第81話 決勝戦
「ソラ頑張ってねっ」
「にゃにゃ」
「わふわふ」
「きゅうー」
「うん。優勝してくるぞ」
武闘大会本戦三日目、決勝戦がもうすぐ始まろうとしている。
今日は出場者専用観戦スペースにも観客が入り、前日よりも多くの人が入っている。
通路にも立ち見の人がおり、異常な熱気が闘技場を包んでいる。
ステージ横のスペースから見上げると、さらに圧迫感を感じる。
「さぁー、皆さん。今年の武闘大会もはやいこと、最終試合決勝戦を残すだけとなりました。決勝戦のカードはヴァロン帝国第三皇子レオン・デ・ヴァロン殿下とBランク冒険者、死神のソラとなりました。ここまでくるとメロディーにはどちらも強くてどのような試合展開になるかわかりません。ゼンさんはどのように思われますか?」
「そうだな。レオン殿下は魔法よりも近接の方が得意とするし、近接に持ち込むだろうな。ソラの風魔法は強力だが、今回は移動補助にしか使わないと今さっき報告があった。武人として近接でレオン殿下を倒したい。真っ向勝負の近接勝負となるだろう」
「きゃー。ソラ君カッコいい。男と男の真っ向勝負。決勝戦にふさわしい試合になりそうですね」
いつもどおり、メロディーさんとゼンさんの試合前予想がされている。
なんか、俺が熱い男みたいな盛り上がりを見せているが、ただ大鎌の練習してみたかっただけなんだけどね。
「ガキ死ね」
「なにカッコいいこと言ってんだ。さっさと負けちまえ」
「そんなことでメロディーちゃんにアピールするな」
「俺のメロディーちゃんだぞ。ガキはガキらしく公園で遊んどけ」
観客席から聞こえてくる俺への罵倒。
どれもこれもくだらないメロディーさんへの愛の言葉。
これ。俺悪くないんだけどな……
メロディーさんを見てみると、華麗にウインクしてくるので、おそらく会場を盛り上げたかったのだろう。すべて手のひらの上だ。
ほんと、男どもよ。あの表面に張られた笑顔のマスクぐらい見抜け。メロディーさんはのほほんとした可愛らしい女性ではないぞ?
計算づくの汚いアイドルだ。
日本でもつくられた性格、キャラで売れるアイドルは多いからな。一般人は本当のその人を知ることはない。
まあ、応援している人もわかってはいるだろうけどね。人の好みなんてどうこう言うつもりはない。他人から見て無駄、意味のないことでも、本人が大切にしていることならそれでいい。
だが、それによって他の人に強くあたるのはどうかと思うがな。
まあ、メロディーさんにお熱な人々も、いつか、その時の自分に後悔する時がくるかもしれないけど……
「ソラと言ったな。よくその年でここまで勝ち上がってきたな」
「ソラです。ありがとうございます。レオン殿下の戦技も素晴らしいものがあるので、胸を借りるつもりで挑まさせてもらいます」
「うむ。礼儀がなっているな。最近の冒険者の子供はみなこうなのか?」
「いえ、俺が特別なのかも?」
「ふむ。自分で特別か。面白い。いい試合にしよう」
「はい」
いきなりレオン殿下に話しかけられ、少し動揺してしまったが。
笑っているようなので、なにも問題はなかったようだ。
貴族相手でも問題があるのに、王族相手に失礼をするようなヘマは絶対にできない。
試合前に、汗がでそうだったよ。
それにしても綺麗な人だ。金髪で白いスーツのような戦闘服に身を包んだ皇子様。
物語なら白馬に乗ってお姫様を迎えにくるんだろうな。
なんかしらないけど、キラキラとしたオーラが見える。こういう人の特殊スキルですか?
もしかして魅了とかつかえます?
王族は皆さまこんな感じなのかな?威圧、存在感。そんなものを立っているだけなのにレオン殿下から感じる。
「お二人とも準備はよろしいですか?」
「うむ」
「はい」
「では、武闘大会、決勝戦開始します。よーい。始め」
メロディーさんの甘い声で開始の宣言がされる。
もちろん二人とも即行動にでることはなく、ただ、対面して立つ。
「風魔法を使う気はないのか?」
「攻撃はですね。移動には使わさせてもらいます」
「俺のことを愚弄しているわけではないな?」
「もちろんです。レオン殿下の剣と正面から打ち合ってみたいのです。あまり対人経験がないので」
「どれほどその大鎌を使用している?」
「んー。半年もたっていないですね」
「なるほど。天賦の才か。ではその気持ちに応え、俺も剣技だけいこう」
あっぶねー。
最初の挨拶は問題なくクリアしたが、魔法の件で問題を起こすところだった。
ここで不興を買うのは絶対にダメだ。勝負の結果で不満を持たれるのは致し方ないけど俺の決めたことで気を悪くされたら、あとあとめんどくさそうだし。
王族問題とか、本当に厄介でしかないからね。
対処方法がこの国から去るか、この国を消すかの二択しかない。
そしておそらく去っても、めんどくさくなるから消すだろうが。
どうやら試合前の話は終わったみたいだけど、レオン殿下は動く様子はない。
やはり今までの戦い通り、防御主体の反撃スタイルのようだ。
では、気持ちに応えて、行きますかね。
とりあえず、六割のスピードで。
横なぎに大鎌を振りぬく。
が、やはりレオン殿下の動き出しが早く、軽々と躱されてしまう。
まあ、初撃でやれるはずもないな。
右から左へと振った大鎌を反転させ、さらに踏み込み、右へと振る。
「ん?」
大鎌をこのスピードで反転させて攻撃するのは、さすがのレオン殿下も予想できないと思ったが、これも一歩下がることで余裕に躱される。
さすがだなー。ここまで予想されると見透かされているようだ。
その後も攻撃の手を緩めることなく、大鎌を振りかざしていくが。
どれも綺麗に躱され、いまだ剣を使用させてもいない。
これは……どうしたもんかね。
大鎌を振り続けて二分ぐらいだろうか。
このスピードだと当たる未来が見えない。
未来……
レオン殿下から距離をとり、戦闘を思い返してみる。
六割のスピードだといっても、それほど遅くないはずだ。レオン殿下はそれを難なく最小限の動きで避けている。
大鎌を使用した戦闘スタイルの勉強をしている可能性もあるが、俺は大鎌を主とした冒険者をあまり見たことがない。
はたして本当に、レオン殿下は戦闘予想で俺の攻撃を避けているのだろうか?
戦ってみてわかったが、明らかにレオン殿下は俺の動き出しより早く回避行動に移っている。
これが予想だというのなら、レオン殿下の才能は素晴らしい。でも、才能、戦闘のカンというにはあまりにも人間の域を超えている気がする。
「未来が見えている?」
小声でつぶやいてみると、レオン殿下は目を見開き、右手を挙げ、メロディーさんがいる司会席を見る。
「試合中にすみません。守護結界に異常を感じたので五分ほど整備をします」
メロディーさんが話し始めて、試合が止まってしまった。
守護結界の異常?そんなもの感じないけど……
ステージに運営であろう人が数人やってきて、ステージ周りを確認し始めている。
まあ、なんか問題があったのかな?
ん?試合は止められているが、レオン殿下はこちらにゆっくり歩きだしてくる。
「見事だよ。ソラで五人目かな」
「ん?なにがですか?」
「私のスキルに気づいた人数だ」
「それは……やはり未来が見えるのですか?」
「ソラの未来はね。それ以上は言えない」
なるほど。どうやら俺の考えは正しかったようだ。
スキルの詳細はわからないが、未来を見ているのは間違いない。
けっ、チート万歳。これで皇子様なんだぜ?最高だろ?
外見良し、身分良し、強さ良し。
神様よ。マイナスステータスというものを知らんのかね。
「申し訳ないが、俺のスキルを公表されるのはまずいのでな。試合を止め、口止めさせてもらった。今、この会話は周りには聞こえていない」
「わかりました。レオン殿下のスキルについては口にしないようにします」
「この魔道具に誓ってもらおう。他者に伝えないと誓ってほしい」
ズボンから紫の石を取り出し、俺にそう告げるレオン殿下。
契約の魔法具なのだろうか、単なる魔石のようにも見える。
「俺はレオン殿下のスキルを他者に伝えません」
紫の魔石がほのかに発光して、光が消える。そこには先ほどとなんら変わりがない紫の石があるだけ。
本当にこのような宣言だけで誓いになるのだろうか。
それに他者に伝えないっていうだけの誓い。どこまでが違反になるのだろうか。
他者に伝える手段はいくらでもありそうなのだが。
間違いなく、口にしてそれを聞かれるのはアウトだろう。では筆談は?俺の意思で伝える気がなく、メモとして書いたものを他人が見てもアウトなのだろうか。
「考えごとをしているみたいだが、すべてやめた方がいい。ソラが行動した結果、相手が俺のスキルを理解すると、ソラは一生魔力が使えなくなる」
は?この皇子様はさらっとなんて言いやがった?
魔力が使えなくなるとか言いやがったか?
行動が制限されるだけかと思ったら、ちゃんと罰あり。
普通先に言えよ。王族だからといって何をしてもいいなんてことはないぞ。
目の前でキラキラとしたオーラを放つ金髪に文句の一つでも言いたくなるが、仮にもヴァロン帝国第三皇子。
ここはぐっと気持ちを抑え、レオン殿下を睨みつけるだけにしておく。
「あれ?思ったより動揺していないね。これを言うとみんな怒り出すんだけど」
イケメンの顔を不思議そうに傾げ、俺に話しかけるレオン殿下。
わかっていて、罰のことを後だししているのか。いい性格してるよ。
この皇子様はスキルに気づいた強者を敵に回したいのか?
思考が幼いアホか、自分の実力を過信しているバカか。
ニヤニヤとした顔を切り刻みたくなる衝動に駆られるが、ここで動けば、相手の思うつぼだな。
やはり貴族、王族なんてものは関わらない方がいいな。
改めて確認できたよ。
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