第四十三話 想いの領域なのです!

「サァ、本当の戦いはここからだぜロイドォ!」


 ガァン!


「「?!」」


 自分の名前を叫びながら切りかかって来る先程とは違う雰囲気を湛えた勇者の姿に気圧され、そのまま切り捨てられそうだったロイドに剣が届く寸前、ノルンの射撃をすんでのところで勇者は避け、大きく距離をとる。


「ちっ、勘がいいのです。当たれば必殺だったのに」


「そう結果を急くでないノルン。威圧されて固まったロイドがあのまま死ぬのを防げたのじゃ、それだけで上等じゃろう?」


「そもそも、ダッシュしながらいきなり対物ライフル取り出して狙いを定めるのがやばい」


「師匠!それにお二人も!どうしてここに?!」


「まぁ、話しても別に長くはないんじゃが────」


 ーーーーーーーーーー


「ロイド君、大丈夫かなぁ」


「ま、妾達は遠くから見守るだけよ。っと、あーあー。あんな奴相手に一撃貰ってまぁ」


「でもアタシの教えた体術で追撃防いだのです!」


「それに、追撃も見切って反撃した。教えが生きた」


 ロイドを下ろした街の近く、林の中に停めたキャンピングカーの中で四人はドローンのカメラ越しに、四人は街中でロイドが勇者と戦っているのを観戦していた。


「っと、決着が着いたみたいなのです!」


「ん、ロイドの圧勝。当たり前」


「近接、技、魔法、それぞれに強い妾達が出し惜しみなく修行を行ったんじゃ。あの程度なら例え勇者であろうと────」


 ビーッビーッ


「なんじゃ!」


「近くに強い歪みを感知!場所は……距離と方角からしてロイド君の近く!」


「しまった!あの勇者が歪みの元凶じゃったか!」


「だとすると不味いのです!」


「急いで行かないと、水無月」


「分かってる!皆捕まって!」


 車に積んである空間の歪みを観測する機械が反応し、その反応からロイドの近く、勇者が今回の目標対象であると分かった四人は任務を達成すべく、そしてロイドを救うべく急ぎ動き出し────


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「今に至るという訳じゃな」


 ノルンとロクラエルが様子見がてら中近距離で勇者を牽制している間、ヘグレーナからロイドは説明を受けていた。


「そうだったんですね。でも、ありがとうございます」


「ロイド君、その人達は?」


「僕の師匠だよ。三週間の間、僕をここまで鍛え上げてくれた恩人さ。もう一人美人のお姉さんもいるんだけどね」


「……女の人ばっかり」


「ん?何か言った?」


「いーえ何も。それより、これは一体なんなの?ロイド君が勇者様を倒したと思ったら、なんだか取り込まれたような感じがしていきなり街の人達が……」


「勇者様ー!」「負けないで勇者様ー!」『勇者様カッコイイー!』「そんな奴らぶっ潰せー!」『勇者様最高ー!』『勇者様コソ志向!』「勇者様ー!」「勇者様万歳ー!」


 アレーニャに言われ二人が辺りを見ると、周りの人々はみな一様に虚ろな目になり、黒い人影のような物と共に勇者に対する応援コールが巻き起こっていた。


「なんだ……これは?」


「もしや操られておるのか?ロイド、あの勇者にはそんな力が?」


「いや、そんな力は無いはずです!」


「だとしたら一体この状況は……それに、半分くらいは影のような輩ではないか、あ奴らは一体────」


「ヘグちゃん!なんだかこの人強くなってきてるのです!」


「分かった!早々にケリをつけるぞ!」


「わ、私もお手伝いします!ロイド君も!」


「……分かった、分かったぞ!ロクラエルさん!観衆と僕達の間に防音の結界をお願いします!」


「分かった!」


「────!」「────!」『勇者様ー!』「────!」


「これはもしや」


「はい!勇者は声援を得て強くなる、こいつは何らかの力で民を操り、虚構の影を生み出して自分を応援させて強くなってるんです!」


「完全には防げてない、けど!」


「さっきより少し強くなる速度は弱まってる気がするのです!」


 ロイドの指示に従い、ノルンと近接戦をバトンタッチしてすぐさま防音の結界を貼った事で、完全ではないながらも勇者の強化をなだらかな物へと変えることに成功する。


「ノルン」


「分かったのです!」


 ロクラエルによる飛び回し蹴りからの着地後、蹴った方とは別の足による踵落としを勇者が剣で防いだ事で防御が崩れたのに合わせ、勇者の懐へと潜り込んだノルンによる魔法で強化を受けたショットガン二丁がほぼゼロ距離で炸裂する。


「くっ……ははは……!あはははは!俺は、俺様はその程度では死なんぞ!うおらぁ!」


「んぐっ!」


「くっ……!化け物め」


 だがそれでも謎の強化により最早人外の域にまで達した勇者は、腹からダラダラと血を流したと思えば、高笑いしつつもう血の止った腹を見せながら高笑いした勇者は、ノルンを蹴り飛ばしロクラエルを殴り飛ばす。


「どうやってあれ倒すのです?ゼロ距離でスラッグ弾撃ってこれじゃあお手上げなのです」


「攻撃の威力も時間が経つ事に上がってる。受け流すのにも無理がある。ヘグレーナ、タネは分かった?」


「ふむ……歪みを通じ自身の欲望や想いを現世へと投影する。想域とでも言おうか、想いの強さによる自己強化の結界とは厄介な事を。ロイドよ、お主は今の内に……ロイド?」


「これが……自分だけが褒め称えられるだけがこの勇者の願いというのか……?」


「ロイド……君?」


「そんなもの……勇者では、ない!」


 ヘグレーナの分析を聞き、この薄く気味の悪い勇者を賛美する群衆が生み出されている状況が勇者の心であると知ったロイドがそう言うと、ロイドから波動のような物が迸り、勇者の生み出したステージを飲み込んで行く。


「これはもしや……ロイドの、想域?」


「勇者を褒めてた人影が消えていくのです!」


「ロイド……貴様ぁ!」


「これで終わりだ、レイド!」


 自身のステージがロイドのステージによって打ち消され、高笑いを止めロイドへと襲いかかって来る勇者、レイドを神速の一閃をもってロイドは打ち倒したのだった。


「安らかに眠れ、勇者よ」


 こうして、歴代最強の勇者は追放者ロイドによって打ち倒されたのだった。

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