第120話 日常の一コマは重要なパーツだと思うんですけど、読者の皆様は好みではありませんかね?やっぱりなにかインパクトが欲しいですか?

「ソラ君、問題はありませんでしたか?なにやら大きな声が聞こえましたが」


 問題ありましたよね?報告してください。

 そう言っているかのように俺に質問をしてくるサバスさん。


「大丈夫。問題なしです」

「……本当ですか?」

「たぶん」

「……わかりました。確かにエルドレート公爵様も大変喜んでお帰りになられていましたので、今回は大丈夫なのでしょう」


 喜んで帰ったか。ほんとに気持ちが悪い男だ。

 

「それでお疲れのようなのですが、冒険者ギルドから手紙が届いております。どうやらお急ぎのようなのですぐにご確認ください」

「ん?急ぎ?」


 俺はサバスさんから手紙を受け取り、すぐさま目を通していく。

 なになに。

 副ギルマスであるオリバーさんからの手紙か。


 ソラ君のAランク認定がされました。冒険者カードも準備ができましたので冒険者ギルドに顔を出してください。

 それと、テフテフの実の依頼がもうそろそろ期限が過ぎてしまいます。このままでは依頼失敗となりますので、二日以内に受付までお越しください。


 おっと。Aランクの昇格は嬉しいが、そんなことより、普通に依頼をうけていたことを忘れていた。

 迷いの森でテフテフの実の採取。あの時はドラゴン騒動で、ルイやジェイドさん、皇帝と振り回されまくったからな。

 それにお茶会参加者からの手紙を読むという強制労働。


 普通ならそのまま依頼失敗となり、業績の失敗数が増えるだけで連絡などこないだろうな。今回はAランク昇格の件があったので、タイミングがよかったのだろう。


「ティナ。冒険者ギルドに行くから、シロローブ着てな」

「ギルド?お仕事?」

「この前依頼を受けただろ?それを納品しにいくんだ。それと俺はAランクになるらしい」

「Aランク?すごいすごい。お祝いだー」


 うちの子たちは勝利の舞改め、祝福の舞をエンジェルリングで披露している。

 やったっやったっと喜びながら俺を祝福している天使ともふもふ。

 すこしだけ前の舞とは違い、もふもふ達の動きがアクロバットになっている。

 

 この踊りはいつどこで練習しているのだろうか。

 二十四時間。ほぼ一緒にいるのだが、これの練習風景を未だ見たことがない。

 以前モコに聞いたのだが、一応練習はしているらしい。だけど俺には内緒ということだそうだ。

 

 だから俺はそれ以来言及していないし、見るつもりもない。

 考えてみてくれ、これがつるの恩返しバージョンなら最悪な展開を迎えるんだぞ?

 ちょっとした好奇心がすべてを無にする典型例。

 その好奇心でエンジェルリングが二度と見ることができないという事態になったら、俺は悔やみきれないほどの後悔をするだろう。

 だからうちの子たちで遊ぶような雰囲気を出している時は読書タイムへと移行するようにしている。


「ソラ?いくっ?」

「にゃ?」


 うちの子たちの可愛いらしい祝福の舞に見とれているとティナとテトから声がかかる。

 

「ごめん。じゃー行こうか」


 今日はみんな歩きたい気分なのか、モコに乗ることもなく、ラキシエール伯爵家を出ていく。

 

 陽が照らす貴族街で楽しそうに前を歩く三匹と天使。

 俺はその後ろ姿を追っているのだが、時折、俺がついてきているのかを確認するように振り向くのがまた可愛い。

 こう、ちらっと見て確認すると、またみんなで仲良く歩き出す。

 それも全員揃ってではないから、俺は結構頻繁にうちの子たちに確認されている。


 こういう単なる日常の風景。その中でも思い思われの行動が見えるところがまた嬉しく思う。

 

 地球には見返り美人という言葉があるだろう?

 あれは振り返った時の横顔が美しいと思えた時に使う言葉なのだが、うちの天使は振り返らなくても後ろ姿だけでも美人さんなんだ。

 こういう時はなんていえばいいんだろうか。

 

 後ろ姿美人だと、前からみたら不細工なのかもしれないという少しだけ風刺のような物が入っている気がする。

 んー。難しいが天使はどの角度から見ても美人さん。360度美人。全方位美人とでもいうのかな。


 そもそもそれだと普通に美人でいいかもしれないけどね。

 

 

「ソラ―、遅い」

「きゅうきゅう」


 俺が考えごとをしている間、歩みは遅くなっていたようで、少し遅れていると感じたティナとシロはすぐさま声をかけてくる。


「ごめんごめん。そろそろ貴族街もでるし、モコにのって移動しようか。建国記念祭が終わったとしてもまだ、人は多そうだし、一応有名人だからね。囲まれるとめんどくさい」

「わかったぁー。モコちゃん。おすわりー」

「わふっ」


 モコはティナの指示を聞き、お座りではないが、ティナの前で体を伏せる。

 なんでもティナの中で伏せという言葉はあまり好きではないらしく、普通にお座りして欲しいときも、乗りたいときもおすわりという指示を出す。

 そこをモコが察知して、お座りか伏せかを判断しているのだ。


 モコが賢いからできるけど、普通の犬とかなら無理だろうな。

 

 うちの子全員モコに乗り、モコは颯爽と帝都の大通りを走り出す。

 一応、急いではいないので、それなりのスピードでだ。

 突然のもふもふ、天使、武闘大会優勝者の登場にいつもどおりの視線をあつめるが、そんなものは気にしない。


 パレードの見世物ではないんだぞ。うちの子を愛でたいのはわかるが近寄ってくるんじぇねー。

 

 そう、あたりを睨みつけるが、後ろからカッコいいと黄色い声が聞こえている。

 どうやらまったく俺の睨みは機能していないようだ。

 結構、敵対者相手には有効な睨みなんだけどな。こういう時の睨みは一向に機能しようとしてくれない。今さらながら十歳という年齢がたまにつらくなるな。


「ついたぁー」

「わふー」

「そうだな。モコゆっくりな。怒られちゃうから」

「わふ」


 モコは了解と一鳴き。

 もう冒険者ギルドで怒られるようなことはしたくないんだ。上級冒険者として恥じない姿を後輩ちゃんたちに見せていかないとな。

 俺は気持ちを切り替え、表情をキリリとさせる。


「では、行こうつ」


 俺の合図でモコは鼻をあて、扉を開けていく。


「にゃー」

「わふー」

「きゅー」

「きましたぁー」


 うちの子はなぜか、冒険者ギルドへと足を踏み入れると、手をあげ、到着を知らせる。

 その姿はどんなにガタイがよく強面の冒険者でも顔がほころんでしまうようなかわいらしさ全開だ。

 俺が顔を引き締めたのも意味がなく、当然女性冒険者や職員などから可愛いと黄色声。

 

 はぁー。俺がかっこつけるのはもう少し年齢が上がってからにしよう。

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