第二話 最初はここです

「それで、最初は何処へ行くのじゃ?」


 とりあえず一般道路へと出るべくガタガタと車体を揺らしながら山道を下る車の中、ピコピコと携帯ゲームを遊んでいるヘグレーナが水無月にそう問いかける。


「んー、そうだなぁ……ちょうどここ県境だしどっち行くかで日本一周ルートが右回りか左回りか変わっちゃうから悩みどころなんだよねぇ」


「えぇっ!?ものすごく大事なお仕事なのにルート決まってないのです!?」


「嘘嘘、冗談だよ。一応このまま鹿児島をある程度見て回って反時計回りに日本を一周する予定だよ」


「質問」


「はいはい、ロクラエルちゃん何かな?」


「私達住まされてた場所、どうして鹿児島?」


 軽く手を上げ、大きく縦書きで「こんにちは」と無駄に達筆な文字で書かれたTシャツ姿のロクラエルがそう質問すると、水無月はハンドルを回しながら答え始める。


「いい質問だねロクラエルちゃん。理由は簡単、貴女達によって何かあってもいいように日本の首都から遠い場所っていうのが1つ」


「あーやっぱり……って1つ?他にもあるのです?」


「それがあるんだなぁ。それは立地条件、念の為山奥にあるとはいえ交通の便は悪くないし、近い主要な都市も人が多すぎず、もし何かあっても国としてのダメージが少ない都市ばかりだから。そこに住む人には申し訳ないけどね」


「他にもあるのか?」


「残念、だいたいこの2つよ。他にも襲撃されにくいだとか、密かに守りやすいだとかはあるけど特にこれといった大きい物は無いよ」


「やっぱりどこの世界でもそういった対策は変わらんもんじゃのぅ」


「でもアタシの世界だと時々そんなのを首都に置いて管理する王様も居たらしいですよ?」


「場所の安全性か研究の利便性の問題じゃよ。この国はどこも安全じゃし何処でも最先端の技術を持ってこれるから施設を遠くに置けるのじゃ。それに他国や魔物に襲われる危険性がないからできる事じゃの」


「確かにヘグレーナちゃんの言う通りだね。さて、ようやくまともに舗装された一般道に出たし、とりあえず近場の名所にでも向かうとしますかね」


 説明も終わり、納得した様子のロクラエルをバックミラーで確認しつつ、最初はどこにキャンピングカーを走らせようかと水無月は信号停止中にカーナビに目を落とす。


「どんな名所があるんですか?」


「鹿児島は自然豊かな場所だからね。溝ノ口洞穴とか雄川の滝、屋久島みたいな自然の作った幻想的な景色が多くあるよ」


「「おぉー!」」


「それでそれで!そこへは行くのかの?」


「あ、アタシその「ミゾノクチドウケツ」?とか言う所行ってみたいです!」


「おぉぉ……二人共凄い行きたそうだね」


「です!だってこの世界に来てから自然豊かな場所は殆ど行ったこと無いですもん!」


「うむうむ。それにやっぱり自然の中が1番落ち着くんじゃ」


「二人共、元の世界自然いっぱい。自然大好き」


「なるほどね。そう言うロクラエルちゃんは?」


「私も好き。でも天界に住んでたから、2人程じゃない」


「天界かぁ。雲の上みたいな感じの世界なんだよね?1回でいいから行ってみたいなぁ」


「水無月や、其方にはそんなめるへん?なキャラは似合わぬと妾は思うぞ?」


「うるっさい。もふもふふわふわが大好きなのよ私は」


「雲、ふわふわ。いつか連れてってあげる」


「それは死後って意味じゃないわよね……?ま、まぁ楽しみにしてるわ」


「そーんーなーこーとーよーりー!そちの言った通り自然豊かで素敵な場所があるなら先ずはそこへゆこうぞ水無月!」


「んー、それなんだけど。ちょっと今回の旅じゃあんまり行けないかも」


 我慢できないといったようににうずうずしていた所で水無月にそう言われ、ガーンと一気に落ち込んでしまった二人に水無月は慌ててその理由を説明し始める。


「あ、あのね!この今まで検出された空間の歪みは殆ど全部検出された場所が都心部とか、歴史的建造物とかで、自然物の周りとかでは殆ど検知されなかったの!

 勿論3人がこの世界に来た場所みたいに山奥だったりするかもしれないから、そういう自然の名所にも行くけど優先度は下がるって話なの!」


「なるほど、のぅ。まぁそれなら仕方がないか」


「ですね〜」


「ごめんね二人共!できるだけ任務と関係なくても道中そういった名所の近くを通る時には寄るから!」


「約束じゃぞ?」「約束ですよ?」


「うんうん!もちろんだよ!」


「うっしっ、それじゃあぱぱっと片付けてしまおうぞ」


「ですね!アタシも気合い入れますよ!」


「水無月、お疲れ」


「ありがとうロクラエルちゃん……お、ここ良さそう。通り道だしついでに寄っちゃうか」


「いい場所見つかったです?」


「うん。多分2人も気に入るんじゃないかな」


 そう言うと水無月は翼や尻尾、猫耳が動き回る賑やかな車内を揺らして大きなキャンピングカーを最初の目的地へと走らせるのだった。

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