第十話 本土最南端なのです!

「いやー、にしても昨日は大変だったのです」


「じゃのーぅ。まさかようやっと自由になったのが夜中の二時とは」


「ん、本当大変だった」


「あははは……ごめんね皆?」


 お昼の最も忙しい時間が過ぎ人気も減ってきた時間帯、無事にあの荒廃した異世界より戻ってきた四人は、あるお店のカウンター席に座っていた。


「全くじゃ。除染作業やら除菌作業やら色々あったからのぅ。でもまさか、あやつを倒した途端道が閉じ始めるとは思ってもおらなんだ」


「あれはびっくり。せめて暫くは持つと思ってた」


「でも倒した瞬間パッと消えなかっただけよかったのです」


「まぁ仮にも道が出来てた訳じゃからな、トンネルが崩れたとしても一瞬で埋まらないのと同じようなもんじゃ。所で水無月よ、だいぶ設備置きっぱなしにして帰ってきたが大丈夫じゃったかの?」


「あはは、だいぶ国研から文句言われてるよ。でも帰れなくなるよりはマシでしょ」


「それはそうなのです」


 そう、ヘグレーナが大魔法であのフライングマジシャン骸骨を倒し三人の元へと戻って来た後、もう一度あの祭壇を破壊すべく出発する準備を整えていた所、地震とも思える程の空間自体を揺さぶるような揺れが発生し、すぐさま全施設をそのまま破棄し撤退する事となった。

 そして彼女達が戻って来て数分後、扉は崩れ去り空間の歪みは綺麗さっぱり無くなっていたのだ。


「まぁその文句もどうせ、あのバカ男じゃろう?」


「お、よく分かったねぇ。もうまた繋げろ繋げろって煩くてねぇ」


「あの人、結局私達の目的理解しなかったのですか……」


「まぁ次からは来ないみたいだよ。なんせ今回の作戦に大きな支障をきたしてたからね、文句付けたら今後は控えるって上も言ってくれたよ」


「国もそこまで馬鹿じゃ無くて、よかった」


「じゃなぁ。というか、また同じことがある前提で話を進めておるんじゃな」


「そりゃそうだよ。1度あった事は対策立てるのが国だからね。失敗を繰り返す訳には行かないんだから」


「へい、鹿児島ラーメン四丁お待ち」


「「「「おぉー!」」」」


 そんな会話をしていた四人の前へ、豚骨ベースなのに白濁としていない、刻みネギとチャーシュー、そして海苔の乗せられた鹿児島ラーメンが並べられる。


「これは、美味しそうだねぇ!」


「なのですー!それに……どことなく甘めの醤油の匂いがするのです!」


「流石ノルン、鼻が聞くのぅ。おぉ、ストレート麺とは妾の好みにドンピシャではないか」


「……ぷはっ、おいしい」


「あ、1人だけ早いのです!それじゃアタシも!んんっ!チャーシューがとろけるのです!」


「んっ、意外と豚骨の臭みが少ない。私好きかも」


 こうして、四人は昨日の事について話ながらも鹿児島ラーメンを堪能したのだった。


 ーーーーーーーーーーーー


「それで水無月よ、今はどこへ向かっておるのじゃ?」


「ふふふっ、せっかくだし宮崎県に行く前に本土最南端に行ってみようかなって」


「本土最南端?」


「そ、佐多岬っていう場所なんだけどね。凄くいい景色なんだよー」


「おぉ!それは楽しみなのです!」


「さて、そうこう話してたら着いたね。私は車停めてくるから、皆は先に景色を堪能しておいで」


「「「はーい!」」」


 お昼ご飯から数時間後、先に水無月にそう言われて遊歩道入口前で車から降ろされた三人は、返事をした後近くの建物で色々と見始める。


「へぇ、これがここのマスコット」


「可愛らしいやつじゃな。丸くて緑で、頭には灯台も乗っけておる。おっ、岬の方に行くと展望台もあるみたいじゃよ。だがまぁ……あれ凄いのぉ」


「なのです!あの木凄く存在感あるのです!」


 そう言ってノルンが指を指した案内所の前には、ツタが沢山垂れ下がっている幾つもの幹が絡み合った様な、大きく枝と葉を広げたガジュマルの木がそこにあった。


「これ、本当に凄い」


「ふむ、これはガジュマルとか言う木らしいの。じゃが、前に水無月が買ってきた小さな植木もそんな名前だったはずよのぅ?」


「それだけ植物の成長は凄いのです。アタシの里の木も毎年一メートルは伸びてたのです」


「それはノルンちゃんの地元がやばいだけだと思うけどねー」


「お、水無月やっと来たか」


「皆お待たせ。ガジュマルの木も凄いけどこっちも凄いよ」


 車を停めて戻って来た水無月にそう言われ、三人が水無月の手招きする方へ行ってみると──────


「「「おぉー!」」」


 青い海に浮かぶゴツゴツとした岩肌の小さな島々と、青々とした緑に覆われた本州の最南端を見て三人は海風に髪をなびかせながら歓声を上げる。


「これは……凄いのです!」


「うん。凄く、綺麗」


「じゃのぅ。あの一番先の島にある建物は灯台とかなんかなんじゃろうか」


「だと思うよー。さて、それじゃあせっかくだし写真でも撮ろうか!皆集まって集まってー……はい、チーズ!」


 そう言ってシャッターを切った水無月のカメラには、日本の最南端を背景に両手でピースするノルンや、真顔ながらも小さくピースしているロクラエル、そして大きくジャンプをしているヘグレーナがそこには写っていたのだった。


 ーーーーーーーーーーーー


 本土最南端の景色を堪能した一行は、次に近くにある御崎神社へと来ていた。


「ほあー。これは凄いのぅ。鳥居の上からガジュマルの蔦が垂れ下がってきておる」


「なんというか、周りの植物も相まってテレビで見た沖縄とかの南国っ!って感じなのです」


「まぁ最南端だからねぇ。植生もそういった地域に近い筈だよ」


「ねぇねぇ皆。こっちみて」


 蔦が上から垂れ下がってきている鳥居をそう言って眺めていた三人は、そう言って手招きするロクラエルの居る鳥居の先の階段へと向かう。

 するとそこには──────


「「「すごっ!」」」


「でしょ」


「めっちゃぐにゃってしてる……」


「木ってここまで曲がるもんなんじゃなぁ……」


「生命の新品なのですー」


 階段の脇に生えているソテツが、グニャリとその幹を曲げて階段の方へ伸びてきて居るのを見て、三人は思わずそんな感想を述べる。


「先にはもっと凄いのあったよ。階段の横幅全部くらい横に呼びてるやつ」


「これ以上の奴がおるのか……そういや、ここの神社のご利益はどんなのがあるのかの?」


「それならさっきすれ違った人に聞いたのです!確か……安産と縁結び!なのです!」


「それは水無月にピッタリ」


「じゃなぁ」


「ちょっ、二人共?!」


「おぉ!水無月が怒ったぞ!怖いのぅ!」


「逃げろー」


「待ちなさーい!」


 逃げるロクラエルとヘグレーナを追いかける水無月を写真に撮り、それを見てクスリと笑った後直ぐに追いかけるのだった。

 尚この後きちんとお参りは済ませた模様。

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