第85話 予定はすでに入っていた

「ソラ君、優勝おめでとうね。私も鼻が高いわ」


 高速でティナに追いつき、そのままラキシエール伯爵家の馬車へと乗ると、カトレアさんから祝福の言葉がかけられた。


「ありがとうございます。なんとか優勝することができました」

「私には余裕そうに見えましたけどね。手紙で夫も試合を観戦したいと言っていたけど、領地をあけられなくて来れなかったのを残念がっていたわ。それにみんなも可愛かったわよ?あの踊り家で見せてくれないかしら」


 俺への賛辞とエドさんに触れるとすぐに、うちの子のエンジェルリングについて話しだすカトレアさん。

 今も、あの踊りをどのように考えたのか、ティナと会話している。

 

「テトちゃんとモコちゃんが考えたのっ」

「あら、そうなのね。偉いわー」

「えへへー」


 さらっとティナはテトモコが考えたと言っているが、それに何も疑問を抱かないカトレアさんもどうかと思うぞ?

 まあ、子供がペットに教えてもらったのって言えば、そのぐらいの対応になるかもしれないが、じゃー、どのように教わったのかが普通疑問に思うだろ?

 テトモコシロが賢いのは知っていると思うが、どう考えて普通じゃありえないほど意思疎通ができている。

 

 今も、きゃっきゃ、うふふのやり取りをしている二人を暖かい目で見守るフィリアと俺。

 フィリアはチロを抱っこして、家に帰ったら教えてもらおうねーとチロに言っている。

 どうやらエンジェルリングにチロも参加させる予定らしい。

 チロもきゅうーと元気に体をくねくねさせているので乗り気なのだろう。

 フィリアの目が少し狂気じみて怖いが、俺はそのまま見ないふりをする。

 

 チロが不満に思っていないならそれでいいのだ。

 子供の育て方に口を出すと、喧嘩になりかねないからね。


 カトレアさんとうちの子たちの会話はラキシエール伯爵家の屋敷につくまで止まらなかった。

 馬車から降り、そのままみんなで食堂へと入る。 


「ソラ君。そういえばルイから話は聞いたわよ。あの子やっとクロエちゃんと向き合うことにしたようね。私からもありがとうね。ルイはいい子なのだけど、少し熱くなるところがあるからね、ソラ君が相談に乗ってくれて助かったわ」

「いえいえ、感謝の言葉なんていりませんよ。それに相談と言っても、話し聞いて、素直になれぐらいにしか言ってないつもりです」

「それでもよ。主人も心配していたのよ。ルイの気持ちは嬉しいのだけど、いつまでもそのままとはいかないでしょ?それにクロエちゃんともお話しして聞いてたからね。私も嬉しいわ」

「クロエさんとも仲がよろしいのですね」

「クロエちゃん可愛いでしょ?妹みたいな子なの」


 確かに、可愛いらしい見た目で、ルイの話をしている時の表情なんて女性っぽさ全開だったが。

 訓練場でのクロエさんは攻撃的で獰猛なまもの……


「はい。素敵な女性で、優しいティナの先生です」

「そうなのよ。あの子、お風呂上りに髪といてあげたら寝ちゃったのよ?可愛いでしょ?」

「はぁ……そうですね」

「ティナも時々ねちゃうー」

「あらー、そうなの?ちゃんと乾かしてから寝るのよ?」

「はぁーい」


 元気に右手をあげ、わかったと表現していティナ。

 お風呂上がりの体温ほっかほかのティナの背もたれになるのは嬉しいからいつでも寝ていいからね。

 でも、男性と違って、髪の長さがある女性は髪が乾いていないと風邪をひくと聞いたな。

 前言撤回、風邪はダメ。

 まあ、寝てても俺たちが髪を乾かしてあげるんだけどね。


「そうだった。私ったら大事なことを忘れていたわ。ソラ君たちは明日からなにする予定?お友達がソラ君たちに会いたいみたいなの。人数が多かったからお茶会形式で呼ぼうと思うのだけど、いつが空いているかしら」


 あー、その話か。やはりお茶会は避けては通れない道と。

 まあ、一、二回なら行くと伝えたしな。気持ちはできている。

 と言いたいが、少し時間が欲しい。

 戦闘続きの三日間で体力的には疲れていないが、精神的に疲れている。やっぱり人の視線を浴びるのは疲れるものなのかもしれない。

 それに武闘大会の熱意が冷めないままにお茶会をすると、お貴族様の興味が高いままだろうからね。

 

「一週間は休息に当てたいと考えています。武闘大会が終わった後なので、帝都で行動するわけにもいかないので、外に出てゆっくりしようかと」

「あら。でも休憩は必要ね。それではそれ以降にお茶会にしましょうか。お友達にもそう伝えときますね」

「遅らせてしまってすみません。ありがとうございます」

 

 会話が終わるとカトレアさんはサバスさんとお茶会での出し物を話し始めた。


「にゃにゃにゃ?」

「うん。外でまったりだよー。せっかくだしもう一つのダンジョン迷いの森に行ってみよっか」

「わふわふ?わふわふわん」

「たぶん休憩になるんじゃないかな?死の森よりレベルが低いなら、他の魔物も近寄ってこないと思うけど」


 テトモコは二匹顔を見合わせ、目で会話をしているみたいだ。

 

「にゃっ」

「わふ」


 テトモコもどうやら俺の提案に賛成らしい。

 一週間の休みをダンジョンで過ごす。一般人が聞けば頭がおかしいと認定される話だが。

 正直、死の森で狩りをしていた俺たちに森型のダンジョンはそこらへんの草原と変わらないと思う。

 もちろん中心に行けば話は変わってくるが、そんなに深く潜るつもりはない。

 

 本音は少しだけ自然が恋しい。日本ではシティーボーイだったが、この世界にきて二年間。

 死の森という自然あふれる環境にいたからね。

 あの木々が織りなす葉の音。誰の話声もしない俺たちだけの空間。そして時折聞こえる魔物の声。そんなことでさえ懐かしく、恋しいものとなっている。


「旅行っ?」

「きゅう?」

「んー。旅行じゃないけど、しいて言うならピクニックかな。お外で遊んでごはん食べるの。夜はテントで遊ぶんだよ」

「ぴくにっく……楽しそうっ」

「きゅうきゅう」


 ティナはわからないと首をかしげたが、楽しそうなのは伝わったみたいだ。

 ピクニックという単語はこの世界にないのかな?

 この世界で生活していても不思議と日本語英語が通じる場面が多いから、どの単語が地球産なのか忘れてしまいそうになる。

 そもそも、外で飲食や遊びを楽しむなんて、一般人がすることないからピクニックという言葉がはやっていないのか。

 

「お外でドーラを呼んでみよっか」

「ドーラっ、呼ぶ呼ぶっ。いつ呼ぶ」

「きゅうきゅう」


 シロはうちの子たちとの話を聞いてドーラの事を知っているからなのか、ドーラに会うことをしっぽを大きく振って喜んでいる。

 このメンバーで唯一ドーラに会ったことないからね。

 どんな反応するんだろうなー。俺の時なんかびびりすぎて早く飛んでくれないかなって神頼みだったしな。

 テトモコでさえあの警戒の仕方だ。あの数分だけでどれだけの精神力を持っていかれたか。

 

「待って。明日、ソラはこの家でお留守番よ。ねっ、ティナちゃん」

「あっ、そうだった。忘れてたー。ソラお家でいい子にしててね」


 おー?フィリアが急に会話へ入ってきたが、俺はそんな話聞いてないぞ?

 それにティナが俺のマネをしている気がする。可愛い。

 ティナが可愛い事について言及すると、数日必要になるから、とりあえずおいといて。

 

「何するの?」

「ソラ、起立。サバスやりなさい」

「起立っ」

「かしこまりました」


 俺の質問に答えることなく、サバスさんに立たされ紐を当てられている。

 んー。わからん。


「ソラ君、腕を水平に広げてください」

「……はい」

「ありがとうございます」


 サバスさんはテキパキと俺に紐をあて、何かを紙に書いているが。俺ってもしかして今採寸でもされているのか?


 その考えは正しいようで、股下やウエスト。あらゆるところを採寸された。


「あのー。フィリア?なんでさ「だまってなさい」いす……」


 俺の質問は途中でかき消され、目線でティナを見ろとフィリアに伝えられる。

 ティナは目をキラキラさせ、幻想であるがしっぽが揺れているほど楽しそうにしている。

 これはあれか……またプレゼントなのかな?

 スレイロンにいた時に一回だけこういう場面があったからね。

 

 テトモコを見ると頷いているので、そういうことなんだろう。

 なら、邪魔をするわけにはいかないな。

 でも、帝都でフィリアが一緒にいるといってもティナと離れるのは不安なんだけど……


「にゃにゃ」


 テトが肩に乗ってきて、耳元で小さく鳴く。

 どうやら今回は影世界から見守るのは許されるようだ。

 伝えてくれたテトの頭を撫で感謝を伝える。

 ゴロゴロともっと撫でてほしいと催促してくるテト。

 もちろん全力で甘やかします。ここがいいかな?

 

「おっ。モコもか?」


 テトを撫でていると、足に体当たりしてきた小さなモコ。

 足に体を当てながらくねくねしているので、今は甘えん坊タイムらしい。


『いにしえの神よ、長き眠りから目覚め、我に数本の聖なる腕を与えたまえ』


 心の中で呪文をとなえ、人間をやめようとしてみるが。

 もちろん俺にはそんな超能力は存在しない。

 こういう時はティナシロも撫でて―とうちの子の列ができるからね。腕がたらんのよ。人間。


 結局腕が増えるはずもなく、そのまま腕二本で可愛い天使たちを撫でまくりました。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る