第110話 無口

「じゃーね、手紙」

「あ、うん。ありがとうございます」


 うちの子たちと数時間。

 不思議な遊びとうちの子たち推薦の遊びを満喫し終えたネネさんは俺に手紙を渡しラキシエール伯爵家の屋敷を出て行った。


 ほんといきなりきて、うちの子たちと遊んで行っただけだったな。

 この手紙の内容も研究室見学という単語しか聞いていないし。

 初めの接触いらい俺には一切の関心を抱かないし、聞くことさえできなかったよ。


「それなにっ?」

「内容は知らないけど、たぶん研究室へのお誘い」

「またネネさんと遊べる?」

「遊べると思うけど、研究室で遊べるかどうかはわからないぞ?」

「やったぁー。うん。研究室では遊ばないっ」


 ティナは思いのほかネネさんになついているようだ。

 よくあんな不思議ちゃんと遊べるなと感心するが、よく考えなくてもティナは天使だ。

 天使は全人類を癒すものであり、全人類に対するコミュニケーションスキルを持っているはずだ。

 

 さすがうちの子だ。天才だな。

 これが将来、世に放たれると思うと我ながら恐ろしく感じるよ。

 ティナが世界平和を願い、この大陸を統一するのはそう、遠くない未来なのかもしれない。


 その時は影ながら、テトモコと一緒に援助させてもらう。

 国の暗い部分。影の部分は影の支配者である俺たちに任せてほしい。

 ティナは天使だからな。陽の当たる部分を笑顔に、幸せにしていってくれればいい。

 死神たちががんばっちゃいますよっ。


「中身見ないのっ?」


 ティナの大陸統一という、ありえそうで絶対にないだろう妄想を脳内で繰り広げ。

 大人になった時のティナの可愛さ、天使さに悶えていると、目の前にいるティナから声がかかる。

 

「あー、確認しよっか」


 天使の要望もありすぐさま確認しよう。

 手紙を開け、中をのぞく。


「なぁっ」


 そこには。

 

 ソラ君へ。

 武闘大会優勝おめでとうっ。ほんとはネネが優勝するはずだったんだけど、ソラ君の魔法を見ると、ネネもまだまだだなって思っちゃった。悔しさもないほど、完璧に負けちゃいました。風魔法も奥が深いのね。やはり魔法は面白い。ソラ君に会えたネネも再確認できちゃった。だからソラ君にネネの氷魔法の研究を見てもらいたいのだけど、研究室見学きてくれないかな?別に嫌だったらいいのだけど。ネネはソラ君たちに迷惑をかけたくはないの。

 でも少しでも興味を持ってくれたらネネは嬉しいな。

 それにワンちゃん、にゃーちゃん、きゅいちゃんにもまた会いたいな。

 あの子たちはもふもふ界の中でも特級に値するもふもふ。毎日でも会いたいけど、ネネもお仕事があるからいけないの。

 だからね。ネネは研究室にソラ君の従魔たちもつれてきて欲しいの。

 もう許可は得ているから入っても大丈夫。それに危険なものはその時片付けておくから安心して。

 絶対にもふもふの毛には傷一本つけさせないから。

 また会えることを楽しみにしていますっ。

 ネネより。


 なんなんだこの手紙は。

 可愛いらしい丸い文字で埋め尽くされた手紙。

 正直文字の可愛さなど気にならないほど驚いているのだが、まず一つずつツッコミを入れさせて欲しい。


 どこからにしようか。とりあえず、すぐ終わりそうなところからか?

 じゃー、まず、なぜテトモコシロをワンちゃん、にゃーちゃん、きゅいちゃん呼びしているのか。確か武闘大会の時に名前を教えたはずなんだけどな。

 どれも基本的には鳴き声にちゃん付けしている感じかな?

 不思議な遊びも鳴き声を使ったものだったし、ネネさんは魔物の鳴き声が好きなのかな?

 あまり日本で鳴き声フェチのようなものを聞いたことがないが、そんな人種もいるのかもしれない。まあ、わからなくもない。ちなみに俺は足フェチです。フォルムもそうだが、下からみる景色は最高なのだよ。

 そして、親戚の猫ちゃんの足の裏の獣臭……たまらない。

 おっと、これ以上はいけない。

 初心者には刺激が強すぎる。


 ツッコミに戻ろう、というかもうめんどくさいので、ネネさんが自分のことをネネ呼びしている件については無視とする。人の一人称なんて人それぞれ、キャラに会っていないなどの議題はこれ以上ないものとして進みる。

 

 最大のツッコミポイント。それを指摘するのは難しい。

 そもそも無口な人は考えごとをしていないのか?答えはNO。

 それも人それぞれであり、本当になにも考えていない人もいるだろうが、大半の人は口にしないだけで思考をしている。

 

 無口な人が無口になる理由は、恥ずかしがりや、警戒心が強い、多人数での会話のテンポについていけない、自身の主張に自信がないなど様々な心理的要因が存在する。

 別に無口だから悪いということはまったくないし、俺はクールで人形さんみたいな色白のネネさんには似合っていると思っている。


 そんなネネさんの手紙。

 クールな印象を抱いていた人の頭の中がこんなにも色鮮やかで若い印象になるとは。

 いや、ネネさんも若い人なのだが、日本でいう陽キャ?ギャル?そんな属性に近いものを感じる。

 これは手紙だよな?言葉を文章にするとき、少なからず話し言葉は消えるはずなのだが、全くそんなことはない。

 てか、こんだけ話し言葉が使えるなら、そのまま口にすればいいのに。

 なぜ、ん、とか単語だけに近い話し言葉なのか。印象と違いすぎて違和感のオンパレードなんだよ。

 

「わぁー、ネネさんの字可愛いねぇー。テトちゃん、モコちゃん、シロちゃんのこともほめてる?」

「……可愛いよな。ほめているよ。最高のもふもふだってさ」

「わふっ」

「にゃっ」

「きゅい」


 当然と胸を張っているうちの子たち。ティナもテトモコシロをほめられ、どや顔。

 あー。可愛いことで。

 いつまでもうちの子たちを愛でていたい。


 最近はまったりしすぎな気がするが、帝都に人が多いし、お金もあるので働く気にならない。

 そういえば、従魔パーカー系のお金もあるんだったよな?

 どれだけのお金がもらえているのか、気にはなるが、まあー、まだ二か月ぐらいだしな。

 もうすこし間をおいてから見てみよう。


 俺はバイトで稼いだ額を確認せず、ためてから見るのが好きなんだ。

 一気にお金が増えた気がして、高揚感あふれる。

 まあ、そんなことないのだが、通帳記帳もこまめにできないタイプだし、おのずとそうなるのだよ。

 

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