第28話 広報大使


「やっぱり嫌だ」


 宿の出口で、座り込み外出拒否をする俺。

 現在、テトパーカーに包まれた俺は絶賛抗議中だ。


「不当労働だ」

「じゃー、金を払うわよ」

「そういう問題じゃない」


 ミランダさんは金を払ってでも、俺を連れ出したいようだ。


 ミランダさん曰く、これから広報活動を行うらしい。

 言わずもがな、その内容は、俺とティナがテトモコシロパーカーを着て、大通りを練り歩くというものだ。

 ティナだけでいいじゃないかと抗議をしたが、男バージョンも見せないといけないでしょ?と論破された。

 

 俺が、テトモコどちらのパーカーを着るかでも問題が起きた。

 どちらも譲らなかったのだ。

 いつも仲良しなテトモコだが、今日はバチバチだった。

 本格的な戦闘が始まる前にうちの子会議を開き。

 結局、大通りを端までいったら、着替えるという案に決まった。

 ちなみに、三往復はするらしい。

 俺には『ベクトル商会で販売予定』という木札を渡された。

 

「ねー、ソラ、お願い」

「ソラっ。お願いは聞いてあげなくちゃ」


 純粋なティナがミランダさんに乗っかる。

 ティナ……断るべきお願いもあるのよ。

 ミランダさんの目を見てみろ。あれは悪い大人の目をしているぞ。

 俺たちを金の生る木としか見ていない。


 まあ、こんなことをティナには伝えられないのだが。


「はやく、みんなに見せたいよう。きゅう?」


 ティナはシロパーカーをみんなにお披露目したいのかノリノリだ。

 しかたがない。こんな可愛いキツネさんに急かされたら動くしかないか。

 ソラ動きます。


「しかたがない。行こう」


 重い腰をあげ、いざ、宿の扉をあける。


「わぁー。人がいっぱいだね」

 

 ちょうど昼飯時、みんな仕事が休憩なのか、屋台には多くの客が見える。

 はあ、今から、あそこに突っ込むのか。

 俺は木札をあげ、顔を隠す。


「だめでしょ。それだとフード部分が見えないじゃない」


 木札を胸元に降ろされる。


「みなさん、ベクトル商会が、商品化中の商品をお披露目します」


 いきなり、ミランダさんが大きな声で叫ぶ。

 いままでも視線が痛かったが、大通り中の視線をあびてしまった。


「きゃーーーーー」

「みてあれ。可愛い」

「天使?」


 大通りが黄色い声に溢れかえる。


「皆さんご存じでしょうが、こちらは天使の楽園です。今回その従魔をモチーフとした服を作らさせていただきました。ベクトル商会で、一か月後から販売を開始します。可愛いお子さんをさらに可愛いくしてみませんか?」

「「「うぉーーーー」」」


 男性陣の雄たけびが聞こえる。

 この世界には、宣伝をしてはいけない場所はないのか?

 すぐに法律で、この大通りをそれに当てはめてほしい。

 一時間ぐらいぶらぶらしなくちゃいけないんだぞ。


 大通りを暇な住民を引き連れながら、練り歩く俺たち。

 現在、俺はシロ、ティナはモコパーカだ。

 ティナはモコの上に乗ってモコになりきる。

 ついてきている人たちの歓声が聞こえるが、これには俺も共感だ。

 可愛いすぎるな。

 金をとるか?


「坊ちゃん、嬢ちゃん、肉串でも食べるか?」

「ほしぃー」

「きゅうーー」

「にゃー」

「わんわん」

 

 屋台のお兄ちゃんの掛け声にうちの子全員が反応する。

 すでに、テトモコシロ用に、皿をだし、串から肉を抜いている。

 金を払おうとすると、お兄さんから止められる。


「今日はお代はいらないよ。いつもいっぱい買ってくれるからな。サービスだ」

「それなら甘えるよ。ありがと」

「ありがとっ」


 うちの子たちも皿に目を移しながら、礼をする。

 屋台の近くで食べていいというので、お世話になる。


「うちのスープもあげるよ」


 隣の屋台のおばちゃんだ


「いや、悪いね」

「いいさね、あんたたちが食べるとみんな食べたくなるんだ。ほれ、見てみな」


 おばさんが指し示すほうには、肉串に並ぶ、ついてきていた住人達。

 あの子たちおいしそうに食べるねと話しながら、列に加わっている。


「あなたたち、今はうちの宣伝でしょう?」

「もらえる物はもらっとくの、それにここでも宣伝はしているだろ?」


 俺たちは存在自体が宣伝だ。

 どこにいようと宣伝しているのに違いはない。

 いつも買っている屋台からつぎつぎと食べ物、飲み物がここに運ばれてくる。


 うちの子たちは機嫌よく、屋台の人にお礼を言っているので、屋台の人もデレデレとしている。

 まあー、うちの子たちは食べるからいいけど、俺とティナはお腹いっぱいだ。

 

 うちの子たちが食べ終わり、場所を移動する。

 食事のために、屋台通りに留まっていたが、あたりが人の山になっていたので、今度立ち止まる場所は考えないといけないな。



 大通りを再度歩き始め、ベクトル商会に向かう。

 ベクトル商会の前では、ベンチと俺たちが着ているテトモコシロパーカのサイズ違いの物が、マネキンに着せれらている。

 

「今さっき、思わぬ休憩しちゃったけど本当はここで食事にするつもりだったのよ」


 ここで、宣伝しながら、服のサイズや種類を見てもらう作戦か。

 休憩という名の宣伝。

 休憩なら普通に休憩させろよ。


「ここで休めばいいのか?すこし食べ過ぎたから助かるけど」

「そうしてくれると助かるわ。ソラも儲かるんだから、そんな顔しないの」


 大人の汚いところを今日一日嫌というほど見たので、そんな顔にもなる。


「ここで休憩する?」

「お腹いっぱいで歩くとしんどいしね」

「わぁーい」

「きゅう」

「にゃー」

 

 まあ、歩くのは俺とモコだけだけど。

 テトは相変わらず、モコの頭の上が特等席だ。

 シロは抱っこされてはいるが、ちゃんとモコの上でお座りしている。

 

 モコは小さいサイズになり、ティナの座るベンチの上に寝転ぶ。

 ティナはベンチに座りながら、器用に三匹を撫でている。


 まあ、店の前だけど、視線は気にしないことにした。

 気にしてたら、もう歩けない。

 時折、冒険者みたいな人に会ったけど、顔がひきつっていたな。

 なんなんだろう。

 可愛いものが苦手なのかな。

 ある一定数はいると知っているが、悲しいことだ。

 うちの子たちの可愛さが喜べないなんて。

 ミランダさんは近くで宣伝しており、店のスタッフも手伝っていた。

 俺は退屈なんで、ティナが買った本でも読んで時間をつぶす。



 二十分ぐらいたっただろうか。

 あたりが静かだなと感じ、見渡すと、ミランダさんもスタッフも静かに宣伝をしている。

 横を向くと、うちの子たちが寄り添いながら寝息をたてていた。

 よく見ると、店の前を通る人も、うちの子たちを見て、静かにみたいな合図を送りあっている。

 

 うちの子たちのまわりはおとぎ話のような優しい世界があるみたいだ。

 たまにバカが寄ってくるが、俺という筆者がそのおとぎ話から排除してあげるからな。

 優しい世界だけをこれからも知っていってほしい。


 寝ているうちの子たちを行き交う人々が見ながら通り過ぎている。

 子連れの奥さんが、発売したら買ってあげるからねと子供に言っていた。

 大通りが、うちの子であふれかえるのはそんな遠くない未来なのかもしれない。

 

 ティナが起きるまで、このまま休憩にしておこう。

 ミランダさんも何も言わないし


 

 ティナが目覚めたのは二時間ぐらいたってからだった。


「あれ?寝ちゃってた。お仕事……」

「大丈夫だよ」

「そうよ。ティナちゃん。今日で予約が多く取れたわ。」

「そう……なの?」

「そうよー。寝ている姿が可愛いくて、部屋着として予約した女性もいたわ」

「なら、よかったっ」

「今日はありがとうね。ほんと助かったわ。これでスタートを順調にきれるわ」

「売れることを願っとくよ」


 今日は気疲れがものすごいので、そのまま宿へと直帰した。



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