第四話 火の島なのです!

「んん〜♪やっぱりこのガッツリ肉っ!というのはいいのぅ!」


「このバルク丼っていうのも、なかなか癖になる」


「羨ましいのですっ!アタシも早く食べたいのですーっ!」


「ノルンは猫舌じゃからなぁ」


「あっつあつは無理なのですぅー……」


 最もお客さんの混むお昼時、いつも通りならお昼時の喧騒に満たされてるであろう店内には、全く違う喧騒がそんな会話をする3人を中心に店内に満ちていた。


「にしても、水無月が一緒に来れなかったのは残念じゃのう……」


「あんな感じでも、一応は仕事」


「せっかくお昼ご飯の時間なのに情報収集なんて、ちょっとかわいそうなのです」


「それがあやつの仕事じゃからのう。感謝こそすれ同情するのは水無月に失礼というものじゃ。それに、いざと言う時は奴の代わりに妾達が働けば良いだけの事じゃからな」


「ん。ヘグレーナが珍しく、まとも」


「珍しくとはなんじゃ、珍しくとは」


「珍しい物は、珍しい」


「ふふっ、そうですね。よしっ!いい感じに冷めたのでアタシも食べるのですよ!いただきまーす!」


 ご飯の湯気が少し落ち着き、食べても大丈夫そうな温かさになったのを確認し、手を合わせそう言うとノルンは目の前のカツ丼へと橋を伸ばし、耳を何度かぴくぴくさせた後ぱくっと頬張る。


「んんっ!おいひぃ!これがみーちゃんおすすめの黒豚とんかつ!柔らかくてジューシーで甘いのです〜♪しかもこの分厚さ、そこから溢れる肉汁!衣もサクサクで最高なのですー……!」


「そっちのカツ丼も美味そうじゃのぅ……じゃが、美味しさなら妾の角煮も負けておらんぞ!このとろっとろの角煮とその角煮の炙り、更に角煮入りの卵焼き。ご飯と共に口に運べばぁ……んん〜!甘くて頬が落ちるのじゃ〜♪」


「美味しそうなのですぅー……そういや、ロクちゃんのバルク丼ってのはどうです?」


「なかなか、美味しい。はい」


「分けてくれるのです?」


「ん、みんなで食べた方が、美味しい」


「ロクちゃん……!では、お言葉に甘えて1口……んんっ!結構噛みごたえあるのですね!しかも甘辛くてご飯が進むのです!」


「ご飯を巻いて食べると、また美味しい。はい、あーん」


「あーんむっ!んー!これは犯罪なのですっ!お礼にアタシのカツもあげるのです!」


「な、なぁノルンよ。妾もその、角煮をやるから、一緒にわけっこを……」


「ふふっ!もちろんなのですっ!はい、どーぞ!」


「おぉ……!ノルンよ感謝するぞ!」


 ザワザワと騒がしい周囲をも気にせず、三人は互いの料理を分け合いながら鹿児島のグルメを堪能したのであった。


「お待たせしました。デザートのしろくまでございます」


「「「おぉぉー!」」」


 勿論、デザートまでたっぷりと。


 ーーーーーーーーーーーーーー


「おおっ、また火の山が勢いよく息をはいたのです!」


「ほぉー、ここまで火を噴く山もなかなかないのぉー」


「ん、世界は広い」


「広いというか、皆にとっては別の世界だけとね」


 お昼ご飯の後フェリーに揺られて数十分、目的地である桜島についた一行はまたもくもくと煙を吐く山を前に、尻尾や翼を動かしながら盛り上がっていた。


「にしても、本当に魔法抜きでこんな鉄で出来た船が浮かぶだなんて……科学と言うのは大したものじゃのぉ!」


「です!コンロとかケトル、電子レンジに冷蔵庫なんかも凄いのです!勉強して魔法と組み合わせたりしても面白そうなのです!」


「ん、本当に世界は広い」


「広いというかもはや別世界なんじゃがの……っと、おぉ!言うとるウチにまた噴いとるのぉ!」


「そりゃあさっきも言ったけど、ここは日本の活火山の中でも有数の活火山だからねぇ」


「水無月さんおかえりなさいなのです!有数って事は他にもあるのです?」


「勿論、日本は火山大国なんて言われる程火山がある国だからね。その中でもこの桜島は軽石や溶岩を使った道具に桜島の溶岩焼きといった火山を活かした物が多いんだよ」


「「「へー」」」


「他にも桜島大根っていうすっっっっごく大きい大根があったりとか、あんまり知られてないかもだけど島みかんっていう小さくて可愛いみかんもあるんだよー」


「「へー!」」


「明らかに反応が違うのが二人いるなぁ」


「私、食べ物なくてもいいから。でもこの2人は────」


「竜の一生は長いからのぅ!食べ物は最高の嗜好品じゃからな!さっきのお昼ご飯もデザートまで満喫じゃ!」


「それに異世界のまだ見ぬ料理!食材!胸は高鳴り腕も鳴る!ですっ!」


「あははははっ!なるほどね〜。これは出費がかさみそうだわ」


 ロクラエルの言葉に食い気味で、ノルンとヘグレーナのこの世界の食べ物への意気込みを聞いた水無月は笑いながらそう言うと、真剣な表情になる。


「それで、二人共どう?この場所にはありそう?」


「ごめん、まだ掴めてない」


「妾もじゃ。せめて夜になればのぅ……」


 その水無月の真剣な表情と声色に対し、残念そうにヘグレーナとロクラエルはそう答える。

 そう、各々満喫してはいるがこの旅の目的は食べ物旅行や観光名所巡りではなく、空間の異常を発見、解決する為の旅であり、この2人にはその空間の異常の探知が任されていた。


「まぁまだ旅も始まったばっかりですし、結果を求めるのは早いですよみーちゃん!」


「確かにそうね。それにノルンちゃんの言った通り、まだ始まったばかりだもの、この島も色々と見て回りましょ!」


「「「おー!」」」


 こうして、四人はこの桜島のあちらこちらを観光……もとい、探索してみようと言うことになったのであった。


 ーーーーーーーーーー


「見事に埋まってるのです」


「埋まってるのぉ」


「埋まってる」


「埋まってるわねぇ」


 そう言いながら四人は黒神埋没鳥居という、地面から鳥居の頭だけが飛び出している、桜島の観光地のひとつを前に不思議な表情をしていた。


「頭だけ残して埋まっとる辺り、相当な出来事があったんじゃろうなぁ」


「どうやら大正三年……100年以上前に起こったあの火山の島と陸を繋げるくらいの大噴火でこうなったらしいのです。この隣のアコウとかいう木はその当時から生きてるらしいですよ」


「それは凄い」


「本来ならば、生き木と言えど溶岩なぞに身を晒せばその灼熱で燃え尽きたじゃろうに、全てを飲み込んだ火の残り香にそれを生き延びた命、自然とはやはり恐ろしいながら美しいものじゃの」


「その自然の一角を担う竜が言うと説得力が違うです」


「うん、段違い」


「いちいち茶化すでない!ほれ、次へ行くぞ次へ!」


 ーーーーーーーーーー


「だからって……これはないですよねぇぇぇぇええ!」


 地上から数百メートル、風も強いもくもくと噴煙上がる火口の真上にて、メイド服のスカートをバタバタと言わせながらノルンはヘグレーナに抱っこされていた。


「いやいや。これは空を飛べる者の特権じゃが、こういう山は真上から見ると迫力が違って凄くいいんじゃぞ」


「皆さんは普段から空飛んでるから大丈夫だと思いますけど!私みたいな飛ぶ手段が無い種族からしたら怖い以外ないんですー!」


「でも、これは圧巻」


「うむ。ほらノルンよ、きちんと目を開けて火口を見てみるがよい」


「うぅ〜……ひぃっ!無理っ!やっぱり無理です高すぎますー!」


「なら、低かったらいい?」


「へ?そ、そりゃまぁ低かったら少しは平気ですけどぉっ!?」


 ロクラエルにそう聞かれたノルンが返事しきるか早いか、その返事を聞いたヘグレーナは一気に火口ギリギリまで急降下すると、その景色をヘグレーナに見せつける。


「うぅぅ〜……怖かったのです……って!火口ギリギリぃ!ちょっ、ヘグちゃんもう少し高度を!」


「なんじゃ、低い方がいいといったのはノルンじゃろ」


「何事にも加減というものがあってですね!とにかく地上に戻してください!じゃないとヘグちゃんの移動中のご飯抜きです!」


「む、それは困る。地上に戻すから勘弁しておくれ」


「ったく、次は無いのです」


「はっはっはっ!とはいえ……ふむ、まぁもうやらんよ」


 全身の毛をシャーッと逆立てながらそう怒るノルンへと、ヘグレーナはそう言いながらゆっくりと水無月を待たせている場所へと降下するのであった。

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