第27話 ないしょのプレゼント

 

 翌朝、ティナに勢いよく起こされた。


「おはよっ。ソラ」

「あー、おはよう」

「にゃー」

「わふ」

「きゅう」


 シロも起きているのか。いつも最後に起きるはずなのだが。

 ティナを見ると目を輝かせて、俺を見ている。

 ん?なんだ。

 なんで、朝からこんなご機嫌なんだろう。

 そしてご機嫌なまま、うちの子会議を開き、話をし始めた。

 テトモコシロの声は小さくて聞こえないが、ティナの声だけは聞こえる。

 

 ティナがなにかを取りに行くらしいが。

 どこにだろう。

 うちの子だけであまり外に出したくないんだけどな。

 そんなことを思っていると、ドアのノックの音が聞こえる。


「ソラさん、起きてますか?ミランダさんがお見えです」

「ミランダさん?なん「ティナがいくー」の用事か……」


 宿の人に聞き返そうとしたがティナに遮られる。

 止めようとしたが、テトモコシロも後に続くので、とりあえず見守ることにする。

 ティナが、扉をあけ、そのまま下の階へと行ってしまった。


「そういえば、ルイが今日誰か来るとか言ってたな。それがミランダさんか」


 まだ、起きたばかりで頭が働いていない。

 なんて言ってただろうか。


「ソラっ、みてみてー」


 扉をドンと鳴らし、勢いよく、ティナが入ってくる。


「おじゃましますね。ソラおはよう」

 

 その後にテトモコシロが続き、ミランダさんが部屋に入ってきた。

 ティナを見えると真っ黒な布のようなものを持っている。


「これ、テトちゃんのやつ」

「テト?あー、ミランダさんが言ってた服か」

「そうよ。出来上がったから渡しに来たのよ」


 ティナが広げてみると、黒いパーカーのような形状でフードにはテトの耳に似た耳がちゃんとついてある。

 胸元には、テトのような黒猫が刺繍してあり、右肩のところに水色の線が入っている。

 服の後ろにもちゃんとテトの長いしっぽがあった。


「ほぉー。よくできてるな。ちゃんとテトっぽいぞ」

「ねー、モコちゃんもシロちゃんも可愛いだよぉー」


 ティナの後ろで、ミランダさんが二つのパーカーを見せてくる。


「すごいなー。確かにモコとシロだ」


 大まかにはテトパーカーと変わりはないようだ。

 違いといえば、それぞれの刺繍に、肩の線の色ぐらい。

 シロのパーカーが白色だけど、みんな可愛いらしいデザインで作られている。


「オプションにするつもりだったけど、胸元が寂しいからそのまま刺繍をつけておいたわ」

「いいんじゃないか?」


 オプションなんて金持ちしかつけないかもしれないからね。

 それであまり金額が変わらないなら、その方がいいだろう。

 うちの子たちも喜んでいるみたいだし。


「これソラの分ね」


 そう言いながら、ティナがテトモコシロパーカーを俺に渡してきた。


「ん?俺の?頼んでないんだが」

「昨日ティナちゃんが頼みに来たのよ。頼まれる前から準備はしていたんだけどね」


 そのためだったのか。

 俺に内緒でテトモコシロパーカを依頼してきたと。

 んー。ティナの気持ちだし着てやりたいけど、すこし恥ずかしいな。

 そう考えている間にも、ティナはモコパーカーを着てみたようだ。


「わんっ」

「くっ」

 

 ティナがモコのマネをし一鳴きする。

 くそ、なんて攻撃力だ。俺のHPはもうゼロだぞ。

 防御力無視の最大火力での攻撃。

 ズン、ズン、ズン、クリティカルヒット。


「わんわんわん」

「わふわふーわん」


 ティナとモコが犬語で話している。

 なんたる光景。

 ついに俺は本当に死んでしまったのだろう。

 うちの天使ともふもふが会話をしている。

 こんな光景がこの世に存在していていいのだろうか。


 あーーーーー、カメラ。

 頭がおかしくなりそうだ。

 カメラが手元にない事実に悔しすぎて、吐き気がしそうだ。


「ソラ?大丈夫だワン?」


 頭を押さえている俺を心配するティナ。

 それはとどめを刺しにきたのか?

 

「ティナちゃん、次はテトちゃんパーカーを着ましょうか」


 ミランダさんがティナの服を脱がし、テトパーカーを被せる。


 俺はあと、二ターンこの攻撃をくらうのか?

 心がもたないぞ?

 幸せすぎて死んでしまうぞ?

 頼むから時間をおいてくれ。

 

 無慈悲にもその気持ちが伝わることなくティナはテトパーカに着終えた。


「にゃ?」


 首をかしげ、テトのマネをするティナ。

 鼻血は出ていないだろうか。

 服を汚すわけにはいかない。


「にゃにゃにゃーーん」

「にゃんにゃんにゃ」


 喜々として会話を行うティナとテト。

 俺はそれをただ見ているだけしかできない。

 空気を吸い込み、息を吐く。

 その動作でさえしんどい。

 これ以上何が俺にできるのか……


「次はシロちゃんね」

「にゃーーん」


 シロの白いパーカを纏うティナ。


「きゅうきゅう」

「きゅっきゅーーー」


 シロは大騒ぎだ。

 そんな状況を見ている俺はかわいいbotとかしている。

 ついに精神が崩壊した。

 あ、ティナがしっぽを振り振りしている。

 かわいい。


「ソラ、戻ってきなさい。それ以上は考えちゃだめよ。人間に戻れなくなるわ」


 意味深なことを言うミランダさん。

 そんなミランダさんも「これは売れるわ」と小声でつぶやいている。

 売れるに決まっているだろう。

 うちの天使がこれを着て街中を歩くんだぞ?

 これで売れなかったら、人類を俺が滅ぼしてやるよ。

 これの価値を見出せない人類など存在する意味がない。

 

「ちなみに、ローブもできたので持ってきたわよ。こっちのシロちゃんのほうがもふもふよ」


 ミランダさんはそう言うとシロパーカーを脱がし、シロローブに着せ替える。


「うわぁー、もふもふだよーー。みてっソラ。ここにテトちゃん、モコちゃん、シロちゃんいるよ」

 

 うん。言われなくても見ている。

 うちの子が輝いて見えるよ。

 シロローブの胸元にはテトモコシロが刺繍されており、右肩に三本線が入っている。

 上から水色、赤色、茶色だ。

 

 テトモコシロも大騒ぎ。

 ティナの周りを行ったり来たり。

 久々に興奮しているようだ。


「うちで販売するものは、シロちゃんには悪いけど、一本しっぽになっちゃうの。四本だと価格が合わせられなくて」

「きゅー」


 そんなことは気にしていないようで、作ってくれたお礼を言っている。



「ねえねえ、ソラ」

「ん?どうした?」


 来ていたシロローブを脱ぎ、部屋着姿のティナが声をかける。


「……これ、プレゼント」


 ティナの小さな手には木箱が置かれていた。


「俺に?」

「うんっ」


 やはり天使だ。

 すこし視界がゆがんでいるように見える。

 目を擦り、ティナの手から木箱を受けとる。

 そのまま、木箱をあけ、中をのぞくと。


「ネックレス……」

「どう?気に入った?みんなで話してつくってもらったの」


 言葉がでない。

 ネックレスは黒色の鎖でつながれており、真っ白な素材で太陽を思わせる形をしている物の上に、三日月状に形作られた灰色の物が重なっている。

 太陽には、水色、赤色、茶色の宝石がちりばめられており、三日月には、白と黒の宝石がちりばめられている。

 太陽と月。ティナと俺をモチーフにしたようなデザインで、ちりばめられたうちの子たちの瞳の色の宝石。

 家族を表すかのようなネックレスだ。


 ふいに地面に涙が落ちる。


「ソラ、大丈夫?うれしくなかった?」


 ティナが慌てているが、そんなはずがない。


「すごくうれしいんだ。うれしすぎて言葉にならなかった。ありがとう。みんなで考えたのか?」

「よかったっ。そうだよ。みんなで考えたのっ」

「ティナはえらい子だな、テトモコシロもいい子だ。こっちおいで」


 俺は時間を忘れて、うちの子たちとじゃれあう。


「あと、これティナちゃんにって、ガンツから受け取っているわ」

「これ、ティナの??なにー?」


 ミランダさんはティナに木箱を渡す。

 ティナは木箱をあけ中をのぞく。


「うわぁー、ティナもソラと一緒のネックレスだ」


 ティナが箱から取り出したのは、同じデザインのネックレスだった。

 ただ、ティナの物は白色の鎖でつながれており、ティナらしさがある。


「素材が余ったから、ティナちゃんのも作ったんだって」

「素材はなにを使ってるんだ?」

「私も聞いたけれど、教えてくれなかったの」

「ドーラのだよ」


 ドーラのやつってことはドラゴンの素材ね。

 これがルイが言っていたことか。

 いつの間に貰っていたのやら。

 ドーラの素材ならあまり公にはできないな。


「なるほど、ドーラが持っているやつを貰ったのか」

「うんっ」


 ティナは何も気兼ねなしに応える。

 まあ、ルイがつれていった店だろうし、ミランダさんにも教えなかったってことは口が堅い職人なんだろう。

 

「じゃー、街にいくわよ」

「え?」


 そういうと、ミランダさんはティナにシロパーカーをかぶせる。



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