第107話 メルヘン

「えーと、カトレアさん?」

「はい?なんでしょう?」


 今さっきのことが何事もなかったかのように返事をするカトレアさん。

 いやいや、そんな綺麗に首を傾げ、不思議そうにしてもダメだからな?

 なんだ今さっきの超常現象は。


 俺まだこの世界の魔法をあまり見たことないからわからないが。

 あんなことできる人はごく一部なはずだ。


 私なにかしました?みたいにすました顔をされても俺が困るんだけど。


「ソラ君。レアは無意識だし、怒っている時の周りの影響のことは気づいていないの」

「?私また何かしましたか?」


 マーシャルさんが捕捉説明をしてくれているがさらにその言葉が俺に謎を与える。

 あれほどの環境の変化。天候の変化に気づいてないだと?

 どのような思考、視界、感情を抱けば、あれだけの魔法に気づかないことがあるのか。


 しかも、カトレアさんがどこかの無自覚最強系の主人公のようなことを言っている。

 俺はカトレアさんのこと知らなすぎたし、知ろうともしていなかった。

 無知ということの恐ろしさを初めて体験したかもしれない

 

 なにか、一つでも間違った返答をしていると、雷の女竜の無意識の超広範囲殲滅魔法が発動されていたかもしれない。

 そして、そこにマーシャルさんがいなければ、自然にあふれる魔力を使った雷魔法がさく裂する。

 今回の対処の仕方はチロというモフモフを渡すということ。


 これが正攻法なのかはわからないが、初見殺しすぎるだろ。

 何回死に戻りをすればそのルートを見つけられるのか、ゲーマー殺しのボスかなんかなのか?


 まあ、運営側もその配慮として、お世話役のマーシャルさんを配置しているのかもしれないが、だとしたら、せめてラキシエール伯爵家に仕えていてほしい。

 カトレアさんの友達とか、このイベントがなかったら気づくことはなかった。

 はぁっ、まさか、これは神から与えられたイベントだったのだろうか?

 

 くそめんどくさいお茶会。今はボス攻略のために必要な最重要イベントへと俺の中で認識が変わった。

 でも、さすがに聞きたいことが山ほどあるが。


「マーシャルさん。ぜひ攻略方を教えてください」

「攻略方?んー。レアの好きなもふもふを与える。ショートケーキでも可。あとは頭をなでてあげるとかかな?」


 あー、これはあれだ、運営が設定ミスをしている。

 何回死に戻りしたとしても気づかないし、実行できない。


 一番あり得たのは、チロを与える。うちの子を差し出すことだな。

 まあ、それは気づけたかもしれないけど。

 問題は他の二つだ。


 まず、カトレアさんの好物など知らん。ショートケーキが好きなのかな? 

 まあ、それがわかったとしよう。それでカトレアさんが怒った時にそれを渡すと。

 そんな考えにいたる人がいたら教えて欲しい。そして、ショートケーキを常に持っている人は挙手をして欲しい。

 世界中でおそらく、お世話役であるマーシャルさんだけだろう。

 まあ、実際は持ってないだろうけどね。


 そして次は頭を撫でる。

 これができる人を俺は今のところ一人しか出会っていないぞ?

 もちろん、夫であるエドさんだけだ。

 フィリアですら、カトレアさんを撫でるという行為はしないだろう。

 

 ほんと無理ゲー。


「シャル?また魔法が暴走していたのかしら?」

「大丈夫。今回は少しだけ暗くなっただけよ」

「そうなのね。よかったわ」


 おい、誰かこの二人の会話の説明をしてくれ。

 ドーラとフールというドラゴンの登場を思わせるような強大な魔法。

 それが少しだけ暗くなっただけだと?

 マーシャルさんは本気で言っているのか?


 すこし反省しているカトレアさんを笑いながら慰めている様子を見ても、冗談だとは感じられないし。

 カトレアさんの罪悪感を減らしてあげようとした言葉でもないと考えられる。

 

 上記の理由により、俺はこう判断する。

 カトレアさん、マーシャルさんは化け物。

 これはたった一つのサンプルしか得ていないが、信ぴょう性のあるデータだ。

 

 今ここにいるおよそ三十数名。その人間がこの会話を聞き、俺と同じ感想を抱いているだろう。

 いや、もしかしたら、友達と評されている今回の参加者はこれよりひどい事象を知っているのかもしれない。

 今このことに触れるとさらなる危険があるので、自然災害は恐ろしい。そう思うことにしよう。


「すごかったねー。ピカピカのドラゴンさんがいたー」


 ティナは上空での雷を恐れることはなく、興奮気味にその感想を言っている。


「あー、すごいことはすごいな」

「あのドラゴンさんはカトレアさんの友達?」

「ん?魔法だと思うけど」

「魔法じゃないよ?あの細いドラゴンさんじゃなくて、ふわふわ浮いていたの」


 えっと。うちの天使が興奮して何を言っているのかいまいちわからないんだけど。


「細長い雷のドラゴンじゃなくて?」

「うん。それは魔法?ティナが言っているのはカトレアさんの肩にいたドラゴンさんだよ?」

「……テトモコ?」

「……にー」

「……わふぅー」


 テトモコは首を振り、ティナが言っているドラゴンの存在を否定する。

 天使が不思議ちゃん属性を手に入れた?

 

 ティナに再度問うが、ティナはまた見たという。

 これはどうゆうことなのか。


「きゅうー、きゅきゅ」

「にゃ?にゃにゃにゃ?」

「きゅー」

「わうっ?」

「きゅうきゅうー」


 何やらシロは興奮気味に話始めているが、ちょっと意味が伝わりにくい。

 どうやらシロも見たらしく、前にも見たことがあると。

 なんのことなんだ?


「あれが妖精さん?」

「きゅう」

「妖精?」

「うん。ティナはわからないけど、シロちゃんがそういってるよ?前にも違う妖精さんにあったことがあるからそうだって」


 妖精?

 あれか?掃除をしてくれたり、いたずらしてきたりする妖精か?

 テトモコにも見えていないようだけど……。


「はい、そこまでよ。ちょっとこっちに来てね」


 ティナとシロに質問しようとすると、マーシャルさんからの突然の制止。

 謎すぎるが、指示にしたがい、庭の隅へと進むマーシャルさんについていく。


「ティナちゃんにも見えたのね?」

「妖精さん?マーシャルさんにも見えた?」

「残念ながら、私は学生の時に一度だけ。それ以降姿を現してはくれないの。妖精は信用している人に一度だけ自信の姿を見せるのよ」

「ごめんなさい。話についていけていないけど、それは本当に妖精なの?」


 どうやらマーシャルさんはティナがみたドラゴンのような妖精の存在は知っているらしい。


「そうね。ソラ君は妖精についてどれだけ知っているのかしら?」

「いや。何も」

「妖精はね、好きなことを自由にするの」

「?」

「絵本とかでみたことがない?部屋にいたずらする妖精とか?

「んー。あるけど。それがどうしたの?」

「所説はたくさんあるけど、妖精がいたずらするのはその人が好きだから、自分の存在を知って欲しくていたずらするの。でも、好きな人には絶対に姿を見せない」

「それはまたなんで?」

「わからないわ。でも、好きな人に見られるのは、人間でも恥ずかしいでしょ?妖精もそうなのかもしれない」


 なんかメルヘンチックな話になってきているが、これが妖精のいたずら?

 だったとしたら、やりすぎにもほどがあるぞ?


「これは私の経験談でわかったことだけど、レアが怒ると、どうやら妖精はその相手にいたずらしちゃうみたいなの」

「これがいたずらレベル?」

「これはいたずらレベル。一度だけ、ダンジョンでエドが魔物の攻撃で死にかけた時があったの、その時はもちろんレアも動揺し、その魔物に怒り心頭だったのかもしれない。その時はその層にいた魔物全て、私たち以外の生命という生命。植物さえも雷で消滅させ、その層一帯が何もないただの地面へと変貌したわ」


 言葉もでないんだが。

 さきほどまでの可愛いメルヘンな妖精はどこにいった?

 いたずら?災厄の間違いではないか。


「それは……日常生活でも?」

「ん-。程度による?」


 おーい。

 理由は分かったが、結局歩く天災ではないか。


「ティナにも妖精いる?」

「んー。ティナちゃんにもいるかもね」

「あってみたいなー」

「妖精って見えないがみんなにいる物なのか?」

「あまりわからないの。ただ、妖精の存在を知っている人は、その人に伝えてはいけないという昔話があるの」

「ティナも知ってるー」


 お、これはこの世界の常識なのかな?

 有名な童話のようなものがあるのだろうか。


「それはまたなんで?」

「好きな人が、自分が好きなのを知っているのは恥ずかしいから。だからそのままその人から離れてしまうの」


 なるほど。妖精が恥ずかしがり屋の乙女なのはわかった。

 もしかしたら俺たちにもついているのかな?

 ティナに妖精がついていると鬼に金棒だぞ?

 天使と妖精。その物語の続きを読みたい。


 なぁー、妖精。いるなら一度でいい。ティナ親衛隊隊長として仲間の存在を知っておきたいぞ?


 

 すると、どこからか、暖かく心地いい風が俺の頬を撫でる。








 


 なーんてな。

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