第58話 杖と常識クイズ?

 

 クロエさんに連れられ、王宮の門に着く。


「また来るとき時は手紙で知らせて。基本的には王宮にいれば教えることはできるから」

「ありがとうございます。それでどれくらいの金額を払えばいいですか?」

「ん?お金はいらないよ。なんで優秀な回復魔法士を育てるのに金が必要なのよ。一人増えればそれだけ多くの人を救えるの。私一人では手が回らない人の回復をしてもらえたら嬉しいわ」


 さらっと述べるクロエさんがどこか女神のように見えてきた。

 訓練場で煽り散らしていた女性はどこにいったのやら。

 それにルイの情報とは全く違う。すごく人間ができた人のように思える。

 誰が化け物だよ。本当のことを伝えて、一回クロエさんに怒られてもらうか。


「ありがとうございます。そういえばティナに杖を持たせたいんだけど、どんな杖がいいですかね?」

「んー。戦い方によるけど、私の杖は近接もこなせるように長杖よ。これで気に入らないやつや魔物を殴り殺すの。ティナちゃんだとまだ若いし、力もないから短い杖がいいわ。ロゼッタさんの店に行ってみて、私より杖の事は詳しいから」


 クロエさんはそう言って、紙に簡単な場所と紹介状みたいなものを書いてくれている。

 殴り殺すという言葉が聞こえた気がするがスルーしておくことにする。

 あまり詮索するのも失礼だしね。

 決して、杖で魔物を殴り殺すクロエさんを怖いだとは思っていないよ。

 俺の大鎌みたいに所有者設定がある重い杖で魔物を殺しているのだと思う。

 クロエさんの後ろに見えている長細い杖はきっとそうだ。

 見た目より頑丈なのだろう。


 クロエさんは不思議そんな顔しているが、感謝の言葉伝え、王宮を後にする。


「そのまま杖を見に行こうか」

「やったぁー。お買い物っ」


 ティナはモコの上で元気に上下している。

 モコも楽しいのかそれに合わせて体を弾ませてる。


 貴族街を抜け、帝都の大通りを歩いていく。


 大通りから一本道をはずれ、人通りの少ない小道を歩く。

 ところどころに店は見えるが、多くは住居として使われている建物ばかりだ。

 

 ほんとにクロエさんおすすめのロゼッタさんの店があるのだろうか。

 書かれている簡易な地図を見返しても、おそらくこの道であっているはず。

 

 道を確認しながら歩いていると、古びた建物が目にはいる。

 店の看板はなく、扉の横に小さくロゼッタと書かれている。

 ここであっていると思うが、ロゼッタさんの家じゃないだろうな?


 不思議に思いながらも、扉を開け、建物に入る。

 建物の中は、外見通りの古臭い匂いが漂っており、商品だろうと思われる様々な杖が棚に無造作に置かれている。


「すみません。杖を探しにきたんですけど」

「すみませーーん」

「……」


 店員の姿が見えないので呼んでみるが、奥からの返答はない。


「いないみたいだね。杖でも見ておこうか」

「うんっ」


 モコが大きいサイズだと物を落としてしまいそうなので、ティナは歩きで見ていく。

 見えないところは俺が抱っこしてみせていくが、結局俺たちには善し悪しがわからないんだよな。

 んー。いつ頃戻るのだろか。

 施錠されていないし、すぐ戻ってくると思うのだが。


「あら、お客さん?珍しいわね」

 

 俺たちが入ってきた扉から声がかかる。

 後ろを振り向くと、スラリとした緑髪の女性が店に入ってくるところだった。

 エルフかな?本物を初めてみたよ。

 人間と変わらない容姿だが、スタイルがよく、耳が尖っている。

 イメージ通りの美人さんだ。


「お邪魔しています。留守だったので杖を見させてもらっていました」

「こっちこそごめんね。あんまり客なんてこないからね。ご近所さんのところに遊びに行っていたわ」

「この子の杖が欲しいのですが、おすすめでもありますか?」

「ちょっと待ってね?」


 そういうとロゼッタさんはティナに近寄り手を取る。

 ティナの手を見て、ぷにぷにと触り、何か呟いている。


「回復魔法。あまり攻撃性は必要ない。軽くて取り回しがしやすいタイプ。んー。魔物素材も相性はいいけど、自然素材もいいわね。悩みどころね」


 ロゼッタさんのつぶやきが聞こえるが、どうすればそれだけの情報を読み取れるのだろうか。

 俺には天使のティナの手をぷにぷにしているだけに見えるのだが。

 プロというものは恐ろしいな。

 初対面の人の情報を手に触るだけでここまで引き出すとは。


「ティナちゃん魔物と植物ならどっちが好きかな?」

「魔物っ」


 ロゼッタさんに聞かれたティナは即答で答える。

 まあ、ティナの周りにはいつのテトモコシロがいるからね。

 

 こら、うれしいからと言って、店の中を走り回らないよ。

 棚の物が落ちちゃうじゃん。


「あのね……これって杖になる?」

「なに?」

「これだよ?」


 そういうと、テトがティナカバンを影収納からだし、宝物を出していく。

 宝物という名の魔物の素材だが。

 ティナがロゼッタさんに渡しているのは、何かの爪と牙、白い鱗。そして黒い毛玉と白い毛玉。

 

 ん?鱗?あれはドーラのか?


「ティナ、それはドーラの?」

「そだよー。まだいっぱいあるの」

「いっぱいね……」


 そうなのか。ドーラは片付けの要領であげたのかもしれないが。

 おそらくとてつもなく高額な素材だと思う。

 ティナは働かずとも生活できるのではないだろうか。


「あの。いいかしら?」


 ロゼッタさんが渡されたドーラ素材、テトモコシロ素材を見つめながら俺たちに質問してくる。


「この黒い毛玉はおそらく、そこの黒猫ちゃん。黒犬ちゃんの物ね?白い毛玉は白キツネの物?」

「そだよーー」

「じゃー。これは?ドラゴンの素材に思えるのだけれど」

「そうだよ。杖になりそう?」


 ロゼッタさんは俺に顔を向けるが、頷くだけにしておく。

 それが返答だと理解したのか再度ティナに顔を向ける。


「そのドラゴンさんはどんな魔法を使ったかな?」

「えっと。いっぱい。回復魔法も使えるって言ってた」

「言ってた?……」


 再度俺に顔を向けるロゼッタさんだが。

 俺はその回答を持ち合わせていない。

 ドーラが戦っているところを見たことがないし。戦闘のことを聞いたことがなかった。

 気になっていると思うが、言っていたということは軽く聞き流してほしい。


「……わかりました。ではそちらの従魔は魔法を使える?」

「水と火と土に影っ」

「あっ」


 テトモコシロの質問をされるとティナは即答で答えてしまった。

 俺が反応を見せる前にだ。

 

「影?」

「うんっ」


 ロゼッタさんは疑惑の目でテトモコシロを見ている。

 影魔法のことは黙っていて欲しかったのだけれど……

 魔物図鑑にも魔物の戦闘スタイルで影魔法を使うものはほとんど書かれていなかった。

 まあ、テトモコがばれても俺に支障はないのか?


「アサシンタイガー。シャドーウルフなのね?」

「んー?ソラあってる?」


 俺が考えている間にも二人の会話が続いていた。

 シャドーウルフね。確かに今のサイズだとそうだともとれるか。

 大きなサイズだと明らかにキングなんだけどね。

 それにギルドの登録時にはシャドーウルフだと噂を広げた気がする。


 杖を作る時に魔物の種類を偽ってもいいものだろうか?

 

 いや、もうすでにテトの種族がばれたし、変わらないか。

 杖づくりなんて知らないが、嘘をついてミスされても困る。

 ここは正直に言おう。


「シャドーキングウルフです」

「キング……。わかりました。これで作ってみましょう」


 数秒ほどフリーズしていたロゼッタさんだが、切り替えはできたようだ。


「魔物の場合だと骨を利用することが多いのだけれどドラゴンの骨はないかな?」

「んー。骨はもらってないよ。いらないやつだけもらったの」

「もらってない……ね」

「ドラゴンと知り合いなんだ。だから骨はないと思う」


 ロゼッタさんの視線がそろそろ耐えきれなくなってきたので白状することにする。

 ばれたところで今のところ問題はないしね。

 非常識とルイに言われるだけだ。

 

「わかりました。客の情報を売るつもりはないから安心して」


 ロゼッタさんはそう言うが、結局ドラゴンと知り合いでなにか問題があるのか?

 ルイも広めない方がいいとだけしか言わなかったし。

 

「ドラゴンと知り合いなことをなぜ言わない方がいいの?」

「本気で言っているのかな?」

「本気の本気」


 俺たちをあきれたように見つめるロゼッタさん。


「はぁ、ではあなたの中でドラゴンはどんな存在?」

「んー。強くてカッコいい魔物?それに神の使いか?」

「だいたいはあっているわね。ではここで問題です。そんな存在と知り合いなあなたたちのことを他の人はどう捉えるでしょうか?」


 おー。問題がきた。

 なんだ?ドラゴン……移動が便利?

 たぶん違うな。

 

「時間切れです。他の人間は危険視します。あなたが思っているよりドラゴンの強さは規格外なの。国と戦っても数時間もたないわ。それは理解している?」


 それぐらいならテトモコも頑張ればできなくはないと思うのだが。

 テトモコを見ると、見事にそろえて首を横に振っている。

 いつのまに心の声がきこえるようになったんだ。


「あのね。そこにいる黒猫ちゃんと黒犬ちゃんも強いけど。そんな次元ではないのよ。敵対したらこの大陸にいる人間が絶滅しかねないわ。そんな存在と知り合いのあなたたちを国が放置しておくわけないでしょ?一生、護衛やメイドを数十人つけられて監視兼接待の生活をおくりたい?」


 ドーラってすごい印象をつけられているんだな。

 でも、俺が知らないだけでドラゴンに敵対したバカがいたのだろうか。

 歴史上で語られているのなら、人間は絶滅しかけたのかもしれない。

 ドーラと今後も仲良くしていこう。俺は心にこの言葉を刻む。


 それにしても、監視兼接待の生活は嫌だ。

 これは隠しておくべき情報だな。


「理解したよ」

「理解してくれてよかったよ。人間社会が混沌とするところだったわ。いい?言っちゃだめよ」

「はーい」


 ティナも右手を挙げて答える。


 人間社会が混沌か。

 確かに悪いことを考えるやつもでてくるか。

 俺たちを利用しドーラに頼めばどうとでもなるとか考えるバカがね。


「とりあえず、この素材で杖を作ってみるわ。一週間以上かかるけどいいかしら?」

「うん。それで頼むよ。お金は?」

「そうね。白金貨一枚。どう?」

「了解」


 財布からさらっと白金貨一枚を出す。


「すごい子供もいたもんだね」

「ありがと」

「ほめているのではないけど……」


 じとっとした目線を俺に向けてくるロゼッタさん。

 その目はルイで慣れているよ。

 非常識とか聞き飽きた。常識がないのは俺が地球出身だからね。しかたがないんだよ


 ロゼッタさんに杖の作成を依頼し、そのまま店を後にする。



筆者より。

こちらは以前ミスで投稿した内容です。

そのため本日は19時にもう一話投稿します。

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