第59話 帝都での宣伝活動
「ソラ君。冒険者ギルド経由で手紙が届きました」
早朝にサバスさんの声で起こされる。
手紙?マクレンさんかな?
会ってからまだ、一週間もたっていないけど。
もう調べ終わったのかな?
「ありがとうございます」
サバスさんから手紙を受け取り、中を読んでいく。
げっ。ミランダさんからだ。
どこの宿屋を探しても見つからない。でも帝都にはいると情報がある。
どこにいるのか、いつ宣伝をしてくれるのかと。
綺麗な字でつらつらと文句に似た文章が書かれていた。
確かに、宿泊場所なんて伝えてなかったからな。
それに帝都でベクトル商会にも入ってないし。
これは結構怒ってそうだ……
「サバスさん。ベクトル商会って大通りにありましたよね?」
「はい。冒険者ギルドから結構歩きますが、大通りに面していますよ」
思っているところでいいみたいだ。
帝都観光した時、影世界から見たけど、大きな建物だった。
手紙での催促が来ているので、今日はベクトル商会へ行こうかな。
「ティナ、今日は宣伝日だそうだ。テトモコシロパーカきてベクトル商会に行こうか」
「ミランダさん?」
「そうだぞ。たぶん帝都にいると思う」
「やったぁー。遊ぶー」
久しぶりにミランダさんに会えることがうれしいみたいだが、遊んでくれるだろうか。
おそらくそんな時間などなく宣伝の嵐だと思うけど……
「今回はモコからな」
俺は潔くモコパーカに身を包む。
どうせこれから帝都巡りだ。後で着替えるのもめんどくさい。
「あら、ソラがそれを着ているのを初めて見たわ。可愛いわね。お兄ちゃんっ」
ラキシエール伯爵家の扉の前で話していたら、ノーマークだったフィリアが現れた。
ここぞとばかりにバカにした目で俺を煽ってくる。
くそ。一番見られたくないやつに見られた。
ここがフィリアの家だということを失念していたよ。
時を戻したい。神様。俺に時空魔法のチート能力を与えたまえ。
神様からの返答はない。
フィリアがずっと俺を見ている。
このニヤニヤした顔の伯爵令嬢をぶん殴ってやりたい。
「ソラ。かわいいぃー」
「ティナちゃんもそう思うわよね」
くー。ティナを味方につけやがった。
立ち回りは本当に貴族のそれだ。汚い奴だ。
あ、いいことを思いついた。
「フィリアも宣伝に加わらないか?貴族でも着れますよアピールしないとね」
「残念だけど、私は学校に行くのよ。服装が違うでしょ?」
フィリアの服を見ると、ワンピースではなく、白色のブレザーを着ている。
言われてみると、学生服のように思える。
「くそ、逃げるのか」
「そもそも私には関係がない宣伝なのよ。がんばってきなさい」
フィリアが馬車に乗り込むのを見送る。
どうやら本当に学校にいくようだ。
しぶしぶフィリアの宣伝勧誘をあきらめ、ベクトル商会を目指して歩く。
街中を歩く人々の視線が痛い。
いつもうちの子たちの可愛さで視線が集まっているのだが。
この服を着ているといつもより視線を気にしてしまう。
『スキル シャットダウン 発動』
シロを抱えたティナを抱っこしモコの上に乗る。
テトはモコの頭の上でお座り。
「うちの子たち合体。行け。もふもふ号」
モコの歩みで帝都の街中を進んでいく。
前にいるティナを撫でながら、ベクトル商会に向かう。
こうすることにより、俺の頭の中はティナでいっぱいになるのだ。
視線などない。そんなものうちの天使に比べればミジンコみたいなものだ。
しばしの間、天使の楽園を堪能していると。
「ここが帝都のベクトル商会だね」
俺はもふもふ号状態のまま、店へと入る。
「あー。やっと来たわね。ソラ達どこにいたのよ」
「ごめん。フィリアの屋敷に泊らせてもらっていたんだ」
「そうなのね。で、なんでそんなスタイルなの?」
「ん?うちの子たちを体全体で味わっているだけだけど」
「……もういいわ。宣伝の時はソラは歩いて頂戴ね。その方が見やすいから」
軽く流された気がするがしかたがない。
モコから降りて歩くことにするか。
「今回はどんな感じで宣伝するの?」
「帝都を歩き回るだけでも時間が結構かかるから、一回大通りを歩き、公園で大々的に宣伝するわ。パーカを着たままティナちゃんとソラには何かしてほしいの」
「何かって何?」
「んー。ソラだと冒険者だから大鎌で演舞でもして見せてよ。ティナちゃんはモコちゃんたちと遊ぶ姿だけど……どうしようかしら」
「わふっ。わんわんわーーーん」
「なんか考えがあるのか?」
「わふ」
モコが何かを見せたいらしい。
なんだろうな。
「モコに考えがあるみたいです」
「そうなの?じゃーお任せしようかしら」
「わふ」
「にゃー」
「きゅうー」
うちの子たちが胸を張り了解と声を上げる。
少し不安だ。
まあ、モコなら周りに迷惑をかけることはないだろうけど。
ミランダさんと職員さん数名に連れていかれ、大通りを練り歩く。
職員さんたちは大きな声で宣伝しており、公園でのステージのことも伝えているようだ。
今回は木札も俺が持たなくていいから、本当にやることがない。
さて、ステージの宣伝もしているが、演舞と言われて俺は何しようか。
大鎌を振り回すだけで見世物になるのか?
ダンス経験もないから見せ方なんかわからないけど……
まあ、その時のノリで考えるか。
帝都を練り歩き、ついにステージの宣伝の時間になる。
うちの子たちも会議が終わっており、やる気満々なのだが。
どこからそんなアイデアが浮かんでくるのか教えてほしい。
「これから従魔パーカーの宣伝を行います。まずはじめに少女と従魔による発表です」
ついにステージが開始された。始めはうちの子たちの番だけど……
「みんなの発表会をしますっ」
シロパーカ―に身を包み、モコの上に乗っているティナが宣言する。
様子を伺っていると。
シロが階段や大小さまざまな壁。岩などを土魔法で制作しだす。
テトは高さを変えて水の輪を水魔法で作成する。
「モコちゃんいこうっ」
「わふっ」
ティナを乗せたモコが土でできた階段を駆け上がり、壁を越えていく。
岩と岩を飛び移り。壁があるところは上に乗り、次々と進んでいく。
土ゾーンが終わると水の輪ゾーンで、次々と穴をくぐっていく。
最後のゾーンは土の反り立つ壁を走り抜け、上空にある水の輪を一回転してくぐり、地面へと着地した。
ティナはモコのしっぽで体巻かれていて、落ちないようにはされているみたいだ。
披露を終えたティナは笑顔で興奮している。
観客のことなんか忘れ、テトモコシロを撫でまわしている。
なんか、服の宣伝というよりはテトモコシロの発表会みたいになっているが。
今ステージ上で繰り広げられているうちの子たちのじゃれあいは、相当宣伝効果はあると思う。
観客も披露の時は歓声をあげて、うちの子たちを応援していたが、今は微笑ましいうちの子たちの光景を暖かい目で見ている
親と一緒にきていた子供はうちの子たちに加わりたいみたいだが。
一応、今はベクトル商会のステージだからね。
親がテトモコシロパーカーを買うことを約束し、落ち着かせていた。
「続いては、現役のBランク冒険者のソラ君が従魔パーカーを着て、大鎌を使用した演舞を披露します」
ミランダさんの宣言でステージ上のうちの子たちは袖に降り、俺にステージを譲ってくれる。
やべー。何も考えていない。
とりあえず、ステージに向かって歩き出す。
観客は俺がBランクの冒険者だと聞き、大歓声で迎えてくれる。
ほんと、ミランダさんは勝手に個人情報を流しすぎだよ。
ハードルがあがってしまうだろうが。
「紹介に上がりました。Bランク冒険者のソラです。今は十歳です。演舞はしたことありませんが、魔法を駆使し披露したいと思います」
多くの観客にたじたじになりながらも、とりあえず宣言だけは済ます。
とりあえず、大鎌を取り出し、観客に見せる。
それだけですでに観客の声援が大きくなる。
身長よりも長い漆黒の大鎌をモコパーカ―を着た少年が振り回す。
客観的に考えたら、俺も興味がわくかもしれない。
大鎌を振り上げ、大げさに振り切る。
一つ一つの行動にメリハリをつけることを気にしつつ、ポージングも決めていく。
思いのほか、盛り上がっているので少しテンションが上がってきた。
次はテトを呼び、水玉を投げてもらう。
水玉は四つ飛ばさせ、縦横無尽に動かせて、それを大鎌でリズムよく切り、ステージで水しぶきを上げていく。
高速で動く水玉を割っていくたびに会場の声を大きくなっているようだ。
これは気持ちがいい。
どんどん調子に乗っちゃうぞー。
風を纏い、観客の上を飛び回り、大鎌を披露する。
空中で、風の力で前宙やバク宙、側宙をし、大いに体を動かしていく。
最後は体操選手バリの回転を加え、ステージ上に着地する。
披露を終え、顔を上げると観客の拍手が鳴り響いている。
「カッコいいぞー」
「かわいいー」
老若男女問わず、俺への賛辞が聞こえる。
テトパーカに身を包んでいるのも忘れ無我夢中に演舞をこなしてしまった。
今になってものすごく恥ずかしさを感じる。
「ソーラー。すごいすごいっ。ビュンビュンしてて、バーって飛んでた」
「ありがとな。ちょっと頑張ったよ」
うちの子たちが駆け寄ってきてそれぞれほめてくれる。
「ソラ、ティナちゃんそれにみんなもお疲れ様。ステージよかったわよ。あなたたちなんでもできるわね」
「えへへ」
「なんでもはできないぞ。できることだけ」
俺はにやけ顔でそう言った。
さっ。宣伝もこれで終わりだ。
「ミランダさん。もう帰ってもいいの?」
「そうね。こんだけ宣伝してもらえれば十分よ」
「よし。ティナさっさとここから退散しよう。俺たちは今マスコットキャラクター並みに群がられる可能性がある」
「??わかったぁ」
ティナは不思議そうに首を傾げ、俺の言葉を了承する。
そうか。マスコットキャラクターという言葉がこの世界に存在するはずもなかった。
いや、ティナが知らないだけで、観光地で着ぐるみが歩いている可能性があるか?
……ないな。それだとこれだけテトモコシロパーカーが視線を集めるわけがない。
俺たちは大通りをそれ、影入りしてから、影世界を歩いてラキシエール伯爵家へと向かった。
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