第108話 主人公
マーシャルさんの話ではどうやら妖精のいたずららしいが。
理由がわかったとて、対処が難しいことには変わりがない。
妖精さん。俺たちはカトレアさんの味方だ。お願いだからいたずらはしないで欲しい。
そして、ついでだが、なぜ俺とテトモコには姿を見せてくれなかったのかを一万字のレポートにまとめてほしい。
なに、一万字なんて余裕だろ?
毎日投稿している小説家の人は二時間ぐらいで三千字とかかけるらしいぞ?
この世界で初めて知った妖精の情報。
なんも言葉を繕わず言うと、ものすごく見てみたかったんだが?
異世界にきて妖精や精霊とかあるあるじゃん?なんで異世界転移者の俺が見ることができない?
そこは普通俺にだけ見えるとか俺にだけ声が聞こえるとかじゃないのか?
うすうす気づいていたことがある。
だが、俺はそんなことは絶対に認めたくない。
異世界転移を果たしたソラ・カゲヤマが織りなす物語。
そんな物語がもしあれば、だいたいのストーリーの軸は天使であるティナ。そしてもふもふのテトモコシロだろう。
読者はティナが天使であるが故にあふれだす可愛さ。黒と白のもふもふの癒し。
そんなものを求めてその作品を読むだろう。
俺でさえ、そう思っている。
じゃー、異世界転移者の俺の意義はなんだ?
一応、ティナのお兄ちゃん。もふもふの飼い主という役割を持ってはいるが、出番は本当に必要なのか?
みんなどうせ、もふもふ。天使かわいいが読みたいんだよ?
男であり、無個性な俺の話なんて誰が読みたい?
教えてくれ。その物語では主人公は俺なのか?ソラ・カゲヤマか?
主人公ティナリア・モンフィ―ル。
題名「家では死んだ者扱いだけど異世界転移者のお兄ちゃんともふもふを見つけたので、楽園作ってスローライフだよっ」
とかじゃないよね?
ちょい役ではないけど、キーマンなだけであって、主人公ではないとかないよね?
異世界転移までしたのに、主人公じゃなかったら俺は泣くよ?
それに、神様も最初の手紙いらいなにも接触ないし。
カメラも無視だし。
泣くぞ?コラ
「ソラ?なんで庭のすみっこで小さくなってるのよ」
「フィリアか。無個性な俺は必要な存在ではないのかもしれないんだ。なぁー、どうしたら俺は主人公になれる?教えてくれ。もふもふ中毒者かつ伯爵令嬢。そして隠れツンデレ属性まで持つフィリア。お前なら、くぅ、お前なら、伯爵令嬢の婚約破棄物で高ランキングにはいれるかもしれないんだ」
「……今度はどうゆう病気なの?言っていることが一つもわからないのだけど」
「あー、お前にはわからないんだ。主人公は巻き込まれ属性、鈍感。それぐらいが読者も読みやすいんだ。そうやってわからないままつぎつぎ起こるイベントに気づいたら関わっているんだよ」
「……あのね。ソラ?あなたは無個性なんかじゃないわよ?」
「フィ、フィリア」
「前に武闘大会の予選の時に観戦席の隣にいた人の話してくれたでしょ?っすよとか語尾につけて話し、強者感だしながらソラに惨敗した人のこと」
「ん?んー。うん」
「その人の名前覚えてるの?」
「……んー。おかっぱの下っ端」
「ほら、無理やり個性をだそうとしても、元が無個性な人はそのまま忘れられる存在になるの」
すまん。なんか俺のせいで下っ端がボロカスに言われている。
名前も覚えてないけど謝罪だけはしておこう。
「それがなんで俺が無個性じゃないって話になるのさ?」
「ソラの事を知れば知るほど、忘れる人なんていないわよ。こんな可愛い見た目で武闘大会優勝者。死の森を生き抜いたもの。天使ともふもふを守護する大鎌を持った死神。そして可愛い、もふもふ中毒症を抱える病人。あとはサイコパス。どれも得ようとして得れるものではないわ。誇りなさい病人」
んー。無個性ではないと教えてくれているのだろうが、なんかむかつく。
最初らへんの情報は許そう。どれも事実だし誇らしい。天使の楽園の守護者的なポジションも好きだ。気に入っている。
だが、最後らへんは問題だ。
自分でも理解はしているが、人から言われるとむかつくな。
中毒症とかじゃないんだよ?ただティナとテトモコシロが可愛いからひと時も離れたくないだけなんだよ。
それにもふもふが自ら体をささげてくれるんだ。そんなもの無視できるはずがないだろ?無視できる奴は人間ではない。そんなことして、うちの子たちが悲しんだらどうしてくれるんだ。
「フィリアが俺のことをどう評価しているのかは分かった。最後のサイコパスとは?」
「自覚なし?」
「あー、ないね」
「そうよね。サイコパスな人は自覚なんてないだろうしね」
そもそも、この世界にもサイコパスという単語があるのが驚きだが、ツッコムのもめんどくさいので無視して。
「詳細に理由を述べよ」
「エルドレート公爵家の当主、クロード・エルドレートの失踪。あれ、ソラでしょ?」
はぁ?なぜ今ここでそんな話が出てくる?
てか、どこまで知っている?俺はフィリアには何も言っていなし、ばれるようなヘマをしていない。
「無言は肯定なのよ。ソラ。まあ、私は何も知らないということにしておくけどね。これは私の中の考え。何も反応しなくていい」
「……うん」
「帝都に来る時の宿でソラ達は夜襲を受けた。それは決闘に負けたエルドレート家の手の物で、後日、エルドレート家の呼び出しに応え、もめたその日に当主は失踪」
なぜフィリアが夜襲の事を知っている?
馬車の中でも、その後もそんな素振りは一ミリも感じなかった。
「あー、貴族が客人に護衛をつけないわけがないのよ。何事もなかったように過ごしてたから私もそのようにしたの」
頭の中を読まれたかのように、フィリアは話し出す。
こいつ、できる。
「真相は知らないわ。ただ、エルドレート家の話し合いを終え、帰ってきたときの表情。あれは死神と言われても仕方がなかったわよ?貴族はいつも頭の中の探り合いが当たり前、ポーカーフェイスもできない子供のことなんてお見通しなのよ」
俺は一体どんな表情をしていたんだ?
確かにラキシエール伯爵家に帰った時にはすでに、処刑することは決まっていた。
夜を楽しみにしていたし、どのような殺し方をしようか考えていた。
ただ、ティナの前、フィリアの前ではいつもどおりに過ごしていたつもりなんだけどな。
いつもの軽口。いつものうちの子たちとの触れ合い。
そんな中でも感じ取るものがあったのだろうか。
これは……はやくルイに相談しよう。
あまりにも俺は子供過ぎる。あまりにも世間を知らな過ぎる。そして、あまりにも貴族を舐めすぎている。
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