第四十八話 山なのです!
ジーワジワジワジワジワジワジワ……
ツクツクボーシツクツクボーシツクツクボーシ……
ミーンミンミンミンミンミン……
「夏だ……」
「夏じゃのぅ……」
「夏なのです……」
「夏だねぇ……」
夏を蝉の声と立ち並ぶ太く立派な木々の葉が風で擦れる男のみが響く山中、その森の中にある所々苔の生えた石畳の古道を四人は歩いていた。
「それで水無月よ。意外と涼しいからまだいいものの、なんで妾達はさっきまで海にいたのに山の古道を歩かされておるのじゃ。というかそもそもここはどこなのじゃ」
「ここは熊野古道っていう世にも珍しい道が世界遺産になってる場所だよ」
「道が……?この?」
「そうそう。道が世界遺産に登録されたのはここが2例目だったかな?でも正しくはこの道が、っていうよりこの熊野古道がある霊場と参拝道として登録されてるんだったかな」
「……?というと、どういうことなのです?」
「えっとねぇ。すっごい簡単に言うと、ここ紀伊山地には3つの霊場があってね、それぞれ違う宗教の霊場なんだけどそれらを結ぶのがこの道、熊野古道なんだよ」
「宗教の聖地が共存……それは凄い」
「ほぉ。宗教なんぞ争いを生み出すだけかと思っておったが、共存もできるもんなんじゃなぁ。じゃが水無月、流石にこれだけというわけじゃああるまいな?」
「ふっふっふっ……!汗かいて運動した後はやっぱり─────」
ーーーーーーーーーーーー
「「「「あぁー……」」」」
鳥の囀り、セミの鳴き声、そして川のせせらぎが聞こえる中、湯浴み姿の四人は蕩けきった表情で川の中に浸かっていた。
「いやぁー……まさか川が温泉になっておるとは……」
「暖かいのですー……心地いいのですー……」
「不思議な感じー……」
「いいでしょ、和歌山の川湯温泉。冬は仙人温泉っていうのが出来るけど、夏も夏で水遊びしつつ温まったりしつつ出来て私も気に入ってるんだよね。でも割と綺麗好きな皆が付き合ってくれるとは思わなかったよー」
「というと?」
「ほら、普通のお風呂とか温泉に比べたらここって天然の川じゃん?だから苔とかで汚いって嫌がる同僚も多くてさ」
「汚い……って言われても、妾は元の世界で過ごしてた時は湖とか川で水浴びしてたからのぅ」
「アタシもなのです。お風呂なんてなかったのです」
「そもそも体がない」
「ロクラエルちゃんはともかくとして、それならこれくらい問題ないってことか」
「じゃな。綺麗な風呂に入れるのはいい事じゃが、これくらい妾達にとってどうということは無い。とはいえ、流石にここまで石だらけだとちと尻が痛くなるのぅ」
「一応ここって河原ならだいたいどこ掘ってもお湯出てくるから、自分好みのお風呂が作れるっていうのを目玉にしてるし、せっかくだしやってみたら?」
「そうなのです?!へグちゃん!」
「うむ!やるぞノルン!」
「へっ?!ちょっ、二人共!?」
「なんやかんや言っても、お風呂は楽に入れるのがいい」
水無月の話を聞き、いきなり魔法を使って河原にマイ風呂を作り始めた二人により、水無月の静止も虚しく数分後には寝転がりながら湯船に浸かれる素敵なお風呂が出来上がっていたのだった。
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