第三十九話 無能と言われパーティを追放された件らしいのです
「つまりロイド、お前はこのパーティーに要らないんだよ!」
夕暮れ時のある酒場、ドンッと強く机の叩かれた鈍い音と共にそんな怒声が賑やかで楽しげな雰囲気に包まれていた酒場に響き渡り、不穏な空気へと一変させる。
「いきなりどうして……いつも僕は皆の為に──────」
「言い訳なんて要りませんわ。だって貴方、弱いんですもの」
「んなっ?!僕だって立派にこのパーティーの戦力として戦えて────」
「ごめんなさい。でもこの先更に厳しくなる戦いに貴方を無理に連れて行って死なせたくないの」
「そんな……アレーニャまで……」
「ま、そういうことだ。手切れ金くらいは出してやるからよ、大人しく出てってくれよ」
「っ……!」
男に続くようにして気の強そうな女性にそう言われ、縋るような顔で見た優しそうな女性にもそう突き放されたロイドと呼ばれた男は、何も言い返す事が出来ず荷物を手にする事も忘れ酒場から走り去った。
男はそのまま街を出ていき、自分がどこに居るかも考えること無く泣き喚きながら走り続けた。そして男が正気に戻った時には、どこかも分からない森の中で倒れていた。
「……ははっ…………ははははは……はははははははははははははははは!」
小さい頃から虐められて、それが嫌で毎日努力して、ようやく幼馴染のアレーニャと共に冒険者になって、実力が認められて勇者パーティーに入ってこれから僕の人生も少しはと思ったらこんな目に……
グルルルルルルルルル……
「…………しかも、気付いた時には知らない森の中でグレートウルフの群れの中……ははっ!まさに僕の人生に打って付けな最後じゃあない────」
「降れよ星々「星辰」!」
「殲滅完了、流石ヘグレーナ」
「なんだか騒がしいと思ったら狼の群れだったのです」
何が……起こっ……て?星が降って……翼がある人が……
「天……使…………?」
自分の人生の最後を前に、夜空を見上げていた男の元へ現れた三人の美少女を見た男は、そう呟くと気を失った。
「「「あっ」」」
「えーっと……運ぶ?」
「とりあえず息はあるのです。放っては置けないのです」
「なんじゃ理由もありそうじゃしなぁ。ま、水無月に相談あるのみじゃな」
そしてそんな男を偵察に来ていた三人、ヘグレーナ、ノルン、ロクラエルはひとまず水無月からの指示を仰ぐべく、男を担いで扉まで戻るのであった。
一体どうしてこうなったのか、それは数時間前に遡る。
ーーーーーーーーーーーー
「で、水無月や。これのどこが西日本最大の都市なんじゃ?」
「人っ子一人いねーのです」
「無人街も、これはこれで趣ある」
「あ、あはははははは……」
朝の八時半、八時にホテルから出発し大阪へと辿り着いた四人は、大阪府に入ると共に待ち伏せていた大阪支部の職員に引き止められ、案内されるがまま外の見えない車に押し込まれ、気づけば無人の街に連れてこられていた。
「しばらくここで待っていろと言われたが、水無月や。ここがどこかくらいは分かるか?」
「それは勿論、ビリケンさんにやたら特徴的な看板の多いこの通りそしてたっかい天に通じるあの通天楼、間違いなく大阪の繁華街の新世界だよ。常に人がいっぱいいるはずの……ね」
「その通りです。水無月管理官」
「……私は別にこの子達を管理してる訳じゃないですがね、倉町さん」
「おや、それは失敬。そんな化け物達と一緒に辺境の地から旅して来た管理官様にとってはかけがえのないお友達でしたね」
「……あ?」
「ウザイ」
「みーちゃん、あの人やな感じなのです」
「ごめんね、ちょっとだけ我慢してね」
「我慢するのはいいが、なんじゃあの不敬な男は」
「あの人は倉町さん。近畿支部の支部長で、昔からの同期」
「成程、それで同期なのに負けてるから、逆恨みで」
「まぁ……うん、そんな感じ。それで倉町さん、歪みの場所は?」
「ふん。貴女方なら言わなくても分かるのでしょう?自分の仕事すら出来ないのですか?」
「あら、まさか嫌がらせで情報を出さないと?それは職務放棄ではなくて?」
「みーちゃんが女口調になってるのです……」
「……怖い」
「あぁ?」
「はい?」
「まぁ落ち着け水無月。どちらにせよ妾達が扉を作らねばならぬ事に変わりは無いのじゃ、ここは大人しくやってやろうぞ」
「ふんっ。最初から大人しくそう言えばいいものを」
「ヘグレーナちゃん……」
「大丈夫じゃ、それに歪みが強いおかげで充分に場所は分かっておる。それに門も今なら片手で……こうじゃ!」
水無月と倉町の言い合いに割って入ったヘグレーナはそう言うと、水無月とノルン、ロクラエルを連れて新世界の広間に設営されたテントから出る。
そしてヘグレーナがテントへ向かい右手を向けると────
ゴゴゴゴゴゴゴ……!
「うわぁ!」「なんだ!」「あぁっ!機材が!」「テントがぁ!」
扉の出現と共に、一瞬だけ空いてしまったどこに繋がるかも分からない空間の穴に、設営してあったテントの中にあるウン億円はくだらない機材等が消えていったのだった。
「ウン億円の……機材が…………おのれ……!この事は本部へと報告するからな!」
「何を言っておる。歪みがそこにある事は機材で分かっておったこと、そんな場所に設営しておいて退かしもせず扉を作れと言ったお主の責任じゃろう?なぁ水無月」
「こればっかりは……うん、倉町さんの職務怠慢になるかな。ご愁傷さまです」
「んなっ?!そんな屁理屈が通る訳────」
「通るのです。だってそれが事実なのです」
「そ……んな……」
「さて、バカは放っておいて。水無月、指示は任せたぞ」
「うん、任せて。各員、作戦要項一号を行う!行動開始!」
ーーーーーーーーーーーー
そして今に至り────
「で、私こったの世界に来て大丈夫か確認してた所、この人を拾ったと」
「なのです」
「じゃな」
「うん」
四人が活動する用の拠点や備蓄を運んだ自衛隊員が後ろで扉から元の世界へと戻る中、水無月はヘグレーナ達が運んできた男を前に三人から報告を受けていた。
「まぁ危険人物じゃないなら情報を仕入れる為にも、暫くは置いててもいいと思うけど。念の為ヘグレーナちゃん、扉だけは魔法とかで隠しといてくれる?」
「あいわかった」
「う、うぅん……ここは……」
「あ、起きたのです!」
「よかった、無事だ」
「ここは…………それに貴女方は……」
「私達はこの森に住んでる住人です。貴方が倒れていたのを見つけた為、私達の居住地へと運び込みました」
「良くもまぁそんなでまかせをホイホイと……」
「役人は口が回るのです」
「うるさいよ二人共」
「そう……だったのか…………名乗り遅れた、僕はロイド。つい先日まで勇者パーティーに所属していたしがない冒険者さ」
ちょうどヘグレーナが拠点であるプレハブ小屋から出た所で目を覚ましたロイドに対する水無月のでまかせに小声で突っ込む二人と、それに反論する水無月を他所目にロイドはそういって感謝を伝えるのだった。
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