第111話 ありがとう

「にゃー」

「きゅいー」

「ティナも食べたいっ」

「了解。ちゃんと列に並ぼうな」


 ヴァロン帝国建国記念祭の終了後、長期の外出自粛を終えた俺たちは、すでに我慢の限界であったテトモコシロの要望により屋台巡りをしている。

 ラキシエール伯爵家にひきこもっている間にも屋台飯は買ってきてもらい食べていたのだが。

 どうやらテトモコシロの意見によると、自らの嗅覚で食べたいものを見つけ、お店の横で食べるのが一番おいしいらしい。

 できたてホカホカの食べ物。屋台の食事という雰囲気を味わいたいとか。


 ほんといつのまにこんなにグルメになってしまったのか。

 気持ちはわかるんだよ?でもさ、それがティナではなく従魔三匹から言われるとは思わなかった。


 俺がひきこもるのにも飽きたと伝えると、待ってましたと意見を言ってきたからな。

 ほんと食事に関しては一切の妥協をゆるさないテトモコシロ。

 ティナも屋台巡りが楽しいのか、喜々として財布からお金を取り出し渡している。


 屋台はティナの算数のお勉強タイムが続けられている。

 まあ、すでにうちの天使は天才だから余裕なんだがな。

 可愛さだけでなく知性が高い天使。今日はなにをかってあげようかなー。


「にゃにゃっ」

「わふわふっ」

「あー、めんどうだな。どうするか」


 うちの子たちが機嫌よく買い物をしていると、俺たちの索敵に敵意の反応。

 ほんと、ゴキブリホイホイかなんかか?虫が勝手によってくるんだが?

 楽しい天使の買い物を邪魔する奴は死神が許さないぞ?


 といっても今はティナがいるからな。

 まあ、さすがに相手も帝都の街中で流血ざたを犯すことはないだろうが。


「ティナ。もうお腹はいっぱい?」

「うんっ。おいしかったー。ティナはあのパンが一番好きなの、また食べにきたいっ」

「そうかそうか。またこような。俺は今から仕事があるんだけど、モコシロと一緒にラキシエール伯爵家に帰れるか?」

「ティナ帰れるよー。もう道をおぼえたんだよっ」


 ティナはえっへんと腕を組んですごいだろーとどや顔をしている。

 もう、うちの子天才。可愛い。ありがとう。大好き。

 めんどくさい奴らがいるが、とりあえず、ティナを撫でまくってやる。

 まあ、結局モコが道を覚えているから。乗っているだけで伯爵家にはいけるんだけどね。

 最近は従魔が目立つこともあり、俺たちはカードを見せなくても通行ができるようになってきた。

 武闘大会優勝者とその家族。子供であるし悪さもしない。それに何回も俺たちだけで出入りしているからね。

 顔見知りの門番さんもできて、素通りなのだよ。

 

「一応カード渡しておくから、止められたら門番さんに渡して。モコ誰か追ってくるようならすぐに影入りで」

「はぁーい」

「わふっ」

「きゅうきゅう。きゅい?」

「あー、シロもティナの護衛のお仕事だな。結界で守ってティナにケガをさせないようにな」

「きゅっ」


 一人と二匹は了解とラキシエール伯爵家に向けて大通りを進んでいく。


 モコシロがいるから大丈夫だと思うが、追ってくるようならすぐ影入りして欲しい。

 この世界を知らなすぎるからな。影の中が今のところ、ドーラ―の傍の次に安全なところなのだ。

 

 さて、俺たちはお客さんを相手にするために小道にでも入りますかね。

 

「ほぉー、俺たちに気づくか。さすが優勝者様か?」

「いや、誰でも気づくだろ。気配を消すの下手すぎ、それに尾行とかなら十人単位で動かない方がいいよ?屋根上の四人もわかっているしね。最後に俺から今後のためになることを教えてあげようか?」

「……降りてこい」


 俺とテトをつけていた六人組のリーダーであろう男性は俺の話を聞き、意味がないと知り、屋根上の四人を呼び戻す。


「それでなんだ?」

「あんたたち臭すぎるよ。血の匂いがつきすぎ、人を殺すならもう少しうまく殺しなよ。返り血浴びているようじゃ、従魔と一緒にいる人には気づかれちゃうよ?」

「……なるほど。勉強になったよ」


 リーダーはテトにひと睨みし一応感謝を述べているようだ。

 顔には青筋を浮かべながらだがな。


「やめろ、みっともねーだろーが。こんなところで服の匂いを嗅ぐな。あほども」


 その後ろにいる下っ端どもは俺の話を聞き、慌てて服や体に鼻をこすりつけている。

 おおー、いいぞー。もっとそいつの怒りゲージをあげるんだ。

 こんなやつはおちょくってなんぼなんだからな。


「もういい、お前ついてこい。その猫もつれてきていい」

「あぁ?」

「聞こえなかったのか?俺たちについてこいと言っている」


 んー。面白いな。

 世界はお前たち中心に回っていると思っているのか?

 あほなんですかね?

 気持ちがいいぐらいの気持ち悪さだよ。頭が悪いことは罪ではないが、人にそれによる害を与えると罪なんだよ?


「少し勘違いしているから、頭に何も詰まっていないお前たちに教えてあげるよ。まず人について来て欲しいなら、自分の名前、所属ぐらい伝えるべきだぞ?お前たちは誰かも知らない相手についていくのか?だとしたらあほすぎるからやめた方がいいぞ?世の中優しい人ばかりじゃないからね。それとついて来て欲しいって。俺の予定は無視?普通こういうのはアポイントをとって、あっ、あほだからアポイントって言葉がわからないかな?んー、優しい言葉で言い換えると、手紙とかで相手に予定を聞いて時間を予め作ってもらうこと。それが筋だよね?あんたたちのことを知らないけど、筋を通すのは大切だよね?」


 リーダー格の男性はついに顔が真っ赤になり、今にも噴火しそうだ。

 後ろのやつらは剣を抜いたり、弓を構えたりしている。

 ほぉー。攻撃姿勢をみせていいのは、攻撃されても文句を言わないやつだけだからな?


「やめろ。あほども。こんなところでもめ事を起こすとすぐに騎士が来る」

「あー、ごめん。もう終わったわ」

「?」

「後ろ」

「なぁっ……うちのやつらはどこだ」

「さぁー。眠くなったから帰ったんじゃないかな?さぼりはよくないよな?リーダー一人に仕事を任せるとか……はぁー、リーダーも大変だね」


 俺だけを警戒しているようだが、うちの黒猫から視線を外すのはよろしくない。

 教えてあげないが、俺より早く、隠密において右に出る者はいないだろう存在。

 テトは俺の師匠なんだぞ?俺よりおっかないんだからな。

 脳裏に浮かぶ、二年間のテトモコ師匠の鬼特訓。

 今思い返してもよく耐えたよ。俺。手加減してくれているとは知っているが、何回死んだと錯覚したことか。

 思い返すだけで涙がでてきそうだ。


「にゃにゃにゃーん」

「おう、お帰り。楽しかったか?」

「んにゃー」


 そうだよな。やっぱり楽しくないよな。

 テトは攻撃姿勢をとった瞬間に後ろの下っ端どもに近づき、次々に影世界へと送っていっていた。

 そこからの戦闘を知らないが、おそらく水魔法で瞬殺であろう。

 魔物に敵意を持って攻撃姿勢をとるとか、それはもう命のやり取り開始の合図だからな?

 今更死んだからと言って文句をいってこないでくれよ?

 

「そいつがやったのか?」

「?もしかしてお前に質問する権利があると思っているのかな?うんうん。ないよね?そんなにおびえなくても、攻撃姿勢をとってないなら殺す必要もないでしょ?それでお前は誰?」

「……ギラン組、ダンゲスだ」


 リーダー格の男性は全身を震わさせ、かろうじて口から音を発する。

 そんなにおびえなくても、対話を望む相手を殺すことなんてめったにしないはずだよ。

 うちの子たちに危害を加えないのならという言葉が付け加えられるが。

 

 それにしてもギラン組か。確か手紙が来ていたな。

 無視し続けていたが、こうも強硬手段に出るとは。

 そんなにお礼をしたいのかな?お金はいらないし、面会もいらないから、うちの子が喜ぶお菓子を送って来いよな。


「それで、なんで俺に来て欲しいわけさ?」

「それは……」

「お礼って、報復って意味があるのかな?」

「……」


 無言は肯定っと。


「そっか。じゃー、今日の夜に行く。お前はここで待っていろ。それと……関係者以外を近づけさせるな。スラム街をまとめているんだろう?そんぐらい簡単なはずだ」

「……来てくれるのか?」

「なに?来てほしくないのか?なら行かないが」

「いや、来てほしい。だが……」

「皆殺し」

「……」

「行ってみないとわからないが、敵対するならそうなるな」

「……はぁー。だからやめた方が良いって言ったのに……なんでこんな死神を相手にしないといけないんだ」

 

 ダンゲスは全身の力が抜け、その場に座りこむ。

 苦笑いしながらも愚痴をこぼしているみたいだ。


「仲のいい奴は逃がしてやれよ。お前も道案内だけでいいから」

「……見逃してくれるのか?」

「上からの指示だろ?組織の中では嫌でも拒否できないものは存在する。そういうのには理解があるつもりだ」

「あいつが組長を駆り立てなければ……」

「あいつ?」

「ああー、お前も知っているはずだ。エルドレート公爵家次男。エルク・エルドレートだよ。あいつは組を辱めたとかなんとか組長をたきつけて、お前の殺害を求めてきた」


 ほぉー。久々に血がたぎるようだ。

 そうか、あいつはこの街にいるのか。

 あれだけ痛めつけたんだがな。どうやらバカ金髪はそれぐらいでは後悔していないらしい。


「ダンゲス。いい情報をありがとう。お前は生かしてやるから、今日の道案内だけよろしくな」

「……お、おう」


 ダンゲスは急にテンションが上がり、笑顔になった俺に戸惑っているようだ。

 いやー、これほど楽しみなことはないだろ。

 

 殺したかったやつがいるかもしれないんだ。


 あーー。ニヤケがとまらないよ

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