第103話 告白は唐突に
「なんで今さっき泣いてたんだ?」
「ん?特に意味はないけど」
王宮をでて、馬車に揺られながらラキシエール伯爵家を目指していると、ルイからさきほどの涙について聞かれる。
うっ。カメラが欲しすぎて神様に祈ったが返事がなく悲しんでいたとは口が裂けても言えない。
そもそもカメラという単語もわからないと思うし。
「いきなり泣くからさ、そんなにセレーネ教会の寄付がうれしいのかとびっくりしたわ。そんなに敬虔なる信者だったんだな」
「えーっと、信者かどうかは怪しいけど神様に感謝しているのはほんとだよ?だってテトモコをくれたの神様だし」
「はぁ?」
「テトモコをくれたのは神様だし」
「聞こえている。神様がくれたとは?お前自分で見つけたとかいってただろ」
「あー、そんなものは嘘だ」
「……」
「いてぇー」
話をやめ、無言で頭をぐりぐりしてくるルイ。
こいつ何しやがる。
「か弱い俺の頭に傷がついたらどうしてくれるんだ」
「だ、れ、が、か弱いだ。この化け物が」
「化け物いうな。あほ、惚気ルイ」
「ぐぅ、もういい。で、黒猫と黒犬は神様にもらったとはなんだ?じゃー、ソラは神様にでもあったことがあるとか夢物語を言うんじゃねーよな?」
「いや、あったことはないけど。俺異世界人なんだ。どうやら向こうでの死が神様のミスらしくてな、そのお詫びとしてテトモコとこのローブとブーツを貰ったの」
「……正気か?変な物でも食べてないだろうな?これ以上頭がおかしくならないでくれよ?」
「うるせー。もともと頭がおかしいみたいに言うな。俺は正気だ」
俺のおでこに手をあて熱を測っているルイ。
こいつ、どこまでも俺をバカにしてやがる。
今度、物理的にお話ししようかな。
「……なるほど。だからお前は非常識の塊なのか」
「あれ?思ったより驚いていない?もっと驚くと思ったんだけど」
なんだ?前から考えていて、ドラゴンの事も話したし、ついでに異世界人の告白もしてみたんだけど。
思ったよりルイが動揺してない。
動揺通り越して冷静パターンかな?
「まあ、そうだよな。そもそも、お前みたいな化け物を貴族が手放すわけがないし、そんな化け物みたいな従魔を複数つれているのがおかしかった。嘘だらけとわかっていたが、まさかの異世界人か。やはり、人は疑ってかかるべきだな。世の中にはこんな見た目で化け物がいるんだ」
「……ほんと、いつか人に嫌われるよ?」
「平然と嘘をつくソラの方が嫌われるぞ?」
「こんなプリチーな可愛い少年が嫌われるわけないだろ」
やれやれとあきれているルイ。
ほんとこいつは。いつかぶん殴ってやる。
「じゃー、あれか?この嬢ちゃんもソラがいつも言ってるとおり本当に天使なのか?」
「それは俺も再考の余地があると思うが、残念ながらティナは人間らしい。信じられないと思うがドーラも言っていたし、親戚にもこの前会った。だから本当に人間のようだ」
朝早く起こされたため、馬車にのるとすぐに寝始めたティナを撫つつ告げてみる。
「じゃー、嬢ちゃんのことは本当の事なんだな?」
「あー、ティナリア・モンフィール。これがティナの本名だ」
「アトラス王国のそれも公爵家かよ」
「おっ、さすがルイ情報通だな」
「当たり前だろ、他国であれ、公爵家ぐらい知っているわ」
「前にも話した通り、ティナは命を狙われ、逃げてきた。その時助けたのは俺でなくドーラだ。それ以外はすべて本当の話。今でもティナはモンフィール家では死んだ者として扱われている」
「そうか。ほんとあの国はいけ好かない。権力、地位、富。それがあればなんでもできると思ってやがる」
ほんとくそみたいな国だな。もともと印象はよくなかったがさらに下がったぞ。
いっそのことつぶしてやりたい。
が、うちの天使様はお望みじゃないからな。
近寄らないようにしよう。近づいてきたらただ殺すのみ。
マクレンさんに情報収取を頼んでいるがまだ返事はこないしな。
今、会えばもれなくみんな死体で影世界の住人にしてあげる。
「そういえば、この白キツネは?こいつも神様のいただきものか?」
膝の上で寝ているシロをなでつつ質問してくるルイ。
シロもおねむだったからな。馬車に乗るとすぐルイに取られた。
「シロはほんとに死の森で彷徨っていたのをティナが拾った。だから神様からもらった従魔ではないし、正確にいうと俺の従魔でなく、ティナの従魔だ」
「よくこんなエンペラーフォックスなんて魔物を連れて行こうと思ったな。従魔になるような魔物ではないぞ?」
「シロは群れから捨てられたんだ。そして一匹だけで彷徨っていた。ティナが連れて行きたかったから連れて行った。それだけだ」
「なぁー、前から聞きたかったんだけど。怒らないでくれよ?」
「うん。なに?」
「それだけの情報を知っているってことは、この白キツネから聞いたんだろ?いったいこの嬢ちゃん何者だ?なぜあんなにスムーズに魔物と会話ができる?」
おー、するどいねー。
ルイはティナがテトモコシロと話している場面をよく見ているはずだからね。
いつかは聞かれるとは思っていたが、
別にティナのことを聞いても、今更ルイに怒ったりしないよ。
俺の中で、異世界人だと話した時からもうルイは身内だ。
「これは最重要機密事項だ。口を割るなよ?」
「……そんなにか?」
「俺の事も話してほしくないけど、まあ、正直別にいい。ばれたところで何も変わらんからな。ただ、ティナは違う。天使の個人情報。それだけは絶対に守らなければいけない」
「……天使じゃないんだよな?紛らわしいから今天使とか使わないでくれないか?そんなに話したくないならいいけど」
「天使じゃないけど、俺たちの天使だ。いや、ルイなら話してもいい」
「お前のバカさ加減はわかった。それなら聞くけどなんだ?」
「ティナは魔物語がわかるんだ。だからこそ、テトモコシロの言っていることが言葉として理解できている」
ルイは俺の膝を枕にして寝ているティナを見る。
どうだー。うちの天使はすごいだろ。
天使の寝顔は貴重だぞー?俺たちを除いたらラキシエール伯爵家の人しか見れないからな?
「納得がいったよ。言いたいことを理解できるの範疇を超えていたからな。特にその首のネックレスの時なんか違和感すごかったぞ?。誰かの言葉をそのまま伝えているかのようにデザインについて話していた」
そうか、ルイがティナを連れて行ってくれたんだったな。
うちの子会議で話し合い、ティナはおそらくテトモコのどちらかの意見を職人に伝えたのだろう。
五歳の子が思いつくはずのないデザインについて話していると違和感もあるか。
いや、うちの天使は天才だから、ティナの案かもしれないがな。
「まあ、そういうこった。うちの天使はすごいだろ?」
「あー、すごいが。良くもあり、悪くもある能力だな。言葉がわかるのは単にありがたいだけの話ではない」
「んー。そうなんだよね。それは俺も気を付けていくし、ティナももっと知識をつけて成長していくしかないかな?」
やはりルイもそういう判定をするよな。
魔物の言葉がわかる。従魔など愛され、一緒に生活する魔物に向けてならあって損はない能力だ。
ただ、敵対した魔物の言葉がわかると、それはティナにとってつらいものに変わるだろう。
ティナがどうゆう人生を歩むかわからないが、魔物のことが大好きなティナにとって、魔物との付き合いは大切な物のはずだ。
人付き合いよりも難しい魔物との付き合い。
俺と一緒にいる間に、たくさんの経験を積み、広い世界を見てもらう。それが俺のできることなのだ。
「お兄ちゃん、がんばれよっ」
頭をポンポンしてくるルイ。
うー。ティナが膝にいるから反撃ができない。
「ルイにお兄ちゃんなんてよばれたくねーよ」
ティナシロを起こさないように、静かに愚痴をこぼすだけにした。
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