第101話 舐めているのか?

「ソラ君、ルイさんがお見えになりました。起きていらっしゃいますか?」


 翌朝、サバスさんの声で目を覚ます。

 ダンジョン帰りのベットは思ったよりも魔力がつよく、起きないといけないのに布団が俺をはなしてくれない。

 その魔力を後押しするのが、今も気持ちよさそうに俺の横で寝ている天使と白いもふもふだ。

 規則正しい寝息を立て、俺の睡魔を駆り立ててくる。


 はぁー、皇帝と面会か。

 俺が提案したことではあるが、なかなかハードだな。一歩間違えればこの国とはおさらば。

 それぐらいの内容の話し合いになるのかもしれない。

 まあ、俺は一歩も引くことなく我を通させてもらうけどな。

 その結果、皇帝が許せる範囲を踏み越えてしまったらそれまで。何事もないことを願うが、万が一にそなえうちの子を連れていく。


「ソラ君?開けますよ?」

「あー。ごめんなさい。起きてます。すぐ行きます」


 とりあえず、ベットの魔力を無理やりこじ開け、布団からでる。

 まだ眠そうなティナシロを立たせ、テトの水で顔を洗ってあげる。

 

「ティナおはよう。ルイが来ているってさ」

「ルイさん?」

「昨日、約束しただろう?これから王宮に行って皇帝と面会だ」

「んー、そうだった」


 ティナはまだ寝ぼけているのか、返答も曖昧だ。


「お、やっと起きてきたか」

「さすがに早くないか?」

「今回の件がそれほど緊急なんだ。朝一で予約してもらったわ。まだ嬢ちゃんは眠そうだな」

「そっか。まあ、王宮に行くまでには目を覚ますさ」

「それならいいが。お前たちに武装解除っていっても意味ないよな……」


 俺たちの恰好をみて、すこし頭を抱えているルイ。

 まあ、俺らはいつも武装していないし、そのままでも十分戦えるからな。

 それにテトモコシロの武装状態などないからね。


 てか、この世界でも武装解除とかあるんだな。魔法やスキルがあるなら武装の有無など関係ないと思うんだけど。

 

 俺たちはルイが乗ってきた馬車に乗り王宮を目指し、貴族街を進んでいく。

 王宮の門についたが、門の騎士が止めることもなく、そのまま門を素通り。

 便利なこった。ぜひこの権利を売って欲しいな。

 

「ほら、ここからは歩きだ。これから向かうのは王族の客室だ。普段は入れるような場所ではないからな?頼むからおとなしくしててくれ」


 ルイは幼い子に言い聞かせるように俺に言ってくる。

 失敬な。俺はいつもおとなしく、いい子じゃないか。

 うちの子たちだって静かにして、お菓子にくいついているじゃないか。何も問題ない。


「ソラ、頼むぞ?」

「何回も言うなよ」

「お前がまったく自覚してなさそうだからな」

「?」

「もういい。失礼のないようにな。オレは基本的に口をださない」

「りょーかい」


 ルイはどこか疑っているようだが、いつも俺は失礼してないだろ。

 俺が無礼を働くのは、相手が無礼だから。それ相応の対応をするだけ。

 そう考えると、皇帝の態度次第ではそうなる可能性もあるがな。

 胃が痛そうなルイにはそんなことは伝えない。


「失礼します。零番隊所属ルイ・コドールが天使の楽園をお連れしました」

「入れ」


 ルイは金色の縁で彩られた扉の前で声を上げ、入室の許可を得ている。

 こうやって見るとルイもちゃんとした騎士だな。

 

 俺たちはルイの後を追い、部屋へと入室する。

 そこにはソファーに座っている皇帝の姿とその後ろで武装をしているジェイドさんの姿。

 他の護衛や執事などはこの部屋にはいないみたいだ。


 ちゃんと約束は守ってくれているみたいだ……な?

 ふーん。そうか。


「にゃっ」

「うん。まあ、待っててよ」


 俺たちは促されるがまま皇帝が座っているソファーの前につく。


「ルイから少しは聞いておる。ドラゴンの件を知っていると聞いたが、なぜワシに面会を求めた?」

「それに答える前にお聞きしたい。なぜ、俺が指定した人以外がこの部屋にいる?」

「何を言っておる。ソラが望むように指定した人物しかこの部屋にはおらん」

「そうですか。なら、それ以外は人間ではないから殺してもいい。そう捉えてよろしいでしょうか?」


 皇帝とジェイドさんは俺から発せられる魔力を警戒しつつ、疑問の表情。

 さぁー、どうでるか。


「ソラ。いきなりなにをする。お前が言ったように俺と隊長、それに皇帝しかこの部屋にはいないだろう」


 ルイは必死に俺に説明してくるが、ルイの実力がまだまだか、知っているのか。

 それか俺が舐められているのかもな。

 


 俺は大鎌を取り出し、室内の角にある柱へと風の斬撃を飛ばす。

 俺が生み出した風の斬撃は思った通りの場所を切り裂く。

 風による破壊音と人間の苦しむ声。それが無音の室内に鳴り響く。


「な。なにやつ」

 

 皇帝が指示する前よりも早く、ルイとジェイドさんは俺の斬撃であらわになった柱へと近づき、声の主を捕える。

 ルイが柱の中から引きずり出してきた男性は両足を切断されており、ほぼ虫の息。

 

「お前は誰だ?」


 そう怒鳴るような声で詰問するルイ。

 ただ、その男性は口を開くことはない。

 拳に力を籠め、その男性を殴ろうとするが、その男性はニコリと笑い、その瞬間に全身の力が抜ける。


「まずいルイ。毒だ。はやく回復術士を呼んで来い」

「はいっ」


 ルイはそのまま、男性をジェイドさんへと渡し、部屋を出ていく。

 

 んー。この感じだと皇帝の護衛、暗部ではなさそうか?もちろん零番隊の隊員でもない。

 てっきり、皇帝に試されているのかと思ったんだけどな。

 だから殺さず、両足の切断で済ませた。


 それに、ジェイドさんとルイも知っているからこその態度だと思っていた。

 まさかほんとに気づいていないだけだったとは……

 だとしたら、少し残念だな。


 テトも言っていたが、この部屋に入った時からその人物の感知はできていた。

 今さっきの様子から大抵の人間はその存在に気づかないのだろうが、うちの子たちは騙されない。

 そしてドラゴンに近づいた俺も。


 自分でも驚いているのだが、魔力による索敵、魔力感知の感度が急激に上昇している。

 索敵には自分の魔力をエコーのように飛ばし、その反応で確認していたのだが。自然の魔力、神の恵みに気づいてから、場を埋め尽くす自然の魔力も俺の物。もちろんそれに触れている人物、その魔力も感知することができるようになった。

 

「くそ。だめだ」


 ジェイドさんはマジックバックからあらゆる小瓶を取り出し男性の口に押し込んでいたが。

 どうやらすべて意味をなさなかったようだ。

 

 回復ポーションに。体力回復。解毒とかかな?

 その効果を無視するほどの自決剤。何とも恐ろしい代物だな。

 そして情報を抜かれまいと即座に行動できる精神。

 さぁー。相手さんはどこのだれだろうね。

 

 ルイは未だ部屋に戻ってきていないが、代わりに大量の護衛の騎士が部屋へと押し掛ける。

 

「そいつに近寄るな。ソラは功労者だ」

 

 俺を捕えようとする護衛の騎士を口一つでとめるジェイドさん。

 どう見たって俺が怪しいよな。皇帝と死体の男性を抱えるジェイドさん。大鎌を握っている俺。しかも護衛の騎士が駆けつけるきっかけになったのはまちがいなく俺の斬撃による騒音だし。


 でも、それ以上近づかなくてよかったよ。

 危うくテトモコを止めれなくなるところだったじゃないか。

 

 もちろん、俺たちの中で第一優先はティナだ。それは世界が変わろうとも不変な物。

 ただ、テトモコにとっては俺も護衛対象なんだわ。

 それも神様の使命による護衛。何があっても俺を守り続けるのが神に与えられた使命なんだわ。

 だからテトモコが俺の危機にどうなるか俺自身もわからない。

 今まで危険だと感じたのは死の森でのドーラ登場の時だけしね。

 あの時も俺から離れようとせず、格が違うだろうドーラに威嚇を繰り返していた。

 

 それも人間相手だと瞬殺するかのような威嚇。

 ジェイドさんが止めていなかったらここが血も残さず、跡形もなく空白になっていたかもしれない。

 

 久々に全力警戒態勢をとっているテトモコを撫でて落ち着かせる。


「ありがとな。もう大丈夫だと思うぞ?」

「わふわふわふ?」

「んー。わかんないけど、俺への盗聴ではないだろう」

「にゃにゃ?」

「それは皇帝さん次第だ。俺たちはソファーに座って待ってようか。ルイが来たらお茶とお菓子をねだろう」

「きゅうきゅう」

「うんっ」


 テトモコは心配症だな。ジェイドさんが止め、それの指示に従う騎士が全員。

 騎士の階級がどのような感じになっているか知らんが、ここではジェイドさんがトップなのだろう。

 これ以上俺に危害を加えるやつはいないと思う。

 ティナもあまりショックを受けている様子はなく、慣れた光景だと思っているのだろうか?

 シロと一緒にお菓子の催促をしてくる。

 

 俺は育て方を間違えたのかもしれないな……と思いつつも、この世界の一般常識がなく、且つティナの経験した事件のことを思うとしかたがないように思える。

 それに武闘大会でも死にはしないが、血は流れる、腕は切り飛ばされる。

 そんな光景が当たり前にある世界。俺が間違っている可能性があるが……

 どこかそれは認めたくない。


「ソラ。ティナちゃん」

「クロエ先生っ」

「大丈夫だった?」

「ティナは大丈夫だよ?」

「クロエこっちだ。どうだ?だめそうか?」


 部屋へと入ってきたルイとクロエさん。クロエさんはティナに近づきケガがないか確認している。

 ルイはジェイドさんが持っている男性を受け取り、クロエさんを呼ぶ。

 クロエさんは手に魔力を込め、男性に触れるが。


「残念だけど、もう死んでいるわ」

「くそが」

「体に少量の毒を感じる。この量で即死できるようなものはそんな簡単に手に入るものではないわ」

「どこの国だ?」

「私に聞かれてもわからないわよ。それはあなたの仕事よ。毒の成分を解析し、その素材がわかれば毒の出所ぐらいは探せるでしょうけど」


 ルイとクロエさんの会話が続いている。二人の会話している姿を初めて見たが、想像している二人ではなかったな。

 もちろん今が緊急事態だからこそ、超エリートのような二人なのだろうが。


 んー。なんか大変そうだな。傍観している俺たちはこの男性の件が終わるまで時間がある。とりあえず。


「ルイ。暇だから、お茶とお菓子が欲しい」

「……お前は。わかった。すまん、誰か執事にいってお茶とお菓子を用意してあげてくれ。こいつのことを知っているだろうが、ソラ・カゲヤマ。間者を見つけた功労者だ。それに俺の友でもある。そいつらのことは警戒しなくていい。逆に近づくな、敵対されても俺は知らん」

 

 ルイは周りにいる皇帝の護衛の騎士に言葉をつげる。

 改めて、ルイに友と呼ばれると照れるじゃないか。

 それに相も変わらず、問題児扱い。今回は特にテトモコに対しての注意だろうが。

 

 今のテトモコは敏感だからな。クロエさんがティナに近づいただけでも飛び掛かりそうだったし。

 近寄ってきたのがルイとクロエさんでよかった。もっと関りが薄かったら、息をしていない可能性がある。


「ほら、お茶とお菓子だ。そこでゆっくりしていろ」

「ほーい」

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