持続不可能なハーレム要員の恋
「わぁ! スゴーイ! さすが勇者様!」
「勇者様、あたしも抱いて!」
私は自らの豊満な胸を勇者様の腕にくっつける。さりげなく、わざとらしくないように。
私は転生者の周りを囲む、いわゆるハーレム要員というやつだ。
ハーレム要員は、転生者の性的指向に合わせて、担当の神が配置する。
この転生者は巨乳好きだったので、私を含むハーレム要員の女の子は皆豊かな胸の持ち主だ。
「ま、まあまあってところね?」
私は赤毛でつり目で巨乳、いかにも強気なツンデレ娘っぽい見た目なので、言動もツンデレを意識して発する。そういう役を演じてくれと神から頼まれたから。
本当は、私は自分では気弱な性格だと思う。好きで赤毛の巨乳に生まれたわけじゃないし、つり上がり気味の目も生まれつきだ。だけど人は見た目で判断する生き物。今まで私は主人公を虐げる悪役令嬢や、勇者を誑かす悪女として仕事してきた。
やりたくてやっているわけじゃない。これが仕事だから。異世界転生者に気持ちよく異世界ライフを過ごしてもらうため、私や神、その他世界を構成するキャラ達は自分の役目を果たしている。
ハーレム要員の子は私の他に二人いて、一人は巨乳はわわ系幼女、もう一人は天然ドジっ子巨乳エルフ、そして赤毛で気の強い女王様系の私の三人がいる。
我々の仕事は、もちろん転生者を持ち上げ褒め称え、時には恋愛関係に発展することである。
私達は何か指示があるとき以外は、決して転生者を叱ったりなじったりしない。ホステスと同じく決して相手の言う事を否定せず、どんなことでもヨイショし、惚れているかのように振る舞う。まあ、たまに罵倒されるのが好きなマゾヒストもいるが……。
私は胸の目立つ露出の多いドレスを着ているが、本当はもっとクラッシックで清楚なファッションが好みだ。しかし私のキャラには合わないので、仕方なく肌面積の広いビスチェドレスを着ている。冷え性に薄着は辛い。
いつだったか、別の女の転生者についている男のハーレム要員君達と飲みに行ったことがあるが、皆私達と同じく、転生者の好みに合わせた顎が妙に尖っていて首が長く、男にしては細い筋肉の鼻筋の通ったイケメン容姿にデザインされていた。
男女問わず、ハーレム要員というのは気を遣う役割である。相手が何しても咎めてはいけないのが鉄則だから。
今だって、転生してきた勇者様は、立ち向かってきたDQNぽい悪役(もちろんこれも神が用意したやられ役)を過剰すぎるほどぼこぼこにして血まみれで笑っている。悪役君、可愛そうに……。
「いやあ、俺、なんかキレると笑いながらボコるみたいでさ、その間の記憶ないんだよね」
こんな痛いイキった台詞を聞くのも何回目だろう。キレると怖いキャラが現世では流行っているのか? ハーレム要員の女の子が「ご主人様、もうやめてください!」て半泣きで止めなければもっと暴行は続いていただろう。悪役君が私達を侮辱する発言をしたのも全部脚本どおりなのにな。
過酷な役割を担う悪役君の手当ては私達の倍以上だというが、やはり身体と心へのダメージは相当であり、依願退職するものがあとを断たないらしい。
その夜、宿屋に泊まった私達は露天風呂に入りながら愚痴った。勇者様が覗きに来るまでまだ時間がある。
「いや~、あれはないわー」
「いくらなんでもやりすぎ。引くよね」
「うんうん」
湯に浮かんでくる豊満な胸を押さえながら私達は喋る。この勇者様は前世では学校でいじめられ、その後ブラック企業でパワハラを受けて過労死したらしく、その鬱憤を神から授かったチート能力で他者を痛めつけることで発散し、その行為を繰り返すことで悪が滅びると本気で信じているようだ。
正直、それは弱い者いじめと何ら変わりない。見ているこっちまで胸くそ悪くなる。前世で自分をいじめてきた奴らと同じことをしていると気づいていないところがおめでたい。
ここで開き直って復讐へ血塗られた道を行かないところがいかにも小物っぽい。自分で血反吐を吐く努力をして手に入れた能力ではなく、他者から与えられた能力で粋がっているのが生理的にやだ。仕事でなければ相手にしないだろう。
「あ、噂をすればほら……」
勇者様がこちらにこっそりと近づいてくるのがわかる。私達は素知らぬ顔をして待つ。あとは打ち合わせ通りに……。
「きゃあ! 勇者様!? ここ女湯ですよ!」
「悪い悪い、どうも場所を間違えたみたいだ」
ヘラヘラと笑う勇者様に、私達は胸を隠しながら照れている演技をする。このラッキースケベ的なイベントも事前に神によって予知されていたことだ。ハーレム要員は、時にはサービスショットも披露しなくてはいけない。
私達に風呂桶を投げられて、ようやく勇者様は立ち去る。じろじろと裸をなめ回すように見られて、私達は壮大なため息を吐く。
「……早く今回の仕事終わらないかな」
仕事が終わったら何しよう? 今度こそ着たいドレスを着て、好きなものを食べて、自由にのびのびと遊びたい。いやらしい目で見られることも、言いたくもないお世辞を言わなくてもいいのだ。ああ、なんて素敵なアフターファイブ!
それまでは、このきも……いや、ちょっとイキっている幼稚な勇者様を思う存分気持ちよくさせてあげよう。なに、多少嫌でもそれが私達の仕事だから。座って食事が出来て、箸が使えて、10000人もの敵を50人で囲む到底無理な包囲殲滅陣で勝利出来るとどや顔で言い放つ彼を褒め称えるのだ。
だから、私は今日も笑顔でこういうのだ。
「勇者様、肺いっぱいに息が吸えるなんて、やっぱりただ者ではないんですね!」
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