第105話 いつもと違う格好は萌えるよね

「んー。良く寝た……。か、かわいい」

「ソラっ。やっと起きたー」


 フィリアの病気にかまって話をした後、ティナとシロが寝ているベットに潜り込んだ俺。

 一人と一匹の体温で温められた布団は思いのほか気持ちがよく、すぐに眠りにつくことができた。

 今は何時かわからないが、横にティナとシロの姿はない。

 

 俺の目の前に広がる光景。

 フィリアと遊びに行ったはずのテトモコもおり、その首元には白色の蝶ネクタイが。

 そしてシロの首元には黒色の蝶ネクタイ。

 

 最後に、俺の目覚めに反応し声をかけてきたティナは全身黒のドレスを身に纏い、綺麗にカーテシーをしている。

 そのドレスはシンプルなデザインで、フリルがついて落ち着いた印象がある。

 ティナのプラチナブロンドの髪と対照的でよりティナの白さが際立っている。

 俺は一言、可愛いと発言するだけが限界だった。


 あらゆる脳内辞書を調べるがこの光景にあう言葉が見当たらないんだ。

 人は不意に素敵な光景を目にすると言葉を失う。

 いや、言葉を発するよりも先に、その光景を目に焼き付け、脳内保存しようとしているのかもしれない。

 特に俺の場合はそれにあたる。


「……ティナ?」

「どうっ?可愛い?ソラの色だよー」


 あー。大好きだ。

 なんだこの可愛い生物は。誰が生んだ?

 ほんとありがとうございます。お母様。お父様。

 お父様の事はあまり知らないし、グレーな存在だが、今だけ、今だけは感謝をしてやる。


 黒のドレスを見せるようにふわりと回るティナ。

 スカートがなびき、そこからうかがえる白い素肌。

 気持ち悪いがしれないが、それがまた可愛い。

 俺もどんな思考回路をしているかわからないが、今はすべての事象を可愛いく思えてしまうんだ。

 俺が悪いのではない。これはティナが悪い。判決は満場一致でティナの有罪。

 罰として今後一生俺と人生を共にすること。


 目の前の光景に脳の処理が追い付かず、すこし話がずれた気がするが。

 これはどうゆう状況だ?

 可愛い生物が一人と三匹。なんのご褒美だろうか。

 皇帝の面会がんばったで賞?

 それならば、毎日皇帝の面会を予約するんだけど……


「ソラ?」

「ごめん。ティナが可愛すぎて言葉がでなかったよ。テトモコシロもよく似合っているぞ」

「えへへ」


 うちの子たちは俺の言葉を聞くと照れるようなしぐさで喜んでいる。

 ダメだ。フィリアではないが、俺も発狂しそうなんだけど。

 だれか説明求む。

 うちの子たちに今話されると、そのまま長時間のもふもふタイムへと移行してしまう。


「ソラ?大丈夫なの?」

「……フィリア。いたのか」

「ずっといたわよ。ソラが目覚める前からね。それに今まで見えてなかったことが信じられないのだけど」


 よく見ると、いや、よく見なくても俺の視界の中にフィリアの姿がある。

 先ほどまではうちの子たちが輝いていたからな。眩しすぎて背景を見ることができなかった。


「ごめん。あまりの光景にフィリアが背景として溶け込んでいた」

「あのね、今の発言を文字におこしてごらんなさい?どれだけ人をバカにしているかわかるわ」


 おっと、まだ動揺が抑えきれておらず、思考をそのまま発言してしまった。

 さすがにフィリアには失礼だな。


「ごめん」

「まあ、わからなくもないからいいけど。この子達天才だから」

「にゃにゃ」

「わふわふ」

 

 なるほど、すでにフィリアは鼻血を出していると。

 さすがに耐え切れないよな。

 俺でさえ、言葉を失い、一瞬だが脳のコントロールを失ったんだ。

 どんな精神魔法よりも効果は抜群なのかもしれない。

 危うく、精神力をワンパンで削られるところだった。


「それでフィリア、この天使たちの説明をしてもらっていいか?」

「それは今度お茶会に参加するんでしょ?その時の服装よ」

「カトレアさんに感謝の手紙を書けばいいか?お茶会。うちの子たちのためにあるようなイベント。俺は初め、その良さに気づけてなかった。悔しいが負けを認めるよ。正装。そのような服着る必要もないし、興味がなかったが、今後はイベントがあるごとに買いに行こう。一イベント一正装。いいね。みんな、可愛いは正義。ドレスは正義だ」

「にゃっ」

「わふっ」

「きゅっ」


 うちの天使親衛隊のみんなは声をあげ、賛成の意を示す。

 今の言葉を心に刻み、天使の可愛さの上限を研究しようではないか。

 そしてジャンルの違う可愛さの頂点をうちの天使に。


「あなたたち、とりあえず帰ってきなさい。ティナちゃんがついていけてないのよ」

「?」

 

 ティナは俺の発言の意図を読み取れず、はてなを頭に浮かべている。

 可愛い。

 ちがう、今はそういう時ではない。

 あまりにも新しい概念が俺の胸に突き刺さり、そのまま言葉として発してしまった。

 正装、礼服っていいな。特にティナのものはいくらでも買い与えたくなってしまう。

 

 ワンピースは見たことあったが、やはりきっちりとしたものは、素材をちゃんと輝かせてくれる。

 ティナというダイヤモンドにも負けず、相乗効果を生み出し、より天使へとなる。

 

「これソラのー。優勝おめでとうっ」

「あ、ありがとう。ティナ」


 俺はティナが渡してくるスーツを受け取りつつ、そのままティナを抱きしめる。

 可愛いぞ。うちの天使。


「はいはい、離れなさい。スーツにしわがよるでしょ」


 くそ、スタッフがはがしに来やがった。

 時間短くないですか?あと三時間ほど欲しかったんだけど。


 それにしても、これが影世界から見たスーツか。うちの子たちが投票し決めたうちの子おすすめのスーツ。

 影世界から見た景色よりも鮮明に見えることで嬉しさが倍増する。

 やはり灰色の世界の黒は綺麗ではないのだな。

 

「ソラっ、きてみて」

「うん」


 ティナに催促をされたので、すぐに着替えよう。


「どうかな?」

「かっこいいー」

「にゃにゃー」

「わふわふー」

「きゅうー」

「ありがとう」


 着替えた俺を囲うようにしてほめてくれるうちの子たち。

 スーツの後ろの裾にはちゃんと白い糸でテトモコシロの手形があり、その端っこに、ティナリアというサイン付き。

 サイズもピッタリで、鏡で見た姿は俺自身でもカッコよく、可愛いく見える。

 ほんとどこかのお貴族の坊ちゃんみたいだ。


「やっぱり似合っているわね」

「フィリアもありがとうな」

「私は連れて行っただけよ」

「それでもだよ」


 フィリアが裏で靴やシャツ、刺繍のことなど打合せしている姿をみているからな。

 ほんとこれで一三歳なのは驚くべきことだ

 貴族だからこれだけ頭の回転が速く、気が使えるのではないだろう。

 貴族のなかでもおそらく優秀なはずだ。

 さすがフィリア、もふもふ以外のこととなるとほんと頼りになる奴だな。


「何よ、そんな見て」

「んー。いい奴だと思ってな」

「バ、バカ。何言っているのよ」


 照れて顔をそらさなくていいじゃないか。耳が真っ赤だぞ。

 

「ほら、もういいでしょ。みんな汚れる前に服を脱ぎなさいよ。二日後にはお茶会なんだからね」

「二日後なのか?」

「そうよ。サバスから聞いてない?」


 サバスさん……。

 おそらく皇帝の面会というパワーワードを聞いて、伝え忘れたんだろうな。

 まあ、今フィリアに聞けたしいいか。

 

 さすがに汚れるとまずいので指示に従い服を脱ぐ。

 テトモコシロの毛がついてないかな?あまり抜け毛はないけど、ゼロではないからね。

 

 この世界にコロコロがあれば楽なんだろうけど。

 あの絶妙な粘着力、今さらながら、地球の技術の高さに驚かされるよ。

 知識チートを使おうとしても使えない。俺にはせいぜい料理チートぐらいだな。

 まあ、それもこの世界ではほとんど終わっていそうだが。

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