第82話 万能だと思わないことだ


 守護結界の整備という体をとったスキルの口封じの時間もそろそろ終わりになろうといている。

 カモフラージュの大会運営の人がステージを降りて、ステージ上には俺とレオン殿下だけになった。


 さて、どうするかね。

 レオン殿下のスキルが未来を見ることということはわかったが。

 その詳細はわからない。

 ただ三秒先までの行動が見えるとかなら対処の使用がある。レオン殿下の脳の処理能力を超えるほどの手数、スピードで攻めればいい。

 だが、今までのやり取りでどうもそれだけとは思えない。

 

 今までの攻撃もそれほど遅くない。だが、すべて最小限の動きで躱されていた。連撃もすべてだ。

 レオン殿下の処理能力が高いだけかもしれないが、あまり戦闘経験がないであろう大鎌を相手にして、俺の思い付きの連撃をこうも避けれるはずがない。

 おそらく脳内処理をする時間が存在するか、オートで避けるような機能がついているか。

 まあ、俺の想像できる内容だけしか想像できないがな。

 スキルや魔法は摩訶不思議な力だ。もっと強力ででたらめなスキルかもしれない。


 もう手っ取り早く、サイクロンで場外にさせようかな?

 うちのテトモコ師匠に振り返ると、二匹は首を揃えて横に振っている。

 まだ、何も口にだしてないんだけどな……


 おそらくテトモコシロにはレオン殿下との会話は全部聞こえている。小声で話したとしても、魔物のテトモコシロに聞き取れないわけがない。

 テトモコは簡単に済まそうとした俺の思考を読み取り、同じ勝ち方は面白くないから否定したっていう感じかな?

 お、今度は首を縦に振っている。

 以心伝心?離れている気がしないね。


 まあ、いいや。正直風魔法を使用しないとむかつく金髪皇子には勝てそうにないな。

 体力切れを狙うのも時間がかかりすぎる気がする。

 それに、今までカウンターを受けることはなかったが、行動がばれているのなら、いつか当たる可能性がある。神様印のローブを纏った俺にどれだけのダメージがでるかわからないが、リスクを冒す必要がない。



「レオン殿下。これからは攻撃魔法も使用しますね」

「やっとやる気になったか。いいだろう」


 どこまでも爽やかに返答するレオン殿下。

 ほんと、どこの物語の皇子様やら。

 その笑顔の裏にある本当の顔を世間に見せてやりたいよ。


「皆さんお待たせしました。守護結界も正常に作動していますので、決勝戦の続きを始めます。お二人の準備はよろしいですか?」

「ああ」

「うん」

「では、再開します」


 メロディーさんの再開宣言がされた。


「では、はじめようか」

「はい」


 レオン殿下も金髪の前髪をかき上げ、俺を見つめてくる。

 俺が恋する乙女なら一瞬にして落とされていただろう。

 イケメンめ。無意識の行動がかっこよすぎるわ。


 さて、再開して魔法を使うと言ったが、まずは全力スピードで近接してみますかね。

 これで攻撃が入りそうなら、このまま魔法なしで勝ってみたい。


 風を足に纏い、移動速度を上げ、地面をけっていく。

 レオン殿下はそのままの体制で俺を見ているが、どこまで先を見ているのだろうか。

 やはりスキルがわかってから、近づくのは少し怖いな。

 未来視はそれだけ警戒する必要があるスキルだ。様々な作品で描かれることがあるが、制約もあり使いづらいことを除くと上位に入るスキルである。

 まあ、俺が手にしたとしても使いこなせるかと言われれば微妙ではあるが。


 思考をしている最中にも大鎌を振り回し、レオン殿下に攻撃をしているのだが、やはり俺の全力スピードでもレオン殿下に攻撃を当てることはできない。

 ただ、今さっきとは違い、剣でガード、いなす姿も見れるので、レオン殿下の限界は近いかもしれない。

 このまま推していこうかな?


 連撃を続け、首を取りに行こうとするが。

 俺が動き出す方向にレオン殿下の剣が振りかざされる。


「やっべ」


 急いで、進行方向に風を生み出し、暴発させる。

 風の暴発で動いている体は逆方向に飛ばされ、すれすれでレオン殿下の剣を避けることができた。


「やっと傷を負わせることができたか」

 

 レオン殿下の言うように咄嗟に左手から風を生み出し、暴発させたため、左手には風よる切り傷ができている。

 この武闘大会で初めて負傷してしまった。ノーダメで行きたかったんだけどな。

 まあ、自傷のほうがマシだ。あのまま体を動かしていたら間違いなくレオン殿下の攻撃を食らっていた。

 

 やはり未来視やっかいすぎるな。

 行動をあらかじめ知り、俺が気づく前にそこに剣を振りかざすだけで、避けるのにも一苦労。何も対処法がなければそのまま攻撃が当たる。

 やはりチートだよ。思ったより、近接はきつそうだが、試したいことが一つだけある。


 レオン殿下は未来が見えるのかという質問に俺の未来は見えると言っていた。

 なぜレオン殿下はこのような言い方をしたのか。

 聞いたときから疑問に思っていた。普通、未来が見えるのなら、未来という言葉にソラのという限定的な言葉をつける必要がない。


 もしかしたら、他者の行動は未来で見えるが、自分の未来は見えないのかもしれない。

 では自分の未来が見えない状況でこうも連撃を避けているのはどういう状況なのか。

 おそらくだが、行動一つごとに未来を見て、回避行動をとるか、脳内シミュレーションができるかだ。

 前者だとありがたいが、後者のシミュレーションだと、どこまで相手の未来を想像できるかはわからないし、何回も脳内シミュレーションができるなら、攻撃を当てるのは不可能だ。


 だが確証はないが前者な気がする。後者だとしたらここまで反撃がないのもおかしい。シミュレーション次第だが、もっと反撃のタイミングや手段はあるはずだ。


 まあ、何が言いたいのかというと、自分の未来が見えないということは、レオン殿下の回避の結果はわからない可能性が高いということだ。


 それに加え、俺の未来が見えるということだが、一体どのように見えているのか……

 レオン殿下の視点で見えるはずのものが見えるのだろうか?

 では、見えない物は?そのまま未来視でも見えないのか?

 俺が試したいことは大鎌に透明な風の魔力を纏い、刃を大きくして攻撃することだ。

 俺の予想だとレオン殿下の視点で見えないものは未來視でも見えない。

 


 癖なのか知らないが、レオン殿下は最小限の動きだけで攻撃をかわす。

 まあ、癖になるのもわかるんだけどね。

 未来の相手の行動が見えるのなら、無駄をなくすために最小限の動きで避けようとするだろう。

 今回はそれを利用させてもらおうか。

 

「考えごとは終わったかな?でも俺がすべて無駄だと教えてあげよう」


 風の暴発で生まれた距離を保ちつつ、考えごとをしている俺を余裕の様相で待ってくれていたレオン殿下。


「ありがとうございます。では行きますね」


 地面を蹴り、レオン殿下に特攻していく。


「また近接かい?ソラはあまり賢くないようだ。無駄だとわからないのか?」

「?」

「ぐはっ……なぜ?」


 今までと同じように体に染みついた最小限の動きで避けようとするレオン殿下だが。

 大鎌に纏った透明な風の刃は見えていないようで、レオン殿下の純白の戦闘服を紅く染めていく。


「なぜでしょうね?」


 にこりと笑い、答えのない返事をする。

 俺はレオン殿下のスキルについて頭を高速回転させ、試合中に考えたんだ。

 殿下も考えてみてはいかがかな?

 

「バカな。俺が攻撃を受けるはずはない」

 

 俺は何も返答はせず、口元に手で×マークを作る。

 俺の行動でレオン殿下のスキルについて触れるのは危険だからね。

 ここはティナのマネをして、ないしょーっということで。


「そんなはずはない。俺は最強だ」


 一回攻撃を受けただけだが、思ったよりレオン殿下の動揺はすごそうだ。

 光り輝く金色の髪を無造作にかきむしり、するどい睨みを俺に向けている。

 こういう自信過剰のやつの自信を粉々にしてやるのは楽しいな。

 癖になっちゃうぞ?

 

 もちろん返答をすることなく、お口チャック。


 ただ大鎌で少し切り裂かれただけだろ?そんな騒ぐなよ。

 それにしても、今まで未来視を打ち破る人はいなかったのかな?

 魔法使いだと破りやすそうだけど、さすがに近接主体の人は初めてか?


 まあ、もうそんなことはどうでもいいか。


 レオン殿下のスキルを考察するのにちょっと時間をかけすぎたな。

 もうそろそろ終わらせよう。

 まだ、自分の血に動揺しているレオン殿下だが、今は試合中だぞ?


「俺から目を離すのはナンセンスですよ」


 レオン殿下の目の前で発言し、大鎌を横一閃。

 

「ばいばいっ」


 ステージ上のレオン殿下の姿は大鎌により首と胴体が切り離される瞬間に消えてなくなる。


「試合終了です。今年の武闘大会の優勝はソラ・カゲヤマになりました。皆さん拍手」


 闘技場にあふれんばかりの拍手が鳴り響く。

 観客の視線が俺に集中するが、これは恥ずかしいな。

 大鎌を上げ、観客の声に答えておく。


 うちの子たちを見ると、ラキシエール伯爵家で練習していたエンジェルリングこと勝利の舞を披露している。

 天使とモフモフでつくられるエンジェルリングを見て、観客は黙っているわけもなく、そこら中から可愛いの嵐。

 うむうむ。みんなようやくうちの天使たちの可愛さに気づいたか。

 そうだぞー。うちの子たちは天使なんだぞー。


 声を大にして叫びたい衝動に駆られるが、そこは我慢。

 あとでいい子いい子してあげよう。

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