第一話 目的があるのです

「よし、準備完了。それじゃあ行ってくるわね」


 ある日の朝霧のかかった森の中、物々しい塀に囲まれた建物の駐車場には、ピンクのラインが一本入った白い車体の大きなキャンピングカーが一台だけ停まっていた。


「本当に大丈夫なのか水無月?忘れ物とかないか?」


「アタシをなんだと思ってるのよ城川。たしかに私は色々と大雑把だけど、仕事に関しては全部まるっときっちりやってるじゃないの」


「開き直りやがった……まぁ実際そうだけどさ。それに、どうやら「彼女達」はこれから苦労する同僚にゆっくり激励を送らせてはくれないらしい」


 キャンピングカーの運転席の窓から水無月と呼ばれた黒スーツの女性が身を乗り出し、彼女が城川と呼んだ白衣の男と話していると、城川がそう言ったタイミングでキャンピングカーの中に居る「彼女達」から声が上がる。


「まだ出らんのか水無月ー!妾は退屈で死にそうじゃー!」


 そう言って後部座席のソファーから声をかけてくる星空のように内側の光る不思議な長い髪の毛と、頭から流線型の黄金の角を生やした女性はヘグレーナ・ミカルナリル。

 真っ白な肌に気の強そうな目付き、尖った鼻や耳と美しいが一見余り人と変わりのない彼女の目は、本来人ならば白目である所が黒く、瞳は金色で瞳孔は縦に割れていた。

 そしてそんな彼女の腰からは黄金の翼爪のある星空の様に光の瞬く真っ黒な翼、真っ黒な甲殻のある尻尾を生やしており、その数々の特徴から竜人と分類されていた。


「今みーちゃんはお仕事のお話をしてるのですよ!もう少し大人しく待つのです!」


 そんなヘグレーナに水無月の隣、助手席から頭に生えた耳をピンと立て、可愛らしい声で叱責を飛ばすのはアルバー・ノルン・イルディアカリウス。

 優しい銀髪のボブカットと翡翠の様な瞳のタレ目な彼女は、髪の毛と同じ銀色の毛並みの尻尾と猫のような耳を生やしており、その特徴から獣人と分類されていた。


「二人共、うるさい。静かにする」


 そんな二人に容赦なく平坦な声でそう言い、ヘグレーナと机を挟んで反対側にあるソファーに座ったまま羽の手入れをしている彼女はロクラエル。

 左右それぞれ肩の辺りで緩く結んである彼女の長い髪は真っ白な髪に金髪の混じったメッシュで、澄んだ青色の瞳と合わさり神秘的な雰囲気を出していた。

 それもそのはず、彼女は頭の上に実態の無い輪っかを浮かべ、背中からは純白としか例えようのない大きな白い羽を生やしており、その特徴から天使と分類されていた。


「ふふふっ。そうみたいね、これは早く発車しないと魔法でも使われそうだわ。それじゃあちょっくら旅行に行ってくるわ」


「あぁ、行ってこい。無事に帰って来いよ」


「えぇ、勿論よ」


 水無月はそう城川に言うとコツンと軽く城川の差し出してきた拳に自分の拳をぶつけ、キャンピングカーを走らせ始めたのであった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーー


「それで、どうして急に妾達はこの国を一周する事になったんじゃったかのぅ?」


「ちゃんと起きてるようにーって言ったのに、やっぱりへグちゃんあの時寝てたんですね」


「し、仕方ないじゃろ。妾はほら夜行性なんじゃし、それに体を動かさないのは退屈で思わず眠く……」


「全くもう……みーちゃんどうしましょう?」


「たしかに眠くなるのは分かるけど、あの会議の内容は聞いててほしかったなぁ。ロクラエルちゃんはもうリラックスモードだし、ノルンちゃんお願いできる?」


 気恥しそうに頭をかくヘグレーナの様子を見て、説明するかどうするかと聞いてくるノルンに水無月は運転しながらそうお願いする。


「はーい。いいですかヘグちゃん。この国は数年前から各地で空間の歪みが確認されてるのです。そして一年前、元の世界から空間の歪みを通じてこの世界に来たのが私達異世界人なのです」


「さっ、流石にそれは知っておる!いくら妾でもそれくらいは分かっておるからな?!ほんとじゃぞ!」


「流石にこれすら分かってなかったらやばいのです。それで一時期私達が来てから収まっていた空間の歪みがココ最近になって再発、なんとかみーちゃん達が収めようとしていた所で私達がその歪みに近づくと歪みが収まる事が判明したのです」


「まとめる。この国、空間がまた歪み始めてる。私達、そこ行けば歪み戻る。だから一周見て回る」


「なるほどのぅ……まぁとりあえず、全国を一周するのじゃろう?それ即ち……美味な物も沢山食べれるということじゃろう!?んー!今から楽しみじゃー!」


「それもいいけど、歪みの詳しい場所を突き止めたりとかしないといけないから、皆には遊ぶついでに現地の人達といっぱいお話して貰ったりすることになるかもだけどね」


「それも、楽しみ」


「お話なら得意です!」


「わ、妾も子供の相手くらいなら出来るぞ!」


「客寄せパンダ……いや客寄せドラゴン……」


「ロクラエルなにか言うたか?」


「んーん、なにも」


「ふふふっ♪とりあえず皆がやる気あるみたいで私は嬉しいわ。さっ!それじゃあ皆、物理的な世直しの旅の始まりよ!」


「「「おー!」」」


 こうして、様々な異世界より来た彼女達の日本一周の旅が幕を開けたのであった。

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