第102話 話し合いでは主導権を握るべき
「またせたな。部屋を移動するぞ」
「ほーい」
色々の用事をこなしてきたであろうルイが俺たちを別室へと誘導する。
「護衛の騎士はいるの?」
「いない。少しだけうるさかったが隊長が全員黙らせた」
「おー、こわっ」
「誰のせいで気が立っていると思っているんだ」
「もしかして俺のせい?」
「……いや、ソラのせいじゃない。護衛をしている隊長がソラが気づいた間者の存在に気づけなかったんだ。あの人は自分自身にいらついているのだろうな」
「それは……どんまい」
「……絶対に今の隊長に軽口をたたかないでくれよ?」
「気を付ける」
護衛の騎士まで下げさせ、護衛を務めていたジェイドさん。
その最中の間者に気づかず、客人である俺が対処する。
まあ、それがジェイドさんではなくても自尊心に傷はつくか。
逆立てないように気を付けよう。
「ソラはいつ気づいた?黒猫も気づいていたんだろ?」
「部屋に入った瞬間。モコとシロもね」
「そうか。白キツネまで……このことは隊長には言えないな」
どこか遠くを見つめているルイ。
そんなに今のジェイドさんはおっかないんだな。
ルイは先ほどと同じように声をかけ、入室の許可を得る。
そのままルイは部屋へと入り、俺たちをソファーへと誘導する。
「ソラ。俺たち以外に人はいるか?」
「いないですよ」
「そうか」
ジェイドさんは何食わぬ顔で俺に質問してくる。
いつもの表情だが、その裏ではどれほど悔しい思いをしているのか。
仕事のためなら、十歳の少年だろうと使う。その心意気は好きだし、自分の気持ちを押し殺して行動に移せるのも高評価だ。
なかなかできることじゃないからね。
こういう行動をとれるからこそ、零番隊隊長の座に座れているのだろうな。
「先ほどは申し訳なかった。感謝するソラ」
いきなり頭をさげる皇帝。
ほんとやめて欲しい。
俺も身をかがめ、頭を下げる。
「ルイは間者と言っていましたが、どこの国、組織かわかりましたか?」
「いや、なにもわかっとらん。生きてさえいればいくらでも方法があるのだがな。死人に口なしだ」
俺は皇帝の謝罪を止めるため話を切りだしたが、生きてさえいればいくらでも方法があるとは……考えるだけで怖いな。
魔法、スキル、薬物による洗脳や拷問。現代日本に生きてきた俺には想像ができないほどの手段があるのだろうな。
間者のとった即自決という行動は無慈悲ではあるが、最適解ということか。
忠誠心があるかどうかわからないが、そんな仕事に就く人とは仲良くなれそうにないな。
考えただけでも反吐がでる。
「それは大変ですね」
「うむ。巻き込んでしまって申し訳ないな。では本題にはいろう。ドラゴンの件何を知っている?」
これ以上は踏み込むな。そう目で言われたような気がした。
忘れそうになるが、やはりこの人は一つの国のトップにいる人だ。
侮って話すような真似をするとすぐに足元をすくわれそうだ。
ここは気を引き締めていこう。
「それに答える前に、皇帝はドラゴンの事をどのようにお考えで?」
「うむ。神の使いであり、この世の頂点にいる者。ヴァロン帝国においては建国の守護竜として、ともに歩むべき存在」
ふーん。そういう感じか。
「だと、ヴァロン帝国にいる国民、大多数の貴族、悲しいかな少なからず王族にもそう思っているやつはいる」
「では、皇帝は?」
「あれは人間がどうこうしようと考えるものではない。ドラゴンが守護してくれるなら、それに従う。ドラゴンが破滅を望むなら、人命を多く助けることができる選択を取るのみ。わしらが何をしようと止めることができない。人類には手に余る力だ」
「もしかして皇帝はどこかでドラゴンに会われたので?」
「幼い時にな。幼い時から魔法が好きで、よく一人で隠れて魔法を練習しておった。そんなある日、小さなエメラルドのドラゴンに出会った。そのドラゴンは幼いわしにヴァロン帝国の状況、歴史、王族について様々な質問をしてきた。必死に習ったことを思い出し話したが、わしはその時ドラゴンの魔力に魅せられ、それと同時に恐怖で慄いてしまった。今思えば、あの時ドラゴンに出会ってなかったら、わしは皇帝などなっていなかったのであろうな」
「なるほど。では俺の番ですね。皇帝の耳に入っているであろう純白のドラゴン、そしてエメラルドのドラゴンは俺たちの友達です」
この人なら大丈夫だ。
別に確固たる確証があるわけではないが、この人が道を外すことを考えられない。
それに、俺たちに害を与える存在ではない。
なんとなく、なんとなくだが俺はそう感じているだけ。
それに、これでだめなら俺もいい勉強になるってことよ。
皇帝もその後ろにいるジェイドさんも驚愕の表情を見せているが、一部を知っているルイはやれやれとあきれ顔。
だけど、すこし嬉しそうな、楽しそうな表情をしているルイ。
ほんと、友達の一世一代の告白を楽しむんじゃないよ。
「ドラゴンを友と呼ぶか」
「そうだね。縁があって、仲良くさせてもらっています」
「ジェイド。これについてわしはどう反応すればいい?」
「俺に話を振るなよ。俺の範疇を超えている」
「つれないことを言うなよ」
皇帝とジェイドさんが仲良くお話ししている。
どうもただの部下と上司の関係ではなさそうだ。
「失礼ですが、皇帝とジェイドさんはどのような関係で?」
「学校でわしが先輩、ジェイドが後輩での。わしの後をいっつもジェイドがついて来ておったわ」
「それはフロムが皇子のくせに俺以外の護衛をつけなかったからだろうが。どれだけ俺が大変だったか」
なるほど。先輩後輩の関係であり、唯一の皇帝の護衛。
それが役職は変わったが、現在も皇帝と零番隊隊長として皇帝を影から支えていると。
いい話じゃないか。
「おっと、わしらのことはよい、ドラゴンと友とは真か?」
「そうですね。うちの子たちも仲良くさせてもらってますよ」
「だから、ルイは何も言わずこの面会を設定したと?」
「はい。ソラは私の友であり、友を裏切ることはできませんでした。そのため詳細は話せず、申し訳ありませんでした」
「ドラゴンが関与しているのなら、ルイの判断で口をつぐんだのは許そう。だが、お前は俺にも少しは相談しろ」
ジェイドさんはルイの頭をぽかっと叩く。
うんうん。上司に相談は必要だよね。
ルイはもう少し人を頼ればいいんだ。
「では、ソラはなぜドラゴンが迷いの森に登場したのか理由を知っておるのか?」
「それは……」
「ティナがドーラに会いたかったからー」
お菓子を食べていたティナがふいに会話に入ってきて元気に手を挙げる。
「ドーラとは?」
「純白のドラゴンの方です。呼び名がないと不便なためそう呼んでいます」
「では、こちらのお嬢さんが会うためにドラゴンが登場したと?」
「そうですね。正確には俺が呼びました」
「……ドラゴンを呼ぶことができるのか?」
「はい」
にっこりといい返事をしておく。
ティナが無自覚にも理由を言ってしまったしな。俺たちとドラゴンの関係の親密さが知られてしまった。
ここは俺が呼べばドラゴンがくるぞーとすこし威嚇でもしておくことにしよう。
まあ、ほんとはティナしか呼べないんだけどね。ここはリスク管理。
ティナに万が一でも、ヘイトを向かせるわけにはいかない。
「もう手に負えんな。わしのさっきの話はなんだったんだ。人間には手に余る力ではなかったのか」
「その考えは正しいと思います。俺が言うのもなんですが、人間はあまりドラゴンに触れるべきではない。文字どおり格が違います」
「なぜそのような存在を友と呼べる?」
「んー。なんとなく?それが一番ですが。俺たちに利害関係がないからでしょうか?純粋に会いたい、一緒に遊びたい。そんな感情だけでドラゴンを呼びつけてますからね。それに強さを無視すれば、うちの子たちと変わらないですよ?」
友達をなぜ友達と呼べるのか。
なんかすごい難しい質問だ。
日本で議論がはずみそうな議題だが、そんなもの俺は知らん。
Theフィーリング。友達は友達なのだ。
「天使の楽園の従魔も十分規格外だがの」
「うちの子の可愛さは規格外なんです」
そんなことを言っているのではないとわかってはいるが、ここはそれ以上踏み込むなよっと。
皇帝はもちろんテトモコシロの種族について知っているだろうが、
あまり深く突っ込まれても、神様にもらったとか言えないからな。
先ほどの皇帝をマネして、威圧でもしておくか。
「うむ、まあよい。それでエメラルドのドラゴン。あれはやはり建国の守護竜なのか?」
「そうですね。本人が言ってました」
「そうか……なにかドラゴンは言っておったか?」
んー。正直今の王族には興味なさそうだったんだよな。
そのことを伝えてもいいが。傷つかないかな?
「ドラゴンは八百年ほど寝ていたそうです。この国を見捨てたとかではなくただ寝に帰っただけ、そう言ってました。それに別に今のヴァロン帝国に関わる気はないとも」
「寝に帰った?……そうか。数代にわたるヴァロン帝国の恥部の理由がただ寝に帰っただけと。笑うことしかできないの」
皇帝は笑っているようだが、目が虚空を見ているようで、感情が見えない。
ただただ怖いからやめてほしい。
「でも、今の帝国には関与しないのだな?それが聞けただけでもよかった。いまさら戻られても、他国との力のバランスが壊れてしまう」
うんうん。こういう考えができるからこそ、俺は話す気になったんだ。
「ソラよ。お主は優秀だ。ドラゴン云々は関係ない。お主の思考力と行動力。それはこの国に必要だ。やはり研究者として王宮に勤めないか?」
うげ、ここで再度の勧誘。
ほんと勘弁して。
「ごめんなさい。俺は自由な死神ですから」
「そうか。また振られてしまったわ」
「だから今は無理だと言っただろ?自由に飽きて、ふらふらとしている時に俺が声をかけるって」
ジェイドさんは皇帝にそんなことを言っている。
自由に飽きるか。確かに目的もなく自由に過ごすのも限界があるものなのかもしれない。
自由だからこその無が存在するのだろうな。
「気が向いたら王宮を訪ねます」
「それはいつになるのやら。わしが皇帝を退位した後には一緒に魔法研究しようぞ」
「だめだ、こいつは零番隊に入れると何回も言っているだろう」
否定的な意味で返したつもりなんだけどな。
どうやらこの世界では気が向いたらシリーズは通用しないようだ。
それにしても言い合う皇帝と隊長。ほんとに仲がいいんだな。
俺とルイのような軽口を言い合っている。
「ソラに何か褒美をやらねばならんな。何が欲しい?」
「え、いえいえ。別になにもしていませんよ?」
「そんなことはない。間者を見つけ、ヴァロン帝国最大の謎の答えをもってきてくれたのだ」
いや、ほんとに最近欲しいもので悩んだばっかりで見つかりそうにないんだけど。
んー。しいてゆうならカメラが欲しいが。
フィリアにも確認したし、ミランダさんにも確認して、そんなものはないと知っている。
貴族と大商会の会長がないと現実をつきつけてきたんだ。
「んー、ではセレーネ教会に俺名義で寄付しといてくれませんか?」
「セレーネ教会か。ソラはセレーネ教の信者であったのか?」
「そんな感じです。神様には感謝しておりますからね」
「そんなことでいいならしておこう」
欲しいものはカメラ。一番可能性が高いのは神様。
おー。神よ。もうそろそろいいのではないのだろうか。
うちの子たちを脳内保存ではなく、現物保存で簡易的にしたい。この気持ちに濁りはなく純粋に愛なるもの故であります。
可愛い天使をモフモフを。現物保存させてくださいませんかねー。
「では、面会は以上だ。今回の協力感謝するぞ」
「は、はい」
「ソラ、なぜ涙を流しておる」
「片思いはつらいものがあるとしみじみと感じまして」
「……そうか」
こうして俺たちと皇帝の面会は終わりを迎えた。
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