第86話 守護者は傍にいますけど何か?
「ソラいってきまーす」
「にゃっ」
「わふっ」
「きゅっ」
「きゅうー」
「いってらっしゃい」
「ソラもどこか行くのよね?ティナちゃんたちのことはまかせて」
武闘大会が終わった翌日。
ラキシエール伯爵家の門でうちの子たちの外出を見送る俺にそれぞれが声をかけてくる。
チロとフィリアも一緒に行くみたいで、まかせてと元気に声をかけてくるが……。
「ちょっと用事があるから済ませてくるよ。フィリアまかせたぞ。ケガさせちゃだめだからな。テトモコシロ、ちゃんとティナの言うこと聞くんだぞ?フィリアが良いっていっても勝手にティナのそばを離れたらだめだからな?欲しいものがあったら財布に入れてあるお金使っていいからね?ティナもわからないことがあったらテトモコに聞くんだぞ?ちゃんとハンカチはもったか?財布はテトに持ってもらってるか?それから……。」
「もう、どれだけ心配なのよ。馬車に乗って移動するから危ないことなんてないわよ」
「記念祭が続いているだろ?うちの天使が下界に顔をだすんだ。どれだけ心配しても、し足りない」
「はいはい。お兄ちゃんはもう黙ろうね。みんな行きましょう」
「はーい」
ティナはフィリアの手を取り、そのまま一緒に馬車に乗っていく。
その後をテトモコシロチロがついて行く。
俺はただただその光景をたたずんで、貴族街を進む馬車が見えなくなるまで見送るだけ。
さて、俺も行きますか。
ラキシエール伯爵家の門を出て、貴族街の角の死角で影入りする。
視界は灰色の世界へと移り変わり、同じ場所のはずなのだが違う印象を感じる。
久しぶりの影世界を研究するのもいいが、今はティナが心配だ。
風魔法で移動速度を上げ、貴族街を走り、ティナの乗る馬車の後を追う。
馬車は貴族街を抜け、そのまま帝都の大通りを進んでいるみたいだ。
人通りは相変わらず多いが、貴族の馬車に近寄る人はいないようで、そのまま大通りを突き進んでいる。
プレゼント買いにくみたいだけど一体なんだろうか。
ちょっと卑怯な気がするが、影世界からティナの買い物を見させてもらおう。
うちの子たちを乗せたラキシエール伯爵家の馬車は大通りを数分進み、一つの大きな店の前に停車する。
エクセレント。そう看板に書かれており、店の前からでも服が飾られているのがわかる。
「さぁー。みんなついたわよ」
「はーい」
フィリアの声が聞こえ、その後に馬車から降りてくる天使とモフモフ。
ここから俺の仕事開始だ。
さぁー、うちの天使が下界に降臨した。変な奴は近寄らせないぞ?
「ようこそいらっしゃいました。フィリア様。ティナリア様。それに従魔のみな様。店内でお話をお聞きますのでどうぞ」
店から出てきたスーツ姿の男性がフィリアに声をかけ、そのまま店内へと誘導する。
俺の心配も関係なく、馬車から降りたうちの子たちはそのまま店内へ
まあ、店の前に馬車を停止させているし、変な奴が絡む時間すらなかったな。
「フィリア様、本日は男性の服をお探しだとお聞きしましたが、その方はどちらでしょうか」
「プレゼントなのっ」
店内へと入り、個室に通されたうちの子たちはソファーに座り、お菓子とお茶を貰っている。
モコがすこし大きなサイズで店内に入店しているので、俺はその隙間に入り、一緒に入室した。
どうやらティナは俺に服を買ってくれるみたいだ。あんまり服も買わないからね。おしゃれなティナは気にしていたのかもしれないな。
お兄ちゃんとして天使の横に立っても見劣りしない恰好にしないといけない。
いまさらながら、自分の無頓着さに嫌気がさしてきたよ
「今日はこの子のお兄ちゃんの礼服を買いに来たの。サイズはすべて記載しているわ」
「そうでありましたか。もしかしてその方は武闘大会で優勝されたソラ様ではありませんか?」
「あら、知っているの?」
「もちろんでございます。帝都で店を出している商人で知らない者はいないでしょう。魔物パーカー。ベクトル商会で飛ぶように売れているパーカーの発案者でございますし、十歳の若さで武闘大会を制する力。ソラ様は時の人でございますよ」
「ソラ人気者?」
「そうでございますよ。ティナリア様。それと同時に皆様も人気者でございます」
「ティナも?テトちゃん、モコちゃん、シロちゃんは?」
「ティナ様、テト様、モコ様、シロ様全員でござます。パーカーも人気ですが、街で見かけたものは虜になっております」
影世界から会話を聞いているが、なんかすごいことになってそうだな。
俺の評価が商人からうなぎ上りで上がっている気がするし、うちの子たちも人気者として確固たる立場を形成されつつあるな。
商売に関してはド素人だからほんと勘弁して欲しいが。うちの子たちが人気者になる分にはいいな。
面倒事が増えるかもしれないが、その分手を出してきたやつにはうちの子親衛隊の餌食になってもらおう。
ネットがあれば総叩き、つるし上げができるんだけどな……。
それにしても礼服か。今のところ神様印のローブでいいかなって思ってたけど、やはり一枚ぐらいは持っていた方がいいのかな?
「どのような礼服にされますか?ブラックにシルバー、ブルーと様々な色がございますが」
「黒っ」
「黒色でございますね。それではスタイルの違うものを持ってこさせますね」
そういうと、店の男性は部屋出ていく。
数分して、四人ほどスタッフを引き連れ戻ってきた店員の手には、様々な黒色のスーツのような服。
正直、スーツなんて日本にいた時は就活用の物しか知らなかったが、こんなにも種類があるのか。
形はそれぞれ違いがあり、どれも良さそうで何でもいい気がしてくる。こういうところが無頓着なんだろうけどな。
うちの子たちは飾られていく服を見て、感想を話す。三匹と一人の会話か周りにはなんのことかわからないだろうが、誰も何も言わず、ただその光景を優しい目で見ているだけ。
ティナが紙とペンを貰い、紙になにかを書いていく。
どれどれ……
どうやらみんなの名前を書いているみたいで、好きなものをそれぞれ選んでいるようだ。
ティ、テト、モコ、シロ。そう書かれた紙が服の前に置かれていく。
ティだけや、シロだけのものがあるので、投票のようなものなのだろう。
おそらくだけど、一つには絞れないから票が多いのにするのかな?
すでに十分は経っているだろうが、フィリアも話に参加することなく、チロとうちの子を見守っている。
チロは退屈なのか時々うちの子の横に行き、なにか話しているが、何をしているのやら。
「フィリアおねえちゃん。この二つが残ったの。どっちがいい?」
「んー。シンプルな物と後ろが長い物ね。それは好みになるけど。いつもローブきているから長いほうがイメージしやすいわね」
「わふわふわふ」
「にゃにゃん、にゃにゃ?」
「あー、それいいなー。ティナもしたい」
「にゃにゃ」
「わふわふわん」
「きゅう?」
「んー。変かな?」
うちの子会議が再度開かれ、会話が弾んでいる。
正直、俺も何を話しているのかわからん。なにか悩んでいるみたいだが。
「どうされましたか?」
うちの子たちが悩んでいるみたいなので、店員の男性が声をかけてくれる。
「あのね、後ろの端っこに、みんなのおてての刺繍いれたいの。それにティナの手もつけたかったけど、みんな変だって」
「従魔様の肉球を刺繍ですか……。それは素晴らしいものになるかと。そうですね。人間の手形だとサインのような物に思われる可能性がございますね」
なに?テトモコシロの肉球だと?
うちの子たちは天才なのか?ぜひつけてくれ。
それにティナの手形か……。個人的にはぜひつけてもらいたいが。
礼服だとすると後ろに手形があるとさすがに変か?んー。難しいな。
他の人が手形入りスーツを着ているところを想像すると少し違和感があるが。
理解できても心がティナの手形を欲しがっているんだけど??
影世界からどのような展開になるかをじっと見つめていく。
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