけど、喉の調子が
治ってないだけ。薬嫌がるからさ」
ノール「嫌がるって…子供みたいだ」
エド「……!」
アスカ「喉風邪…」
セイ「…お清め!」
フラット「うわっ、眩しい!」
アスカ「セイ!また使って…!」
エド「…あれ…声が出るっす!」
アスカ「セイ!使っちゃダメって昨日も言ったでしょ!」
セイ「それでも使うって、私言ったよ!」
アスカ「お師匠も何か言ってください!」
マドール「…無理よ。これはあなた達の問題。
私が首を突っ込む問題ではないわ」
アスカ「お師匠まで…!」
クレア「…まぁとりあえず!そこまで言われてんだ、
自分達で解決してみろって!」
アスカ「…はぁ。分かりました。セイ、あたしは
意見を変えるつもりはないよ」
セイ「私だってないもんね!」
アスカ「大丈夫かしら…?」
放送「熱海〜、熱海〜」
フラット「よっと!うわっ、寒⁉︎」
クレア「うわー、息が白い」
ノール「で、宿はどこだっけ?」
フラット「伊豆だって。僕の希望通りだよ!」
エド「にしても、いい匂いっすね。潮風って感じっす!」
フラット「海が近いからだね。じゃ、荷物持ってー」
ベングル「あっ!ま、待ってー」
ピロロロロ!
フラット「どうしたの?」
ベングル「…いや…その…」
ダンステード「?あんさん、鞄どないした?」
ベングル「あっ、言うな!」
フラット「あ、さては…」
ライ「忘れたのでござるな」
ダバンゴ「じゃ、お約束ってことで」
フラット「神業・与罰!」
ベングル「アババババ!」
ライ「で、電撃でござるか…キツい罰でござるな」
フラット「それじゃ、駅員さんに報告しておこうか」
ベングル「は…はい…」
防衛管理長「えぇ、見つかりました。あの霊力は、
間違いなく日照です」
大統領「そうか…尾行してくれ。もしもの時は…
分かるな?」
防衛管理長「はい。分かりました。では」 ピッ
防衛管理長「いざとなれば…しかも、姉妹とはな。
2回分あるぞ…!」
フラット「良かったね、転送ロッカーあって」
ベングル「良くない!まだ静電気止まってねぇんだぞ!」
クレア「アッハハ!今のうちに写真撮っとこ!」
ノール「あ、私も」
ベングル「やめろ!ったく、とんだいたずら好きだ」
ライ「それより早く行くでござる。
なるべく早く準備した方がいいでござる」
ダバンゴ「お前は相変わらず真面目ちゃんだな」
アスカ「あの…本当に良かったんですか?
私達まで…」
フラット「もちろん!マドールさんの許可も
降りてるし問題ないでしょ?」
エド「それに、セイにはお礼があるっすから!」
セイ「えへへ、照れるなぁ」
アスカ「セイ!あれだけ使うなって言ったでしょ⁉︎」
クレア「いいじゃねぇか。まだ子供だし、な?」
アスカ「子供だからと言って甘やかさないでください!
日照家と知られたりしたら―あ」
クレア「おい…」
アスカ「え〜っと…」
ノール「?なんか言ったか?」
フラット「ね?特に何も?」
ベングル「はぁ?今コイツー」
ダバンゴ「お前は黙ってろ」
アスカ「あ〜…」
セイ「私知〜らない」
アスカ「元はと言えばセイがー」
マドール「アスカちゃん、私は行ってるからね」
アスカ「…分かりました…」
マドール「あと、セイちゃんはまだ子供なのよ?
ちょっとぐらいはいいじゃない。悪いことは
何もしてないし、ね?」
アスカ「勝手に霊力を使うことが問題なんです!」
マドール「そうかしら?まぁ、私は行くわね」
アスカ「…はぁ〜…決まったことは仕方ないか…
マジックの練習でもしよ」
セイ「お姉ちゃんは暇あればマジックだよね」
フラット「その前に宿に行かないと」
エド「どこにあるんすか?」
フラット「こっちこっち〜!」
防衛管理長「動きました、どうやら宿に向かうようです」
大統領「そうか。尾行を続行しろ」
防衛管理長「了解」
ノール「ここ?」
フラット「うん!伊豆どころか静岡でも有名ホテル!
とりあえずチェックインしてくるから待ってて」
数分後ー
フラット「オッケー!それでケーベス達が
先に着いてるみたい。男部屋が507で、女部屋が302。
ノール、鍵」
アスカ「あの…それって私達も入ってますか?」
フラット「当然!」
ベングル「もしそうじゃなかったらお前ら
どうする気だったんだ?」
アスカ「自分達でも宿くらい探せますから」
セイ「お姉ちゃんはいっつもマドールさんに
迷惑かけないようにって、安い宿しか探さないじゃん!」
アスカ「それは…だって…」
ノール「おい、早く行くんだろ?」
ライ「そうでござる!駐車場で
迷惑でござるよ」
ダバンゴ「俺様、迷惑かけんのは大嫌いなもんでな」
ベングル「元賊のアイツがそんなこと言っても、
信じるやつなんかいねぇだろうな」
302号室ー
メダイ「あ!やっと来た、遅かったね」
ノール「お前が早すぎだ、私達も予定より
早く着いたのに」
スター「どうやってここまで来たの?」
メダイ「宇宙船で来たんだよ。自家製のね」
アスカ「宇宙船を…作ったんですか⁉︎」
メダイ「そうだよ…って誰⁉︎」
アスカ「あ、寺内アスカです。今日はお師匠が
気休めにと、仕事関係者のデ・ロワーの皆様と
冬季旅行に」
セイ「この人…怖い」
アスカ「こら!何言ってるの⁈」
セイ「だって…龍!」
メダイ「そうだよ、私は龍神。何で分かったの?」
アスカ「セイ、また使ったの?」
セイ「だって違和感があったから…人間とは
思えなくて…」
アスカ「そんな失礼なこと考えてたの⁈」
メダイ「いいよいいよ。言われて当たり前だから。
にしても、鋭い勘を持ってるんだね。フラットみたい」
スター「フラットほどじゃないよ。それに…
勘じゃなくて、能力だもんね」
アスカ「…能力…たしかに、そうですね」
セイ「何言ってんの、霊りょー」
アスカ「セイ!」
メダイ「霊力がどうかした?分かってるよ、
2人が異様に高い霊力を持ってること」
アスカ「えっ⁉︎」
メダイ「私の目は誤魔化せないよ?」
セイ「ほら、隠してても分かる人だっているんだよ?」
アスカ「…でも…」
メダイ「まぁ、隠す意味までは分からないけど、
霊力を持ってたところで何かマズいことでもあるの?」
アスカ「それは…」
ノール「アスカ、メダイは味方だ。本当のこと、
言っても問題ない」
アスカ「…分かりました。あの…日照家って分かりますか?」
メダイ「日照…たしか平安時代に末裔が人柱になって
滅んだ一家でしょ?」
アスカ「その…実はあたし、さっきは寺内と
名乗りましたが本当は日照アスカなんです!
寺内は、末裔だったカグラが子供のサダハルを
寺内という苗字にしたそうです」
メダイ「それも知ってるけど…残ってたんだ、
カグラの血族…コータスが知ったら怒るだろうな…」
スター「えっ?どうして?」
メダイ「コータスは、平安時代よりも前からいた鬼族。
それに、カグラに恋をしてたんだ」
スター「へ⁉︎」
メダイ「でも…カグラは殺された。生贄とするために」
ノール「生贄?」
メダイ「平安になってから争いごとが多くなったの。
だから、妖も紛れて溢れ始めて、有名巫女のカグラが
人柱として殺されたの。しかも…無惨な方法で」
ノール「無惨な…って…」
アスカ「あたしは知ってる。四肢を千切り、
内臓をえぐり、壺漬けにして寺に埋める。
頭だけは残して…ね」
メダイ「今でこそコータスは明るく振る舞えてるけど、
カグラが殺された後から…雷蛇鬼と呼ばれたの。
同じ妖怪からも恐れられて、どんな神職も
コータスからは逃げた。コータスも近づこうとしなかった」
スター「じゃあ…いつ3人は集まったの?」
メダイ「ケーベスと私が先に出会った。
コータスのことはケーベスも知ってた。だから、
ケーベスが懲らしめたんだ」
アスカ「よ、よく倒せましたね…雷蛇鬼は
出会ったら最後と言われてたのに…」
メダイ「それは大袈裟だよ。ケーベスの発明品があれば
一瞬だったよ?」
セイ「ケーベスって誰?」
メダイ「あ〜…かぐや姫の血族。本名は永月一慶」
アスカ「永月…あぁ、苗字変えたんですね」
メダイ「えっ?」
507号室ー
コータス「いや悪かったって!試運転もしたかったし
丁度いい機会だったんだ!」
ケーベス「まぁ、時間を間違ったのは俺だし、
今回は俺の責任だ」
フラット「別に怒ってないよ。ただ気をつけてって
言ってるだけだから」
クレア「お前、最近誰かに注意してばっかだな。
老けちまうぞ?」
エド「フラットは心だけ老けそうっす」
フラット「あのね…」
ベングル「おい、稽古じゃなかったか?」
フラット「あ!そうだったね」
ダバンゴ「んな大事なこと、普通忘れるかよ」
ライ「もっともでござるな」
フラット「ハハ…面目ない」
ノール「集まったぞ、フラット」
フラット「まだだよね。あと1人」
エド「すんませんっす!お手洗い行ってて!」
フラット「これで全員だね。それじゃ早速、
イベントの稽古に入ろっか!」
アスカ「私は公園でマジックショーやってます。
元々、静岡でやるつもりだったのでセットも
ありますし」
セイ「じゃあ私は勉強でもしてよ。冬休みの宿題も
あるわけだし」
スター「小学校の宿題…かぁ」
フラット「たしかに、スターは小学校から一気に
高校まで飛び級したもんね」
クレア「まっ、俺の妹だしな!」
ノール「クレアの妹にしては、の間違いじゃないか?」
クレア「なっ…んだと〜!」
ベングル「まぁ、クレアはバカというより単純って
言うのが正解じゃねぇか?」
ダバンゴ「たしかにな。あんな悪口にすぐ飛びかかるし」
ライ「ダバンゴ殿の言う通りでござる。正しく
純粋、いや単純者でござる」
クレア「うるせぇ!いいから始めんぞ!」
エド「そうっすね!じゃ、早速手合わせお願いするっすよ!」
フラット「まだ相手のこと言ってないんだけど…」
ノール「そうだ。張り切りすぎるな」
エド「ちょっとだけっすよ」
防衛管理長「あの〜」
フラット「はい?」
防衛管理長「先程いらした黒髪で長髪の人は?」
フラット「アスカに何か用事でも?」
防衛管理長「やはりアスカさんでしたか!
あの子のマジックショーは大好きでして、是非とも
どこに行かれたのかお聞きしたくて」
フラット「どうしてマジックショーをやると?」
防衛管理長「それはもちろん、会話が
少し聞こえましたので。ですが、
どこに行ったのかまでは聞こえなかったもので」
フラット「そうですか。アスカなら
公園に行きましたよ。これからマジックショーを
披露するって」
防衛管理長「ありがとうございます!
あなた方のイベントも楽しみにしております」
フラット「あ、ありがとうございます!」
防衛管理長の男は公園に向かって走っていく。
フラット「…あれ?何で僕達がイベントを
ここで行うこと、あの人が知ってるんだ?」
2節 時を超えた人柱
アスカ「皆さーん!ミラクルマジシャンの
アスカでーす!今日は出張で伊豆に来ましたー!」
子供1「マジシャンだって!」
子供2「行こ行こ!」
大人1「アスカって、テレビにも出てる⁈」
大人2「有名人じゃん!行かなきゃ損!」
アスカ「お代は見てのおかえり!それじゃ、
カウントダウン!ワン・トゥー・スリー!
はい!帽子の中から傘の登場!」
子供1「スッゲー!」
大人2「ブラボー!」
アスカ「では次のマジック!」
アスカは手袋をはめ、その上に粉状の火薬を
少しずつのせる。
アスカ「では、あたしの吐息でこの火薬に
火をつけてみせます!」
アスカは火薬の粉が飛び散らないぐらいに
吐息を吐く。すると中からパチパチと音を立てて
燃え上がり始めた。
アスカ「これだけでは終わりません!この手袋も
燃やし尽くしてしまいましょう!」
大人2「えっ、火傷しちゃう!」
子供2「だ、大丈夫なのかあの姉ちゃん…」
観客が心配する中でなお燃え続け、やがて
手袋はポトっと地面に落ちた。しかし、
先程まで燃えていた手袋をはめていたアスカの手には
一切火傷などなかった。
アスカ「はい!」
大人1「すっご〜い!」
子供2「今のどうやったんだ⁉︎」
アスカ「タネも仕掛けもございません。ただの運任せ。
あたしは運が良いマジシャン、
ミラクルマジシャンです!」
子供1「もう終わり?」
アスカ「いえ!次が最後のマジック!
皆さんにスリルを味わってもらいましょう!
今からこの煙玉であたしが隠れます。誰か、
煙玉の中のあたしにこのナイフを投げられる方は
いませんか?いたら手をあげてください!」
大人2「どうする?」
大人1「私はちょっと怖い…」
防衛管理長「私がやりましょう」
アスカ「あ、ではそこの男の方!」
防衛管理長「ナイフ投げには自信があるので」
アスカ「…どうぞ」
防衛管理長「はい、どうも」
アスカ「…では、いきます!」
足元に煙玉を投げつけ、煙の中にアスカの影だけが
写っていた。
防衛管理長「…そこ!」
男が投げたナイフはアスカの影の胸のあたりに
刺さっていた。そして、影は倒れていった。
大人2「えっ…⁉︎」
アスカ「イッツショータイム!」
防衛管理長「!」
アスカ「あたしは皆さんの後ろでーす!」
子供1「い、いつの間に⁉︎」
防衛管理長「すごい…」
アスカ「では今日のマジックはこれにて終了!
見てくれてありがとうございました!」
アスカ「ふぅ〜…疲れた」
セイ「お姉ちゃんの協力、疲れるから
あとでお給料〜」
アスカ「それぐらいはいいよ。ていうか、
また霊力使ってでしょ?あたし、影が倒れる演出は
希望してないけど?」
セイ「違うよー、お姉ちゃんに内緒で
倒れる影の演出も作っといたの!」
アスカ「あまり見てる人に不安を煽りたくないから
刺さったらすぐに出たかったのに…」
防衛管理長「いや〜、やっぱりアスカさんのマジックは
素晴らしいですね!」
アスカ「あ、さっきの…どうしました?」
防衛管理長「いえ、たださっきのマジックは
素晴らしかったと思いまして」
アスカ「えっ、あ、えっと…ありがとうございます!」
セイ「あっ…お姉ちゃん、そろそろ戻ろうよ。
時間、もう行かないと!」
アスカ「セイ…?そうだね。すみません、あたし、
行かなくちゃいけない場所があるので」
防衛管理長「あ、いえ構いません。お時間取らせて
申し訳ない」
アスカ「それじゃ、行こうセイ!」
慌てて走り去る2人を見つめた男はー
防衛管理長「…あの妹から消すべきか」
と呟いた。
フラット「それじゃ、ベングルとクレア!スタート!」
クレア「突風・水切之旋風・斬!」
ベングル「何の!火炎・フレアスプラッシュ・弾!」
クレア「うぉ⁉︎マッズ!」
ベングル「おいおい…こんなんで苦戦しちまうのか?」
クレア「いや?すまんな、少しばかりどう出てくるか
見させてもらった。案外単純だったよ…
突風・四方爆破之矢・散!」
ベングル「うっわ⁉︎火炎・火花散・爽!」
クレア「お見通しだ!突風・不可視之矢!」
ベングル「な、何⁉︎」
フラット「はい、クレアの勝ち!」
ベングル「ま、マジか…」
クレア「スピード勝負ならお任せあれ」
ライ「それなら拙者のスピードにも敵うということでござるか?」
クレア「あっ…いや、体術によるスピードは…
フラットの方が」
フラット「へ⁉︎いやいや、僕の相手はダバンゴー」
ライ「拙者が代わりにお相手を致してつくそう」
フラット「ク、クレア、任せた!」
クレア「はぁ⁉︎」
フラット「神業・飛翔!」
クレア「あ、あんにゃろ〜!」
ライ「それでは、勝負といこうでござる」
フラット「ふぅ〜…今日の稽古は終わったし…
どうしよっかな?時間まだあるし…」
エド「あ、フラット!さっきアスカが探してたっすよ?」
フラット「アスカが?何だろ…どこにいる?」
エド「今はホテルの部屋っすよ」
フラット「分かった、わざわざありがとね」
エド「こんなの朝飯前っすよ!」
フラット「何?探してたって」
アスカ「あ、フラットさん。すみません、
来てもらって。あの…実は今日のマジックショーに
ある男の方がいらしたんですけど…セイが
悪いオーラを感じたと」
フラット「…その人ってスーツ着てた?」
アスカ「そうです…ってどうして知ってるんですか?」
フラット「僕も会ったんだ、その人に。怪しいなぁとは
思ったけど、セイちゃんがそう言うぐらいなら
怪しいどころか何かあるのは確定だね」
アスカ「はい、まさか日照家の者とバレたわけじゃ…」
フラット「心配しすぎだって!それに、バレても
僕達デ・ロワーがついてる!大丈夫、アスカも
ファイターでしょ?」
アスカ「そうですけど…あたしのマジックなんて
ちょっと考えれば誰だってー」
ノール「おい、何2人で喋ってんだ?もうすぐ
温泉に入ろうって騒いでるからどうにかしてくれ」
フラット「あ、分かった。アスカも露天風呂、
楽しむといいよ。冬に露天風呂で海を眺めると気持ちが
落ち着くと思うから」
アスカ「はぁ…」
ベングル「プヒィ〜!疲れた体にはやっぱ温泉だな」
エド「俺は水風呂でいいっす…」
ライ「冬に体を冷やすと風邪をひくでござるよ」
クレア「な、何だよこれ〜!怪我してねぇのに
濡らすといてぇ!」
ライ「拙者の術でござる。さっきたっぷりワサビを
微粒子レベルにして混ぜた風を浴びたから
お湯につけるとしみるでござる」
フラット「忍者がしそうな術じゃなさそうだけどね。
どっちかと言うとただの罰ゲームだし…
そろそろ許したら?クレアが大口叩くのは
いつものことだし…ね?」
ライ「拙者、特に怒ってないでござるよ、
その件については」
ダバンゴ「つまり、何かに怒ってるわけか」
ライ「クレア殿、戦闘中に何と申したか覚えてるでござるか?」
クレア「…日本人ごときが調子に乗るな…」
ライ「心外でござった。まさかファイターの口から
差別の言葉を聞くことになるとは…」
フラット「そんなこと言ったの⁉︎」
エド「それはないっす…」
フラット「エド…まだお湯つかってないの?もう…
しょうがないな…温水でもいいならあっち」
ベングル「ぬるいお湯でいいとか、
アイツ暑がりさんかよ」
エド「それはベングルっすよ!」
ベングル「お?言うじゃねぇの!一つ、派手にいくか?」
フラット「2人とも!温泉もロクに浸かれないの?」
ライ「休む時ぐらいは静かにしてもらいたいでござる」
フラット「ね?」
クレア「お、おい!俺の件はどうなったんだ⁈」
フラット「助けるわけないでしょ!自業自得、
自分の罪でも反省してろ!」
クレア「うぅ…」
エド「フィ〜、このぐらいがちょうどいいっす〜」
ダバンゴ「さて…俺様はもう出るとするか。親分、
そろそろ男風呂と女風呂の交代時間だ」
フラット「あ、もう?じゃ、上がろっか」
エド「え〜、入ったばっかっす〜」
フラット「じゃ、除き魔扱いでもされてれば?」
エド「そんなっす!」
クレア「ってか…なんか感じ変わったな。
前のフラットみたいだ」
フラット「そう?変わった気はしないけど…」
ダバンゴ「親分〜!時間来ちまうぜ〜?」
フラット「あ、今すぐ行くよー!」
防衛管理長「はい。まずは妹の方から。どうやら、
オーラを感じ取ってしまうようなので」
大統領「そうか…厄介者から消していくのは道理。
地球の平和維持のために、頑張ってくれ」
防衛管理長「えぇ。それで“剣”は?」
大統領「まだ見つかっていないそうだ。伝記に
記されていた場所にはなかったらしい」
防衛管理長「ただの泥棒の仕業ならいいのですが…」
マドール「やはり、動き出していたわね…天ノ剣は
渡すわけにはいかないの…何が何でも!」
フラット「あ、アスカ!温泉行ってたの?」
アスカ「はい。おかげでリラックスできました」
フラット「良かった。それで、セイは?」
アスカ「まだ部屋です。その…お話、聞いてもらっても
いいですか?」
フラット「?」
アスカ「フラットさん、日照家の者は
巫女にならなければいけないんです。代々、
日照神社の巫女に。本来であれば、あたしが
第百六十七代目の巫女…でも…母さんが居なくなって、
神社は壊れた」
フラット「お母さんは…?」
アスカ「分からない。死んじゃったのかも、
生きてるのかも…でも、約束なんです!
日照家の娘であることを秘密にすることは…」
フラット「理由は知ってるの?」
アスカ「日照カグラ…第十七代目日照の巫女。
戦乱に混乱した日本に妖が溢れて、人柱の力で
抑え込もうとした。でも、何万人もの命を犠牲にしても
妖の力は強まっていって…遂にカグラが
人柱となる出番が来ました。しかし…」
フラット「…しかし?」
アスカ「…あの…コータスさんの本名、
知っていますか?」
フラット「えっ、コータスじゃないの?元は
菅原道真みたいだけど…」
アスカ「そうです。そして妖の雷神となり
今もなお、コータスという名で生きています。
何度も名前を変え続けて…カグラはー」
平安時代ー
カグラ「雷蛇鬼」
コータス「だからその呼び方はやめろと
言ってるだろ!俺は道真という名前がー」
カグラ「…お前は相変わらずだな」
コータス「は?何だよ急に…俺は別に
いつも通りだぞ!お前こそおかしいぞ?
なんかあったのか?」
カグラ「…雷蛇鬼…私のこと、愛してくれるか?」
コータス「…ハァァ⁉︎」
カグラ「どうなんだ」
コータス「そ、そういうのはこんなとこで
聞くもんじゃねぇだろ!それに巫女のお前が
妖の俺と契りを交わして何になる⁉︎」
カグラ「…そうか…そうだな。私は日照の巫女。
どうかしていたのは私だ。雷蛇鬼、お前は
もう自由の身だ。私の管理は不必要。さらばだ」
コータス「なっ⁉︎おい、お前、俺との約束忘れたのか⁈」
カグラ「…私はやるべき事ができた。雷蛇鬼…
私は少なくとも、お前のことが好きだった」
コータス「カグラ…?待てよ!」
さっさと去ろうとするカグラを呼び止める。
コータス「…俺だって…お前が好きだ。だがよ…
巫女のお前と俺は交わるわけにはいかねぇんだ!」
カグラ「…そうだ。だからこそ、今のうちに別れを
告げておくべきだ。だが…この思いは消えぬ。
ありがとう、雷蛇鬼」
コータス「…あぁ…言っとくが、俺は約束、
破んねぇぞ!」
カグラ「鬼は泣かぬ者だ」
数年後ー
コータス「…暇だ。久々に、人里から
酒を奪いにでもいくか」
コータス「ん?おかしいな…この結界…
前より強まってる?ま、元人間の俺には
関係ねぇけどな。にしても、やけに静かだな…
今日ぐらいなら祭りのはず…日照神社のとこでも
行ってみるとするか」
日照神社本殿
コータス「ん?誰もいねぇのか?というより…
誰かが住んでるようには見えねぇぞ?」
コータスは本殿の障子を開けてみる。その中央に
ポツンと置いてあった壺。そこには“神楽”と
書かれた札が貼られていた。
コータス「…まさか…!」
封となっていた三枚の札を剥がし、壺の中を確かめる。
そこには、バラバラになった四肢と頭、グチュグチャに
され、腐り果てた内臓が入っていた。
コータス「カ…グラ…?嘘だろ…?誰だ…誰だ…
誰なんだ⁉︎」
見回り当番「だ、誰だ⁉︎」
コータス「…貴様か…!」
コータスが自ら捨てたはずの角が再生された。
以前の角とは違い、鋭く尖った角が。
回想終了ー
アスカ「その後のコータスさんは人も妖も恨み、
殺し尽くそうとした。それを止めたのが
ケーベスさんとメダイさんなんです」
フラット「あれ、メダイって流れ者じゃー」
アスカ「いえ、この世界の人ですよ」
フラット「そうだったんだ…」
アスカ「コータスさんはあたしのことを
知りません。あたしも知られたくないのです!
もしあたしがカグラの血を引いてると知ったら、
きっと…辛い思いをなさると思うので」
フラット「分かってる。で、本題は?」
アスカ「…やっぱり、フラットさんには
お見通しですか。今の話は前座に過ぎないこと。
実は、地球連合があたし達の存在に気づき始めていると
温泉から出た後、お師匠からの電話で知りました」
フラット「えっ…それってまずいこと?」
アスカ「とてもまずいです。地球連合は
考え方が軍人なんです。少ない犠牲で多くの命を
救えるなら何でもする。そういった考えの集団です。
もし、あたし達の居場所までバレたら…終わりなんです」
フラット「そっか…分かった。デ・ロワーが全力で
護衛するよ!」
アスカ「すみません、たかがあたし達のために…
ファイターでありながら、お願いするなんて…」
その2人の様子を影で見ていた男はー
防衛管理長「チッ、デ・ロワーに依頼するとは…
ここは援軍を用意すべきだな」
クレア「おいアンタ。何してんだ?」
防衛管理長「あ、いや電話ですよ?」
クレア「電話?そうか…風はあの2人の盗み聞きを
していたと言っていますが?」
防衛管理長「それはあなたの能力。
風が何と言ってるのかなど、私には分からないから
嘘をついているのでは?」
クレア「風のくれた情報は神聖なもの。それを
偽りでもしたら風は怒り、嘘の程度で災害を起こす。
なんなら試しましょうか?神業・風耳」
クレアは風から2人の話していた会話の内容を
聞き出す。
クレア「あの2人は鎌倉時代の話を
していたみたいですね」
と、平安時代と分かりつつ鎌倉時代と嘘をつくと、
近くの浜辺で旋風が起き、砂が巻き上がった。
防衛管理長「…神力の発生を感じなかった…
本当らしいな」
クレア「これで分かったろ?何であの2人に
つきまとっている?」
防衛管理長「お前みたいな奴に教えることなど何もない!」
男はクレアのみぞおちを殴り、その上膝で蹴る。
クレア「ぐっ!」
そのまま、クレアは気を失った。
防衛管理長「今思えば、神力を使うのも
手かもしれないな…風神は2人いるわけだし、
1人消しても問題はないだろ…」
アスカ「…!」
フラット「どうかした?」
アスカ「い、いえ!」
(今…風が変わったような…)
大統領「ほう…神力で魔力を封じ込めた方が早いと」
防衛管理長「はい。我々の動きもその方が
効率が良くなります」
大統領「たしかにそうだな…ファイターなど、
ごまんといる」
防衛管理長「あまりなの知られていないファイターなら
消しても問題ないでしょう」
大統領「あぁ、いい作戦を思いついてくれた。
しかし、クレアはデ・ロワーのファイターだ。
決して問題はないだろうな?」
防衛管理長「えぇ。気は引きますが、
人工アリジゴク装置を使い、生まれた時から
今に至るまでの存在を消せば、流れ者と同義の存在に
なります。そうすれば、赤の他人ですので」
大統領「なるほど。では期待しているぞ」
防衛管理長「はい、お任せを」
男は通信を終え、クレアを乗せた車を
ある場所へ向け走らせる。
30分後ー
フラット「えっ⁉︎クレアが帰ってない⁉︎」
ノール「さっき飛び出してってから
もう50分は経つな…」
セイ「どこに行ったのかも分からない…」
ベングル「とにかく、バジーに聞けば1発なんだろ!」
フラット「そっか、聞いてみる!」
フラットはバジーに電話をかけてみる。
バジー「もしもし?」
フラット「バジー、ファイターポインターで
クレアの位置を探してください!」
バジー「?分かりましたわ…クレア様⁉︎行方不明に
なられたんですか⁉︎」
フラット「お、落ち着いて!早く探さないと!」
バジー「は、はい!」
バジーはクレアのIDを打ち込む。しかしー
バジー「えっ…⁈」
フラット「どうしたの⁈」
バジー「それが…このIDは一致しないと…」
フラット「…まさか!クレアのネックフォン、
壊れたとか⁉︎」
バジー「いえ、壊れても発信機も付けてありますわ、
皆様同様に。それで反応なしということは…
電波がないところ、もしくは…」
フラット「もしくは?」
バジー「脅威に喰われたかのどちらかですわ」
メダイ「それはないよ!脅威の発生は確認できてない!」
スター「うっ…うぅ…!」
コータス「ど、どうしたスター⁈お前、
さっきまで部屋に…」
スター「兄ちゃん…消されちゃう!」
フラット「えっ⁉︎」
ケーベス「分かるのか⁉︎どこにいるか!」
スター「車の中…兄ちゃん、生贄にされちゃう!」
アスカ「!さっきの……風…あたしのバカ!」
フラット「アスカ…?」
アスカ「いつもそう!あたし…気付いても
勘違いだったらどうしようって…!それで…
失って…もうやだ…!嫌なのに…!」
アスカの体に青いオーラが漂い始めた。
ケーベス「こ、これは…!」
メダイ「霊力…⁉︎」
コータス「っ⁉︎この感じは…!」
コータスにはそのオーラからある懐かしみを
感じられた。
コータス「カグラ…?」
アスカ「あたしのせいで…また…!」
セイ「お姉ちゃん!悔しがる暇があるなら
行こうよ!まだ間に合う可能性だってあるんだよ!」
コータス「…カグラも…」
アスカ「…えっ?」
コータス「カグラも…似たようなやつだった」
カグラ「ん?」
コータス「おっと!何だよいきなり立ち止まって…」
カグラ「いや…気のせいだ」
(今…誰かが助けてと言ったような…)
翌日ー
コータス「ん…アイツ遅いな…俺の見張り、
忘れてんじゃないだろうな」
カグラ「…すまない、遅れた」
コータス「おせぇぞ…?何だよその花束」
カグラ「…ちょっとな…なぁ、雷蛇鬼。
私はダメなやつか?」
コータス「…いきなり何だよ。お前が
ダメなやつかって?んなの俺が答えてどうする。
お前と共になってまだ3ヵ月だぞ」
カグラ「…だよな」
コータス「まっ、女としてはいいやつだと思うぞ?
巫女としては、まだまだか?」
カグラ「…巫女としてはってどういう意味だ?」
コータス「巫女装束で走ったり、
境内の掃除サボったり…それで、妖の俺を
生かして共に日を過ごしてる」
カグラ「殺されたいのか?」
コータス「できるもんならな」
カグラ「私に負けてまだそう言えるか」
コータス「だからあれは手を抜いただけだと
言ってるだろうが!お前と本気で戦えば
お前が死ぬだけだぞ!」
カグラ「フフッ、それは鬼らしくない答えだな」
コータス「元人間だしな」
カグラ「ありがとう…おかげで笑えた」
コータス「あぁ、それとお前は人としても
まだまだだぞ。まっ、それはお前だけでなく、
どの人間もがな」
カグラ「…」
コータス「で?その坊主はだれなんだ?」
カグラ「…お前にも見えるのか。この子は、
私が見殺し同然の形で崖から落ちた村の子だ」
コータス「は?」
カグラ「昨日、私が立ち止まった時…助けてと
聞こえた気がした。だが私は勘違いだと思い
立ち去ってしまった…!悔しい…!私が
気付いていたのに気のせいと思ったせいで…!」
コータス「カグラ…」
コータス「アスカ、後悔するなら次に進め。
後悔は結果論に過ぎない。だったらその反省を
次に活かし、成功すればいい。ファイターのお前なら
きっとできる!」
アスカ「コータスさん…はい!寺内アスカ…
いえ、日照アスカ!第百六十七代目日照の巫女として
今回の事件、協力させてもらいます!」
スター「兄ちゃん…!」
ノール「スター、クレアがどこに向かってるか
分かるか?」
スター「えっと…大きな魚のモニュメントがある…」
フラット「焼津港か!すぐに向かうよ!皆、
僕の手、離さないでよ!神業・飛翔!」
防衛管理長「さて…日照の娘は来るだろうか」
3節 向かい風
フラット「スター、どの辺か分かる?」
スター「ごめん…どこにいるかまでは…」
アスカ「こっち!そんな気がする」
コータス「よし、案内頼む!」
セイ「ここって…静岡?」
「あら?どうしたのよ」
ベングル「…ん?この金属の匂い…剣?」
マドール「だからどうしたのよ。伊豆にいるはずでしょ?」
ベングル「あ、あぁ…実はクレアがさらわれてな。
今、探してるんだが…」
アスカ「…セイ。セイなら…分かるよね。
どこにクレアさんがいるか」
マドール「えっ…使わせるの⁈」
アスカ「セイの言ってた通りです。自分の力で
誰かを救えるなら、救うだけです!」
マドール「アスカちゃん…決めたのね」
アスカ「はい。あたしは、あたしなりに。
本領発揮させてもらいます!」
マドール「…セイちゃん。ミユキの約束よ。
霊剣・天ノ剣を渡すわ」
セイ「えっ…」
マドールはサッとセイの手に剣を渡す。
セイ「凄い…私の霊力を…引き出してる!」
アスカ「…あの…あたしには?」
マドール「残念だけど…アスカちゃんに渡すはずの剣は
行方知らずなの」
アスカ「そうですか…」
セイ「見えた!風の中心地…遠州灘の中!」
フラット「えぇっ⁉︎立入禁止エリアじゃん!」
ノール「どうやって入ったのかは
分からないけど、こっちにフラットがいて
良かった。お願い」
フラット「あのね、遠州灘がどんな場所か分かってる⁈
普通に入ることはできないよ!結界まで張られて
完全に封鎖状態。入るには結界を破る何かがないと…」
アスカ「あの…あたしの霊力なら結界を一時的に
無効化できます。あたしが外に待機し皆さんの帰りを
待っていますので、セイを戦闘に出してください。
今のセイならファイターでなくとも戦えるはずです」
コータス「霊剣・天ノ剣…カグラが昔
使っていたものだ。きっと答えてくれるだろう」
セイ「カグラ…」
マドール「あなた…その角…!」
コータス「はい…俺は日照の巫女を守り抜く妖、
永月コータス!あの頃とは違う…復讐ではなく、
教えのために戦ってみせる!」
フラット「じゃあ…行くよ!遠州灘に!」
全員「了解!」
遠州灘ー
アスカ「えっ…浜辺から結界ですか…皆さん、
クレアさんをお願いします!幻霊・結界破!」
フラット「うん、任せて!行くよ!」
全員「了解!」
セイ「海の中!そこに風が集まってる!」
フラット「海中⁉︎スパークフラッシュ号が
ないと潜れない…」
バジー「その心配は要りませんわ!」
ダバンゴ「ウッヒャァ⁉︎な、何だこのバカデケェ
ドリル車⁉︎」
フラット「バジー…来てくれたんだ!」
バジー「それより今はクレア様の救出を!」
フラット「そうだね!」
増援1「いたぞ!撃てぇ〜!」
ベングル「なっ、ヴァイスか⁉︎」
ノール「違う!胸のエンブレム…間違いない、
地球連合だ!」
ライ「しかし、拙者達に敵意剥き出しとは
どういった了見でござろうな!」
ベングル「俺が知ってるか!」
ダバンゴ「親分、この調子だと2つに班分けした方が
良さそうだぜ!俺様は邪魔者をぶっ倒す!
何があろうともな!」
ベングル「俺は救出作戦に当たる!」
ライ「拙者は邪魔立てする者の相手を致すでござる」
スター「もちろん兄ちゃんを助ける!」
セイ「私は苦戦を強いられる方に!」
フラット「じゃあ邪魔者退治の方に回って!
セイちゃんは戦闘に慣れてないから」
セイ「私をバカにしないで。これでももう
大人なんだから」
フラット「セイ…?」
コータス「この口調…カグラ?」
ケーベス「聞いたことあるぞ。カグラの霊力を
吸収し、天ノ剣は強まったとな。その霊力が
セイに宿ったとすれば少しはカグラに
似るんだろう」
メダイ「それに邪魔者退治はこっちに任せて!
セイちゃんはフラット達の方に!」
セイ「分かりました!」
フラット「じゃあ班分けも済んだことだし
作戦開始!」
ダバンゴ「テメェら、ここからタダで
帰れると思うなよ!親分達に楯突いたこと、
一生後悔させてくれるぜ!
遊泳・竜尾回泳舞・斬!」
ライ「忍術・雷乱分身・檄!」
援軍1「ぐわっ⁉︎」
コータス「妖札・酔眠!」
援軍1「ぐっ…」
ダバンゴ「こんなもんか?」
援軍2「続け〜!」
ケーベス「流石にまだいるよな…」
メダイ「でも…!」
既にスパークフラッシュ号は海中に潜っていた。
ベングル「第一目標は達成だ!」
バジー「海底に人工物確認!」
フラット「…特に動きはなさそう…?」
ノール「…!屋根!」
ノールがそういった直後、屋根らしきものから
何台もの大砲が出てきた。
スター「えぇっ⁉︎」
バジー「向かい打ちますわ!パラレルストーン、
エネルギー変換開始!」
フラット「ただの大砲ですよ⁉︎明らかにあっちの方が
早く飛んできますよ!」
バジー「お任せください!あの戦闘で壊れたこの子を
修理して強化したんですもの…変換効率も
何倍にもパワーアップしています!変換完了!
主砲レーザー発射!」
バジーがボタンを押すと同時にスパークフラッシュ号は
強い衝撃と共に前進し始める。
フラット「えっ?何これ⁉︎」
バジー「…」
スター「こういう作りなの⁈」
バジー「…」
ノール「お、おい…?」
バジー「…オホホ、設計ミスですわ。このまま、
レーザーが止まるまで前進し続けますわ」
セイ「…と、いうことは…」
バジー「間違いなく、あの建物に衝突しー」
スパークフラッシュ号は建物を突き破っていく。
バジー「そして…海底にぶつかります」
レーザーを打ち続けているスパークフラッシュ号は
そのまま海底に衝突し大爆発を起こす。
全員「うわぁ!」
メダイ「ふぅ〜…これで全部かな?」
ケーベス「ていうか、アスカはあっちに
残ってるはずだろ?何で敵が来るんだ?」
コータス「…まさか!」
何かに気づいたかのようにコータスは
猛ダッシュで結界の出口の方へ向かう。
コータス「アスカ⁉︎」
軍人「チッ、来やがったか!」
1人の軍人がアスカの口を押さえて無理矢理
車に乗せようとしていた。
コータス「…テメェら…女1人の命を何だと思ってる」
軍人「コイツさえいれば魔族を封印することなど容易い!」
コータス「そんな考え…俺が許さん!解放!」
アスカ「⁉︎」
コータス「俺は日照の巫女を守り抜く妖。
2度と殺させやしない!」
アスカ「…」
軍人「面白い…妖か…結界の外といえども、
鬼は酒に弱いと聞く。どうだ?交渉する気にー」
軍人はコータスに腕を伸ばすーが、
コータスは迷うことなく軍人の手をひねり曲げた。
軍人「ガァァァ⁉︎イッ……っ!」
コータス「消えろ、底辺が!」
アスカ「待ってください!」
コータス「アスカ…?」
アスカ「殺しはダメです…だって、そしたらー」
コータス「妖札・雷太鼓!」
アスカの言うことを一切聞くことなく、軍人に
容赦なく雷を落とす。無論、軍人は声を上げることなく
灰になった。
アスカ「っ⁉︎」
コータス「優しさというものは…争いには不要。
それはいつの時代にもー」
パシンッーと、アスカはコータスの頬を
強く叩いた。
アスカ「争うからこそ…優しさはなくては
ならないんです!優しい者のいない争いなんて…
ただの殺し合い…どうして人間は人間と争うのか⁉︎
そんなの…決まってる。逃げたいんだ、
ちっとも優しくないこの世界から…!でも、
もし優しさがあると証明できたなら…あたしが
証明したい!だって…カグラはあなたを愛したから」
コータス「!」
アスカ「人間の一生と妖の一生は全然違う…でも、
カグラは愛した。例え、相手を悲しませると
分かっても…だから、昔がそうであったように今もー」
コータス「もう無理なんだ!妖は…もう人のことを
嫌ってるしな。遅すぎたんだ、何もかもな」
アスカ「…」
フラット「な、何とか入れた〜」
ノール「夢に逃げてワープするとは…考えたな」
スター「えへへ…」
ベングル「さて…こっからが正念場だ」
アナウンス「シャッター閉鎖完了。これ以上の
異常は確認されません」
フラット「僕達のこと…気付いてない?」
セイ「いえ…私達が衝突したため、このような結果に
なっているので勘づいているかと」
ノール「カメラの準備は大丈夫。人の気配も
少ないから突き進んでいいと思う」
フラット「分かった」
セイ「それでこっちです。クレアさんの力を
感じます」
スター「ワープする?」
ノール「いや…遠慮しとく。お前のあれ、
結構気持ち悪い…」
フラット「うん…グニャングニャンしててさ…」
セイ「話してる暇はなくなりそうですよ」
フラット「えっ…あ」
防衛管理長「まさか、ここが勘づかれるとは…?
その刀…間違いない、天ノ剣⁉︎」
セイ「…幻霊・一刀両断」
スパンーと、男を横一文字に切りつける。
スター「えっ⁉︎」
セイ「峰打ちです。それより、早く行きましょう」
フラット「この部屋?」
セイ「はい」
ノール「暗証番号が必要みたいだけど…」
スター「そんなの簡単な話だよ。フラット」
フラット「指紋確認?え〜っと…あれ、全部の番号に
指紋がついてる…」
スター「じゃあダメか…」
ベングル「だったらもう…壊すのみだ!」
鉄製の扉をものともせず1発殴っただけで倒してしまった。
フラット「す…凄い…」
ノール「2代目のバカ虎だな」
スター「ベングルはライオンだけどね」
セイ「道は開けたのでよしとしましょう」
フラット「う、うん?」
ベングル「こんな小さいやつの言うセリフじゃねぇな」
防衛管理長「やはり来ましたか」
フラット「えっ⁉︎お前はさっきセイが…」
防衛管理長「…あぁ、ロボットですか。念のために
私とそっくりに作っておいて良かったです。
しかし…私をそんな楽に倒せると思わないでください」
スター「待って!何で兄ちゃんを…!」
防衛管理長「神力で霊力の代用をしようと
試みたのです。その結果、可能であることが
分かったので。今、地球連合は名のないファイター、
つまりヴァイスを用いてこの作戦を実行したのです」
フラット「…クレアは?」
防衛管理長「あと少しで全ての存在を
吸収されることでしょう」
フラット「存在を吸収…まさか人工アリジゴク⁉︎」
スター「じゃあ…もしかして…」
フラット「忘れちゃダメだ…戦闘に集中してるうちに
忘れてしまったらアウトだ」
ノール「なんてゲスなやつ…?あれ…
何で私、ここにいるんだっけ?」
フラット「ノール⁉︎」
スター「神力を失ってるからしょうがないよ!
こうなったら…やるしかない!」
セイ「…ここは私がやります。クレアさんは
この部屋の奥にいます。しかし…この部屋に
風が集まりすぎてどこにいるかまでは…」
フラット「それが分かれば十分!ベングル、
セイと一緒にお願いします!」
ベングル「任せておけ!」
フラット「行くよ!」
スター「うん!」
防衛管理長「…無駄な足掻きよ。あと少ししかないのに
何ができる。赤の他人となりかけているやつを
助けて何になる」
ベングル「…どこまでも汚ねぇ連中だ。
殺すどころか存在までもを消すとはな…
ファイターなら、命懸けで人々を守る。
例え死んででもな。名前は残され、英雄となる。
ナックルみたいに…お前はファイターが何なのか、
それすら分かっていない!見せてやるよ、
俺が培ってきたファイターたる意味を!
火炎・フレアスプラッシュ・散!」
防衛管理長「ふん、私には理解できぬ。
命懸けで戦おうとするその意志が。
水符・津波」
ベングル「なんだと⁉︎」
防衛管理長「傷ついてまで、人間は守るに値するのか?
私は値しないと思う」
ベングル「なら何故、人柱を使ってまで
地球を守ろうとする⁈」
防衛管理長「私は夢を叶えているのです。死んででも
人間を守るというファイターの夢を」
セイ「違う」
防衛管理長「?」
セイ「人が死んででも守りたいと思うのは、
その対象が大切なものであり、その対象の笑い顔を
見たいと願うから。死んででもというのは
あくまでその思いを表現した言葉にすぎない」
ベングル「そうだ、死んででもというのは
夢じゃねぇ、死んででも守って、また笑い合う!
それが本当の夢なんだ!」
防衛管理長「ほう…しかし、今現在存在を
消されつつある彼はどうだったと思う?
そんな対象はいない筈だ」
ベングル「いるぞ。ソイツを一生懸命助けようと
無我夢中になってる、ファイターが。
アイツのことを守りたいに決まってるさ」
セイ「あなたは分かっていない。その人が何を思い、
夢を描いているのか。あの人は顔と真逆のことを
思い描いてる」
防衛管理長「だから何だと言いたい。所詮は
ファイター。命を捨てても全てを守り抜くんだろ?
それとも、命をかけず守れるとでも言いたいのか?」
ダバンゴ「あぁ、言えるぜ!」
ライ「ファイターをなめないで貰いたい。命懸けで
戦うのはもはや無謀でござる。たしかに覚悟としては
申し分ないものでござるがー」
ベングル「今は違う!仲間と手を取り合って
助け合い、苦難を乗り越える!それがファイターだ!」
フラット「あった!人工アリジゴク!」
スター「これを壊せばいいんだよね!」
ノール「無理に壊せばまずいだろ…この装置の設計が
分かれば…」
ケーベス「だってよ、コータス」
コータス「爆弾の方は任せたぞ」
フラット「えっ⁉︎どうやってここまで…」
ケーベス「俺達は宇宙船があるだろ?それを
ここまで持ってきただけだ」
フラット「持って来たって…」
メダイ「だから大丈夫!コータス、作りは分かった?」
コータス「…あぁ、装置の心臓部分が分かった。
ケーベス、クレアに繋がってるコードの集合点に
爆弾を頼む!」
ケーベス「了解!それ!」
全てのコードをまとめている装置を爆弾で破壊する。
フラット「うわっ!」
ノール「お、おい…!何か…暴走してないか⁈」
メダイ「…まさか!」
コータス「あぁ、クレアの強い神力が戻ろうと
大暴走を起こしてやがる!クレアは無事でも
こっちがまずい!モーセでも無い俺達じゃ
海を割って道を作るなんて無理だぞ!」
フラット「宇宙船は⁉︎」
ノール「そうだ、間に合うだろ⁈」
コータス「だが…遠すぎる。この大暴走から
逃げ切れはしない」
メダイ「流石の私でもこの船内にいる全員を
連れてくのは無理!」
フラット「…セイなら…」
ノール「えっ?」
フラット「今のセイならどうだろう?」
コータス「…オーラを…操れるかどうかってわけか。
試す価値はあるな!」
ケーベス「この力だと…あと猶予は3分ぐらいか!」
ダバンゴ「ふん!もう諦めな!テメェの野望、
俺様が水の泡にしてくれたわ!」
セイ「ふぅ…終わり」
フラット「待って〜!まだ剣を鞘に入れないで〜!」
セイ「?」
ノール「ちょっと、こっち!」
セイ「うわっ!」
無理矢理にでもノールはセイを引っ張っていく。
ノール「この神力の乱れ、どうにかできるか?」
セイ「…無理に吸収されていたために流れが
乱れてるのか…ならば、流れを正す道を切り裂くのみ!
抜刀・霊道斬!」
セイは剣で神力のオーラを切り裂く。すると、
枝分かれしていた神力が一本の筋になり、
大暴走も収まった。
フラット「…ふぅ〜…これで一安心…」
防衛管理長「流石は日照の巫女。しかし…
私の狙いがファイターだと思いますか?」
フラット「…違うの?」
防衛管理長「これは油断させるためのトリック。
本当の狙いは日照の巫女、ただ1人!」
男がそう言った瞬間、天井からガスが発生し、
同時に扉も閉まる。
フラット「えっ⁉︎」
ノール「ま、マズ…イ…」
全員はバタバタと倒れていき眠りについてしまった。
防衛管理長「ふぅ…ガスマスクを用意していて
正解でしたね。これで…いよいよ…!」
クレア「おい…」
防衛管理長「なっ…何故起きている⁉︎」
クレア「俺を何だと思ってる。風神の力を引く
クレアラント・ゴールド…いや、全てを包み込む
“カインドウィンド”!俺の突風は時に優しく、
時に激しく!気まぐれなのさ!
来い、突風之正翼!」
防衛管理長「まぁ…この状況的に逃げるが勝ちですね。
それでは…」
男は指を鳴らす。すると、建物が大きく揺れる。
防衛管理長「残念ですがこれ以上あなた方と
戯れている暇はありません。これで失礼します」
男はクレアを投げ飛ばす。すると、扉だったものが
シャッターに変わり、男とセイのいた空間を閉ざす。
小さな窓から建物だったものが海中を浮上していた。
クレア「くそっ!ガスは止まってるな…
おい!起きろ!」
フラット「…?あれ…寝てたの?」
クレア「くそっ…ケーベス、早く起きろ!」
ケーベス「…ん…クレア…あ!」
クレア「宇宙船をここに呼べ!セイがさらわれた!」
コータス「な、何だと…⁉︎」
メダイ「や、ヤバいじゃん…!すぐに向かおう!」
コータス「おいテメェ!何逃してんだ!」
クレア「しょうがねぇだろ!ここは海底だぞ!
どうやって追えって言うんだ!それに、
緊急事態におねんねしてたお前には言われたくねぇ!」
コータス「それはテメェだろうが!」
ケーベス「落ち着けコータス。起きたことを
とやかく言っても何にもなんないだろ」
メダイ「そうだよ!あ、宇宙船来たよ!」
ケーベス「だが、この船は10人用だ。
少し待ってくれ。どうやらこの部屋、
一般用の宇宙船を改造しただけのものだ。
なら、俺の宇宙船と連結すれば…!」
ケーベスは宇宙船に飛び乗り、連結の準備を始める。
メダイ「できそう?」
ケーベス「あぁ、特にこれといったシステムはない。
すぐに連結しちまう」
宇宙船は連結体制に入り、即座に連結を完了する。
ケーベス「よし!あとは…」
コータス「…ちくしょう…!」
アスカ「あの…あたしはどうしたら…」
ケーベス「おい隠れてろって言っただろ⁉︎」
アスカ「だ…だって…困ってる人を目の前にして
隠れてるわけにも…」
コータス「アスカ…」
アスカ「あの…考え込まないでください。
元はと言えば人前で抵抗せず霊力を使ったセイが
悪いんです。あの子にとってもいい経験です」
コータス「…俺は…」
メダイ「コータス、守りきるんでしょ?
まだ終わってないよ。」
ケーベス「お前ら!準備はとっくに終わってんだ!
衝撃に備えろよ!一気に浮上するからな!
エンジン全開、反重力モード!」
防衛管理長「まさか睡眠ガスが効かないとは…
おそらく、追いかけてくるだろう。まぁ、
それでも間に合いはしないだろう」
セイ「…あれ?」
防衛管理長「目覚めたか…」
コータス「おいケーベス!あとどのくらいで
追いつくんだ⁉︎」
ケーベス「落ち着け!運転に集中させろ!」
コータス「落ち着いてられるか!俺が何のために
生きてるか分かってんのか⁉︎」
メダイ「コータス……ねぇ、何で私が
コータスって名前にしたと思う?」
コータス「あぁ⁉︎んなの知るかよ!」
メダイ「…信じてたんだけどな…」
クレア「誰かを守りたいと思ってるのは
いいことだが、それだけ強い願望じゃ、いつか
自分の身を滅ぼすことになるぞ?」
コータス「何だと〜⁉︎」
ベングル「クレアの言う通りだ」
グリオ「ベングル…お前なら分かるよな」
ライ「…拙者からは何も言うことなしでござる」
ベングル「…俺だって…言えたことじゃないのは
分かってる。俺だって…お前みたいにひたすら
守りたいと思ってたやつがいた」
コータス「…」
ベングル「…だが…アイツは…変わっちまった。
人間じゃない…化け物にな」
コータス「守れなかった?」
グリオ「残念だけど、助けられなかったわけじゃない。
ただ…そういう血を持ってただけ」
コータス「…そうか」
ベングル「でも…セイは違う。そんな血は持ってない。
殺されないかぎり守り切れるだろ?」
コータス「それは…そうだな」
ダバンゴ「さて…頭、どこに向かってるんだ?」
ケーベス「さてな…この部屋船は本船の電波を
キャッチしてねぇし、あの船が向かってった方に
行ってるだけだしな」
ノール「おい、途中で軌道変えたらどうする?」
アスカ「あの…あたし、分かります。セイの場所…
同じ霊力を引いてるんです。糸のように辿れば…
昔、セイが迷子になった時もこの方法で
上手くいったので」
クレア「俺が風に聞けば一瞬なのに…」
アスカ「いえ。お師匠が言ってた通り、
これはあたし達の問題。それに…頼り切りは
嫌なんです!あたし1人でも…セイを…
あたしの妹を、たった1人の家族を
守れるって見せつけなきゃ、お母さんに
申し訳ないし!」
スター「お母さん…か。スターも協力するよ!
さらわれた妹を助けに行くなんて…お姉ちゃんの
アスカが主人公にピッタリだよ!」
ノール「まさか、リアルヒーローショーが
開幕されるとは…」
最終節 風の交流点
アスカ「…ここです!」
フラット「えっ…ここって…」
ノール「神社…?」
フラット「こんな所に…アスカ、本当にここ?」
アスカ「はい…間違いないです」
クレア「とにかく、片っ端から探せばー」
ノール「この神社、広そうだぞ」
ベングル「……」
グリオ「ベングル…?」
ベングル「…分かってはいる。ただ…
やるせない気持ちは消えなくてな」
24年前ー
ベングル「おい、どこに行ってた⁉︎」
少女「…お外…」
ベングル「ダメだと言ってるだろ!お前の力は
外の連中に知られちゃいけないものだと言ってるだろ!」
少女「いいじゃん!私も皆と遊びたい!だって…
つまんないんだもん!」
少女は扉を思い切り開けて外に飛び出す。
ベングル「待て!くそっ、まずい!」
少女「皆、楽しそう…私も…遊べるかなぁ…あれ?
なんか…手が黒く…?」
ベングル「キャシー…⁉︎」
キャシーと呼ばれた少女は陽にあたった所から
黒い何かが服を裂き、生えた。
ベングル「っ⁉︎遅かった…?」
グリオ「だから言ったのだ。処分しろ、とな。
もう取り返しはつかない。彼女はもう…
“人間じゃない”」
ベングル「んなこたぁ分かってるとも!だが…
コイツは…俺の…!」
グリオ「妹とはいえども、魔族の血を飲んだ者を
野放しにしてはいけない。さぁ、処分するぞ。
彼女が苦しむ前に」
回想終了ー
グリオ「…今は今のことだけ考えろ」
ベングル「あぁ…」
ダバンゴ「ベングル、やる気ねぇなら引っ込んでな。
親分の邪魔になるやつは俺様達の足手まといにも
なるんでな」
ベングル「…そうだな。俺は…やっぱり人と戦うのは
苦手だし、任せる」
フラット「えっ⁉︎何言ってるの!」
クレア「おい!早く行くぞ!それにアスカが
主人公だろ?やる気ねぇやつは置いてけ」
フラット「……そんなのダメだよ!」
ベングル「いや、いい。俺は待ってー」
フラット「ダメなものはダメ!だって…
上手く言葉にできないけど…仲間だから!」
ダバンゴ「…!」
フラット「置いてくのは…違うと思う。例え、
役に立てなくてもいい!でも、一緒にいる!
一緒に歩く!一緒に生きる!同じ時間を
分かち合って、思いを重ねあって、笑い合う!
それが、
グリオ「そういうことだ。いつまで過去に
囚われ続ける気だ。過ぎたことを悔いても、
もう無駄なこと。もし悔しいと思えるなら
進め。お前は、いや私達は進化する生き物だ」
ベングル「…」
ダバンゴ「ったく、ボサッとしてねぇで行くぞ!
足枷になるようだったらテメェの腕引きちぎってでも
引っ張ってやるぜ」
フラット「ダバンゴ…!」
ライ「拙者は助太刀致すでござる。迷いのある者、
救いの手を欲しがるものでござる」
ベングル「…いいのか?」
ノール「おい、なんか来る!」
クレア「…この気配…まさか!」
サマエル「見つけたぞ、アザゼルの仇!」
フラット「えっ⁉︎ウソ…」
スター「フラット!こっちはスター達に任せて!」
ライ「拙者も残るでござる!」
グリオ「ベングル、お前は行け!」
ダバンゴ「こんなやつだけ行かせられっか!
俺様も救出作戦に行かせてもらうぜ!」
クレア「俺は残る。アスカ、姉として
迎えに行ってやれ」
アスカ「はい!」
ノール「で、でもカメラ、電池もうないよ!」
アスカ「電池…ですか?ちょうどあたし、
マジックに使う電池がありますよ」
ノール「えっ、いいのか?」
アスカ「はい!電池を使うマジックと言っても
電池で道具を動かすマジックではないので。
その代わり、後で返してくれれば十分なので」
ノール「分かった、ありがとう」
スター「じゃ、頑張ってね!」
フラット「うん!」
アスカ「セイの霊力は…ほ、本殿?」
フラット「本殿って…勝手に入っていいのかな?」
ノール「入るしかないだろ」
ベングル「……」
グリオ「おい、行くぞ。立ち止まってるな」
ベングル「……本殿……」
フラット「…大丈夫?顔色悪いよ」
ベングル「…ここで待ってるのはダメか?俺…限界」
フラット「?」
グリオ「…ベングル。無理しろとは言ってない。
分かった、ここにいろ。ただ、帰るなよ」
ベングル「それは約束する」
フラット「…僕も残るよ。すぐに追いつくから」
ノール「なっ、隊長はお前だぞ」
フラット「でも、今日の主役はアスカでしょ?
僕じゃでしゃばっちゃうよ」
ノール「まぁ…たしかに!」
フラット「ぐっ…ノール?後でいい話があるから
宿で話でもしようか?」
ノール「死亡フラグになるから約束はしない。
それじゃ、すぐ来いよ」
アスカ「い、いいんですか?」
グリオ「まぁ、フラットならベングルも
笑顔に変えられるだろう。先に行ってて問題ない」
アスカ「はい、分かりました」
ノール達は本殿の中へ入っていく。
フラット「さて…これで寂しい思いはしないんじゃないかな?」
ベングル「何で残るんだよ」
フラット「1人で誰かをずーっと待つのは寂しいもん。
僕もよく、バス停でバトラーに何時間も待たされて、
このまま1人でずーっと待つのかなって
怖かったんだよ?」
ベングル「…アイツらしいな。俺もよく買い物に
付き合って、先に車で待ってろって言われて待ってても
5時間近くも帰ってこねぇし、迎えに行こうと思ったら
まさかの先に帰ってやがっててよ」
フラット「アッハハ、バトラーっぽい。
忘れっぽくて…って、そうじゃなくて!」
ベングル「?」
フラット「あの…すごく言いにくいけど、
ファイターって何のためにいるのかな?」
ベングル「…決まってるだろ。力のない一般人を
魔族や脅威から救うためにー」
フラット「じゃあ、その力って何だろ?
正義のためのもの?それとも、悪にもなれちゃうもの?」
ベングル「そ、それは…」
フラット「これはバトラーの言葉だけど、
人を生かすも殺すも、どちらにしても力は欲しい。
力に正義も悪もない。力をどう使うか、それで決まる。
人を殺してしまえば、一見悪だけど、その人を思っての
殺しは…悪と決めつけていいものかな?」
ベングル「そんなこと言っても、俺は妹を
守れなかった上に殺したんだ!しかも…
神社の御神木の下でな」
フラット「…だから、本殿が怖いんだ。でも、
ベングルの妹は恨んでると思う?」
ベングル「当たり前だ!兄の俺が殺したんだぞ⁉︎
恨まないわけー」
フラット「バトラーが言ってたよ。後悔先に立たず、ってね!
で、これは僕の言葉。今を生きるなら、今からのことを
考えてみよう!出来ることだけすればそれでいい!
強くなんかなくていいんだよ。個性を活かしきれたら
それで十分だと思うな。だって、それって
自分にしかできないことをやってるってことだもん!
だから、迷ってるうちは無理せずに自分だけの個性を
活かせばいいんだよ!」
ベングル「!…俺だけの…個性…」
ナックル「お前は熱くなればなるほど俺達の心も
燃やしてくれる!頼りにしてるぜ!」
ベングル「…あぁ、分かった。フラット、ありがとう。
俺、なんかやる気出てきた!俺が熱くならなきゃ
始まんねぇんだよな!」
フラット「えっ、あ、うん…そうだね…」
サマエル「おいおい、そんな話が出来るほど暇なのか?」
フラット「⁉︎サマエル…まさか⁉︎」
サマエル「殺しちゃいないさ。まとめて殺すのが
俺のやり方だし…なぁ?」
フラット「…ベングル、僕の合図に合わせて
本殿の中に!」
ベングル「えっ⁉︎」
フラット「いいから!いい?」
ベングル「あ、あぁ…」
フラット「いっせのー…せ!」
ベングル「ぐっ…!」
サマエル「バカバカしい。神社の結界ごときで
怯むと思ってるのか?」
フラット「っと!」
ノール「フラット⁉︎」
防衛管理長「2人…増えたか」
フラット「アンタ、早く逃げたほうがいいと思うけど?
魔族が来たから!」
アスカ「魔族⁉︎」
グリオ「くそっ、ただでさえ相手がキツいのに…!」
防衛管理長「油断大敵!この娘はいただく!」
ノール「あっ⁉︎」
サマエル「フフッ、愚かな…?なっ、貴様…
なんだ…この体の記憶…?」
フラット「えっ…どういうこと⁉︎」
ノール「…まさか!コイツらも私達と同じなんじゃ!」
フラット「生まれ変わった体ってこと⁉︎じゃあ、
サマエルの生まれ変わりが…あの体…」
サマエル「セ…イ…?」
アスカ「…あの人…どっかで…!もしかして…
パパ⁉︎パパなの⁉︎」
ノール「なっ…日照の婿⁉︎そうか、母親が
血統だから婿には力がなくて当然か」
セイ「…あれ?」
防衛管理長「くっ、目を覚ました…だと⁉︎」
クレア「やっぱりな。わざと逃して正解だったわ」
ダバンゴ「で、どうすんだよ?殺すのか?」
アスカ「…あたしに任せてください。あたしの霊力が
あれば、パパを殺さずとも助けられる!
ファイターモード、起動!霊魂石、共鳴!」
フラット「あれって…」
アスカ「皆さんも早く!浄化するので!」
防衛管理長「魔族を生かす気か?」
アスカ「もちろんです!殺生は…しない!」
防衛管理長「ファイターの存在価値を無視するか!
ファイターは魔族を殺す駒だ!そんなことも
できないのか⁈」
アスカ「…あたしは人を幸せにしたい。悩んでる人も、
泣いてる人も!それが、あたしの願いで、
あたしのマジックなんだから!」
フラット「アスカ…よし、やろっか!で…お前は
逃がさないよ!束縛!」
防衛管理長「グッ…⁉︎くそ、解けない⁉︎」
フラット「これ以上逃すわけにはいかないからね。
ちょっと捕まっててもらうよ!」
防衛管理長「くっ…」
アスカ「セイ!」
ノール「大丈夫、保護はしたから」
クレア「サマエルの相手は任せてくれ!」
フラット「うん!」
サマエル「…バカめ。お前らが見捨てた仲間が
どうなったか…見せてやるよ!」
サマエルの相手をしていた四大の3人は
炎の檻の中で気絶していた。
サマエル「この炎は時がすぎていくにつれて
狭くなっていく。つまり…灰になるというわけだ」
フラット「なっ…元のサマエルに戻ったの⁉︎」
クレア「くそ…なんて卑怯な野郎だ!」
サマエル「何とでも言えよ。アザゼルを殺した罪は
しっかりと償ってもらう」
アスカ「…じゃあ…もういないんだ。パパもママも…
フラットさん。あたしが相手します。ずっと
探してた人が魔族だった…でも、会えたという事実は
変わらない。だったら、もう思い残すことは
あたしにはありません」
サマエル「神力の持たぬ人間ごときに、
私が倒せるとでも?」
アスカ「…人間だから倒せるものだってあるんです!」
フラット「アスカ…僕も…迷ってる場合じゃない!
クレア、救助をお願い…?」
スター「キャハッ!夢使いこそ、本当のマジシャンだよ!
お兄さん、鬼ごっこはもう終わり?じゃあ、
私が終わらせるよ…見〜つけた」
サマエル「うわっ…うわぁー!」
クレア「スキあり!突風・水切之旋風・爽!」
人質となっていた仲間を囲う炎を消すように
水を纏った矢がグルグルと周って飛び交う。
サマエル「なっ⁉︎貴様!」
スター「流石にあなたを夢の中で殺しきれないから
油断させることしかできないけど…十分楽しめたし、
大満足。フラット、まだ封印しないでよ?」
フラット「…いいけど、邪魔だけはしないでよ?」
スター「するわけないでしょ?このユーリックが
お邪魔になるわけがないんだから」
クレア「大丈夫か…?」
サマエル「でも…最低だな?仲間を見捨てるとか」
フラット「…?」
サマエル「どうした?」
フラット「いや…珍しい魔族だなぁって」
ベングル「だよな…仲間を思う魔族ってな…」
サマエル「な、何が悪い!」
ダバンゴ「あ…?おう、助かったぜ!」
ライ「し、死ぬかと思ったでござる」
フラット「良かった、目、覚ましたね」
ダバンゴ「おろ?親分…って、そうだ!
あんにゃろう、どこに―」
サマエル「ちぃ⁉︎」
ノール「サマエル、言ったはずだ。私の仲間には
勝てぬと。まだ分からないか?」
サマエル「黙れ!裏切り者には口を挟む権利など
ないんだ!アザゼル…貴様のせいで!」
アスカ「…サマエルさん。罪を憎んで人を憎まず。
この言葉、聞き覚えがありませんか?」
サマエル「あぁ?そんな人間が作った言葉なんぞに
興味などない!」
アスカ「…そうですか…この言葉は、よく父が
言っていた言葉です。もう…生きていない。
それがよく分かりました。あたしはいない者を
探していたのですね…そう、あたしのマジックのように
タネひとつないモノを追い求めるように…
でも…!答えのないものを探求する精神が必要だって
言ってくれた!それに嘘偽りはなかった!
だから…
サマエル「な、何⁉︎」
無数のシャボン玉が破裂するたびに大きな虹が
サマエルを囲んでいく。
アスカ「これは、その体が教えてくれた
最初のマジック。忘れもしない…あの日々を」
アスカ・父「いいか?大きなシャボン玉を
作るには体の軸を曲げず、ボールを投げるように
振りかぶる。ほら、できただろ?」
アスカ「うん!パパってすご〜い!」
アスカ・父「ハッハハ、アスカにも出来るさ。
やってみろ、大丈夫、怪我はしないさ」
アスカ「うん!パパ、だーい好き!」
アスカ・父「俺もだ、アスカ。パパみたいな
マジシャンになれよ?」
アスカ「うん!」
回想終了ー
アスカ「だから…出来ないよ…あたしには…
殺せないよ…今でも…大好きだもん…
地震で離れ離れになって…でも生きてるって信じて…
マジックをやり続けて…やっと会えた!なのに…
こんな再会になるぐらいなら、
いっそ会いたくなかった!」
サマエル「…何だ…この胸の苦しみは…
違う、私は魔族!魔族なんだ!
忌々しい人間なんぞじゃ…!」
フラット「サマエル…アスカの涙を見て、何か
思わないのか?人間が忌々しい?違う!
誰かを思って、泣いたり、笑ったり…
色んな顔を見せて生きていく素晴らしい生き物なんだ!
僕達神族や魔族とは違う…たった100年の中で
たくさんの瞬間に触れて、奇跡を感じてく…
かけがえのない存在なんだ!」
サマエル「…黙れ!人間なんて、正に神族の負の遺産!
この世界を汚し、自分達の生しか考えられない
汚らわしい存在!」
ベングル「んなことねぇ!」
サマエル「⁉︎」
ベングル「そんな人間だっていて当然だ。
この世界はな、人間がいるからここまで発展した!
多種多様な考え方が対立して、答えを築き上げて
今の世界がある!自己中心的な考えだって…
世界には大事な時だってある。それに…
俺達は神の血をほとんど引いちゃいない、
人間に近い存在だ。それでも人間は俺達を
同類として見てくれた!魔族だって同じはずだ!
いつか、人間と分かち合える日がー」
サマエル「もういい。戯言は聞き飽きた。
いいか?魔族は絶対に…絶対に他人と
分かりあう気はない。もう…2度と」
アスカ「…」
ノール「そんなことない。私だって、因果なのかは
知らないが他人のことを嫌いだったことはある。
この力を差別的に嫌われて、嫌な思いもした。
それでも、受け止めてくれた人もいた。
そして…私の正しさを教えてくれた仲間がいる。
だからお前にも出来る!」
セイ「お姉ちゃん…」
アスカ「セイ…」
セイ「私、決めた。あの人が私達のお父さんでしょ?
私ね、言いたいことがあったんだ!お父さーん!
ありがとーう!私ね、お姉ちゃんに会えた!
地震で離れ離れになったけどね、会えたよ!
だから、お父さんもそんな所にいないで
こっち来てよ!家族一緒に過ごそうよ!」
サマエル「ぐっ…なんだ…頭が…割れる⁉︎」
アスカ「⁉︎サマエルの魔力が…引っ込んでく…?」
アスカ・父「セイ…アスカ…」
アスカ「パパ!」
セイ「お父さん!」
ノール「なっ…ただの人間が魔力を?」
アスカ・父「すまない…俺はもう死んだ身だ。
だが…アスカ。お前のマジックは見ていた。
幸せそうにショーをするお前を…な。セイも、
会えたんだな。家族の大黒柱として…
お前達とはもっといたかったが…無理だった。
でも…コイツを許してほしい。なんだかんだ言って、
俺を殺さなかったんだ。魔力を引っ込めたのは
俺じゃなく、コイツの本望だ。いいやつなんだ。
俺とお前達と会わせたのは偶然だけどな」
フラット「えっ…?」
ダバンゴ「サマエルが…自ら引っ込んだだぁ⁉︎」
グリオ「魔力をただの人間が引っ込められるわけがない。
だが…サマエルは何のために?」
アスカ・父「サマエルは気付いたみたいなんだ。
愛というものに。そして俺の体を操り、
愛の意味を探ろうとした。だが…サマエルの愛は
結局、敵討ちになってしまった。本心では迷いつつも。
そして、俺を利用した。偶然そこに居合わせた
実の娘達と再会させ、愛の意味を探ろうと」
フラット「…そうなんだ…」
スター「私と同じか…愛が何なのか」
クレア「で、見つけられたのか?サマエルなりの愛を」
アスカ・父「うっ…そろそろ出てくるみたいだ。
だが…殺気は感じない。一旦離れるぞ」
アスカとセイの所から駆け出し、なるべく距離を取る
2人の父親。
サマエル「……これが、愛…か。なぁ、クレアとやら。
私の魂を浄化してほしい。身勝手なのは
従順承知だ。だが…この体と魂は…天国に
運びたい。私を変えてくれたこの恩人に。
そして…私も生まれ変わりたい。お前達の言った
人間に。この世界を生きたい。今なら素直に言える。
魔族としてではなく、誰かを愛せる存在に」
クレア「浄化って言われてもなぁ…
俺の風にそんな能力…」
フラット「神魔石。クレア、これはスラリアのいない
今だからこそやるべきことだよ!」
クレア「フラット…」
フラット「それに…風神は魂を運ぶ旋律さえ作る!
信じてみよう!」
クレア「フラット…分かったよ、何事もトライ、
やってやるよ!応えてくれよ、俺の神魔石!」
クレアに渡されていた神魔石は強い風を纏い、
神器に纏われていく。
クレア「…聞こえた。風の歌う優しく暖かなメロディ。
奏でてみせる!最終突風・冥界送之風旋律!」
サマエル「…温かい風だ…申し訳ないことをした。
魔族として囚われた私を…スラリアのことは
謝って済む問題ではないと承知している。
私は再び地獄で罪を償い、必ずお前達にも…いや、
あなた方にも償いたい」
クレア「…あぁ、約束だ。ちゃんと罪を償ってこい」
サマエル「…はい!」
フラット「最後に…2人のお父さんとして
言葉を残してった方がいいですよ」
サマエル「そうだったな…」
そう言葉を呟くと、サマエルは目を閉じる。
アスカ・父「…アスカ。お前のマジック、
天国でもちゃんと見ているからな。セイも
ワガママ言わずに頼んだぞ。お姉ちゃんを
困らせたら、夢で説教だぞ?」
アスカ「パパ…うん、頑張るよ!あたしのマジックは
誰かを幸せにするものだから!」
セイ「私、お姉ちゃんのこと困らせないよ!
でも、夢では会おうね!約束だよ!」
父「…あぁ、約束!」
アスカとセイを最後に抱きしめながら、
サマエルこと2人の父親は風邪に溶けていった。
もう後悔などないといった笑顔のまま。
アスカ「…行っちゃったか」
セイ「でも…」
アスカ&セイ「ありがとう!クレアさん!」
クレア「えっ…あっ、あぁ…どういたしまして…」
ノール「フフッ、本当にお礼言われるの
慣れてない」
クレア「だって俺の力で誰かにお礼とか
言われるなんて…想像してなかったしよ…」
フラット「アッハハ、クレアも変わったってことだよ。
それより…おいアンタ!」
防衛管理長「…?」
フラット「今すぐにでも罰を与えてもいいけど、
どうする?お縄について牢屋に行くか、
罰を喰らってから牢屋に行くか。まっ、
どちらにしても誘拐罪と殺人未遂があるから
罪は重いけどね」
防衛管理長「…チッ」
ダバンゴ「あぁ?テメェ、舌打ちたぁ
いい度胸してんなぁ⁈いいぜ?縛られてるからって
手加減はしないぜ?」
フラット「ダバンゴ、ストップ。もう警察も
来るだろうし?これで事件化されれば地球連合も
改革されるはずだよ。まぁ…叶うかどうかは
分からないけど」
グリオ「おっ、噂をすれば」
ベングル「それじゃ…俺達は帰るとしよう!
イベントもあるしな!」
フラット「それもそうだね。証拠映像も
ファイター専門チャンネルでバッチリ放送済みだしね」
ライ「手が早いでござるな」
ダバンゴ「親分は頭がいいぜ!」
クレア「それじゃ、俺の風で帰ろうや!フラットの
術でもいいが、俺の術のほうが爽やかだろ?」
スター「え〜?フラットの方が空からの景色も見れて
最高だと思うけどなー」
フラット「じゃあ、2人の術を混ぜて使えば
いいんじゃないかな?天空の風で伊豆まで帰ろ!」
バジー「あらあら?私が折角連れてきた
スパークフラッシュ号でお帰りになるのでは?」
フラット「バジー…そういえばいたっけね」
バジー「お忘れになられてたのですか⁉︎」
クレア「そーっと…そーっと…」
クレアはバジーの目に映らないようにゆっくりと
後ろに下がっていく。
バジー「でも…クレア様が無事で良かったですわ!」
その努力虚しく、クレアはバジーに抱きつかれる。
クレア「ダァ〜!離れろって!暑苦しいわい!」
バジー「冬だし宜しいでしょう?」
クレア「よくない!もう疲れてんだ!帰らせろってんだ!」
アスカ「…フフフ!」
セイ「アハハハ!」
フラット「…アッハハ!」
ノール「フフッ!」
ベングル「アッハッハ!」
グリオ「ハハハ!」
ダバンゴ「ガッハハハハ!」
ライ「ハハハハ!」
スター「キャハハハハ!」
クレア「笑ってないで助けてくれ〜!」
数時間後ー
フラット「ふぅ〜…イベントの稽古も終わったしあとは…」
エド「あ!今までどこ行ってたんすか⁉︎」
フラット「…あっ…」
エド「あっ…?何すか?」
フラット「…ごめーん、すっかり忘れてた」
エド「は?」
フラット「え〜っと…本当にごめーん!」
エド「あ、待てっす〜!」
逃げたフラットをエドは追いかけてく。
クレア「はぁ〜…今日は本当に疲れた〜…なぁ、
すっとこどっこい、いやナックラー。俺、
誰かを幸せにできた。お前との約束、果たせたわ。
今日はいい満月だし…お前も見てるのか?」
フラット「あぁ、もうごめんってば〜!」
エド「忘れてたのを許せるわけないっすよ〜⁉︎」
フラット「それぐらい分かって…うわっ、クレア⁉︎」
追いかけっこを続けていたフラットとエドの行く先に
ちょうどクレアがいた。
クレア「ちょ、うわっ!こっちに来るなぁ〜⁉︎」
フラット「ぐっ!」
エド「追いついたっす!さぁ、俺のこと忘れてった罪を
晴らしてもらうっす!」
フラット「うわァァァァ!」
クレア「…ったく、やっぱり不幸だわ。でも、
こんな日常も悪くはないか」
クレアがそう夜空を見上げると、遠くから
クリスマスソングが流れてきた。
クレア「あっ…そうか、クリスマス…フラット!」
フラット「?ふぁに?」
クレア「クリスマスナイト!折角だし楽しもうや!
今夜ぐらいはパーっとな?」
フラット「っと、それ名案!よし、今日は
大はしゃぎしちゃおっか!」
エド「いいっすね!その代わり、キウイは
3つっすよ!」
フラット「ダメに決まってるでしょ!でも、
お酒は飲み放題だよ?」
エド「む〜…しょうがないっすね、それで妥協するっす」
フラット「よし決まり!それじゃ、パーティの開始だ!」
クレア&エド「おーっ!」
窓の外ではリンリンとクリスマスソングが
鳴り響き、静かに雪が降っていた。
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