報告書じゃよ

「うーん……うーーん…………」


「む、どうした水無月よ。せっかくあの世界での仕事が終わり夜には宴会があると言うのに」


 元の世界、支部の人が取ってくれていた高級ホテルの一室で、あの世界から戻ってきたのにも関わらず唸り声を上げていた水無月にヘグレーナがそう語りかける。


「いやぁ。その宴会迄に仕事終わらせようと思って報告書書いてたんだけど、私今回画面越しに見てるだけだったからさ、どうにもまとまんなくて」


「ふむ。では代わりに妾が書いてやろう」


「へ?いいの?というか出来るの?」


「任せろ。妾だってそれくらい出来るようにならんといかんからの」


「向上心があるのはいい事だね。それじゃあ任せようかな」


 ーーーーーーーーーー


 異界報告書


 第三異世界「異世界」に関する報告


 現場、大阪府大阪市新世界で観測された歪みよりたどり着いた異界に関する最終報告


 概況:先日新世界にて発生した異界より帰還後、歪みの反応の消失を確認、状況終了


 世界に関する情報

 植生、生態系はこちらの世界と同じような状況であった。

 扉近辺で確認した街は────


 ーーーーーーーーーー


「あぁいう建築ってなんて言うんじゃ?」


「中世ヨーロッパの建築様式でいいと思うよ」


「あいわかった」


 ーーーーーーーーーー


 中世ヨーロッパの建築様式であり、道路などのインフラも無かった為技術レベルもこちらの世界では中世頃と同じであると考えられる。


 歪みの元凶

 向こうの世界の協力者であるRの目標の対象者であった呼称「勇者」が元凶だったと考えられる。


 ーーーーーーーーーー


「こんなごちゃごちゃ書かねばならぬのか?呼称勇者やらロイドの事を協力者Rの目標の対象者やら」


「向こうの世界での出来事を知ってるのは私達だけだからね、個人名とかじゃなくてこんな感じでぼやかす方がいいんだよ」


「ふーん、そんなものか」


「そんなものなんだよー」


 ーーーーーーーーーー


 備考:勇者は自身の強烈な想いによって引き起こした空間の歪みに影響を及ぼし、自身の能力や身体能力を強化する空間、仮称「想域」を生成、身体能力と治癒能力の大幅な上方を確認した。


 ーーーーーーーーーー


「想域?」


「想いの領域で想域、妾が名付けた。どうじゃ、悪くは無かろう?」


「悪くは無いけど、なんかそんな特別な事があったの?」


「なんじゃお主、妾達のあの死闘見てなかったのか?」


「最初から最後まできちんと見てたよ?あの勇者がショットガン受けて死ななかったのは驚いたけど、その後ロイド君のなんか凄い攻撃で倒したじゃん」


「まさにそのシーンの事なんじゃが……ええい話がすすまん。どうせ戦闘の様子は映像で記録してあるのじゃろう、水無月よそれを見せてみるのじゃ!」


「別にいいけど」


 あの勇者の人影を生み出した結界について何も知らない様子の水無月を見て、説明するよりも見てもらう方が早いと判断したヘグレーナに言われるがまま、水無月は録画しておいた戦闘の様子を再生する。

 しかし最初から最後まできちんと録画されていたその映像には、勇者やロイドの使った想域の様子は写って無かった。


「っれぇ……映っておらぬなぁ」


「でしょ?まぁでもヘグレーナちゃんが嘘をつくとは思えないし、一応そこは可能性あり程度にしておいて断言は避けとこう」


「その方がよさそうじゃな。追記はどうすればよいかの?」


「そこは今回の作戦における問題点とかを書くから、私に任せといて」


「ん、ならば後は任せようかの。これで妾も少しは役に立てたじゃろ」


「いやぁー、行き詰まってたから本当に助かったよ。まぁそれはそれとして、ロイド君元気にしてるといいね」


「彼奴なら大丈夫じゃろう。なんたって妾達が色々な技術を仕込んだ強者じゃからな!」


 ーーーーーーーーーー


「ふぅ……残党もこれで終わりかな?」


 精霊歴300年、暦の始まりから続いた永い人類と魔王の戦いは真の勇者の登場により幕を閉じ、平和な時代が訪れていた。


「ロイド君!こっちも大丈夫だよ!」


「ありがとうアレーニャ」


 そして魔王を打ち倒した勇者は、愛する者と旅に出ていた。


「師匠、僕は元気にやってます。貴女もどうか、ご健勝を」


 あの日々を胸に刻んで。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る