第90話 尊敬に値する


 冒険者ギルドから出てすぐにモコは帝都の外を目指す。

 もちろん、天使、もふもふ、優勝者の三大特級物の登場に街中の視線は一気に俺らへと向けられる。

 慣れては来ているが、やはり少しうざい。


「テト何人ついてきている?」

「んにゃー」

「六人か。興味ほんいか?俺は敵意を感じないけど」

「にゃ」


 モコに乗って進んでいると、後ろからついてくる気配を感じる。

 まあ、街中をどうどうと歩いている俺らが悪いのかもしれないが。

 ほとんどの人はついてくる様子はなく、ただパレードの見世物を見るかのように見てお話ししているだけだ。

 だからこそ、余計にその行動と視線に敏感になってしまう。

 テトも敵意を感じないようなので、問題ごとではないと思うが。


 とりあえず警戒しつつも無視を貫き、帝都の門にたどり着く。

 そのまま、帝都の冒険者ギルドで受けた依頼の受注書を提示し帝都をでる。


「んー。帝都からでたけど、やっぱりまだついてきてるよな?」

「にゃー」


 このままモコが走れば振り切ることは容易だが、迷いの森で探されるのもめんどうなんだよな。

 敵意も感じないのに、つかず離れずの距離でただ視線だけを感じる。

 んー。帝都を出てまで追いかけてくるのは予想外だな。どうしたもんかね。

 これはこちらから接触してみるか?


 モコに指示を出し、来た道を戻り、視線の主である六人の元へと向かう。

 いきなり反転してきた俺らに少し驚いているようだが、より視線が強くなったような気がする。


「ねー。ついて来ているみたいだけど、俺たちになんか用か?」

「い、いえ。用事というほどの物ではございませんが。そ、その。従魔ちゃんを見ているとそのまま時を忘れ、帝都の外まででてきてしまいました」


 この男性は一体何を言っているんだ?

 おそらく六人組のリーダーであろう五十代ぐらいのおじさんが、従魔ちゃんという単語を発するのは少し怖いぞ?

 不審に思いながらも、いまだ敵意のかけらもなく、ただ俺たちを見つめいる集団。

 いや、正確にはテトモコシロに熱い視線送っているような気がするが。

 目的はなんなんだ?


「はあ。で、なんで俺たちをつけてきたの?」

「それが見ていたら、ついて来ていたとしか」


 だから、なんでそんな状況になるんだよ。

 頭おかしいのか?


「えっと。誰か代わりに状況を説明して欲しいんだけど」

「では、私が。天使の楽園のみなさん申し訳ありません。私は従魔愛好家の会員番号八、ローズと申します。ここにいる他の人も従魔愛好家の会員でして、たまたま最近帝都で話題になっている従魔を見かけたものですから。無意識に体が追いかけていました」


 おじさんに代わり、オレンジ髪の女性が話してくれるが。

 結局わからないんだけど?

 とりあえず、この集団が従魔愛好家の会員なのはわかった。

 そして敵意がなく、問題を起こす雰囲気がないことも。

 ただ、最後の文章が謎なのだ。無意識に体が追いかける?

 

「あなたたちのことはわかりました。では、俺たちには特に用事がないと?」

「いえ、ないことはないのですが、すでにお手紙をラキシエール伯爵家へと送りました。ですが口頭でも伝えさせてもらいます。今度従魔愛好家の集いが王宮で開催されるのですが参加されませんか?」


 従魔愛好家の集い。噂では聞いていたがそんなものは存在するんだな。

 正直俺は行きたい。

 いかにも貴族が来そうなイベントだが他の従魔も来るんだろ?

 さすがに大きい従魔は不参加だろうが、さまざまな魔物に会えるかもしれない。

 そんな機会めったにないんだ。これは参加一択。


「いきたいっ」

「あー、そうだね。俺たちもぜひ参加したいよ。もちろん他の人の従魔もくるんだろ?」


 魔物好きなティナも行きたいようだ。

 それなら行くしかないだろ。天子様がご所望だ。


「それはありがたいお返事です。会員もさぞ喜ぶでしょう。従魔と生活されている方は従魔を連れてくると思います」

「ん?従魔愛好家なのに従魔と生活していない人もいるの?」

「はい。シングルナンバーを与えられた私たちは従魔と生活していません。私たちが従魔と人生を共にすると仕事に手がつかなくなりますしね。それに、従魔は存在自体が愛しく尊いものです。一匹の従魔を愛するのではなく、全従魔に愛を注ぐ。そのために私たちシングルナンバーは日々従魔のために政策を話し合っているのです」


 ローズさんはものすごい熱量で従魔愛を話す。

 これが本物の従魔愛好家なのだろうな。

 俺はモフモフ好きなただの少年なのかもしれない。もちろん他のもふもふも好きだが、やはり一番はテトモコシロになってしまう。

 この人達はあえて一番を作らず、すべての従魔のために日夜活動している。

 ここまでいくと尊敬に値するな。

 

 俺は影収納からすっと財布を取り出し、白金貨三枚をローズさんに手渡す。


「ソラ君。これは……」

「あなたたちの生きざまに感銘を受けました。ぜひこれからも従魔愛好家としての活動に専念して欲しい。それは従魔のために使ってください。武闘大会で手に入れたお金の半分ほどですが、これは従魔を愛するあなたたちに俺は使ってほしい」

「ですが、武闘大会で優勝までされて手にしたお金を……」

「いいのです。俺にはあなたたちの変わりができない。俺はうちの子たちを幸せにするのが精いっぱいなんです。だから俺の代わりにすべての従魔を幸せにしてあげてください」


 手に白金貨を握りしめ涙を流すローズさん。

 よく見ると後ろの男性陣も目に涙を浮かべている。

 

 これでいいんだ。言った通り俺にはうちの子たちしか見えないからね

 従魔のことを思い、すべての従魔のために活動ができる。

 そんなケモナーを俺に推させてくれ。

 金額など問題ではない、ただ推したい。それだけなんだ。


「ありがとうございます。これはすべて従魔のために。愛ある従魔愛好家の活動ありがとうございます」


 一斉に頭を下げる愛好家たち。

 うむうむ。感謝したいのはこちらも同じだ。

 従魔屋で楽しく一週間生活させてもらったからね。この人たちがトップにいるのなら従魔愛好家の未来は明るい。

 それがわかっただけでもいいのだ。

 最初は変なやつらに追いかけられたと思っていたがいい出会いだった。

 すべての出会いに感謝を。

 

「すみません。最後に天使の楽園の従魔ちゃんたちに触れることを許していただけませんか?」

「ああー。もちろん。いいよな?」

「にゃっ」

「わふ」

「きゅう」


 テトモコシロも話を聞いていて、ローズさんたちに悪い感情を抱いていないようだ。

 いいよーと元気に鳴いて返事をする。


「いいみたいです」

「ありがとうございます。では皆さん」

「「「「「はい」」」」」


 カバンから瓶を取り出し、その中の液体を手に振りかける。

 そして真っ白なタオルで手をふき、俺たちに視線を向ける。

 いやいや、そこまでしなくても大丈夫なんだけどな。

 手なんか洗わなくても普通に綺麗だろうし。そんぐらい森で数日生活する俺らは気にしないんだけど。


「聖水で手を浄化しました。これで不浄なものは取り払ったと思います」

「聖水……どうぞ」


 ちょっとこの人達の対応にも疲れてきたので、そのままテトモコシロを向かわせる。

 聖水なんて初めて聞いたが、テトモコシロも嫌がってないし、まあいいだろう。


 恐る恐るうちの子たちに手を伸ばす従魔愛好家の皆さん。

 慎重な触り方で、少し気にしすぎなような気もする。


「こうしたら気持ちいいんだよ」

 

 ティナはローズさんたちに触り方を伝授しているようだ。

 まあ、うちの子たちが喜ぶ触り方だけどね。

 他の従魔でも通用するかもしれないし、ぜひ身に着けて帰って欲しい。


 そこから数分ほどもふもふを堪能したローズさんたちは。満面な笑みで帝都に戻っていった。

 門にできている長蛇の列の後ろに並んだので、ここから数時間待つのだろう。

 

 ほんと何も考えず俺たちを追いかけてきたんだな。

 そこまでくると少し怖いが、まあ、尊敬できる人たちだ。

 ちょっとの変人具合は許してあげよう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る