第119話 生理的に
「ソラ―。今日はなにするのっ?」
「そうだなー。なにしよっか」
フィリアの襲撃?爆撃?そんなことを乗り越えた俺たちは朝食も食べ終え、いつもどおりのティナの質問タイムへとなる。
「お休み中のところ失礼します。ソラ君にお客様がお見えなのですが……」
「ん?どうしましたかサバスさん」
「それがお客様がカイル・エルドレート公爵様でございまして、いきなりの訪問に動揺しております。またなにか問題をおこされましたか?」
んー。絶対に俺が問題をおこしているだろうと目で訴えかけているサバスさん。
だがしかし。今回は声を大にしていいたい。
俺は問題を起こしていなし、もともとの原因は相手側だ。
まあ、そう反論しようとも疑いははれないだろうがな。前科持ちは生きづらい世の中だ。
「大丈夫です。会いますので客室に呼んでくれますか?」
「もうすでにお通ししています」
「じゃー、ティナはテトシロとこの部屋で遊んでいてよ。ちょっと行ってくる」
「ティナはいかなくていい?」
「うんっ。遊んでていいぞ。今日したいことを考えてて」
「わかったぁー」
ニパッと笑顔になるティナ。うん。今日も天使をみることができてお兄ちゃんは幸せだぞ。
よし。じゃーカイルというやつの顔を拝見させていただこうか。
「やぁー。ソラ君。はじめましてだね」
「あー、そうですね」
サバスさんの案内でカイルがいる客室へ通される。
その中に入ると護衛の騎士二名を後ろに立たせて、ソファーに深く座り笑みを浮かべている男性がいた。
こいつがカイル・エルドレート。あほ金髪。あほじじいの血族であり、エルドレート公爵家現当主か。
あほ金髪の兄なんだろうが、童顔で小柄な体格なため弟と紹介されても疑いなく受け入れてしまうかもしれない。
エルドレート公爵家だと示すかのように、その髪色は金髪で、左目が隠れるぐらい前髪を伸ばしている。
「執事とメイドはさがっていい。ソラ君とだけ話したい」
「……かしこまりました」
サバスさんは一度俺に目を向けるが、そんなに俺のことが不安なのかね。
目でソラ君頼みますよ的なことを伝えてこなくていいよ。
信頼がなさすぎてほんと泣けてくるぜ。
サバスさんとメイドさんが退出していき、客室には俺とモコ、カイルと護衛の騎士二名だけになる。
「こちらの騎士の紹介をしたほうがいいかな?」
「いらない」
「では僕の自己紹介をしたほうがいいかな?」
「いらない」
「んー。つれないなー。僕はソラ君と仲良くしたいというのに。片思いほどつらいものはないんだよ?」
あー、うぜー。なんだよこいつ。
手紙からにじみ出てたうざさがあったが、実際に会ってみると、うざさの度合いがすごい。
童顔で可愛いらしい笑みを浮かべているが、そのニヤケが、人を小ばかにしているように見えるのは気のせいではないだろう。
「謝礼をしにきたんだろ?キリツから返事は聞いてなかったのか?俺はお前と仲良くするつもりがないと」
「もちろん。謝礼は用意している。伝言も受け取ったよ。だからこそ、ソラ君と仲良くなりたいんだ。僕はね。こちらに振り向かない相手を振り向かせる方が燃えるんだ」
あー、ここまでくると気持ちがいいよ。
第一印象がそのまま通りで、それをはるかに超えてくるきもさ。尊敬するわ。
「まあ、謝礼はうけとろうか」
「おい、それをソラ君に」
後ろに控えている騎士に命令を下し、その騎士は俺に小さな袋を手渡してくる。
「武闘大会の優勝賞金と同じ額だ」
「了解。ちなみに聞きたいんだけど、利き腕はどっちかな?」
「ん?左だが?それがどうし、うっ」
俺はカイルの返事を聞き、すぐさま大鎌で左腕を切り飛ばす。
「カイル様。貴様ぁっ」
「動くな。お客さんの前だ。これぐらいで動揺していてはエルドレート公爵家の騎士としては不合格だよ」
切り飛ばされた左の肩を抑え、騎士に命令にするカイル。
苦痛の表情を見せているが、思考は冷静そのもの。
抜刀しようとした騎士をいさめ、また後ろにつかせている。
「ソラ君。これはソラ君なりの友達への挨拶なのかな?」
腕を切り飛ばされたはずなのに、血を流しながら、俺におどけたように質問をしてくるカイル。
こいつは……狂っているんだろうな。
腕を切り飛ばされ、今も血が流れているのに、その処置さえ騎士にさせず、俺におどけて見せる態度。
普通痛みでおかしくなりそうなのだがこいつの表情はすでに楽しそうに笑みを浮かべている。
気持ちが悪い。
この世界にきて得体のしれない魔物との戦闘をこなしてはきたが、戦闘もしていないのに、ここまで人のことを気持ち悪いと感じたのは初めてだ。
気持ちが悪い、気味が悪い。奇々怪々。
なぜ、こいつはこの状況を楽しみ笑っていられるんだ?
その笑みは強がりというわけではなく、俺の返事を本当に期待していることがわかるほど楽しそうなのだ。
まるで、お小遣いをもらう時の子供のように。
「気持ちが悪い。死神をただ働きさせた罰のつもりなんだがな」
「なんだ。ご褒美かと思っちゃったよ」
ニヤニヤ答えるカイル。
ご褒美……どうしよう、生理的にこいつのことが無理だ。
体中に鳥肌がたっていることを感じる。
「お前に褒美などあげるはずがないだろ。上級ポーション一個分までで済ませようとしたが、やめだ。お前にもう攻撃はしない」
「んー。もう終わりなのかい?それとも上級ポーション分の謝礼が足りなかったのかな?」
「カイル様そろそろ」
「ん?あーそうだね。ソラ君。ご褒美をくれたところ申し訳ないが、血が流れすぎるから治してもいいだろうか?さすがに僕もまだ死ねないんだ。それにラキシエール伯爵家を汚し続けるのもよくないからね」
あー、殺してやりたい。
もしかしたらうちの子たち関係なく、相手に殺意を持つのは初めてなのかもしれない。
だが、さすがに殺せない。
そこまでしてしまうと、俺の中での理性が壊れてしまう。
人間としての一線。そこを超えてしまうとただの無差別殺人者。血の死神としてとまらなくなってしまうだろう。
ここがラキシエール伯爵家でよかった。
ここで殺害をすれば、間違いなく、ラキシエール伯爵家にも迷惑がかかるし、問題が起こることは間違いない。
俺の理性、そして場所というストッパーが俺の殺意を抑えてくれる。
もしここがラキシエール伯爵家ではなく、且つ、ティナシロが近くにいなかったとしたら……
俺はこの殺意にあらがっていただろうか……
自信がない。
異世界に転移してきても、日本で培った価値観は大事にしていこうと考えているが、俺はすでに血になれすぎているのかもしれない。
快楽殺人者。俺は常にうちの子たちを優先し、そのためなら殺人をいとわないといいつつも。
それを盾にして、ただ、殺人という行為。それを楽しんではいないだろうか?
それについては否定したいが、客観的にみると楽しんでいるのかもしれない。
これはちょっと考えないといけない案件だな。
くそ気持ちが悪く、生理的に無理なカイルだが、もしかしたら大事な部分を教えてもらったのかもしれない。
まあ、そうだとしても仲良くするつもりはないし、今後関わりたくもないがな。
「勝手にしろ」
「そうかい。ありがとう。リリー」
「はい」
リリーと呼ばれた女性は、杖を取り出し、カイルの患部に近づけていく。
杖は光を放ち、その光はカイルの左腕だった部分を覆うかのように包み込んでいく。
光が消えると、そこには傷一つない、元通りの腕。
回復魔法では一瞬にして回復が終わるのか。結構な魔力を使っていた気がするが、やはり便利なんだな。
「ありがとう。リリー」
「はい」
「ソラ君。謝礼が足りていないようだから上級ポーションを十個ほど受け取って欲しい」
そういうとカイルは後ろの騎士に命令し、アイテムバックから、上級ポーションであろう瓶を俺の前に置いていく。
「ちなみ僕の場合は上級ポーションで両腕、左足の膝から下。右足の足首までの欠損なら一度に一本で回復できるよ」
「……どうでもいい情報をありがとう。心配しなくても、お前を殺す時は一瞬で済ませてやる。同じ空気を吸うのも嫌なんでな」
「つれないなー。そんなとこも好きだよ」
こいつは自分の上級ポーションの限界を知っている。
ということは、自ら実験したということなんだが。ありえるのか?
想像をするが、そんな人間が存在すること自体がおぞましい。
もうこの空間にはいたくない。理性にあらがい、こいつを殺してしまいかねない。
「もう用はないだろ?俺は帰る」
「そうだね。ソラ君と仲良く話せて楽しかったよ。僕も忙しいから帰ろうかな。またね。ソラ君」
俺はカイルが話終わる前に部屋から出ていく。
うしろからまたねという言葉が聞こえたが。
こいつとのまたねはない。
「ソラ―。おかえり」
「ティナ―。癒して―」
「いいよっ。おいでー」
ベットでもふもふタイムをしているティナが腕を広げているので、ゆっくりとそこにはまる。
「すべての不浄を消してください。俺の天使」
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