第八話 戦闘服なのです!

「皆すまんのう。思ったよりも待たせてしもうた」


「そんな事無いのですよ!ヘグちゃんもとっても似合ってるのです、その魔装衣!」


「ありがとうノルンよ。やはり着物というものはいいのぅ!水無月の国が誇る艶やかで華やかな文化じゃ。

 それに、術法を強化する紋を入れるのにうってつけの構造じゃからな。じゃがそちらも似合っておるぞ?そのー……」


「中近接戦闘用軽装甲着物風メイド服なのです」


「そうそうそのー……」


「中近接戦闘用軽装甲着物風メイド服」


「じゃ!華やかさならそちらの方がダントツじゃろうて。のぅロクラエルよ」


「ん。ノルンのヒラヒラには、勝てない」


「いやいやいや、ロクちゃんのだってシンプルでかっこいいのです!純白金縁に金の留め具のコート!いかにも天使って感じなのです!」


「いやぁー、皆が気に入ってくれたみたいで良かったよ。現代科学技術の粋を込めて作ったその「異種型特務装備」をね」


 山の切れ目をしばらく進み少しだけ開けた場所へ出た一行は、目的地へ繋がると思われる車も通れないような狭い道を前に、何があってもいいように準備を整えていた。

 その準備の一つが彼女達それぞれが着替えた、様々な魔術的な模様の描かれた濃紺の着物、あちこちに対ショック材や小さな装甲が施された和風のメイド服、そして鋼糸布で織られた金縁の白いコートなのである。

 ちなみにデザインのバリエーションが豊かなのは彼女たちの強い要望と、思春期の女子に軍隊の様な格好をさせるのはあれだろうという水無月の意見である。


「それで水無月や……その服はなんじゃ?それにそれは……」


「会議で撤退時まで車をここに置くって決まっちゃったからねー。だから代わりの軍用バイクと、もしもの時用の防護スーツよ」


「可愛さも色気も無いのです」


「女として、終わってる」


「うるっさいわねぇ……私はどうせ仕事一筋なのよ」


「まぁまぁ落ち着け水無月よ。所で結構着替えに時間かかってしまったが、大丈夫なのか?」


「あぁ、それなら大丈夫よ。ヘグレーナちゃん達の準備よりもあっちの方が時間かかってるから」


「何をボサっとしてるのですかっ!!知識が!未知が!我々を待っているのですよぉ?!」


「「「あぁー……」」」


 つい先日までと同じ光景を前に、一行は全く同じ反応をしつつ、気合い充分な服装で出発を待つのであった。

 そして出発してから数時間後、ほぼ全ての研究員と自衛隊少数、最後に水無月達4人を加え切れ目を進み、最後に長い上り坂を登りきった所で切れ目を抜ける。

 するとそこには────


「祭壇……かな?」


「……正解じゃ水無月、しかもこれは割と新しいやつじゃぞ。ノルンや、解析を頼んでよいか?」


「任せてなのです!」


「ロクラエル。解体準備を頼んでよいか?」


「ん、了解」


「解体って……壊しちゃうの?」


「うむ。どうせこんな、地脈が歪みも歪んだ場所にある最悪の組み合わせの祭壇なんぞ碌なものではないわ」


 黒い魔法陣の描かれた真っ白な余りにも異質な祭壇が、真っ赤な大地の上にぽつんと存在していたのであった。


「今回のは祭壇じゃが、基本陣を描く台座となる物には影響を与えたいもの、そして陣の色は発動する魔法の志向性に関係してくる。そして白は正常、黒は異常を表す事が多い、それ即ち────」


「何か碌でもない事をしようとしてるってこと?」


「そういうことじゃ。まぁこの世界でその常識が通用するかはわからんがのぅ」


「解析、終わったのです!」


「流石巫女様じゃのぅ。仕事が早い早い」


「へグちゃんは余計な事言わなくていいのです」


「ノルンちゃんお疲れ様。それでどういった内容の魔法陣だったの?」


「外円が極大、中円が変換で中央円が志向性なのです。文字列と線も入れて考察すると、規模的にはこの星の力を何らかのエネルギーに変換して何かに注ぎ込む魔法陣なのです」


「本当に碌なものじゃなかった……」


「ほら言った通りじゃったろう?それではロクラエル、頼んだぞ?」


「私からもお願いね」


「ん、任せて」


 やはり碌でもない魔法陣だった事が判明し、ノルンの報告を受けた水無月からヘグレーナと共に解体を頼まれたロクラエルが祭壇に向かおうとした所、白衣の男に立ち塞がられる。


「……邪魔」


「貴女は……貴女はこの知識の泉に……何をしようとしているのですか?」


「何を?これ、動いたら危ない、だから壊す」


「壊す?!壊すですってぇ?!ふざけた事を抜かすんじゃありませんよぉぉぉお!」


 本来の白衣の意味を理解しているのだろうかと問いたくなる、その男に極めて真っ当な返答をしたのにも関わらず怒鳴られたロクラエルから、どうしようといった目で見られた水無月が主任に対応しようとした次の瞬間────


「みな伏せよ!」


 何かに気づいたヘグレーナがそう言うが早いか、全員が反射的に伏せ、ロクラエルが魔法でドーム状の壁を貼ったのと同じタイミングで辺り一面が火の海に包まれる。


『ほほうほう、なんだカ騒がしいと思って来てみれば、この攻撃を凌ぎますカ!この魔王カマ────』


「総員中継地まで即時撤退!その後扉周辺基地まで撤退作戦Aで撤退します!ロクラエルちゃんは全員が中継地まで撤退するまで時間稼ぎ、発車後に合流で!」


「分かった任せて」


「ダメだ!」


「「「「はぁ?」」」」


「ダメに決まっているでしょう?!知識が!知識が目の前にあるのに!異種族の貴女達!お前らはこういう時のためにいるんだろう!早く何とかしろ!」


「あー……水無月や、これはどうするのが正解なんじゃ?」


「ヘグレーナちゃん。そいつを研究車両に放り込んでドアを歪ませといて」


「んなっ?!」


「あい分かった。ほれ、騒ぐでない。「暫く黙るが良い」」


「んんっ!んんー!」


『皆、逃げるなら早く逃げて。全員守るの大変』


 脳内に響くようにして聞こえてきたロクラエルの声を聞き、ヘグレーナがめんどくさい奴を連れて行き、他の隊員が撤退した事を水無月は確認する。


「よし、ノルンちゃん!私達も逃げるよ!」


「分かったのです!ロクちゃん!後は手筈通りに!」


『分かった』


 突然現れた魔王に対し、高速で飛び回りながら拳で殴りかかっているロクラエルからテレパシーを受け取ったノルンがバイクへと乗ると水無月は勢いよくバイクを走らせた。

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