第89話 食いしん坊


「準備はいい?」

「いいよっ」


 シロローブを身に纏い、軽快にジャンプするティナ。

 その横ではテトモコシロは体をぐーと伸ばしている。


 よし、うちの子たちの準備もできたみたいなので、帝都から避難を開始しますか。

 めんどくさいやつに絡まれる前に帝都を出なければ。


「馬車はほんとにいいの?」

「うん。まあ、冒険者ギルドの中に結局入るからね。どっちでも一緒だ。それに合体型モコ号でいくから大丈夫」

「それってそんな名前だったの。可愛さのかけらもないから変更したら?」

「却下で。カッコいいし可愛いだろ」

「わからないわ」


 やれやれと首を振っているフィリア。

 いいんだ。女性には伝わらない物があると理解はしているからね。

 俺は満足しているぞ。まあ、いい名前を募集してもいいが。 

 あまりロボット系のアニメ見てないからなー。俺には他は思いつかない。


「いってくるよ」

「いってきますっ」

「にゃっ」

「わふっ」

「きゅっ」

「いってらっしゃい。ゆっくりしてきなさいよ」


 見送ってくれるフィリアとサバスさんに挨拶をしてラキシエール伯爵家の門をでる。

 

 貴族街を悠々と歩き、何事もなく貴族街から出る。

 やはり帝都の街並みは人の山。

 今日も今日とて記念祭が続いており、街中は活気にあふれている。

 

 俺たちは視線を気にせず、そのまま冒険者ギルドへと足を進めていく。

 まあ、歩いているのはモコだけだが。


 数多の視線をすべてシャットダウンし冒険者ギルドへと到着する。

 中に入ると、いつもよりは少ないが冒険者の姿が確認できる。

 記念祭中は冒険者はお休みしているのかな?

 うむ。自由って素晴らしいぃー。


 一階を素通りし、二階へと上がる。


「ソラ君。ごめんなさい。まだギルマスの了承が得れてなくて」


 受付に行く前に、副ギルマスのオリバーさんが俺たちを見つけ話しかけてくる。

 どうやらAランク昇格の推薦をとるのに手間取っているみたいだな。

 やっぱり、ギルマスの評価はよろしくないのかな?

 さすがに問題児すぎたか……


「全然いいですよ。ゆっくりAランクを目指しますから」

「いえ、あと三日あればAランクになれるはずなのです。ギルマスは今休暇中でしてお話ができていないだけです」


 あれ?思っている展開ではなかったな。

 まさかの休暇でお仕事していないだけなんかい。

 ちょっと反省してしまったじゃないか。

 それにしても記念祭の最中にギルマスが長期休暇か?やはりこの時期は冒険者ギルドは暇なのかもしれない。


「なるほど。でも、今日はその件じゃないんです。ちょっと迷いの森に行こうかと思って。なにか依頼ありませんか?」

「天使の楽園でしたら、迷いの森の依頼すべて受けれますが、どのくらいダンジョンに行かれるのですか?」

「そんなに深く潜るつもりはないんだ。俺たちも休暇で自然を満喫しに行くんだ」

「えっと。迷いの森はダンジョンですが?」

「知ってるよ」


 にっこり笑顔で答えておく。

 オリバーさんは正気かと顔をゆがめているが正気なんです。

 本気と書いてマジと読みます。


「死の森よりマシですよね?」

「そこと比べられると大体のところはマシです」

「なら、問題なく休暇だよ。ほらうちの子たちの散歩だよ」


 オリバーさんは心配ですと顔で表現しているが。

 気持ちは理解できるんだけどね。俺たち強いから。大丈夫だよ。

 テトモコシロを一瞥し、納得したのか諦めたのか。数枚の依頼書を持ってくる。


「でしたら、こちらなどどうでしょうか。迷いの森の中層付近で見られるテフテフの実の採取です。こちらは魔物が好む木の実で、従魔を持たれている方からの依頼が数件あります」

「にゃにゃ?」

「んー。依頼があるってことはおいしいんじゃないかな?依頼とは別に食べてみればいいだろ」

「にゃっ」


 テトはテフテフの実の味が気になったようで俺に聞いてくるが。

 そんなものを俺が知っているわけがないだろう。

 この世界に来てはや二年とちょっと。

 まだ生まれたてのベイビーなのだよ。

 

 それにしても採取系の依頼か。

 今までそれ系の依頼なんて受けたことないし、その実すら知らない。

 何か情報をくれないかな?

 

「ちなみに。テフテフの実って今ギルドにありますか?見たこともないのでわからなくて」

「ありますよ。少しお待ちください」

 

 そういうとオリバーさんは後ろにいる職員に声をかえ、テフテフの実を持ってこさせる。

 やってきた男性職員の手に持たれているのは真っ青なこぶし大の木の実。

 なんとも見た目は最悪で口にも入れたくないが、横ではシロがきゅうきゅうと鳴いている。


「シロ食べたことあるのか?」

「きゅうー。きゅきゅきゅう」

「ほぉー。おいしかったのか。じゃー、テトモコシロの分のも集めとこうな」


 そういえば、シロだけは完璧な野生児だったな。

 テトモコは神様の使いだし、この世界を巡ったことはないだろう。

 それにシロはどこからきたのだろうか。逃げるのに必死でどこから来たかわからないみたいだが、いずれシロの種族にも会えるかな?

 まあ、親から捨てられたみたいなことをティナから聞いたし、シロは会いたくないのかもしれないがな。

 

 今にも食いつきそうなシロを抑えながら、シロのルーツを考えてみるがわからないことばかりだな。

 もしかしたら、うちの子たちの中でこの世界を一番知っているのはシロなのかもしれない


「にゃにゃ?」

「あー、オリバーさんその依頼受けます。それと三つほどその木の実を買ってもいいですか?」

「わかりました。依頼の資料としてお渡ししましょう。役立ててください」


 なんとも優しいオリバーさん。

 そのままテフテフの実を手渡してくれる。

 これが普通の対応なのかな?

 今も保護者のような目で見られているので普通ではない気がするが。まあ、もらえるものは貰っておこう精神なので、ありがたく頂戴します。


「ありがとう。テトモコシロ。いいか?資料としてもらったんだからね。味だけじゃなくて匂いも覚えてちゃんと探すんだよ?」

「にゃー」

「わふー」

「きゅー」


 まかせてーと三匹とも鳴いているが、その視線はテフテフの実に釘付けだ。

 もう、ほんと食いしん坊なんだから。

 いつも食べさせてないみたいに思われるでしょうが。

 とりあえず。このままでは落ち着かないのでテトモコシロの前に木の実を出す。


「にゃっ」

「きゅっ」


 テトとシロはそのままパクリと秒で食べ、木の実を堪能している。

 モコは食いつくのではなく、その匂いを確認しているようだ。

 モコ……君だけが頼りだからな。まかせたぞ。

 

 ちゃんと匂いを覚えたのだろうモコはそのまま食べ、またご機嫌な顔見せる。

 三匹とも好きな味なようだな。これは木の実の乱獲が確定だ。

 木の実のなり方などはわからないが、乱獲してもダンジョン内なので大丈夫であろう。

 不思議空間。神の恵み。本当に感謝します。


「あー。それとオリバーさん。あまり冒険者が行かないところはありますか?ゆっくりしたいので人がいないところがいいのですが」

「それでしたら。このまま帝都から迷いの森に向かい、迷いの森を右方面に向かってください。数時間あるくと岩場が見つかります。そこは迷いの森の範囲外らしく魔物が厄介なため低ランク冒険者は向かわず、人は少ないと思います」

「ありがとう。右方面に向かえば人が少ないんだね」

「そうです。記念祭の最中なのでいつもよりも少ないかと」


 よし、じゃー岩場方面の森の中でピクニックだな。

 

「みんな行くよー。いざピクニックへ」

「ぴくにっくっ」


 そのままモコに乗りゆっくりと冒険者ギルドを出る。

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