第74話 嵐は突然に


「ソラ―カッコよかった」

「にゃにゃ」

「わふわふ」

「きゅうきゅう」


 観戦席に戻ると、うちの子たちの抱擁で迎えられる。

 ティナは興奮しており、抱き着きながらも、手を動きまわして俺の竜巻のすごさを話している。

 グルグル、ピューとか言いながら、必死に観客席から見た竜巻の説明をしてくれるている。

 今度、空を飛んでみたいらしいが、やめとうこうね。

 空を飛びたいならドーラを呼ぼうね。

 俺の風魔法でティナにケガを負わせたら立ち直れないからね。


「ありがと。楽しめた?」

「楽しかった。ソラが一番すごかったよー」


 目を見つめて、ティナは話してくる。

 人と話す時は目を見て話す。常識なのだが、できている人は少ない。

 恥ずかしいということもあるだろうが、社会では必要なことだ。

 それに可愛い女性がすると、世の男性は勘違いするからな。目を見ることをお勧めするよ。


 ほら、ティナに見つめられている俺はティナにメロメロだぞ。

 何度もほめてくれるうちの天使を撫で、感謝を示していく。


「にゃにゃにゃん、にゃにゃー」

「わふわふわん、わんわん」

「あー、そうだね。テトモコならそれで余裕に勝てるよ」


 予選を見ていて、テトモコは守護結界を壊さないように、倒す方法を考え付いたみたいだ。

 テトは守護結界の半円を埋め尽くすほどの水を生み出し、窒息を狙う。

 モコは高火力の火をステージにまき、温度を上昇させ退場を促す。

 どちらも俺がやったものより悲惨な退場方法だな。

 やさしく風で退場させた俺に感謝してほしい。

 風で切り刻むことは容易にできたからな。

 

「予選は楽々通過できるとは思っていたが、なかなかやるではないか」

「ゼンさんもありがとう」

「俺と試合でもやるか?」


 鋭い目をさらに鋭くし獰猛な魔物のような目で俺を見てくるゼンさん。

 爬虫類特有の怖さが目に宿っているが、ゼンさんとは戦いたくないな……

 確かにSランクの英雄の強さは気になるんだけどね。

 俺とゼンさんが戦闘すると守護結界を壊しかねない。

 試合という名の命を賭けた戦いなどしたくないぞ?


「遠慮します。俺とゼンさんだとやりすぎちゃいそうです」

「それもそうだな、闘技場がなくなってしまうか」


 よし、絶対ゼンさんとは戦わないとここに誓おう。

 ゼンさんは守護結界の心配どころではなく闘技場の心配してやがる。

 

 ほんとこの人は……街中にある闘技場でどんな戦い方をするつもりなんだか。

 こういう強者で戦闘能力にステ全振りしている人と安易に戦うのは禁止っと。

 いい教訓を得たよ。

 

「本戦も楽しみしているぞ。あの大鎌も使わなかったし、見てみたいものだ」

「本戦では大鎌も使いますよ。楽しみにしといてください」


 大鎌を使用しなかったのは、ただ予選で一人一人倒すのがめんどくさかっただけだ。

 それに一応、祭りのイベントだしね。同じ技だけで勝ち進んでも、観客は喜ばないだろう。

 別に観客を喜ばせるつもりは微塵もないのだが、うちの天使を喜ばせないといけないからね。

 お兄ちゃんがんばるよー。


「ソラ君、お疲れ様。風魔法すごかったよ。やっぱりメロディーの見る目は間違いない。あ、本戦のトーナメント表は闘技場出口に掲載しているから確認して帰ってね」

「げっ、メロディーさん」


 ゼンさんが帰った後、飲み物を飲み、ティナが落ち着くのを待っていると、後ろからメロディーさんに声をかけられる。

 遠目で見たとおり、アイドルのよう可愛さと甘い声でティナがいなかったら推しになっていたかもしれない。


「げっ、とは何よ、おねえちゃんが来たんだから喜んでよ。おねえちゃん泣いちゃうぞ?」


 顔をこちらに近づけ、泣きマネのようなことをしているメロディーさん。

 ほんとにあざとい。どーせ、これも全部計算づくなのだろうな。

 怖い怖い。こういう人に弱みを見せてはいけないな。


「あー、ありがとう。確認してから帰るよ」

「んー。つれない子だね。男の子は素直が一番だよ?」


 ヒロと同じことを言っているが、世の男性全員がメロディーさんのことを好きとは限らないからな。


「俺にはここに可愛いうちの子がいるから満足してるんです」

「あら?確かに可愛いわね」

「ありがとっ。おねえちゃんも可愛いー」

「わかる子じゃない。どう?冒険者ギルドの受付嬢に向いているわよ?」

「ティナ冒険者だよっ」


 メロディーさんと話しているティナは袋から冒険者カードを出し見せる。


「こんなに可愛いのに冒険者しているの?」

「うんっ。ソラと一緒楽しい」


 ううー。うちの天使が甘い言葉をささやいている。

 とりあえず、後ろから抱きしめてみる。


「あー、うん。メロディーが悪かった。仲いいのはわかったよ。明日もがんばってね」

「ほーい」


 俺たちのラブラブ度でメロディーさんを討伐することができた。

 少し興味を失ったような表情を見せたが、すぐさま顔を作り、メロディーさんはウインクして帰っていった。

 ほんと嵐みたいな人だな。あざとく可愛い仕草が身に染みて通常行動になっているのだろう。

 行動一つ一つが童貞殺しだ。日本にいたらトップアイドルだろうな。


 嵐が去ったので、トーナメント表を確認しに行く。


「明日も最終試合か。長くなるけど最初から見たい?」

「うんっ。ソラもみたいでしょ?」

「そうだね。だったら朝一から観戦しようか」

「そうするー」


 トーナメント表には一六人の名前が記載されており、その右端にソラ・カゲヤマの名がある。

 十六人だからちょうど四勝すると優勝できるみたいだな。

 明日は一回戦だけの合計八試合行う予定らしい。

 各時間の集合時間がニ十分間隔なので、案外スムーズに進みそうだ。


 一対一の戦いがどれぐらいかかるか知らないが、本戦では一応、瞬殺はしないつもりだ。

 エンターテインメントは気にしないとね。


「ソラ君お疲れ様です。フィリアお嬢様が馬車でお待ちなので一緒に帰りましょう」

「あ、サバスさん。フィリアも見に来てたんだ。知らなかったよ。了解です」


 サバスさんの案内でラキシエール伯爵家の馬車に乗る。


「ソラって本当にBランク冒険者だったのね。あんなに強いとは思わなかったわ」

「楽しんでもらえたようでなによりだ」

「試合は楽しく見させてもらったけど、近くに座っている貴族からしつこくソラのことを聞かれたわよ」

「ふーん。なんて?」

「ソラたちの素性と性格、ソラと私の出会い。その話の延長で指名依頼を受けてくれるかだとか」

「う、指名依頼はしなくていいと伝えてくれた?」

「冒険者ギルドにしてみたら?って伝えたわ」

「フィリア、そこは空気を読んで伯爵家の力でとめてくれよ。貴族の指名依頼なんてロクなことないんだから」

「いいじゃない。冒険者なんて知名度が大事なんだから、顔を広めてきなさい。それでなくても問題児なんだから」


 くそ、この伯爵令嬢使えない。

 なんのために伯爵という権力を持っているんだ。使える時は使ってくれよ。

 それに、俺は問題児なんかじゃない。今まで問題起こしたのはエルドレート公爵家ぐらいだろ。

 まったく、人をどうゆう風に評価しているのか。今度話し合いを設けよう。


「はいはい、そんな顔で見ないの。嫌なら冒険者ギルドで断りなさい」


 たまにフィリアがお母さん化するのはなんなんだろうか。

 怒られるというか、しつけしている母親のようなオーラを出している。

 

「あんたまた変なこと考えているでしょ」

「い、いや。そんなことはない」

「ダウト。まあーいいわよ。勝手に考えてなさい」


 日に日にフィリアに見抜かれていることが増えている気がする。

 そんなに顔に出やすいのだろうか。



 馬車は進み、ラキシエール伯爵家の屋敷へとついた。

 食堂にはフィリアの母親であるカトレアさんがすでにいたので、そのまま晩御飯を食べることにする。


 カトレアさんから武闘大会のことを聞かれたので、ティナが俺の代わりに戦闘の状況を説明している。

 擬音と体を使ってのわかりにくい説明だが、カトレアさんは優しいまなざしで見守っていた。

 ティナもゆっくり聞いてくれるカトレアさんに必死に説明している。

 追加情報をテトモコシロが伝えているみたいだが、もちろんカトレアさんには通じない。

 カトレアさんはただ近づいてきたテトモコシロを撫でてているだけだ。

 

 それにしても、この二人が話し出すとお花畑が見えてくる。

 別にバカにしているのではないぞ?本当にお花畑が似合う二人なんだ。

 今にも花の甘い香りが漂ってきそうだ。


 食事を食べ終わり自室に戻ると、今日は一段とうちの子たちが甘えてきたので、そのまま夜はもふもふタイムを過ごし眠りについた。

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