第104話 不治の病

「ついたぞ」

「ありがとう。ティナシロ起きろー。寝たいのならベットで寝ような」

「んー」


 まだまだお眠なティナを抱っこし、モコに乗る。

 ルイは何も言わず、起きようとしないシロを抱っこしたまま、馬車を降りてくる。


「ソラ君お帰りなさい。ルイさんもお疲れ様でございます。私が変わりましょう」

「いや、いい。こいつらの部屋までもっていくわ」

「そうですか。ならご案内します」


 おー。ルイがシロを抱っこしたまま、部屋へと運んでいる。

 もしかしてシロのふわふわの毛に落ちたのか?

 ルイついに陥落。これはクロエさんに報告だ。

 全力でいじってもらおう。


「ルイありがとな」

「いや、大したことしてねーし、お礼を言うのは俺の方だ。いろいろ協力ありがとな」

「……なんルイが素直にお礼いうの初めてみた気がする」

「お前は、俺をいじらないと気が済まないのか?クソガキが」

「誰がクソガキだ。この惚気イケメン」

「おー、いじってるのか褒めてるのかわからんわ」

「わふっ」

「あ、ごめん」

「すまん」


 俺とルイが軽口を言い合っていると。モコからお叱りの鳴き声。

 部屋の中で大声で言い合いをしていたので、ティナシロが起きることを気にしたのだろう。

 ごめん、モコ。そしてありがとう。

 そういえば、モコの鳴き声にルイも反応していたな


「モコの言いたいことわかったの?」

「あー、静かにしてって感じだろ?」

「そのまんまだね。すごいじゃん」

「それぐらいわかるわ。じゃー、オレがいるとうるさくなるし、そろそろ仕事に戻るな」

「うん。ばいばい」

「おう、またな」


 ついにルイもうちの子たちの言いたいことがわかるようになってきたか。

 これでもふもふ愛好家の道を一歩歩みだしたな


 日本にいる時、親戚のお家でよくこういう光景をよく見た。

 猫がにゃあんと鳴くと、ごはん?ってお姉さんが言う光景。

 親戚のお姉さん曰く、猫のにゃあんという鳴き声がほんとにごはんと聞こえているらしい。

 それが正しい事のように、お姉さんが猫のごはんを用意すると、その猫はうれしそうに食べていた。

 日本でもできたんだ。うちの子たちがごはんと言い出す日は近いのかもしれない。

 というか、俺にはもうだいたいのことはわかるんだけどね。

 でも、今日から、俺とティナ以外にもわかるようにごはんの発声練習させよう。


「にゃっ?」

「わふっ?」


 そう思い、テトモコを見ていると、遊んでくれると勘違いしたのか、テトモコは体をよせてくる。

 ふー。可愛すぎるぞ。


「ソラ。やっと帰ってきたのね」

「ただいま」

「あら、ティナちゃんとシロちゃんは寝ているのね。じゃー、テトちゃん、モコちゃんおいで」


 部屋へと入ってきたフィリアは挨拶もそうそうテトモコを呼ぶ。


「にゃ?」

「わふ?」


 よくわからないがとりあえず、呼ばれたら行く精神のテトモコ。

 なんだろうと疑問を浮かべながらも、トコトコとフィリアに近づく。


「おかえりー」


 そう言いながら、テトモコに抱き着き、もふもふに顔をこすりつけているフィリア。

 テトモコは嫌そうにしてはいないが、いきなりの抱擁、スリスリに少し戸惑っている。

 この女は何がしたいのか。


「フィリア?何をしているんだ?」

「ソラ」

「……なに?」


 俺の目を見つめ、真剣な顔するフィリア。

 なんだ?なにかあったのか?

 俺たちの前でこんなに真剣な顔をするのは珍しい。

 いつもティナの天使さともふもふに笑みを浮かべているフィリア。

 そんなだらしない、もふもふ中毒者のフィリアではなく、今は貴族本来の優雅であるが凛々しい姿を見せている。


「いい?聞いて」

「うん。俺たちにできることなら何でも言って」


 息をのみ、呼吸を落ち着かせ再度、問いかけるフィリア。

 相談なのだろうか。

 フィリアには本当にお世話になっているし、友達としてできることならなんでもしてあげたい。

 

「もふもふが足りないわ」


 何か聞こえた気がするが、やはり皇帝の面会のせいで精神的に疲れているのかもしれない。

 あれだな。慣れないことをすると、不思議と体力が減っている時がある。

 そういう時に不意をつかれるとティナを危険にさらしてしまうかもしれない。これは注意が必要だな。

 自分の体調管理、体力管理ぐらいはできるようになっておこう。

 とりあえず。


「ごめん。聞こえなかった。もう一回言って?」

「だーかーら、もふもふが足りないの」


 あー、時間を返して欲しい。

 この数分間の俺の思考。それをすべてドブに捨てるような発言。

 いや、待てよ。


 もしかしたら、もふもふが足りない。

 これはフィリア自身の物ではなく、従魔愛好家として、従魔数の問題、魔物の生息数の問題なのか?

 だとしたら、それをつまらない物と決めつけ足蹴にするのはよくない。

 確か以前、フィリアの将来について聞いた時、結婚先の領地で従魔屋を経営し、もふもふを溢れさせたいと言っていた。


 今からその政策について精査し、魔物のことを調べているのかもしれない。

 危なかった。こんな真剣な顔で俺に相談をしてきている友達をバカにしてしまうところだった。

 

「そうか。俺はなにをすればいい?」


 とりあえず、フィリアの言葉の意味をあまり理解していないので、フィリアに行動を教えてもらおう。


「?ソラはなにもしなくていいわよ?テトちゃん。モコちゃん眠たい?」

「んにゃ?にゃ」

「んーわふう」

「眠くないってさ」

「そう。じゃー、私とチロともふもふタイムね。みんなダンジョン行っちゃうし、三日間もみんなと遊べてないんだからね」

「……」

「……にゃ?」

「……わふわふ」

「あー、バカだ」


 今日、フィリアに会ってからの記憶をすべてなくしたい。

 数分という、一日の時間の中においては短い時間だが。

 これほど数分を返してほしい。くだらないと感じたのは初めてだ。

 テトモコもあきれ気味だが、俺はあきれを通りこして、もはや天才なのではないかと思っている。

 

 フィリアは人をイラつかせる天才だ。


「何がバカなのよー。こっちは三日間も会えてないんだから。どうせ、ソラは毎日もふもふに顔をうずめていたんでしょ」

「あのなー。だったら最初からそんな真面目な雰囲気を醸し出すな」

「何よ。私にとっては死活問題よ」


 こいつはやはり病気だ。

 ラキシエール伯爵家にお世話になるようになって、うちの子たちに慣れてきたと思ったらこうだ。

 たった三日だぞ?

 いや、気持ちはわからんこともないが、真剣な表情で大真面目に話すことではないだろ。


「フィリア、お前は病気だ。それもかなり深刻。先は長くないかもしれない」

「ソラに言われたくないわね」

「俺はもっと言われたくねーよ」


 まあ、あれだろ?結局ただテトモコと戯れたいだけだろ?

 もう、俺は疲れたよ。


「テトモコ、フィリアが遊んでほしいってさ」

「にゃっ」

「わふっ」


 眠くもなく、元気が有り余っているテトモコはすこしやれやれとした表情を見せたが、喜んでフィリアと遊んでくれるみたいだ。

 うちの子に感謝しろよ。うちの子が遊んであげるんだ。そこを理解しろ。フィリアが遊んであげるのではないからな。


「ありがとう。じゃー、テトちゃん、モコちゃんを借りるわね」

「きゅい」

「あー、チロも楽しんでおいで」

「きゅいきゅい」

「にゃにゃにゃ」

「わふわふ」


 そうして、フィリアはテトモコチロを連れ、部屋を出ていった。

 どうしてだろう。皇帝の面会後より疲れている気がする。

 よし、うちの天使と白きもふもふが寝ている。

 俺も寝る。バカフィリアが。

 

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