第五話 見つけたのです!
「いやー!いっぱい買っちゃったのです!」
「やっと出られた……」
「ノルンの料理が美味いのは知っておるが、流石にこれは買いすぎでは無いのか?」
「そんな事無いのです!角煮にトンカツ、ふろふき大根なんかも……!んー!楽しみなのです!」
「あはははは……空間収納の魔法は便利ねぇ」
あの後色々と買い物を済ませ、なかなかにいい時間になった4人はそんなやり取りをしながら桜島にあるホテルの一室で過ごしていた。
「にしても、店員には凄い顔されたのぉ」
「ん、あれはなかなかお目にかかれない」
「ですですー」
「まぁ異種族の子を泊めた事なんてまずある筈ないからねー。事前に予約取ってたとはいえ、あんな顔されてもおかしくはないよ」
「念の為、いつも以上に抜けた毛は綺麗にしとくのですー」
「私も翼、気をつける」
「種族が単一の世界というのは、こういう時には大変じゃのぉ」
「皆の世界じゃ色々な種族が住んでるんだっけ」
「ですです!私の世界では私達獣人にもちろん人間さん、魔人に魚人、他にもいたみたいですよ!まぁ私は樹海のお里から出た事なかったので聞いただけですが」
「妾の所はなんでもおったのぉ。角、羽、尻尾、棘、色んな奴が居たものよ」
「私の所、皆同じ」
「ロクラエルちゃんの所って確か皆基本的に精神体なんだっけ?」
「そ、だから皆同じ。ずっと体を持つのもこの世界に来てから」
「それはそれで私達には想像つかない世界だなぁ」
「「うんうん」」
そんなこんなでベッドの上や椅子など、それぞれが楽な場所、体勢で彼女達が各々の世界についての話で盛り上がっていた。
「さて、それでは報告だが……あったぞ。水無月よ」
「……もしかして!」
「ん、歪みを見つけた。でも、まだ問題ない規模」
「ほんとなのですか!?そ、それなら、なら今すぐ行けばまだなんの被害もなく片付けられるのですね!」
「じゃのぅ。しかし……であろう、水無月?」
「ヘグレーナちゃんの理解が早くて助かるよ。私達が単独で片付ける前に、自衛隊と警察に連絡して封鎖やらなんやらして貰わないと」
「で、でも!そんな事してる間にも歪みは強く────」
「ノルン、落ち着く」
「これが落ち着いてられるですか!二人もあの惨状は覚えてるですよね?!」
早く現場に行こうと急かすノルンにそう言われ、ノルンを止めようとしていた二人はその惨劇を思い出したからか、ノルンを軽く抑えたまま顔を逸らして固まってしまう。
そう、彼女達が空間の歪みより現れた際、彼女達をこの世界に送り出した変わりとでも言わんばかりに、歪みは周囲数キロに様々な変化を与えていた。
「砂の塔が乱立する砂漠、アイスをスプーンで抉ったような大穴、まるで地獄のような真紅に染まった異形の森……あんなの、もう絶対にこの世界に出しちゃダメなのです」
「だからこそ、よ」
「だからこそ……です?」
「えぇ、もとよりこの作戦では不確定要素が多いわ。だから無用な混乱と、もし失敗した際の保険として歪みを発見次第周囲を警察と自衛隊によって封鎖する事になってるの」
「でもそんな時間は────」
「それに、歪みを直すにしても周辺を封鎖したりしなきゃだし。まず本当に一刻を争う程なら見つけた時に二人が飛んでいってるでしょ?」
「勿論」
「ね?だからとりあえず今日の夜は休んで、明日万全の状態で行きましょ?朝には封鎖も終わってる筈だし」
「うぅ〜……はぁ、分かったのです。でも!その代わり完璧にお仕事はやるのです!」
「うんうん、その意気よ。それじゃあ皆、明日はよろしくね?」
「「「はーい!」」」
こうして一行は出発して一日目にして早くも旅の目的を発見し、明日に向けて気合いを入れるのであった。
そして翌朝。
『それでは本日のTMGラジオはここまで!司会は私、神山でしたっ!また次週お会いしましょう!シーユーアゲイン!』
陽気な音楽と共に独特なトーンで流れていたラジオとは反対に、車内に居る面々の空気はこれから向かう初仕事に対する緊張からか重たい物へとなっていた。
それもそのはず、その最初の仕事現場である場所は──────
「さっ、皆ついたよ」
「とうとう着いたんじゃな」
「とうとう……というには早すぎますけどねー」
「意外とあっさり」
「うっさいわっ!人がせっかく重い雰囲気を引き締める雰囲気にしようとしたものを……」
「あははっ!まぁいいじゃない、いつもの雰囲気でも。さっ、ぱぱっと降りてササッと仕事終わらせちゃいましょ」
「はい!」「ん」「うむ!」
麓では警察が警戒網を敷き、火口付近には自衛隊によって塹壕や土嚢を作られた、物々しい雰囲気を放つ桜島の火山、その頂上なのだから。
「まぁ、ノルンが言っておったが妾達が出てきた時の歪みで起きた天変地異の後は……恐ろしかったからのぅ」
「うん。あれだけは……ダメ」
「絶対、防ぎましょうね!」
やはりなんやかんやであの惨劇だけはもう二度と起こすまいとそう喋りながらも、無事火口付近に辿り着き車から降りつつ意気込む3人は、同じ異変を防ぐ仲間である警察、自衛隊の中を進んでいた。
しかしその彼女達自身が惨状から発見された事もあり……
「……」「アイツらが……」「本当に大丈夫なのか?」「やべぇ……逃げてぇ……」「おいっ、隊長に聞かれたら……」
「余り、歓迎はされてないようですね」
「まぁ、こんなもんじゃろ。妾達は恩を返すと共にあの惨状を二度と起こしたくないからこそ、水無月達を手伝っておるが……」
「部外者には、それも他の世界からのには、任せるの怖い」
「じゃな」
「分かってたことだけど、皆ごめんね?」
「なぁにお主が気にするでない水無月。それに、一度二度妾達がこの現象をきちんと解決して信用を価値取ってしまえばいいだけの話よ」
「ですです!バシッと仕事しちゃいますから!」
「失敗は、しない」
「みんなぁ……!っと、そうこう話してたら向こうさんのお偉いさんが来てくれたわね」
そういって水無月がキッと細めた目を向けた先には、襟に横並びの三つの星を付けた陸将を表す階級章の自衛官が立っていた。
「お待ちしておりました。公安特務科水無月殿、いえ公安機動捜査隊第三部隊隊長殿」
「お疲れ様です陸将殿。所でその隊長殿呼びは辞めてくださいませんかね?」
「そんなとんでもない!あの「次元外れの運転手」殿を相手にそんな……」
「言わないで!頼むからその二つ名だけは言わないで頂戴っ!」
「しかし────」
「「「?」」」
「いいから!」
「ですが……」
「というかそれよりも!早く歪みについて説明してください陸将!」
「はっ!了解致しました!それでは皆様、軽く現状の説明と作戦を説明致しますので、こちらの方へお願い致します」
そう言って首を傾げる三人を後ろに、水無月はどこか焦った様子でそう陸将を急かし、きっと作戦を練っていたであろうテントへと案内させる。
そして誰も居ないテントの中に陸将を先頭に水無月達が入った途端────
「ではまず、作戦の方を御説明する前に。皆様方のお力添え、国を守るべき一軍人として本当に感謝致します。そして、お力添えをして頂く身であるのに先程の様な部下の非礼、深く謝罪致します」
陸将はこちらへと振り向き、そう言って深く頭を下げた。
そんな陸将の姿を見て4人は顔を見合わせると軽く笑い合い……
「ま、そんな事いわれちゃあ全力でやらないとだね」
「そもそも、私達は言われずとも全力でやるつもりですよ!」
「ん、任せて」
「ふふっ、だそうですよ陸将。任せてください」
「皆様……ありがとうございます。共にこの国を守るべく、力を合わせましょう!」
そう陸将の肩に手を置いて言った水無月と陸将は、空間の歪みが確かに存在する事を示す目の前のレーダーに映る、赤いマークを見つめるのであった。
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