第29話 フィリアの強襲

 

 ドアのノック音で目が覚める。

 最近このパターンが多い気がするな。

 次はなんだ?

 今日はなにも予定がないはずだが。


「ソラさん。フィリア様がお見えです。部屋にお通ししますがいいですか?」

「フィリア?」

「はい、ご領主様の娘さんです。」

「あー、いいよ」

 

 フィリアがなんのようだ?

 テトモコシロに会いたいなら手紙でもしてくれたら行くのに。


「ソラ、お客様?」

「あー、フィリアさんがくるらしい」

「フィリアおねえちゃん?やったぁー。今日は遊べる?」

「いいよ。」

「きゅうー」


 寝ぼけているシロも鳴き声を上げる。

 なにしてあそぼうかなーってルンルンのティナがモコに埋もれる。

 もふっと音がするみたいに埋もれる姿は見ている側も気持ちがいい。

 

「ソラ、入りますよ」

「どうぞ」


 扉が開けられ、フィリアと騎士が入ってくる。

 騎士は二名できれいにドアの横で整列している。

 なんだ?騎士を連れてくるとか。

 俺なんかしたっけかな。

 考えていても全く記憶にない。


「いきなりごめんね、どうしても見たいものがあって」


 見たいもの……

 思いつくものが一つあるな。

 フィリアなら絶対にそれだろう。


「テトモコシロパーカーを見てみたいの」


 だよね。

 わかってたよ。


「いいですよ。ティナ着て見せてあげて」

「うんっ。どれからみる?」

「じゃー、テトちゃん」

「はーい」

「にゃー」


 テトまでテンションがあがっているが、テトは何もしなくていいからな。

 そうそう、フィリアに寄り添うだけでいいよ。

 そうしとけば、フィリアの機嫌は爆上がりだろうから。


「テトちゃん。もう、私に近づいてきてどうしたの?おねえちゃんといけないことする?」

「にゃー?」


 テトはいけないことがわからないのか、首をかしげている。

 テトやっぱり離れるんだ。

 その女は危険だ。

 うちの子に何するつもりだ。


「おまたせっ、どう?にゃん?」

「まって。なぜこんな簡単なことに気づかなかったのかしら。獣人に感じていた、愛情と嫉妬をこのような手段で消せるとわ。ほんとうにテトちゃんみたい。ねぇー、もう一回鳴いて。もっといい声で鳴いてみせて」


 先ほどのテトのマネをするティナ。

 それをみて、発狂しているフィリア。

 まあ、あれほど、うちの子たちで興奮していれば、獣人にも似たような反応はするか。

 そして、ティナこっちにこい。

 そんなやつの言うことなんか聞かなくていい。


「にゃん?」

 

 先ほどと違い、ティナはお座り状態で、上目づかいをし、首をかしげて鳴き声をあげる。


「あっ」

「お嬢様」


 胸を押さえて倒れこむかのように、床に座ったフィリア。

 お付きの騎士は、支えるために走りだす。

 んー、急いでいるけど多分大丈夫だぞ。

 その病気はもともとで、可愛いの過剰摂取で引きおこる症状だ。

 ちなみに、俺も最近よくなる。


「大丈夫よ、少し興奮しすぎました」

「お気をつけください」

 

 騎士はそう言って、またドアのところに戻る。

 律儀だな。俺ならそんな仕事したくない。


「フィリアおねえちゃん大丈夫だにゃん?」


 ティナよ。それは意識的にやっているのか?

 無意識でやっているなら、一部の人間には毒物だぞ。


「大丈夫よ。次はモコちゃんにしましょうか」


 意識を強く持ち、拳をにぎりしめながら、フィリアは言う。

 こいつは重症だ。

 すこし時間を置くべきだ。

 これでは俺の二の舞になってしまう。

 無慈悲な三ターン攻撃。 

 あれに耐えうるには、フィリアは耐性がなさすぎる。

 俺は毎日天使とかわいい従魔に囲まれているが、フォリアは違う。

 

 会ったのは一回だけ、あの時間だけしかうちの子たちと触れ合えていないのだ。

 そんな人に、連続での攻撃はまずい。

 嬉死してしまう可能性がある。

 

「フィリアさん、いったん服だけ見ませんか?それで気持ちを落ち着かせるべきです」

「ソラ。そうですね。確かに無理をしているかもしれません」


 フィリアは体裁を整えるように毅然として答える。


「着替えたワン」

「くっ」


 遅かったか。

 うちのティナの攻撃がフィリアさんにクリティカルヒットだ。

 しかも、振り返り、モコパーカーのしっぽをふりふりしている。

 あ、モコ、その横に並んで一緒にふりふりしないの。

 もうフィリアさんのHPはゼロよ。


 フィリアさんはもちこたえているのか、凛々しく立ったままだ。

 ん?


「可愛いは正義。可愛いは正義。可愛いは正義。可愛いは正義。可愛いは正義。可愛いは正義。可愛いは正義。可愛いは正義。可愛いは正義。可愛いは正義……」

 

 小声でフィリアさんは演唱している。

 これはやばい。


「フィリアさん。起きて。気を確かに」


 フィリアさんの目の前で手を叩き、こちらの世界へと意識を戻させる。


「は、ソラさん。ありがとうございます。あちらにいきかけました」

「わかります。お気を確かに。相手は無意識で攻撃をしてくる強敵です。お気を付けを」

「ソラはいつもこれに耐えているというの?」

「はい。ですが、毎日一緒ですので耐性がついています。フィリアさんよりは軽傷ですよ」

「なるほど。うらやましいがしかたないですね」


 一旦休憩だ。とりあえず、ティナのパーカーを脱がす。

 そして、シロパーカーを先にフィリアさんの目の入るところに広げておく。

 まずは少しずつ見せて慣れてもらう必要がある。

 着るのはティナだ。これぐらいしないと危ない。


 日本では、食物アレルギーはすこしずつ食べて治す免疫獲得の方法があったはずだ。

 アレルギーではないが、それをしてもいいぐらい、精神に負担がかかる。


 その後フィリアは、ティナの可愛いさ、テトモコシロの可愛さに徐々に慣れ、すべての衣装を確認することができた。

 まあ、残りはシロパーカーとシロローブだけだったんだけどね。

 でも必要な措置だった。これだけは確かなことだ。


「これはベクトル商会で買えるのですね?」

「はい。一か月後販売開始だと聞きました。予約は受け付けているそうです」

「なるほど、家に届けさせますわ」

「そうしてください」


 冷静になったフィリアは購入の決意を固めていた。



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