第十九話 異界へ繋がる天守
「ふぅー……食った食った、満腹じゃあ」
「大満足なのですぅ……」
「鯛、最高」
ホテルのチェックインを済ませ今晩止まる部屋へと向かう道中、鯛料理をおなかいっぱいになるまで堪能した四人は、大満足といった顔で歩いていた。
「皆いい食べっぷりだったねぇ。まさかあの後鯛料理コースまで行くとは」
「いやぁー……美味しくてつい、のぉ」
「流石国内最高級」
「味も食べ応えも最高だったのです〜♪」
「それは良かった。さて、部屋にも着いたし…………うん、充分に日も暮れてるね。それじゃあ二人とも、いつものお願いしていいかな?」
「あいわかった」
「任せて」
部屋へと入り空に輝く月を見て水無月がそう言うと、ノルンが部屋の鍵を閉める横で窓際へと向かった二人は呪文を唱え始める。
「輝き癒せ「月魄」」
「さて、何も無いといいけど」
「とりあえず今回もヘグちゃんだけの魔法の時点では反応はなさそうなので────」
バギン!
「「「?!」」」
ヘグレーナの足元で淡く輝いていた藍色の魔法陣が一瞬だけ一際大きく輝くと、大きく一つのヒビが入り次の瞬間粉々に砕け散る。
そしてその砕け散った魔法陣の光が昇る中、ヘグレーナが手を掲げるとその手の中へ魔法陣だった光が吸い込まれ一つの大きな光になると、その光は窓を突き抜け一つの方向へと飛んで行く。
「今のは!」
「……残念ながら、歪みが見つかったようじゃの」
「しかも、割と近くに」
「その場所は……どこなのです?」
「目と鼻の先、ここからも見えるあの建物────」
「松山城か……!」
窓際へと近寄り手を夜の街並みを移す窓へ当てた水無月は、その夜の街に浮かぶライトアップされた松山の城を目に写しつつ、そう厳しい顔で呟くのだった。
ーーーーーーーーーーーー
翌日の朝早く、未だ太陽の上り切らない時間帯の事。
全面立ち入り禁止とされた松山城の県庁裏登城道から長者ヶ平へと車を走らせて来た四人は、城内へと続く門にある「補修工事に付き立ち入り禁止」という立て看板を通り過ぎ、城の中へと入る。
「これが日本の城か、元の世界で見た城とは全く違う見た目じゃなぁ」
「へぇ、どんなのだったの?」
「やたらめったら何重にも石造りの壁があってのぉ。建物も石造りで地味で、あんまり見てて面白味はなかった気がするのぉ」
「石造りっていうと海外のお城みたいな感じなのかな?二人はどう?元の世界のお城と違いあった?」
「私、お城自体初めて」
「アタシも想像してたのと違ったけど、お城って白くて綺麗でオシャレなのです!」
「そういや二人は自分の里とかから出た事なかったんだったっけ。でも日本のお城を気に入ってくれたみたいで私も嬉しいよ。さて……」
「お待ちしておりました」
人の居ない松山城の本丸を歩きながら、お城に対するそれぞれの感想を話したりしつつ、自衛隊によって包囲された天守へと着いた四人をそう言って軍服に身を包んだ男、前回も四人を迎えたあの陸将が出迎える。
「お疲れ様です陸将。歪みの詳しい場所は特定できていますか?」
「はい。場所はこの上、天守閣にて反応がありました」
「天守閣に……ですか。不味いなぁ……」
「何が不味いのですか?まさか門を作れないとかなのです?」
「いや、扉は作れると思うんだけど……」
「天守閣……上……もしかして、ここの頂上?」
「よく気づいたね、ロクラエルちゃん」
「確かに、それはまずいのぉ」
先行して詳しい位置の割り出しに当たっていた陸将の報告を受け、渋い顔をした水無月を見て三人はそれぞれ思った事解かったことを声に出していく。
そして最後にヘグレーナが言った通り、天守閣という場所で反応があったのは非常に不味い状態である。
前回の反省も踏まえ、元々今回以降の作戦では前回程の規模で異世界に行く予定はなかったものの、車すら入れない場所では異世界での行動が狭まってしまうのだ。
「じゃが出来ることなら早めに行かねばなるまいて、あまり時間はかけられぬぞ」
「どうするのです……?みーちゃん」
「…………悩んでても仕方ないか……こちらで最低限の準備を整えます。二時間後、天守閣にて前回と同じように扉を作り、ひとまず異世界の状況を確認します。ロクラエルちゃん、お願いできる?」
「任せて」
「それまではアタシ達は出撃の用意なのです?」
「そういう所だね、準備が終わったら物資を運ぶのを手伝ってくれると助かるな」
「重いものを運ぶなら妾達の方が力あるからのぅ。とりあえずそうと決まれば妾達は着替えてくるからの」
「ん、お願いね。では陸将さん」
「はい。コホン……全体傾聴!ヒトマルまでに天守閣へ運び込めるサイズの物資を運び込む!以上!」
陸将のその呼び掛けと共に、待機していた自衛隊員が慌ただしく動き始め、そして二時間後────
「それじゃあ扉、作る」
「お願いねロクラエルちゃん」
松山市を一望する松山城の天守閣にて、水無月の前でロクラエルがそう言って手を合わせ魔法を発動させると、天守閣の真ん中には白色の大理石の様な石で出来た両開きの扉が現れたのだった。
「それじゃあ皆、行くよ!」
「「「おー!」」」
そしてその扉の向こうへと、四人は足を踏み出したのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます