第3話 力任せの風神

フラット「まさか、アリジゴクが現れるとは…

ま、それより今は木材の発注か…」

金髪男「あ、フラット!さっきのバカでかい音、

ノールだったか?」

フラット「そうだよ。キルユウが紐でちゃんと縛って

立てかけておいた木材が、酔っ払ったバルシアが

紐を解いちゃって、ノールの方に倒れて反射的に破壊」

金髪男「つまり、木材がないわけだな?」

フラット「そうなんだよ〜…あ、そうだクレア!

木材の発注お願いしてもいい?」

クレア「えっ…発注?」

フラット「うん、なんかあるの?」

クレア「え〜っとな…」


フラット「…あのさ」

クレア「はい…」

フラット「いい加減自覚してよ!不器用なのに

釘付けなんかしなくていいから!」

クレア「こ、今回ばかりは言い訳させてくれ!

ノールがやればぶっ壊れることは間違いないし、

すっとこどっこいやヒョウに任せればバカ力で

結局こうなるだろ!スターやスラリアじゃ、

力がないし…」

フラット「うん…バジーに任せるとかしなかったの?」

クレア「あっ…」

フラット「やれやれ…」

クレアラント・ゴールド。風神の力を持っている。

おっちょこちょいで、イベント準備の足を引っ張る。

実力はあるから戦闘においては優秀なのに…

クレア「あ、それより、さっき脅威が出ただろ?」

フラット「そうそう、ま、キルユウの爆弾で1発だったけど」

クレア「だろうな。風から聞いちまってるし」

フラット「本当に羨ましい能力だよそれ」

と、その時ー

フラット「うわっ!」

突拍子に強風が吹いた。

クレア「お、今日の風は元気に溢れてるなぁ。

まるで子供みたいだ」

そういえば、クレアと出会った時も、

風が強かったなぁ。


1節 初のイベント!


ノール「やっと…終わった〜!」

ナックル「この3日間で何回

修理作業させられたのか…」

エド「前日にこんな疲れるなんて、夢にも

思ってなかったっす〜」

バジー「なんとか午前中に間に合いましたわね…」

ペーター「だが、あまり練習できなかったな…」

フラット「大丈夫です!セリフは覚えてないですけど

流れは抑えてるのでアドリブでいけますよ!」

バルシア「にしても…姉御メチャクチャです…」

キルユウ「単調作業といえども…流石に堪える」

ペーター「それじゃ、順番も終わったということで、

前夜祭でもするか?」

ナックル「お、もちろんだぜ!」

エド「飲んで食って騒いでパーリナイっす!」

キルユウ「疲れてないのか…?」

ノール「体力化け物だ…だが前夜祭か」

バルシア「参加したいです!」

フラット「僕も賛成です!」

バジー「私も羽を伸ばしたいので」

ペーター「全会一致だね。それじゃ、ノール。

盛岡といったらここって所、あるかい?」

ノール「え〜っと…ならあそこだよね?」

キルユウ「俺達がよく行ってたとこだろ?

美味かったな」

バルシア「でも…いいのかな…」

フラット「あ…そっか…盛岡の有名ヴァイスだもんね…

避けられそう…」

ペーター「知らないのかい?ヴァイスがファイターに

なることは一般人にすぐ伝えられるんだよ。

視線は変わらないかもしれないが、少なくとも

俺達がそばにいれば大丈夫だよ」

エド「俺だってそうだったっすもん」

フラット「あ、たしかにそっか」

ナックル「それより早く連れてってくれよ。

もう腹ペコだぜ」

ノール「う、うん…こっち」


フラット「寿司屋⁉︎しかも…高そう…」

キルユウ「ま、入ってみよう」

ノール「怖くないの?」

キルユウ「自分達がやったことの結果だ、

怯えるだけ、もう無駄ってわけだ」

バルシア「やっぱ兄貴は冷静だね〜。

俺もそう思ったけど」

キルユウ「じゃ、入るぞ」 ガラッ

店主「?お、お前ら…!」

ノール「っ!」

店主「全く、カッコいいヴァイスもいたもんだな!」

ノール「…?」

店主「そうだろ?やっぱり、テランの親父の娘だ!

曲がったことは大嫌いなとことかな!」

バルシア「な、何で知ってるんですか⁈」

店主「大ニュースになってたもんでな!警察の方から

今までの事件動機聞いて、カッコいいって

思わされた!でかした、お前ら!」

キルユウ「じゃ、親父!今日は宴会を開きたいんだが

今から準備お願いできるか?」

店主「おう!キルユウの坊主も一丁前になりやがって!

入れ入れ!デ・ロワーの一員として頑張れよ!」

キルユウ「そこまで知ってんのかよ⁉︎」

店主「あぁ、テランの親父の子供のことは、何でも

知っておかなくちゃな!」

ノール「あの…お父さんのことをそこまで

尊敬してもらえてうれしいです」

店主「ノール、お前もいい子で嬉しいぞ。ほら、

アンタ達もお礼だ、半額でいいぞ!」

フラット「えぇ⁉︎」

ナックル「お、いいのか⁉︎」

エド「気が利くっす!」

ペーター「い、いいんですか⁈」

店主「もちろん!これから頼みますって

意味も込めてね」

バジー「わざわざそこまで…まるでノール様達の

親みたいですわ」

店主「実際、親代わりだからな」

キルユウ「親父、大トロ全員分な!」

店主「あいよ!刺身と握り、どっちだ?」

キルユウ「握りに決まってんだろ!」

店主「相変わらずだな。んじゃ、ちと待ってな」

キルユウ「相変わらずなのはどっちだか」

ノール「でも…良かった。私のこと、ファイターとして

見てくれるなんて」

ペーター「な、言っただろ?」

ナックル「面白いだろ?ヴァイスだとしても、

ファイターになっちまえばガラリと視線が変わる。

まっ、ノールの行動は元から正義だったが」

バルシア「でも、やり方ってものもあります!

姉御はやりすぎ!」

ノール「別にいいだろ。犯罪現場に慈悲は

いらないだろ」

キルユウ「そういうこった」

バルシア「んー…そういうものなのか?」

ナックル「それより、喉乾いたな」

バルシア「あ、親父!茶、出し忘れてますよ!」

店主「お?あぁ、すまん!」

フラット「にしても…いよいよ明日だね!

配役は…ノールがいないんだよな〜。そうだ、

折角だしなんかやらない?」

ノール「えっ…でも…セリフとか流れとか…

全然知らない…」

フラット「だから、脇役でいいから。そうだな…

悪役のナックルさんにさらわれた主人公エドの妹って

感じで!」

ノール「も、元々いない妹役なんか入れたら…」

フラット「流れは変わらないよ。妹もついでに

さらわれたってぐらいにすれば」

ノール「うーん…」

エド「それに、俺次第っすよ!アドリブは得意っすから

問題なしっすよ!」

ノール「なら…いいかな」

フラット「オッケ!」

店主「はい、冷たい緑茶!すまんな、久々に

3人の顔見たら安心しちまってな…」

ノール「…心配かけてすみません」

店主「いや…破壊活動の犯人がお前らと知った時は

驚いたが、ちゃんと信じてたぞ。

何か意味があるってな」

キルユウ「ごくっ、ごく…信じてた、か。

親父、俺たちは半額いいぞ」

バルシア「お、俺も普通に払う!」

店主「…そういうとこがテランの親父そっくりだな。

何言っても普通に払いそうだし、止めないさ。

ほれ、大トロ!」

キルユウ「流れ作業のように出すなよ。ん?

親父、また腕上げたな!」

親父「テランの親父ほどじゃないがな!」

ノール「ううん、お父さんのより、

マグロの食感がいい。口の中でとろける」

フラット「…じゃあ…ここの設立者ってノールの

お父さん⁈」

ノール「そう。ここは私のお父さんの店。

この人は、キルユウ達が家に来てからちょっとして

入った、現店主のイリマさん」

イリマ「今日は調子がいいだけさ。それより、

もっとオーダーしてくれ。昔のようにあれこれとな」

キルユウ「じゃあサーモン!」

バルシア「イクラとウニ!」

イリマ「はいよ、もっとオーダーしてこい!」

キルユウ「じゃあ鉄火巻きとかっぱ巻き!」

バルシア「甘海老握り!」

フラット「ちょちょ、次々言わないでよ!

こっちのオーダーが…」

キルユウ「何言ってんだ、全員分だぞ」

エド「ちょ、全員分って、机のキャパ、オーバーするっすよ!」

ノール「あ、大丈夫。見てて」

イリマ「はいよ!」

フラット「うっわ、てんこ盛り!」

ナックル「こんなでかい皿、見たことねぇぞ⁉︎」

バルシア「これなら机に入り込むでしょ?」

キルユウ「じゃ、そろそろ前夜祭っぽくしよう。

親父、生!」

イリマ「お前の口から生なんて聞くとはな。

嬉しいような悲しいような…」

バルシア「日本酒でしょそこは!」

キルユウ「お前がぶ飲みするだろ!生で我慢しろ!」

ノール「そうだよ、飲みすぎて私達いつも

迷惑してるんだから」

バルシア「うぐ…姉御に迷惑かけるのはやめときます」

ノール「それでいい」

フラット「…アッハハ!案外仲良しだね!」

ノール「仲良しも何も家族だ」

エド「家族としてもっすよ!なんか…和やかって

感じっす!」

ナックル「家族がいない俺からすると

羨ましいもんだぜ」

フラット「僕も。いいなぁ」

ノール「義兄弟だけどな」

イリマ「次の握り持ってきたぞ!明日のイベント、

嬢ちゃんも出るだろ?」

フラット「はい!流石に脇役ですけど…出ますよ!」

イリマ「だったら、演劇部部長の実力、

発揮してこいよ!」

ノール「ちょ、言わないで!」

イリマ「いいだろ?折角の初仕事が初舞台!

初めてで囲まれるほど、幸せなことはないぞ!」

ノール「フフッ、相変わらずなんだから、

イリマのおじさん!」

ペーター「お、生も来て宴会らしくなったね」

ナックル「それじゃ、フラット!合図は任せるぜ!」

フラット「僕⁉︎こういうの苦手なんだけどな…

え〜…明日のイベント、張り切っていこー!」

全員「おーっ!」


翌日

フラット「…あ!」

ナックル「おろ?やっと起きたか!ほら、支度しろよ!

そろそろ最終リハーサルだ!」

フラット「えっ、朝食は⁉︎」

ナックル「リハーサルの後だぜ!」

エド「2人とも!ペーターさんが呼んでるっすよ!」

フラット「あ、今行く!」


ペーター「やっと来たか…昨日のフラット君は

落ち着かせるの大変だったよ…」

フラット「へ?」

ナックル「な?宴会にピッタシだっただろ?」

ペーター「ただの狂人だったぞ」

フラット「えっ…」

ノール「たしかに」

キルユウ「俺達よりヤバかった」

バルシア「フラットの兄貴も面白い人です!」

フラット「そんなに…?って、兄貴って何⁉︎」

キルユウ「兄貴に決まってますよ〜!俺達に道を

くれたんですもん!」

フラット「アハハ、なんか悪くもないか」

ペーター「それじゃ、リハーサルよろしく」

フラット「分かりました!キルユウとバルシアは

売店やってもらうから…エド、説明よろしく」

エド「了解っす!」

ノール「で…私のセリフは?」

フラット「あんまりないから、アドリブでもいい?」

ノール「分かった」

ナックル「ていうか、結構ヤバいんじゃないか?

流れだけでセリフ言えるか?」

フラット「そういう時は、ちゃんと

引っ張ればいいよ!」

ノール「初心者が2人だ。引っ張れるのは経験者の

ナックラーだけだ」

フラット「それもそっか…じゃあ、エドの役、

ノールが代わる?」

ペーター「えっ⁉︎」

フラット「経験者のノールなら上手くできるでしょ?

初心者のエドがちゃんとリハーサルをして

主役を演じるならいいんだけど…ね?」

ノール「それもそうか…」

ペーター「ま、待て。流石に役の変更は無理だぞ。

パンフレットに主役はエドと書いてしまった以上は…」

フラット「…でも…エド、大丈夫?」

エド「何とかなるっすよ!任せてくださいっす!」

ノール「?おいキルユウ。そういえば、

火薬はどうした?」

キルユウ「…あっ!」

バルシア「ど、どうした?」

キルユウ「下駄箱の中だ!」

エド「えっ…下駄箱ってまさかここっすか⁉︎」

エドはちょうど下駄箱の目の前にいた。

キルユウ「まずい、早く出さないと…!」

キルユウは慌てて下駄箱を開けて爆弾を取り出す。

しかしー

キルユウ「あっ…」

エド「あっ…?あって何すか⁉︎」

キルユウ「…!」

キルユウは思い切り爆弾を投げる。しかし、目の前で

大爆発を起こす。

フラット「えっ⁉︎」

ノール「ちょ、まさか起動してたの⁈」

キルユウ「いってて…火薬の量は少なくて助かった」

エド「ぐっ…よくないっすよ…」

フラット「…あれ?エド、肩…外れちゃってない⁉︎」

ノール「たしかに…ブラーンとしてる…」

ナックル「おいおい…?いやいや、足、足!」

フラット「えっ…うわっ⁉︎ちょっと、救急車!」

エド「ちょ、大袈裟っすよ!」

バルシア「大袈裟じゃないですよ!

開放骨折してます!」

キルユウ「吹っ飛んだ影響か…すまん」

エド「…痛くないっすよ!大丈夫っす!」

フラット「エド…ノール!主役できる⁈」

ペーター「おい、流石に中止だろ!」

ナックル「そうだ!怪我人が出た以上はー」

フラット「折角デ・ロワーの復活イベントなのに、

中止にしたらファンの人達に申し訳ないです!」

ペーター「たしかにそうだが…」

ナックル「ファンの心を損なうわけにもいかんか…

よし、やるとしようぜ!」

ペーター「ナックラーまで…」

エド「俺なら大丈夫っすよ!イベント中止に

するわけにもいかないっす!ノール、主役は

頼んだっすよ!」

ノール「…うん、任せて。やるだけやってみる」

フラット「流れだけでも覚えてる?」

ノール「うん、アイコンタクトさえしてくれれば

セリフ、何とかするから」

ナックル「おっし、やるだけやってみるとするか!」

フラット「ペーターさん、エドの病院、

よろしくお願いします!」

ペーター「…全く、君達は無理言うんだから。

成功を祈ってるよ」

フラット「はい!」


ナックル「ガッハッハ!この地も俺の支配下だ!

俺の好き放題だ!」

ノール「黙れ、そこの虎!」

フラット「よし、いい感じ…あっと、

ここで照明をノールに!」

ノール「え〜っと…私は明星の破壊神!

貴様の悪事もそこまでだ!」

ナックル「面白い…こいよ!」

ノール「神業・破壊!」

ナックル「うわっと⁉︎」

フラット「あちゃ、まだ明日もセット使うのに〜…」

ノール「降参しないと、怪我するよ?」

ナックル「破壊するファイターか?まるでヴァイスだ!

どうだ?俺と一緒に来れば、世界は俺達のものだ」

ノール「…私は、そういう私利私欲を

破壊するファイター!貴様を倒し、正してみせる!

姿を示せ、『破壊之負翼』!」

ナックル「翼⁉︎」

フラット「えっ…何あれ?」

バジー「えっ、フラット様ご存知ないんですか?

翼は、いわゆるファイターの本領発揮ですわ!

持っておられる神力や願望によって、

種類は異なりますけど」

フラット「へぇ〜…?なんか舞台の方が

騒がしいような…」

ノール「だから!お前も翼使えって!危ないだろ!」

ナックル「俺は使わねぇって言ってるだろ!」

ノール「ドMなの⁈翼なしで対等に

戦えるわけないでしょ!」

ナックル「お前こそ馬鹿にしてるだろ!俺が翼に

負けるとでも思ってるのか⁉︎」

ノール「もういい!現実を見せてやる!

最終破壊『爆破』術・『混沌之隕石落下』!」

ナックル「よっと、ほっと!」

ノール「かかった…!第一破壊『闇之』術・『闇夜行特急列車』!」

ナックル「うおっと!」

ノール(!このままじゃ怪我…!)

ナックル「?」

ノール「…ふぅ〜…ここまででいいだろ」

フラット「バ、バジー!幕下ろして!早く!」

バジー「も、もうやっていますわ!ただ…

降りてこないんです!もしかしたら

壊れてしまったのかもしれません!」

フラット「ど、どうしよう!」

バジー「こうなれば、照明を全部落としてください!

その間、フラット様が一発芸でも!」

フラット「えぇ⁉︎一発芸ですか⁉︎」

バジー「ペーター様からもらった映像で

やっていたものです!」

フラット「…いつの映像ですか?」

バジー「前夜祭の時のものです!」

フラット「覚えてないよ!」

バジー「映像あるのでお見せいたします!」

フラット「えっ…」

ノール「ちょ…照明落ちた⁉︎」

ナックル「な…なんだ?」

フラット「2人とも。今日は終わり」

ノール「…あっ」

ナックル「やっちまった…」

フラット「流石にペーターさんにも報告しないと」

ナックル「…はぁ」

ノール「…チッ」

フラット「ほら、先に楽屋戻ってて。謝ってくるから」


数十分後

フラット「ふぅ〜…終わった〜。良かった、全員素直に

帰ってくれて」

バジー「フラット様!た、大変ですわ!楽屋で

ナックル様とノール様が…!」

フラット「えっ…何?ちょっともうー」

バジー「すぐにいらしてください!本当に

大変なんです!」

フラット「わ、分かりました」


ノール「いい加減分かれ!」

ナックル「分かる気もねぇよ!俺は大丈夫だって

言ってるだろうが!」

ノール「それで怪我したらどうなる⁉︎今日だけの

イベント中止どころか、このイベント自体が中止に

なるんだぞ!」

ナックル「だから!俺は大丈夫だっつってるだろ!

何度も言わすな!」

ノール「こっちも何度も言わせないで!

翼使用者の相手に真向勝負で勝てるわけない!」

ナックル「まだ分からんか!」

ノール「それはこっちのセリフだ!」

フラット「うわっ…ちょ…これは…

ペーターさんじゃないと…」

バジー「連絡は先程したのでもうそろそろ

こちらにくると思いますので、その時まで!」

ペーター「おい、そこの2人!」

ノール&ナックル「ギクっ!」

キルユウ「ノール!何してる!」

バルシア「兄貴!これは姉御のせいじゃないです!」

ペーター「ナックラー、イベントの時ぐらい

翼を使え!」

ノール「…もういい。このバカ虎とは金輪際こんりんざいイベントとは

一緒に活動しない!」

ペーター「やれやれ…あと、帰り支度してくれ。

アカデミーからの指示だ。このイベントは中止だ」

フラット「えぇ⁉︎ちゅ、中止ですか⁉︎」

ノール「最悪」

エド「これって…また停止っすか?」

ペーター「ナックラーだけね。アカデミーの見解で

ナックラーの方が悪いとなった」

ナックル「はぁ⁉︎俺かよ⁉︎」

バジー「あの状況から見るに、私も同意見ですわ」

フラット「それでチェックアウトはいつ?」

ペーター「明日だ。流石に今日は疲れただろ?」

フラット「実を言うとかなり疲れてます」

ペーター「ナックラーは反省書、書いとけよ」

ナックル「納得いかねぇ〜!」

エド「キルユウもお疲れ様っす!売上良くて

幸先もいいっすね!」

キルユウ「あぁ、でも今日だけだろ?ったく、

とん迷惑だ」

バルシア「姉御がケンカなんて…」

フラット「とにかく、一旦部屋に戻ろっか」

バジー「ノール様、お部屋に参りましょうか」

ノール「そうする。バカ虎の顔は見たくもない」

ナックル「んだと〜⁉︎」

フラット「ナックルさん!今回ばかりは抑えて!

部屋に戻るよ!」


数十分後ー

フラット「やっと終わった〜…あ!晩御飯!」

バルシア「2人で作りましょうか」

フラット「そうだね…そうだ、バルシア。ノールの

大好物って何?」

バルシア「茶碗蒸しです!この前の、

食べさせたかったです!」

フラット「オケ!じゃ、普通のメニューは任せていい?

僕は和食、たくさん作っておくから!」

バルシア「分かりました!」

ラルバ「あれ、新隊長さん!」

デラガ「フラットだろ」

フェアード「今日のイベントはドンマイだったな…

あの熱血男、いつになったら脳筋から卒業するのか」

フラット「あ、3人して…見て…くれてたんですね」

デラガ「あの2人が、そりが合うとは思えないな」

ラルバ「ケンカするほど仲がいいっていいます!」

フラット「それは…否定しきれないなぁ」

フェアード「それより、イベントはどうなった?」

フラット「中止ですよ。その上、ナックルさんは

出演禁止になりました」

フェアード「かなりキツイ罰だな。まっ…今回は

アイツが10悪いか」

バルシア「あのー…晩御飯作るんじゃ」

フラット「あっ!ごめんなさい、僕達これで!

晩御飯を作らないといけないので」

ラルバ「あ、本官達も作りたいです!」

デラガ「おい、なに俺達まで巻き込んでる」

フェアード「いいじゃねぇか?お前らの飯も

ちゃんと美味いしな」

ラルバ「ほら、警部もこう言ってることだし!」

デラガ「…ハァ…文句言うなよ?」

フラット「4人いれば文殊の知恵だね!」

バルシア「3人ですよ!」

フラット「あ、そうだった。まっ、厨房に行こ!」


数十分後ー

フラット「お待たせ〜、ノールの大好物と聞いて、

茶碗蒸し!」

ノール「えっ…いいの?」

フラット「バルシアからも、早く!」

バルシア「えーっと…姉御!これ、ショコラ!」

ノール「えっ、手作り⁉︎ありがとう…」

フラット「他にもじゃんじゃん作ったから!

ナックルさんの大好物もあるよ!ほら、ピザだよ!」

ナックル「お、こりゃ大人数にもピッタリだな!」

フラット「でしょ?」

エド「うわー、どれもこれも美味そうっすね!

早速、いただきますっす!」

ペーター「2人とも、料理上手いんだね」

フラット「和食の方は、僕達じゃなくて警察の2人が

作ったんですよ」

バジー「となると…ラルバ様とデラガ様ですか?

あのお二人は、和食料理をよくお作りになるので」

フラット「へぇ〜…意外」

ノール「美味しい…この茶碗蒸し…おかわりある⁉︎」

フラット「もちろん、おかわりはあっちだよ」

ノール「うん、いっぱい取ってくる!」

キルユウ「…ノールがあんなにはしゃいで…

良かった…」

フラット「…キルユウ…いいお兄ちゃんだね」

バルシア「兄貴はいい人です!」

フラット「分かってるよ。ただお兄ちゃんとしてもって

意味だよ」

ナックル「…にしても…俺だけ罰くらったの納得いかね〜!」

ペーター「アカデミーの決定は絶対だ。全く…

まぁ、今回はイベント停止にならなかっただけマシか」

ナックル「前みたいなことにはそうならねぇから

安心しろ!俺より面白くて頼りがいのある隊長がいるんだ!」

ペーター「それもそうだね。フラット君、これからも

よろしく頼むよ」

フラット「は、はい…」

(前みたいな…?)


フラット「ふぅ…お腹いっぱい!」

キルユウ「おいバルシア…大丈夫か?顔真っ赤だぞ」

バルシア「大丈夫だってばー、ヒック!」

フラット「キルユウも大変だね。ナックルさんも

エドの介抱大変そうだね」

ナックル「コイツ、どっからキウイなんて

持ってきたんだ?あの時はナイスだったぜ!」


遡ること食事中ー

エド「もっと…キウイよこせっすー!」

フラット「うわぁ⁉︎エド⁉︎」

ペーター「これは…興奮状態だ!エドのやつ、

キウイ食ったな⁉︎」

エド「キウイー‼︎」

フラット「…!神業・氷漬!」


フラット「わざとじゃないからね⁉︎襲ってきたエドが

悪いんだから!」

キルユウ「それより、もう寝よう。明日、東京に

戻るんだろ?なら、早く寝た方がいい」

フラット「それもそうだね。じゃあ、寝よっか」

ナックル「そうだな」


深夜2時ー

フラット「ちょっと寝付けないや。中庭の風でも

当たってこよ」


フラット「うん、気持ちいい〜…あれ…何だか…

目が…くらむ?」

ベンチの上で、フラットはまるで気を失うように

眠ってしまった。


2節 地図にもない村

フラット「あれ…ここって…」

獅子獣人「突然呼び出してしまい、まずは謝罪を

申し上げたい、申し訳なく思っています」

フラット「で…一体何の用ですか?」

獅子獣人「実は、あなたに早速試練を与えようと

思いまして」

フラット「…試練ですか?」

獅子獣人「はい、この方を殺してもらいたい」

獅子獣人は手を叩き、立体映像でとある人物を

フラットに見せる。それはー

フラット「えっ…これって…」

獅子獣人「はい、あなたもよく知っておられる、

ナックル・バトラーの殺害です」

フラット「…冗談ですよね?」

獅子獣人「冗談ではありません。私はあなたを

助けたのです。お願いを聞いていただくのは道理かと」

フラット「待って!理由もなしに殺せって言うのは

明らかにおかしな話だよ!」

獅子獣人「無論、理由はあります。その前に、

あなたの体、馴染めましたか?」

フラット「何の話⁉︎」

獅子獣人「…どうやら、まだ違和感と

ぶつかっていませんか。では、お聞きしますが、

あなたの世界は何年ですか?」

フラット「えっ…3016年…」

獅子獣人「そうです。しかし、本当なら8018年です」

フラット「…は?」

獅子獣人「5002年、いわゆるあなたの世界では

0年にあたる年に神の力は滅びました。いえ、

正確に言えば統括され、人々に分け与えられました」

フラット「それが…何⁉︎」

獅子獣人「しかし、とある天使はこの統括に従わず、

堕天使となりました。それがミカエルです」

フラット「ミカエル…?」

獅子獣人「そしてこのナックルこそ、ミカエルの末裔。

こやつは、私が最初に力を与えた者です。しかし…

その力を用いて悪用しているのです」

フラット「…悪用?さっきから何を言ってるのか

意味がわからないんだけど⁉︎」

獅子獣人「…普通の人なら、さっきの年の問題、

分かるんですよ。なぜなら、あなたの

住む世界にとっては一般常識。それをあなたが

知らないのは、あなたの体と魂は別のものだからです」

フラット「…は?いやいや、記憶はあるし、

僕のいる世界の記憶もちゃんとある!」

獅子獣人「それは、あなたについての記憶。

世界についての記憶ではない」

フラット「あ……そういえば…」

獅子獣人「ようやく、お分かりになりましたか。

あなたは、脅威のことやファイターについての知識は

一般常識が欠けているのです。あなたの体にとっても

知ってて当然の記憶だったために」

フラット「待って!言ってることが矛盾してる!」

獅子獣人「矛盾はしてません。あなたが

知っていることはあなた自身の記憶。あなたの体が

実際に触れた記憶。体が知っていたとしても

触れていない記憶は消えているのです」

フラット「…触れていない記憶…」

獅子獣人「つまり、歴史の記憶がいい例でしょう。

歴史の記憶は知ることはできても触れることは

できない。つまり、一般常識となっている歴史的事実は

あなたの記憶に存在しない」

フラット「…それで?その話とナックルさんを

殺せという話に何の脈略があるの?」

獅子獣人「先程も言った通り、ナックルは私の

与えた力を悪用しています。それは、

人工アリジゴク」

フラット「人工…アリジゴク?」

獅子獣人「…ある出来事がきっかけで始まった

計画です。死刑の代わりに今現在行われている刑罰。

重罪な者に与えられ、その罪を犯した記憶を

世界全体から抹消するというものです」

フラット「えっ…逆にいいものじゃ」

獅子獣人「それはおもての顔です。これには裏があり、

その抹消された記憶を用いて、魔族の力を高めるという

裏計画があるのです」

フラット「ちょっと待って!その裏計画に

まさかナックルさんが⁉︎」

獅子獣人「はい。そのうち、あなたも気づくはずですが

先にお伝えしておこうと」

フラット「でも…証拠のない話に

振り回されたくはない!法の神として!」

獅子獣人「それはあなたの体の話。あなたの魂は

別の世界線から私が持ってきたもの」

フラット「えっ…」

獅子獣人「お見せしましょう。あなたがいた世界を」

獅子獣人はフラットの頭を掴む。


獅子獣人「これがあなたの世界です。脅威もいない、

争いもない平和な世界。しかし、あなたは刺激を

求め続けていた。そしてこの世界から逃げたくなり、

あなたは自分の手で自分を罰した」

フラット「あ…あっ…」

獅子獣人「これは酷な話でした。今のは、幻想に留めて

おきましょう。神業・記憶消去」

フラット「あれ…?」

獅子獣人「それでは今日の話はここまでに

致しましょう。お戻りください」


フラット「うわっ…あれ?」

フラットが眠っている間に、夜はすっかり明けていた。

フラット「…もう朝だったんだ…」

ナックル「やっと起きたか」

フラット「ウヒャぁ⁉︎ナックルさん⁉︎」

ナックル「ほら、荷物持ってきたから早く行くぞ!

とっくに全員、玄関で集まってるんだ!」

フラット「ご、ごめん!すぐ行く!」

そう言いつつ、フラットはあの会話のことを

考えていた。


獅子獣人「…きっと、あなたはその目で

見ることでしょう。彼の、本当の姿を」


フラット「すみません!」

ペーター「いや、フラット君は疲れてるだろうし

今回は許すよ。それより…」

バジー「エド様、バスはまだですの?」

エド「それが…どっかでエンスト起こして

緊急停車したっぽいっす」

キルユウ「それなら電波が飛んでるはずだ」

バルシア「キャッチしました!えっと…北東から!」

ペーター「…仕方ない、歩いてくぞ」

ナックル「ハァ⁉︎歩くって…どこにあるか分からねぇ

バスのとこまでか⁉︎」

ペーター「あぁ、バルシア君、電波の強さは?」

バルシア「え〜っと…徒歩で2時間ぐらいのところです」

エド「…それならバス使った方がいいと思いっすよ?」

ペーター「何言ってる?こんな午前5時に走っている

バスがあると思うかい?」

フラット「5時⁉︎えっ…睡眠時間3時間って…」

ナックル「…背負ってくぜ」

フラット「い、いや大丈夫!なんか目は

ぱっちりしてるから!」

ノール「それより、何でこんな朝早い?」

ペーター「実は、デ・ロワーにお客さんが来るんだ。

それでバスを使うんだが、エンストをおこしたとなると

修理が必要になる。修理時間を考えてこの時間になった」

フラット「なら早く行きましょうか。バルシア、

電波のキャッチ、続けてくれる?」

バルシア「全然構いませんよ!歩くのも

嫌いじゃないですし!」

キルユウ「ウォーキングも大事な運動だ。

俺も賛成」

ノール「私も。バルシア、案内よろしく」

バルシア「姉御のご依頼ならガッテン承知!」

フラット「僕のもOK出してたじゃん」

バルシア「何言ってんですか、フラットの兄貴?」

フラット「あ、そうだったっけ…なんか兄貴って

呼ばれたの初めてで慣れない…」

ナックル「だったら早く行こうぜ?時間が勿体無いだろ」

ノール「ふぅん…バカ虎でも時間は大事にするんだ」

ナックル「だから、誰がバカ虎だよ⁉︎」

ノール「じゃあ脳筋ドラ」

ナックル「このっ…好き放題言ってくれるじゃねぇの!

俺に喧嘩売るなら容赦しねぇぞ⁉︎」

ノール「はぁ…昔のキルユウみたい。めんどくさいから

私はパスする」

ペーター「第一に喧嘩する時間が勿体無い。

それじゃ、行こうか」


フラット「うわっ…やっぱり山の中?」

バルシア「そうみたいですね…この山から反応が

来てますから」

ナックル「なら、フラットの天空の力でー」

フラット「だからやめといたほうがいいって!

まだ扱えきれないんだから。変な場所に着いたら

遭難しちゃうよ?」

ノール「お前はすぐに楽しようとする…」

ナックル「そりゃするだろ!こんな山の中、

歩きたくねぇ!」

ペーター「それでも、ここに来るまでに30分は

かかった。あと1時間半でバスにつけるぞ」

エド「そこから修理と考えると、やっぱりハードっす〜」

フラット「まっ、気楽に行こうよ。もしかしたら

いい景色が見られると思うよ」


ナックル「で…この霧じゃ何も見えねぇぞ?」

ノール「ちょっと霧が濃い…はぐれそう」

エド「じゃあ、手を繋ぐっすよ!」

ペーター「そうだな…それなら逸れようがない」

バジー「それにしても、エド様が仰りそうにない言葉を

仰りましたね」

エド「この場合はそうするのが無難っすよ」

ナックル「じゃ、フラット。俺とー」

ノール「フラット、こんなバカ虎の手よりは私の方が

マシだと思う」

ナックル「んだと〜⁉︎」

ノール「何?私、何か間違ったこと言ってる?」

フラット「ちょ、ストップ、ストーップ!」

エド「あいた!ってて…!

バジー「あら、大丈夫ですか?」

エド「ちょっと擦りむいただけっすよ」

バジー「あ、皆様、お待ちください!」

ペーター「?おい、君達!」

キルユウ「ん?どうかしたか?」

バルシア「トラブルですか?」

ペーター「今、バジーが引き止める声がしたような…」

バジー「皆様〜!お待ちください〜!」

ペーター「こっちからだ。あれ…フラット君達は?」

キルユウ「そういえば…ノール!」


フラット「あ、霧が晴れて…えっ?」

ノール「おい…ここって山頂⁈」

ナックル「ヤベっ…来た道引き返そうぜ?」

ノール「いや…分かれ道とかあった。

道を間違えたりしたらさらに迷うと思う」

フラット「そうだね。ここがどこか分かれば…

あれ?ここ…ネットある⁉︎」

ノール「えっ…本当だ、私のネックフォンにも

勝手に繋がってる」

ナックル「俺のリングフォンにも!」

フラット「…?でも…5Gって…」

ナックル「はぁ⁉︎何年前のネット環境だ⁉︎」

ノール「50年ぐらい前には、もう地球上で

使われなくなったはず…どうなってる?」

フラット「止まってないってことは、ここら辺に

5Gを使っている家か何かがあるってことだよね?

山頂だから、もしかしたら誰かいるかもだし、

人探ししよ!下山ルート知ってる人がいるかも!」

ノール「そうだな。無闇矢鱈に降りるよりはいいだろ」

ナックル「よっしゃ、早速人探しだ!」

フラット「うん…ってあそこ!」

ノール「あっ…早速いた」

ナックル「だが…何してるんだ?」

フラット「見た感じ…絵を描いてる?

ちょっとタイミング悪いけど、聞くしかないよね。

僕が行くから、喧嘩せず待っててよ?」

ノール「ふりか?」

フラット「んなわけないでしょ!」

男性「ふぅ…こんなものか」

フラット「あのー…」

男性「?こんな所に人が来るとは…どうされました?」

フラット「実は、山を降りようと思ったら

道に迷っちゃって…下山ルートとかって分かりますか?」

男性「あー…うちに帰れば分かりますよ。ただ…」

フラット「ただ?」

男性「よその人を集落に入れてはいけないという村錠が

ありまして…」

フラット「えっ…何ですか、その村錠⁉︎」

男性「あ、でも大丈夫ですよ。裏口から入れば

バレずに入れますので」

フラット「い、いやそういうことじゃ…」

男性「よいしょ、じゃ、村にお連れしますので」

フラット「はぁ…あ、ちょっと待ってください。

あと2人いますので」

ナックル「お?こっち来た」

フラット「この辺りに集落があるみたいだから、

一緒に来て」

ノール「分かった…バカ虎は置いてってもいいだろ」

ナックル「何でだ⁉︎お前こそ留守番でも

してればいいんじゃねぇのか?」

フラット「ちょ、ちょっと!こんなところで

喧嘩してる場合じゃないでしょ⁉︎」

ナックル「大体お前はな!」

ノール「お前は単純頭だな!いい加減分かれ!」

フラット「2人とも!」

ナックル「うわっ!」

ノール「っ!ご、ごめん」

フラット「ふぅ〜…こんな大声出したのいつぶりだろ。

とにかく行くよ」

ノール「うん…フラットって案外怖いんだ…」

ナックル「アイツ、怒らせたらヤベェからな…」

フラット「早く!」

ノール&ナックル「りょ、了解!…真似すんな!」

フラット「はぁ…」


男性「裏口までは少し道が荒いので足元に

注意してください」

フラット「うわ、転んだら真っ逆さまだよ〜!」

ナックル「こぇー…」

ノール「これぐらいで音を上げるのか?よっと…」

フラット「ノールって運動神経いいよね…羨ましい」

ナックル「お、俺だって…とうりゃあ〜!」

フラット「ちょ、危ない!」

ナックルの足元の岩がガラッと崩れてゆく。

ナックル「うわぁ〜!」

フラット「ちょ…神業・浮遊!」

転げ落ちるナックルをギリギリでかわすフラット。

ナックル「いててて…」

フラット「ちょ、助けて〜!解除できない〜!」

ノール「全く…何やってるんだか」

男性「…人が…浮いてる…」

ナックル「あ?こんぐらい当たり前だろ。にしても、

地図にはこの辺りに集落がありそうな雰囲気は

ないんだが…」

ノール「だが、この柵は集落のある証だ。それに

綺麗に整備されてる。まだ使われてる」

男性「いえ、私も以前、新聞で読んだことはあります。

しかし…本当に存在しているとは…」

フラット「…もしかして…外の情報を知らない?」

ノール「まさか…でも…誰でも知ってる一般常識を

知らないなんて…それしか有り得ないか」

ナックル「どうなってるんだ?」

フラット「で…こ、こうかな?よっと。ふぅ〜、

何とか解除出来た。とりあえず、集落の中、

入ってみよっか」


男性「どうぞ、私の家です」

ノール「えっ…」

ナックル「おいおい、レトロスタイルか?」

男性「えっ?」

フラット「…やっぱり…あの、村錠って

読めますか?」

男性「うーん…その代わり、村長には内緒で

お願いします」

フラット「分かりました」

男性「では…これが村錠です」

ナックル「ん?」

男性「一つ、許可なく村から出ることを禁ずる。

一つ、村の外の情報収集を禁ずる。

この二つを破った者は重罪とし、死刑とする」

全員「…はぁ⁉︎」

ナックル「死刑⁉︎」

ノール「しかもそんなくだらない理由で⁉︎」

フラット「何それ…法っていうより、独裁じゃん⁉︎」

ナックル「これについてどう思いますか、

法の天使であられるフラット」

フラット「そりゃ許せないよ。それでも情報量が

少ないし…それよりペーターさん達に通信しないと」

ナックル「それもそうだな…あぁ⁉︎」

ノール「っ!人の家で大声出すな!それでどうした⁉︎」

ナックル「圏外なんだよ…どうなってる?」

フラット「あれ…本当だ…」

ノール「どういうことだ?この村でも、流石に

電波は飛んでるはず…」

男性「それが、村長が代わる少し前から電波が

おかしくなったんです」

フラット「というと?」

男性「電波が消えたりまた点滅したり…

その繰り返しだったんですが、だんだん弱くなって…」

ノール「挙句の果てに圏外…か。で、この家、

電気をつけていないがまさか電気も?」

男性「はい、電気も水道も通っていません。これは

村長が代わってからのことです」

ナックル「まさか…脅威が?」

フラット「その可能性はあるけど…一般人の前で

そんなこと口走らないでよ。不安を煽っちゃいけないからね」

ナックル「そうだな…」

ノール「それより…あっちはどうしてるんだろ…」


ペーター「先に着いてしまったが…どうだ?

開けた場所だが」

バルシア「…ダメです。姉御達の通信機からの

電波反応がありません」

キルユウ「どこ行ったんだ…何か事件に

巻き込まれてないといいが」

バジー「それより…このデ・ロワー特製の

フライトバスの損傷を見るとまるでアリジゴクの

触手による攻撃を受けたようですわね」

エド「それより、結構あちこちイカれてるっす!

エンジンに至っては交換が必要っす!」

ペーター「予備のエンジンなら車内にある。

他の修理キットも!」

バジー「私も手伝いますわ。整備課の実力があれば

このぐらいすぐに戻せますわ」

キルユウ「俺達も手伝う。組み立て作業は得意だ。

バルシアはノール達の電波を探してくれ」

バルシア「分かってる、ていうか今もやってる!」

ペーター「…俺の指示なしで動いて…これが…

フラット君の作ったデ・ロワーなのか…」


フラット「…あれ?雨…」

ノール「あちゃ…雨の中の下山は危険だ」

男性「なら、今日は泊まっていきます?

こんな家ですが、お料理もお風呂もお布団も

ありますので」

フラット「あ、ありがとうございます!」

ナックル「あれ…でも水は通ってないんじゃ?」

男性「なので、雨水を浄水にして、村の中で

通しているんです」

ナックル「つまり…浄水場からってわけか」

ノール「待って…お風呂っていうより温泉ってこと?」

男性「はい、もちろん男風呂と女風呂分かれてますよ」

ノール「あ…じゃあ、私1人…」

フラット「そうだね…あれ、この写真」

フラットはある机の上に置いてあった写真を目にした。

そこには男性と、とある女性がまるで夫婦のように

この家の前で並んで撮られた写真だった。

男性「あ…これは…私と妻の写真です。最初で最後の

夫婦で撮った写真です」

フラット「え、あ、その…すみません…えっと…」

男性「あ、そういえば自己紹介がまだだったね。

私はトリア。で、君達は?」

フラット「僕はフラットです」

ノール「私はノール」

ナックル「ナックル・バトラー!本当なら、

誰でも知ってるんだがな」

ノール「そういうの、言うだけ虚しいもんだぞ」

フラット「ま、まあまあ」

トリア「…彼女は、殺された」

フラット「えっ…殺されたって…誰に」

トリア「村長だよ…彼女は村の外のことを聞いては

バレないように村の皆に伝えていたよ」

ナックル「何で知っちゃいけねぇんだ⁈理由は

あるんだろ?ちゃんとした理由ぐらいは⁉︎」

トリア「ないです。何一つ」

ナックル「はぁ⁉︎」

ノール「理由もなしに禁止って…何でそんなやつが

村長なんかに…」

トリア「前の村長の遺言です。実は、今の村長は

あの人の拾い子なんです。あの子は…もういないです」

フラット「もういない…?」

トリア「前の村長がいなくなるまで、あの子は

ここの人を愛し、子供達と戯れて…これ以上にいない

いい子だったんです…」

ナックル「なんだか、どこぞの破壊神そっくりだな」

ノール「喧嘩売ってるの?」

フラット「2人とも!」

トリア「…アッハハ、ナックルさん、この暗いムードを

壊したいんでしょう?」

ナックル「えっ…何で分かった⁉︎」

トリア「さぁ?私、昔から人の思ってることが

分かるんです」

ノール「…それが神力…か。面白い力」

フラット「まぁ…ファイターになれるぐらいじゃ

ないけどね」

トリア「?」

フラット「あ、こっちの話です。それより、

どうすれば村長に会えますか?」

トリア「いえ、あなた達が会う必要はありません」

ノール「?それってどういう?」

ナックル「会う必要がねぇって…まさか⁉︎」

トリア「もう我慢の限界なんです、村の皆…

村長を殺します…!」

フラット「えっ…何言ってるんですか⁉︎」

トリア「当たり前でしょう…アイツは何人もの命を

奪った…!拾い子だったのに愛してくれた恩を忘れて!」

フラット「…でも…ちょっと待ってください!

僕達が解決します!」

トリア「ダメです、それでは私達の恨みを晴らせない」

ノール「おい…コイツ、イっちゃってる目だ。

逃げるぞ」

ナックル「あぁ、ここは逃げるぞ!」


フラット「ふぅ、ふぅ…急に目つき変えて驚いた…」

ノール「…ねぇ、この村、さっきより殺気を感じる」

ナックル「なんだ、洒落か?」

ノール「今すぐそのベロ、壊してもいいんだぞ?」

ナックル「ヒェ、じょ、冗談に決まってるだろ?」

フラット「言い合ってる暇あるなら、すぐに

村長の所に行くよ!」

ノール「何でそこまで急ぐ?」

フラット「だって…忘れるはずないもん!

愛された記憶は、絶対に!」

ナックル「…そうだな。ノールだって覚えてて、

ちゃんと正しい破壊をしていたんだ。何かあるのは

目に見えてる」

ノール「バカ虎…い、いいこと言うじゃん」

ナックル「だろ?」

フラット「…もう。とにかく、探すったら探すよ!」

?「おい、お前ら!」

フラット「⁉︎」

?「風に尋ねれば何だってわかる。侵入者!」

ナックル「誰だテメェ⁉︎」

?「俺は、この村の村長であり、風神、

クレアラント・ゴールド!」

ノール「村長⁉︎」

フラット「風神だって⁉︎」

クレア「お前達とは仲良くなれそうだ。なんたって、

同類なんだし」

フラット「同類…仲良く、か。じゃあ、勝負しよう!」

クレア「あ?」

ナックル「何言ってんだ⁉︎」

ノール「ここはバシッと不意打ちでー」

フラット「まずは弓術勝負!次に槍術!そして、

タイマン勝負!この三盆勝負でどう?」

クレア「ほう…面白そうじゃないか!」

フラット「じゃ、早速やろうか!」

ナックル「おい、なんの勝負仕掛けてんだ⁉︎」

ノール「そんな勝負じゃなくて普通にー」

フラット「2人は見てて。多分、これで分かる。

アイツが何を思っているのか」

クレア「そうと決まれば、俺の家に案内するぞ。

こっちに来いや、爆笑トリオ」

ノール「なっ…アイツ、壊していいか?なんか許せない」

フラット「こ、こらえて!」

ナックル「流石にここで壊すな!」

フラット「そうそう!」

クレア「…おもしれぇやつらだな。俺の最後は、

華々しく終われるか」


3節 強き者


俺は孤独だった。お袋は俺を捨てて、父親のことは

思い出したくもない。俺は子供の時から1人だった。

相棒だった、ペットの狼も、死んじまった。全部、

俺のせいで。お袋は俺の病気がうつって。

狼は俺の力が暴走して…俺は、泣いた。泣いて泣いて

泣きまくった。それでも俺は誤魔化した。

でも…


フラット「それじゃ、ルールは今言った通り、

弓術は3本勝負。槍術は一本勝負!タイマン勝負は

どちらかが降参するまで!」

クレア「それじゃ、どっちが先行だ?」

フラット「先にクレアからでいいよ」

クレア「クレア…ねぇ。敵対する相手をあだ名で

呼ぶとは、自信でもあるのか?」

フラット「別に?呼びにくいからそう呼んでるだけ」

クレア「そうか。まっ、んなことより始めっか。

じゃ…まず手始めに、一つ!」

フラット「神業・土壁!」

クレア「はぁ⁉︎」

フラット「神業禁止なんて言ってないよ?舐めプ?」

クレア「っ!なら、次から使ってやるよ!

ずる賢いやつめ!」

フラット「そうこなくっちゃ!」

ノール「えっ…あんな子供喧嘩みたいな口車に

乗るか?案外子供なんだ」

ナックル「アイツ…なるほどな」

クレア「いくぞ…二つ!神業・突風!」

フラット「神業・急成長!」

クレア「げっ…マジか…ツルで矢を捕まえるとは…

ならこれならどうだ!三つ!神業・乱矢!」

フラット「うわっ、幻術⁉︎なら…神業・荒波!」

クレア「なっ…どっから水をーあぁ、池か」

フラット「僕の力を風に聞かなかったの?」

クレア「法の力とは知っていたが、まさかな。

新神誕生型だったのか」

ナックル「そうだぜ、天空の神と想像の力も

少しは扱えるんだぜ」

クレア「チェ、まぁお前の矢も全部

妨害すればいいだけだ」

フラット「ま、弓術は初心者だからお手柔らかに」

クレア「初心者?全く、的に当たることも

ないかもだ」


フラット「それじゃ…一つ!神業・天空破!」

ナックル「はぁ⁉︎アイツ、天空の力なんか使って

どうする気だ⁉︎」

クレア「しかも矢を天空に放つとは…

なんと愚かな真似を…」

フラット「二つ!神業・波乗!」

クレア「えっ…⁉︎」

フラット「はい、的に当たった。僕の勝ちだね」

クレア「な、なら槍術勝負だ!神業は禁止にするぞ!」

フラット「はいはい。アッハハ、なんだかんだで

楽しい勝負になりそうだね」

クレア「…あぁ、最高の時間だな」


フラット「ま、先行はクレアからでいいよ」

クレア「そ、そうか?じゃあ…やるぞ…」

フラット「初心者だから手加減するし、問題ないよ」

クレア「言い出しっぺだろうと手加減無用。

ハンデはいらないぞ!」

フラット「そう?まぁ、そう言うならいいけど」

クレア「それじゃ…ってうわっ!」

フラット「あっ…」

クレア「ってて…あっ!」

フラット「あちゃ〜…記録は8センチ…」

クレア「ちょ、今のなし!今のはなしで頼む!」

フラット「さっきも言った通り、一回勝負!

記録なしならやり直しありだったけど、

刺さっちゃってるからね」

クレア「なら2回勝負でいいから頼む!」

ノール「何ダダこねてるんだ?」

ナックル「一回勝負と言われたからには

一回勝負だ!」

フラット「そうだよ、ルールにはのっとって

くれないと」

クレア「な、ならせめてハンデは!」

フラット「あのね…もう、じゃあハンデね」

ノール「認めるのか⁈」

ナックル「折角のチャンスだぜ⁉︎」

フラット「いいから。アレ、折角だし見せてあげるよ」

ナックル「…あぁ、アレか!」

ノール「?なんだ、アレって」

フラット「面白い槍術だよ」


フラット「それじゃ、いくよ…それ!」

フラットの投げた槍は足元にぶつかる。

クレア「…記録なし、か…って、はぁ⁉︎」

しかしフラットの槍は宙を一回転し、見事に

クレアの記録とほぼ同じ所に刺さる。

クレア「へ、あ、おい!神業は禁止だと言ったのは

お前だろ⁉︎言い出しっぺがレギュレーション違反とは

興味深い真似をするなぁ」

フラット「いや?神力なんか使ってないよ?

なんなら風に聞いてもいいけど」

クレア「やけに自信があるんだな…神業・風耳……

どうやら…本当に…使ってないのか…」

ナックル「それもそのはずだぜ。アレはフラットの

特技、幽遊槍だ」

ノール「たしかに面白いが…これ、どっちの勝ち?」

フラット「え〜っと…もういいや、同点!」

クレア「じゃあ…タイマン勝負で決まる、か」

フラット「そゆこと。本気でいこうか」

クレア「その代わり、翼の使用は禁止でいこう。

それでいいか?」

フラット「万事オッケー!それじゃ、やろっか」

クレア「あぁ、まさか今日、誰かとタイマンで勝負を

出来るとは思ってもいなかったけどな」

フラット「…じゃ、戦闘モード起動!」

クレア「ちょ、ちょっと待った!俺、

ファイターじゃないぞ⁉︎」

フラット「…へ?」

ノール「当たり前だろ。こんな村にいる以上、

ファイター企業に属してるわけないだろ」

ナックル「…?おい。ならどうやってタイマン勝負を

やる気だったんだ⁈」

クレア「てっきりゲームの話かと…」

フラット「ぷっ…アッハハハハ!もう、

じゃあ僕の勝ちだね!解除っと」

ナックル「なんか拍子抜けだな。あっけない勝利って

感じで…なんかなぁ」

フラット「まっ、勝ったことだし…聞いていい?」

クレア「何だよ?なるべく早く済ませて帰ってくれ」

フラット「じゃ…何を隠してるの?」

クレア「っ⁉︎な、何のことだ?」

フラット「戦ってる時から感じてたけど、

悪いことを好き好んでやってるやつって雰囲気を

感じないし、逆にいいことをする人の笑顔を見た。

もし死刑をしたって言うなら…見せてよ、その道具」

クレア「いいとも…俺の家にある」


フラット「ギロチンと…絞首刑か…でも…」

ナックル「うわっ、血だらけ⁉︎」

ノール「流石の私でも…長居はしたくない」

クレア「どうだ?血で染まったギロチン、

絞めた跡も残ってる縄」

フラット「…忘れてない?僕は法の神。

これぐらいの嘘は一瞬で見抜けるよ」

クレア「うっ…」

ナックル「嘘だと⁉︎」

ノール「ん…?これ血糊ちのりじゃん!よくできてる…」

フラット「それに、この縄、絞めた跡なんて

人の首の太さぐらいある何かを締めればいい話」

クレア「ぐっ…」

フラット「それともう一つ。お前ぐらいの神力があれば

ファイターでなくてもこの気配には気づくはずだよ?

それにクレアは風神。この殺気には気付くどころか

確信できるはず。なのに、まるで気付いていないように

僕達に振る舞った。それもそのはず。

殺されるつもりだったんだから」

ノール「殺される…つもり⁉︎」

クレア「…で、デタラメ言うなよ!」

フラット「デタラメ…か。何度も言うけど、

僕は法の神。嘘をつくことはしない。黙ることは

できるけどね?」

クレア「…くっ」

ナックル「だが、何で分かったんだよ?コイツが

殺されるつもりだったって」

フラット「さっき、タイマン勝負の前に言った

クレアの一言」


クレア「あぁ、まさか今日、誰かとタイマンで勝負を

出来るとは思ってもいなかったな」


フラット「まさか今日…誰かとタイマンで…

この2つの意味、分かるよね?」

ノール「今日…村の住民がクレアを殺すって…!」

ナックル「多勢に無勢で…争う日…そんな日に

タイマン勝負を…挑めそうだったってわけか」

クレア「…それでいいんだ」

フラット「何で?クレア…ただ嫌われようと

してるじゃん!そんなのー」

クレア「俺は誰かといちゃいけねぇんだよ!」

フラット「っ!」

クレア「…俺、他人と付き合えば付き合うほど、

苦しめてしまう…疫病神なんだよ、俺は」

フラット「…」

ノール「違う…それは違う!」

ナックル「ノール…?」

ノール「今なら言える。誰かと付き合うなら…

誰かを不幸にすることだってある!」

フラット「ノール…」

ナックル「お前も、いいこと言うじゃねぇの!」

ノール「そ、そう?」

フラット「クレア。ノールの言った通りだよ」

クレア「んなこと、分かってんだよ!俺はー」

「うわぁ〜!バケモノ〜!」

フラット「バケモノ⁉︎」

クレア「チッ、こんな日に…神業・風変化!」

フラット「うわっ⁉︎」

ノール「アイツ、こんな高い神力を⁉︎」

ナックル「あっち行ったよな⁉︎ったく、

ファイターじゃねぇのに、無理しやがって!」

フラット「急がないと!」


トリア「こ、こっちに来るな…!」

クレア「神業・突風!」

異世界モンスター「グォ⁉︎」

クレア「ふぅ…またコイツか…」

トリア「クレア⁉︎貴様、何の真似だ⁈罪滅ぼしか⁉︎」

クレア「…コイツ、見たか。だったら…

この村から出て行け。お前は…この住所だ。お嫁さんも

待っているぞ」

トリア「…は?」

クレア「いいから、荷物まとめてとっとと

出てけ!この村は危険だ!」

フラット「やっぱりね。まさか、脅威の存在にも

気付いてるとは、正直驚いてるけど」

ナックル「それより、早いとこ、

コイツ片付けねぇとな!」

ノール「ファイターでもない天使はどいてて!

私が片付ける」

クレア「いや…俺が片付けねぇといけねぇんだよ!

アイツは…あの人の仇なんだ!」

フラット「仇…?」

クレア「ジッちゃんを喰った…仇なんだよ!

だから…俺は…俺は…」

異世界モンスター「ギュアァァァァ!」

ナックル「危ねぇクレア!」

クレア「⁉︎」

クレアに向かって向けられた尖った尻尾を

ナックルがギリギリ払い除ける。しかし、

吹っ飛ばされた衝撃で壁に頭をぶつける。

ノール「クレア⁉︎大丈夫⁈」

フラット「とりあえず…倒さないと…」

ナックル「だが…倒しちまっていいのか?コイツ…」

フラット「でも、そうしないと…って、あれ?」

ノール「異世界モンスターは?」

ナックル「消えた…?」

フラット「まさか…霧型⁉︎」

ナックル「そうかもな。多量の湿気がないと

本体を現すことは不可能だしな」

ノール「どうりで、さっきまであった殺気が

消えてるわけか」

クレア「うぅ…」

フラット「あ、とりあえずクレアを運ばないと!」

トリア「ま、待ってください!クレアの言ってたことは

本当かどうか…分かりますか?」

フラット「それなら本当ですよ。クレアは

死刑なんかしてないし」

トリア「は、はぁ?」

フラット「まぁ、その住所に行けば1発ですよ。

それじゃ、僕達は行ってます」


前村長「ほれ、クレア。寒かったろう?

採れたてのとうもろこしで作った、コーンスープだ」

クレア「…ありがと」


クレア「…いいなぁ…雪遊び…かぁ」

前村長「なら、遊びに行っといで。クレアは

まだ子供だ。遊ぶのが仕事だよ」

クレア「…俺はいい。こうやって眺めてるだけで」

前村長「素直じゃないなぁ。顔で分かるよ、

遊びたいんだろ?子供は風の子元気の子!

ほれ、僕もいくから、な?」

クレア「…うん」


子供「あれ、村長さん…あ、誰?」

前村長「クレア君だ、一緒に遊んでくれないか?

君も、1人よりは楽しいだろ?」

子供「1人じゃないもん!ここには、私のペットの

ダンがいるんだから!」

前村長「あぁ、そうだったな」

クレア「ペット…フル…」

前村長「?」

クレア「ジッちゃん、俺、ここで遊んでいいか?」

前村長「えっ?」

クレア「だって、俺はここ、気に入った!」

子供「本当⁈いいよ、いつでも来て!」

クレア「あぁ、いつでも!」


フラット「なかなか起きないね…クレア」

ノール「でも…仇か」

ナックル「それより、厄介だな…霧型の脅威が

相手とはな…出てくるのがいつか分からねぇぞ?」

フラット「そんなことはないけど…クレアが

目を覚まさないとアレを呼ぶこともできない」

ノール「呼ぶって…なんか手があるの⁈」

フラット「でも、その前にクレアをファイターに

しないとね。まっ、もう手は打ってある。

もうそろそろ…」

ナックル「お前って、作戦とか考えるの得意だったか?

いつも読まれやすい作戦しか考えつかなかったはずだ」

フラット「えっ…そう…かな…?」


獅子獣人「あなたの体と魂は別のもの」


フラット「まさか…この体の能力じゃない…?」

ナックル「?なんか言ったか?」

フラット「ふぇ⁉︎い、いや?」

ノール「嘘つけてるじゃん」

フラット「あぁ、さっきのが嘘だもん。

嘘つけないって、そんなわけないじゃん。もしかして

信じちゃってた?」

ノール「ぐっ…コイツ〜!」

ナックル「まあまあ、フラットは

子供っぽいから、な?」

フラット「えっ…うん…そうだね、アハハ…」

ナックル「…フラット…」


クレア「ジッちゃん、ただいま〜…ってあれ?

ジッちゃん?」

前村長「あ、すまない。ちょっと、畑仕事をね。

それより、最近電波の調子が悪いなぁ」

クレア「あぁ、途切れたり直ったり…なんだこりゃ?」

前村長「外の情報も切れてしまっている。

しかし村の皆を不安にするわけにもいかない。

隠し通すのはどうかとは思うが致し方ない」

クレア「ジッちゃん…そうだ、俺が風に聞けば

理由が分かるかもしれない!そうと決まれば

早速!神業・風耳!」

異世界モンスター「ギャル?」

クレア「えっ…な、何コイツ⁉︎」

前村長「に、逃げなさいクレア!」

クレアを前村長は思い切りグイッと引っ張ると

強く外の方へ押す。

クレア「ジッちゃん⁉︎」

前村長「クレア、先に逃げていなさい!」

クレア「ならジッちゃんも!」

前村長「僕は後でいい、先に行って避難誘導を!」

クレア「…分かった…!」

そして、外を出てすぐバケモノへ消えてて、

ジッちゃんの姿は家になかった。


クレア「!…あれ…俺…」

フラット「ムにゃ…?あ、起きた?」

クレア「フラット…何がどうなったんだ?」

フラット「えっ…?あ、あぁ、ナックルさんが

一応、追い払ってくれたよ。クレアの仇なら

仕方ないって言ってね」

クレア「…そうか…俺が…ファイターなら…

あんなやつ…倒せるのに…」

フラット「…願望がないと無理だよ」

クレア「…俺の願望…か。アイツを倒したい!

それじゃ…ダメなのか?」

フラット「そんなのじゃ…無理。もっと…

なんて言うんだろう…希望っていうか…

自分なりの道っていうか…」

クレア「俺なりの道…強くなりたい!俺は…

自分を超えられるぐらい、強くなりたい!」

無機質な声「微量の願望をキャッチ。

コード不詳。接続不可能」

フラット「…今のって…」

クレア「…まだまだってことか…」

フラット「ねぇ!あのさ…クレアは何で

殺されようと思ったの?」

クレア「…何でって…俺は生きる理由を見出せない!

誰かと付き合えば、大切なものを壊してしまう!」


クレア「?なんか蹴飛ばして…」

子供「あっ…ダンのお墓…!」

クレア「えっ…あ、わざとじゃー」

子供「酷い…クレアなんか大っ嫌い!」


クレア「…それに…俺のことを大切に思ってくれる人も

もう…いない、いてほしくない!」

フラット「…嫌いなの?」

クレア「えっ…」

フラット「クレアはこの村に住んでる人達のこと、

嫌いなの?」

クレア「嫌いじゃない!だからー」

フラット「じゃあ無理だよ!」

クレア「…無理?」

フラット「上手く言えないけど…クレアはワガママ!

これだけは言える!」

クレア「ワガママ⁉︎」

ノール「そう、ワガママ」

ナックル「と言うより、悲劇のヒロインってやつか?」

クレア「…お前らに何が分かる⁉︎俺はもう…

失いたくない!これ以上…大切なものを…」

ノール「いつまで甘いこと言ってるつもり⁉︎」

クレアの胸元をノールへ掴み上げる。そしてー

ノール「人生、生きてるうちに大切なものなんか

失っていくもんなんだ!だけど…失って、

新しい大切なものが生まれる。その繰り返しなんだ。

その繰り返しから逃げてたら、気付かぬうちに

失い続けるだけ!それでもいいって言うの⁉︎」

クレア「ノール…」

ナックル「そうだな。お前は逃げてるだけだ。

嫌な現実からな。強くなるっていうのは、

力だけじゃねぇ、自分と、現実とまっすぐ向き合える!

力だけが強さじゃねぇ、それは絶対だ」

クレア「でも…だったら教えてくれよ!俺は何のために

生きればいい⁉︎迷惑しかかけられない俺に…

生きる理由なんかー」

フラット「そんなの、僕達が教えられるわけが

ないでしょ⁉︎自分と、現実と向き合えてないのに

何で生きる理由がないって言い切れるの⁉︎」

クレア「!」

ノール「あぁ、理論なくして得た答えなんて、

空想でしかない」

ナックル「お前はその空想を語ってるだけだ!

それに、生きる理由は自分自身で見つけるものだ!

他人ひとに言われた物で満足できるのか?

俺はできねぇな。まるで、ソイツのために

生きてるみたいで不愉快だ」

クレア「…そうか…」

フラット「それにさ。思わなかった?クレアは

愛してるこの村の人達の手を、血で染めようと

してたってこと」

クレア「あっ…」

ノール「ふぅ…クレア。これだけは言っとく。

生きる理由なんて、コロコロ変わってもいい。

それが正しいと思える物なら。それで聞きたい。

今のクレアの生き様は正しいと思える?」

クレア「分かってるさ!正しくねぇってことぐらい!

ならどうする?ファイターでもない俺が

できる正しいことって、一体何だよ⁉︎」

フラット「ファイターになること、じゃないかな?」

クレア「へ…」

ナックル「あぁ、それしか手はないぜ?」

ノール「お前にも、そういう道は残ってる」

クレア「俺が…ファイターに…?」

フラット「そう!さっきアプリが反応してたでしょ?

だからクレアには素質あるってこと!今みたいに

生きることを諦めてたら…無理だろうけど…

クレアなりの生き方を見つけたら絶対なれるって!」

クレア「フラット…ノール…ナックル…」

クレアは今まで自分に寄り添ってくれた人達のことを

思い出し、涙を流す。

フラット「…大丈夫。僕達が嫌と言われても

そばにいるから」

ノール「嫌と言われたくはないけど…」

ナックル「…」

(こんなこと…フラットは絶対に言わなかった…

ファイターになって変わった?いや…変わりすぎだ。

まさか…あの男⁉︎いやいや、考えすぎだよな)

ノール「おい、バカ虎?」

ナックル「あ、どうした?」

ノール「こっちのセリフ。急にボーっとして、

疲れてるなら寝てればいいじゃん」

ナックル「何でもねぇよ、考え事してただけだぜ」

フラット「でも…ふわぁ〜…もう夜遅いし、寝よっか」

クレア「は⁉︎まさかここでか⁉︎」

フラット「しょうがないでしょ?まっ、さっきも

言ったけど、嫌と言われてもそばにいるし!」

クレア「…はぁ。何言っても意味がなさそうだな。

分かった、認める。ただし、明日には帰ってもらう」

ノール「その時はお前も一緒だ。いい?」

クレア「な、何でそうなる⁈」

ナックル「嫌と言われてもそばにいるって

言ってるだろ?」

フラット「言ってるのは僕なんだけど…」

ノール「フフッ、いいとこ取りされた」

フラット「もう…」

ナックル「もう寝ようぜ?流石に疲れてるし」

ノール「さっきは何でもないって言ってたくせに」

ナックル「話してるうちにだよ、悪いか!」

クレア「…ぷっ…アッハハハハ!お前ら、

案外いいコンビじゃねぇの?」

ノール「えっ…そんなことない」

フラット「えぇ〜…お笑いトリオじゃないんだけどなぁ」

ナックル「それより、まずは笑ったな。希望を生むには

まずは笑顔だ!笑顔なくして光あらずだぜ!」

クレア「…あんがと」

フラット「で…どこで寝よっか?」

ノール「もうこの部屋で雑魚寝でいいでしょ」

ナックル「そうだな、この季節だし、冷え込むことは

ないだろうしな」

フラット「それじゃ、僕、もう寝る…」

ノール「早っ⁉︎」

ナックル「本当に寝る速さだけはピカイチだな」

クレア「スー、スー」

ノール「お前はよく寝るな」

ナックル「俺たちも寝ようぜ」

ノール「それには賛成。私も…眠いから…」

ナックル「…ノールも寝たか。ちょっくら、席外して…」


フラット「ん…もう朝か…てことは…」

ノール「あぁ、どうやらクレアに対する争いは

起きずに済んだみたい」

クレア「嬉しいような…切ないような…

何なんだろうな、この気持ち」

ナックル「お、起きたか。ちょっと外出てみろよ」

フラット「外…?」


村人1「あ、出てきたぞ」

村人2「トリアさん、代表なんですから先に一言

お願いします!」

トリア「え〜っと…クレア。その…なんだ…

ありがとうございます!」

クレア「へ…?」

フラット「僕が教えといたよ。クレアの嘘」

クレア「何で…⁉︎」

フラット「クレアが笑顔を奪ってたから」

クレア「は?」

フラット「折角人を幸せにしてるのに、笑顔を壊して

無駄な怒りを作ってるんだもん。言っとくけど、

僕は嫌われようって考え方、大っ嫌いだから!」

クレア「フラット…」

トリア「この村が危険なら危険と教えてくれたら、

皆、引っ越してましたよ!」

クレア「だって…この村が好きだから…」

トリア「たしかにそうですけど…危険な生活を

続けるぐらいなら、引っ越すことも当然ですよ」

クレア「…そうか…」

フラット「クレア…?」

ノール「あ、分かった、守りたかったんでしょ?

クレアにとってかけがえのないこの村を」

トリア「あ…そうだったのか?」

クレア「悪いか…俺の第二の故郷だからな…」

ナックル「第二の故郷か。そりゃ、守りたいよな。

なのに、殺されようと思ってたのか?」

クレア「だって…俺じゃ守れない!」

フラット「そんなことないよ!今までクレアは

神力だけで何とか対処できたんでしょ?

だったら、ファイターになれれば絶対倒せるよ!」

クレア「それじゃ…遅いかもしれないだろ?

いつ、アイツが覚醒するか分からない以上、

俺が魂を消してでもー」

パシンッ!

ノール「…甘えたことばっか抜かすのも、

いい加減にしろ!聞くけど、お前、そんなに

死にたいのか?もうこの世に未練はないのか?

もしお前の魂を生贄にしてもヤツが消えなかったら

この村はどうなる?」

クレア「…それは…」

ノール「後先のことを何も考えず、命を絶とうと

するのは滑稽な物語だけにしてほしいね!

お前は愛されてる!だから生まれて、育って、

今ここにいる!」

クレア「…ちげぇよ!俺は愛に包まれて

生まれたわけじゃない!愛に包まれて

育ったわけでもない!無理矢理産まれて…

孤独に生きてきた…!」

ノール「…ごめん。でも…生まれたからには

愛されていい。孤独でい続ける理由はない」

クレア「でも…俺は何の取り柄もない!だから…

見栄はって、笑ってたかった!もう叶わないんだ!

何もかも…!」

ナックル「叶わないわけないだろ!」

クレア「…えっ?」

ナックル「人間誰しも、最初は取り柄なんかねぇ!

取り柄っていうのはな、他人と触れ合って、

それで気付くものだ!孤独であろうとするお前に、

そんな言葉を口ずさむ権利はねぇんだよ!」

クレア「綺麗事だな。俺は…」

フラット「クレア。綺麗事なんかじゃないよ。

僕だって、わからないもん。自分の取り柄なんてさ。

でも…誰かと一緒に、同じ気持ちを、同じ時間を

分かち合えるのってすごい楽しいよ!」

クレア「…俺にできると思うか?」

フラット「それはやってみなくちゃわからないよ!

できるとかできないとか言うより、まずはアクション!

それが、生きるって意味じゃないかな?」

クレア「…!」

ノール「まずはアクション、か」

ナックル「フラットらしいな」

クレア「…アクション…そうかもな、俺は

アクションを起こすのを恐れてる。誰かの大切なものを

なくしてしまいそうで…でも、それを壊して

また新しい大切なものを生むのが人生…フラット!

俺、アクション起こす!お前の言う、

生き方にトライする!」

無機質な声「強大な願望をキャッチ。

コード、クレアラント・ゴールド。接続可能。

ファイター承認画面に移行しますか?」

フラット「…きた!」

ナックル「クレア!」

ノール「やっと芽生えた」

クレア「…俺がファイター…!」

フラット「さて、新ファイターが目覚めたことだし、

早速、敵討ち作戦に入るよ!承認!」


最終節 力の意味


フラット「承認!」

無機質な声「承認されました。ファイタータイプ、

風神ソルジャー。神器、弓形」

フラット「ソルジャー…僕とノールと同じだね!」

クレア「これでも、神力は高い方だ!

見せてやる!俺の実力!」

フラット「うん!それじゃ…敵討ちの準備はいい?」

クレア「いつでも!ジッちゃん…感謝を込めて、

最初の戦陣、切らせてもらう!」

フラット「オッケー!皆さんは危険ですので、

村長の家のある高台まで避難してください!」


ナックル「で、どうするんだ?」

フラット「霧型の脅威は、大量の水蒸気を使って

本体を現す。つまり、この浄水場の水を

丸ごと水蒸気に変えれば!」

ノール「そうか、長い間、姿を現せる!」

クレア「それで、どのぐらいの時間

ヤツは実体化するんだ?」

フラット「大体…10分ぐらい!短い戦闘だけど、

4人いればなんとかなる!」

ナックル「だが、ヤツのせいで中継は不可能だろ?」

ノール「それなら、高台に人がいるわけだし、

応援してもらえるだろ」

クレア「つまり、なんの支障もないって解釈で

いいわけだよな?」

フラット「うん!それじゃ…戦闘モード、起動!」

クレア「うぉぉ…スッゲェ、俺の戦闘服って

こんななのか…」

ノール「え…スゴいイケてる…」

ナックル「今思ったが…クレアってイケメンだよな…」

フラット「うん…ライトグリーンがよく似合ってるよ」

クレア「い、今は、んなのどうでもいいだろ⁉︎

さっさと準備しろってんだ!」

フラット「あ、そうだね。神業・状態変化!」

フラットの詠唱で、浄水場に溜め込まれていた水が

一気に干上がる。そしてー

「ギャオォォン!」

という咆哮が、あたり一面に響いた。

フラット「…くるよ!」

ノール「見えた!」

とある家の屋根に突如として姿を現し、4人にむかって

宙をかけていく。

フラット「まずは、被害を抑えるためにも

結界を張るよ!神業・結界!」

異世界モンスター「グルル⁉︎」

ノール「よし、第一破壊『闇之』術・『闇夜行特急列車』!」

異世界モンスター「ギャフッ⁉︎」

ナックル「よっしゃ、動きが鈍くなった今が好機!

第一突進『光』術・『光纒タックル』!」

異世界モンスター「グルル…!」

フラット「支援力が枯渇してる…ここは普通に!

神業・制裁!」

異世界モンスター「バギュゥ⁉︎ア゙ヴン゙!」

フラット「これぐらいなら…いけるはず!」

と思ったのも束の間。異世界モンスターは最後の抵抗と

いわぬばかりに、全速力で村人が避難している

高台へと向かっていく。

フラット「嘘っ、結界は⁉︎」

ノール「まさか…もう半分気体になってるんじゃ⁉︎」

ナックル「なるほどな!まずいぞ!」

クレア「させるか!神業・風変化!」

ノール「なっ、1人で行くな!」


トリア「こ、こっちに来る⁉︎」

異世界モンスター「ギャオォォン!」

クレア「間にあえぇ!」

異世界モンスターの目の前に立ちはだかるクレア。

しかし、その刹那に村人に向けられていた

鋭く尖った爪がクレアの腹を貫いていた。

トリア「…!」

フラット「クレア⁉︎まずい、最後に託そうと

思ってたけど…これじゃ…」

ナックル「何を迷う必要がある⁉︎この状況で

敵討ちなんか無理だ!」

ノール「バカ虎の言う通りだ。ここは私達で倒すべき。

第二破壊『炎』術ー」

クレア「や…めろ…!」

ノール「…えっ?」

クレア「どんなに…カッコつかなくても…

コイツは…俺の仇だ!だから…応えてくれ…!

第一突風……『炎』術…『四方爆破之矢』!」

クレアの放った矢は、クレアの目の前で爆発し、

異世界モンスターに終焉を迎えさせた。

フラット「なっ…あんな目の前で爆発したら…!」

ノール「くっ…バカやろう…!」

ナックル「刺し違えてでも…なんて…

クッソ…!」

クレア「ゲホっ…ゴッホっ!」

フラット「…クレア!」

クレア「ッテェ!」

フラット「あ、治療!」

ナックル「…フラット。俺の翼、解放してくれ」

フラット「えっ…な、何で?自分ですれば…」

ナックル「…いいから頼む!」

フラット「?わ、わかった?翼、解放」

無機質な声「強制展開します。『清光之人工正翼』を

展開します」

ナックル「すまねぇな…クレア、すぐに治してやる。

神業・治癒」

クレア「…あ?痛みが…引いてく?」

ノール「ふぅん…バカ虎って珍しいファイターだな。

通常時とタイプが変わるなんて」

ナックル「戦闘でも、日常でも使いたくねぇけどよ」

フラット「ナックルさんって翼を使うの嫌いだもんね。

理由は覚えてないけど…」

ナックル「お前は覚えてなくていいぜ」

フラット「ふぇ?」

クレア「それより…終わったんだな」

フラット「うん…あれ?」

子犬「クゥン…」

フラット「わぁ、可愛い!生きてたんだ!」

クレア「…?生きてたって…何のことだ?」

フラット「異世界モンスターってね、異世界線で

存在してる動物の流れ者なんだ。でも…あれ?

何だったっけ?」

ナックル「おいおい…パラレルスペースって分かるか?」

クレア「し、知らない」

ノール「異世界線と異世界線の境界世界のこと。

そこには磁力のような力があって、その磁力の結晶石、

パラレルストーンが漂っている。流れ者がそれと

融合されるとアリジゴク、動物だったら

異世界モンスターになる」

ナックル「極まれに、パラレルストーンと分離できて

本体を助けることができるわけだ。その場合、

喰われたやつも元通りになるぜ!」

クレア「えっ…じゃあ⁉︎」

前村長「ん…?ここは…?」

クレア「…ジッちゃん…!」

前村長「…クレアか?ぼくは…どうなったんだ?」

クレア「…フラット…できた…俺…できた!」

フラット「うん、完璧とは言えないけどね」

クレア「同じ時間、同じ気持ち…分かち合えた!

ありがとよ…!」

ノール「で、どうする?ここを脅かしてた脅威も

いなくなって…?」

ナックル「いや…まだ気配が残ってるぜ。多分だが、

コイツはヤツらの頭って立場じゃねぇか?」

フラット「じゃあ…かなりまずいんじゃ⁈」

ノール「今度はあっちが敵討ちをしてくるだろう」

クレア「…皆!今日でこの村は解体することにします!

俺の…第二の故郷だけど…これ以上傷つけるわけにも

いかない!今日中に荷物をまとめて、俺が今から渡す

住所に引っ越してください!」

フラット「…ちょっと待って?土地代とかまさか…

自分で払ってたの?」

クレア「あぁ、おかげで借金だらけだ」

ナックル「…ったく、背負すぎだぜ!」

ノール「だったら、一緒に戦うしかないな」

クレア「…へ?」

キルユウ「いたぞ!おい!」

ノール「キルユウ⁉︎」

エド「やっと見つけたっすよ!まさか山頂にいたなんて

驚きっすよ!」

バジー「あら?脅威の反応があったはず…」

フラット「倒しちゃいました!それで…ペーターさん!

この、クレアを新ファイターに推薦します!」

ペーター「ま、まさか2ヶ月で2人も新しく

ファイターが入るとは…」

ナックル「そういえば、さっきどうやって爆発から

逃げられたんだ?」

クレア「矢を放ってすぐに風になって逃げただけだが?」

ナックル「あ、あぁ…そういうことか…」

バルシア「でも、この山の山頂に村があったなんて…」

クレア「外には知られてなかったか…ふぅ」

フラット「…そっか、新しく人が入ってこないように

口止めもしてたんだね」

トリア「そうだったのか…やっぱり…クレアは

何も変わってなかったのか…」

ノール「…それより…」

ナックル「ペーター、クレアの借金、デ・ロワーの

資金で返済できねぇか?」

クレア「は⁉︎」

ペーター「?いくらなんだ?」

クレア「に…二億四千万…」

フラット「…どうですか?」

ペーター「余裕だな。アカデミートップの企業だ。

いくらでも払える」

クレア「へ…い、いや俺の借金だ!」

ナックル「だから、背負すぎだって言ってるだろ?」

フラット「それに、僕達にとってもクレアは

友達だもん!困ってる時こそ助けなきゃ!」

クレア「…友達…」

フラット「それにさ、クレアは大切なものを壊すって

言ってたけど、僕は創造神ほどじゃないけど、

直すことはできる。元通りとまではいかなくても、ね」

クレア「フラット…」

ノール「壊れたものは直せばいい。もっと丈夫に」

クレア「ノール…」

ナックル「だから、一緒にこいよ!ここに

とどまる理由もないだろ?」

クレア「ナックル…」

エド「新しい仲間っすね!これからよろしくっす!」

クレア「…お前は誰だ?」

フラット「今こそ神力でしょうに!」

クレア「あ、それもそうだな!神業・風耳…

エドか。よろしく頼む!」

エド「は、はいっす!」

ペーター「それで、どうやってバスに戻る?

クレア君の神力で行くのかい?」

エド「頼りっぱなしなわけないっすよ!実は、

道標みちしるべにキウイの果汁を垂らしてきたっす!この匂いを

辿ればバスまで一直線っすよ!」

ペーター「…その作戦、前にナックラーもやってたな。

エド君、くれぐれも地面に垂らした果汁を舐めながら

バスまで行くなよ」

全員「えぇっ⁉︎」

ノール「さ、流石バカ虎だ」

フラット「き、キモっ⁉︎」

エド「そ、そんなことしたんすか⁈」

キルユウ「うわっ…最悪…」

バルシア「いくら俺でもしない!」

ナックル「おいペーター!言わなくていいことを

いちいち言うな!しかも大勢の前で!」

ペーター「アハハハ、だが悪いのはお前だろ?」

ナックル「グググッ…」

フラット「そ、それじゃエド?案内お願い」

エド「任せてくださいっす!」

バジー「…?そういえば、どこからキウイを?」

エド「あっ…」

ペーター「たしかにそうだ…?あれ、俺が没収した

キウイが…ない?」

フラット「バスに帰ったら罰ゲームだね」

エド「こ、今回ばかりは許してくださいっす!

食ってないっすから!」

ノール「まぁ、エドのおかげで帰れそうだし、

今回は特別ってことでいいんじゃない?」

フラット「…はぁ。今回だけだよ?」

エド「やったっす!」

ナックル「じゃあ向かおうぜ。デ・ロワーに客が

来るんだろ?」

エド「そうっすね。それじゃ、こっちっす〜!」

クレア「ジッちゃん…俺、やらなきゃいけないことが

できたから…ありがとう、今まで。さよならだけど、

頑張ってることがわかるぐらい輝くから!

見ててくれ!」

前村長「…もちろん。頑張れ、クレア」

クレア「あぁ…それじゃ。フラット、待ってくれ!」

フラット「挨拶、済んだ?」

クレア「あぁ、これから、よろしく」

フラット「うん!」

トリア「行っちゃいましたね…いいんですか?

あれ、伝えなくて」

前村長「ぼくはたしかに、クレアの父だ。でも、

アイツには酷いことをしてしまった。これでいいんだ、

アイツが幸せになるなら、な」

トリア「ブリーシュさん…」

ブリーシュ「ごめんな…お前に迷惑ばかりかけて。

幸せになれよ」

クレア「?」

フラット「?どうかした?」

クレア「いや…なんでも。今、ジッちゃんが

応援してくれたような気がしただけさ」

フラット「そ?応えなきゃね!」

クレア「勿論だとも!」

ノール「おい、遅すぎ!」

フラット「あ、ごめん!ほら、行こっ!」

クレアにフラットは笑顔で手を伸ばす。

クレア「…ったく、なら俺達だけで先回りしようや!」

クレアはその手をぎゅっと握り締めた。

クレア「神業・風変化!」

フラット「へ⁉︎」

ノール「あっ!」

ナックル「ん?」

ノール「アイツ、先にフラット連れてバスに

向かった!」

ペーター「はぁ…どうしてこうも問題児が集まるのか」

ナックル「おい、みなまでいうな!」


クレア「お、風の言ってた通り!」

フラット「もう…勝手に先回りしたら怒られるよ?」

クレア「怒られたいんだよ。分かるか?」

フラット「…何?Mっ気あるの?」

クレア「な、違うわい!」

フラット「アッハハ!冗談!分かるよ、

怒られたいって気持ち」

クレア「本当にお前は…お面白いやつだな」

フラット「そう言ってもらえると嬉しいよ。

誰かの支えになれるなら、ね」

クレア「俺もなれると思うか?」

フラット「うーん…多分もうなってるよ」

クレア「?」

フラット「だって、“僕達の1人”になったじゃん!」

クレア「!…さーてと、都会の風ってのは

どんなものかな」

フラット「こことは大違いだよ。そこら中に夢が

散らばってて、笑顔もたくさんあって、何より、

奇跡に溢れてる!」

クレア「奇跡が?」

フラット「それは、人それぞれのね。僕にとっては

日常、かな?」

クレア「日常、か。俺の奇跡は何だろうな」

フラット「もう決まってるんじゃない?」

クレア「口には出さないがな」

フラット「だよねー」

ノール「いた!この調子乗り!」

クレア「よっ!やっと来たか」

エド「先に行かないでくださいっすよー!

走り疲れたっす〜」

キルユウ「こんなんで疲れるなんて、本当にファイターか?」

ナックル「たしかにな!」

ペーター「それより、アレ、やらないのかい?」

フラット「あっ、そうだった!」

バジー「あの、この子も、ですよね?」

バルシア「へ⁉︎い、犬⁉︎」

キルユウ「本当に犬嫌いだよな」

ノール「じゃあ、フラット。抱っこする?」

フラット「えっ…い、いいの⁉︎」

ナックル「犬好きだよな、お前は」

フラット「うわぁ〜…モッフモフ…」

クレア「仇とはいえども、コイツは殺せないな」

ノール「何言ってんだ、お前の仇は

パラレルストーンの方だ。その力で

コイツは操られてたわけだし」

クレア「そうなのか?」

エド「えっ、一般常識っすよ⁈」

フラット「えっ…」

(今のこと…知らなかった…まさか…本当に?)

子犬「わう?」

フラット「あ…ごめんね。それじゃ、

集まって集まって!」

ノール「それじゃ、クレア中心で…その前に、

犬の名前決めない?」

フラット「じゃあ…目が星みたいに綺麗だから…

スピカ!スピカでどう?」

ナックル「おっ、いいんじゃねぇの?」

エド「星から取るなんて、分かってるっすね!」

フラット「そ、そうかな?」

ノール「じゃあ、クレア中心に、スピカを

頭上にするように…だからクレアはしゃがんで、

フラットはクレアの後ろ。バカ虎は私の右隣で、

キルユウとバルシアは私の左。ペーターとバジーは

左右に分かれればちょうどいいんじゃない?」

フラット「えっと…うん、収まる!」

ノール「それじゃ、バカ虎。合図は教えてあげて」

ナックル「おう!クレア、勝利のVサインって

言ってくれればいいぜ!」

クレア「わ、分かった。勝利のVサインー」

全員「キメっ!」

フラット「できた。じゃあ…一言お願い!」

クレア「一言…か。じゃあ……こんなもんか」

フラット「あ、見せてくれたっていいのに」

クレア「いつかな。それより、帰るんだろ?

早くしようや」

フラット「…しょうがない。乗ろっか」

エド「あっ⁉︎」

クレア「?どうし…キウイ?」

ナックル「お前、まだ持ってたのかよ⁉︎」

ペーター「やっぱり、フラット君、お願いするよ」

フラット「まぁ、これは流石に。神業・与罰」

エド「ギィィィ!」

ナックル「うっわ、電撃か…こえっ」

クレア「ぷっ…あっははは!やっぱお前ら、

お笑いトリオだわ!」

ペーター「…」

少し寂しそうな目の色をペーターは見せた。

バジー「どうされました?」

ペーター「いや、少し昔を思い出してただけだよ」

ナックル「ペーター…たしかに、“あの2人”を

思い出すよな、アイツら見てると」

ペーター「あぁ、アイツらも人を笑わすのは

“得意だった”もんな」

フラット「あの〜」

ペーター「うわっ、どうしたんだい?」

フラット「さっきから何話してるんですか?

もうバス、乗りますよ」

ペーター「あ、あぁ、そうか」

ナックル「帰るとするか」

フラット「?あの…何かあったんですか?

なんか…ナックルさんが無理してるように

思えるんですけど…」

ペーター「君は本当に勘が鋭いね。でも…

詮索せんさくしちゃいけないことも

人にはあるんだよ」

フラット「えっ…バジー、僕今、怒らせるようなこと

言っちゃいましたか?」

バジー「さ、さぁ…私は何も存じ上げませんので、

先に行ってますわ」

フラット「…なんかあったんだ…」

クレア「おーい、置いてっていいのか?」

フラット「あ、今行く!」


クレア「よっと、俺窓側!」

フラット「子供じゃないんだから」

ナックル「チェ、何でここなんだよ」

ノール「何?私の近くじゃ嫌?」

キルユウ「ほう…いい度胸してんな」

ナックル「ちげぇよ!フラットの隣が良かったなって

思っただけだ!」

バルシア「け、ケンカはやめよ!」

ペーター「…さっきはフラット君に言いすぎたかな」

バジー「ペーター様…あんなことがあったんです、

お気持ちは分かりますよ」

エド「皆さん、シートベルトは絞めたっすか?」

全員「OK!」

エド「それじゃ、目的地・浅草、デ・ロワー。

エンジン起動、自動フライトモード・オンっす!」

フラット「お、おぉぉ?飛んでる!飛んでる!」

ナックル「何でお前がはしゃぐ?普通はクレアが

驚くとこだろ」

クレア「いや、驚ろかねぇよ。月出身の俺がな」

ノール「えっ…月からどうやって地球に?」

クレア「色々あったんだよ。まっ、違法侵入だけど」

全員「はぁぁ⁉︎」

クレア「とは言っても、もう時効だろ?80年も

経ってれば」

ノール「未就学児の頃なら…犯罪者でもないか」

フラット「ま、まぁそういう話はやめにして!

そういえば、ナックルさん、さっきあの2人って

言ってたけど誰?」

ナックル「‼︎」

ノール「あの2人?」

バルシア「そういえば、4年前に大ニュースが

ありましたよね!デ・ロワーのファイター2人が

命懸けで宇宙船の危機救う!って」

キルユウ「たしか…バジョーとグリテール…だったか?」

ナックル「…あぁ、その2人だ」

フラット「あっ…」


ペーター「詮索しちゃいけないことも

人にはあるんだよ」


フラット「…やっちゃった……?あれ…なんだ…

急に眠気が…」

バタっ

ノール「フラット⁉︎」


回想終了

フラット「クレアと出逢ってから騒がしくなったなぁ」

クレア「そうか?」

フラット「うわっ、聞こえてた⁈」

クレア「あぁ、おもっきし」

フラット「ま、まぁそんなことより発注どうしよっか」

「?あ、クレア!」

クレア「この声…トリア!」

トリア「イベントやるって聞いて応援しにな!

で、困ってるんだろ?木材か。俺の所から

いくらでも出してやる!」

クレア「いいのか⁉︎」

フラット「助かります!」

トリア「おっし、負けとくよ!頑張れよ」

クレア「勿論!ジッちゃんも見てくれるんだろ?」

トリア「あぁ、いつも見てくれてるぞ」

クレア「っしゃ!フラット、今回のイベント、

必ず成功しような!」

フラット「勿論!ってうわっ、また⁉︎」

クレア「本当に今日は元気いっぱいだなぁ…って、

俺の写真!」

まるで風がイタズラをしたかのように、

クレアの写真をヒラヒラと踊らせる。

『俺の風が輝く場所』という文字を木の葉で隠しながら

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