第18話 シロの戦闘とダンジョン探索



「シロ、右前方にゴブリン二体だ」

「きゅっ」


 ゴブリンに向かって走るシロ。

 ぴょんとっ飛び、ゴブリンの攻撃を避け、ちいさい手でゴブリンの顔に殴りかかる。

 あまり攻撃力はなさそうだが、目を攻撃しており、爪で目に傷をつけている。


「きゅいー」


 地魔法で前方に土の壁を作り、それを土台にして、上空へとシロは飛ぶ。

 そしてゴブリンの頭上から、土でできた槍を発現させ、ゴブリンの頭めがけて飛ばしていく。

 攻撃を放ったあとのシロは空中でくるくると回転し、スタット着地して俺たちに顔を向ける。

 ドヤっとした立ち姿に、ティナは拍手をして大喚起だ。

 たぶん魅せプレイだよな。

 あんな派手に上空に飛び上がる必要はなかったし、ただ土の槍を飛ばせば良いだけだからな

 テトモコも近づき、シロの勇姿をたたえている。

 ゴブリン相手だが、攻撃を予想し、俊敏に動けていたので、それなりに戦えそうだ。

 そう思えば、死の森を彷徨い歩いていたんだし、強い魔物との戦闘もこなしているのか。


 ほめてほめてと近づいてきたシロをとりあえず、撫でまわす。

 本当にうちの子たちは甘えん坊だ。



 区切りがいいので、草原にある大きな木の下で、早い昼ご飯を食べることにする。

 今日は、死の森の家でつくっておいた、自家製シチューとパンだ。

 うちの子は俺が作った料理をたべたいと言ってくれるので、今度宿の厨房でも借りて作り置きしておこう。



 昼ご飯を食べ終わり、ダンジョン散策へと行動に移す。


「よーし、今からダンジョンを進んでいくから、ティナはモコの上で、シロを抱っこしてて」

「うんっ」

「スピードあげて、どんどんと進んでいくから。出てきた魔物はテトと俺で倒していくよ」

「にゃー」


 まかせてと鳴くテト。

 

 俺たちは草原を走って進んでいく。

 ちらほらと、他の冒険者が見えるが、近寄らず避けて進む。

 うわぁっと若い声が聞こえるが、スルーだ。

 ごめんね。気にしないでくれ。

 うちの子たちのような魔物はここにいないから驚くだろうな。

 下へと続く階段をみつけ、下の階層へと進んでいく。

 二階層も相も変わらず草原が広がっている。

 出てくる魔物もなんら変わりがない。


 


 俺たちは順調にすすんでいき、六階層まできていた。


「ここまで走り続けて一時間ぐらいか?」


 死の森と違い、視界を防ぐものがなく、不意の攻撃を警戒することがないので、俺も驚くほどのスピードで進めている。

 出会う敵はあっという間にテトが討伐していて、影収納に入れている。

 普通の人がここまでくるのに、二~三時間ぐらいかな。


「ここらで休憩するか」


 日陰になっているところに、俺たちは腰かけ、屋台で買ったクッキーを食べる。


「にゃにゃ」

「わおん」

「ん?近くで誰か戦ってる?」


 声を抑え、耳を澄ませる。

 んー。かすかにだが確かに音が聞こえる気がする。

 意識しないと絶対に気づけなかったよ。

 さすがのテトモコだ。


「わふわふわんわん」

「人間が囲まれているのか?」


 それはまずそうだな。

 手助けが必要ならするべきだろう。


 ティナをモコにのせ、俺たちは声のする方に走る。


「足が……もう駄目だよ。みんなにげて」

「ばかやろう、お前をおいて逃げれるわけないだろう」

「でも……」


 近づくにつれ、声が鮮明に聞こえてきた。

 これは本格的にまずそうだ。


「テト、先行して、助けに行ってくれ」

「にゃっ」


 一番身軽でスピードの速いテトに向かってもらう。

 水魔法の音や、冒険者たちの驚きの声が聞こえてくる。


 俺たちが声をだしていた冒険者のもとにたどり着いたときには、あたりの魔物は一掃されていた。

 冒険者は俺より年齢が上のようだ。一三歳ぐらいか?

 狼の獣人かな?茶髪のよく似た二人の男性と、人間の赤髪女性1人、緑髪の男性一人の四人パーティーだ。


「黒猫がたすけてくれたのか?」

「キロにいちゃん、街でみかけた黒猫だよ。屋台にならんでいた黒猫に似てる」


 獣人の男性が話し合っている。

 テトは冒険者を刺激しないように、離れた場所でお座りしていた。


「あのー、大丈夫か?」

「うわぁ」

 

 冒険者の後ろから声をかけると驚かれた。

 音を立てずに近づいていたので驚かしてしまったようだ。


「あ、黒犬に白きつねの子たちだ」

「驚かせてしまってごめん」

「いや、助けてくれたみたいだな。本当に助かった」

「たまたま気づけてよかったよ。何があったんだ?」

「俺たちは角ピッグを狩って、持って帰っていたんだが、いつもより多く狩ることができたから荷物が重くてな。移動速度が遅くなってから仲間が角ウサギに足をやられて、動けなくなったら囲まれてこの様だ」

「それは……」


 荷物が重くて攻撃を避けられなかったのか。

 この世界にはマジックボックスがあるから、マジックバックみたいなものがあるはずなんだけどな。


「マジックバックとか持ってないのか?」

「そんな高価な物もってないよ。俺たちは孤児だからな。今回もみんなで食べるための角ピックの肉を集めていたんだ」


 なるほど、高価な物なのか。

 確かに、今まで入った店ではみたことなかったな。

 魔法具専門店とかにあるのか?


「……ケガ大丈夫?」

 

 ティナがけがをしている男性に声をかける。


「あー、歩けないほどではないが、荷物をもってはいけないな」

「ティナ、回復魔法ちょっと使えるよ?」

「回復魔法が使えるのか?でも大丈夫だ。ゆっくり行けば、日が完全に落ちるまでにはダンジョンからでれるよ」

「ティナ、回復魔法を使ってみてくれ。荷物はすべて俺が持っていくよ」


 そう告げると、冒険者から荷物を降ろし影収納に入れる。

 ティナの回復魔法をみたことがなかったからちょうどいい。

 俺たちは基本的にケガをしないし、自分で傷をつけようとするとティナに怒られるから、練習もさせてあげれていなかった。


「……いくよ?ヒール」


 ティナの手元がふわりと発光し、その光が冒険者の足を包んでいく。

 傷口が薄くなり、だんだんと痕が消えていく。

 へー。あらためて魔法と言うものをじっくり観察すると不思議なもんだな。

 皮膚の細胞を増殖さえて、傷口をふさいでいるのか?

 いや、それだけではないか。

 んー。イッツ ファンタジー。


「……どう?」

「ありがとう、お嬢ちゃん。もう大丈夫だ」

「よかったな。バティスト」


 バティストと呼ばれた男性は立ち上がり、足の状態を確かめるように歩く。


「ティナお疲れ様、回復魔法うまく使えてよかったな」

「うんっ、ママに教えてもらったの」

 

 ママに教えてもらったか……。

 ママとの思い出のようで、ティナは回復魔法をうまく使えて嬉しそうだ。

 ティナに回復魔法を教えてくれる人をまた探さないといけないな。

 ママとの思い出の回復魔法を練習し、さらにうまく使えるようになればティナは喜ぶだろうしな。

 しかも、大人になって、回復魔法で仕事を探すのも悪くないだろう。

 できることを広げていくことはティナにとっていいはずだ。


「じゃー、今回はこんぐらいでダンジョン探索終わりにしとくか。他の人の荷物も俺が収納にいれるよ。みんなで帰ろう」

「それは悪いよ。助けてもらって、さらに荷物まで運んでもらうなんて……」

 

 唯一の女性が、反対の声をあげる。

 いやー、すでにバティストと呼ばれている人の荷物を収納したからどっちでも一緒なんだけど。

 できれば、荷物を俺に預けて、移動スピードをあげてほしい。

 


「マリー。今回はお世話になろう。ハプニングのせいでいつもより時間がかかっている。このままだとシスターが心配するだろう?」


 キロと呼ばれていた男性が話す。

 どうやらパーティーリーダーはキロみたいだ。

 状況をよく理解しているじゃないか。

 そうだよ。帰るなら早く帰れるだけいいんだよ。

 家についてまだこの時間なの?ってなった時の幸福感は捨て難いものがある。

 一瞬のうちにその日にやりたいことが頭に浮かんでくるからね。


「すまないな。収納スキルに頼らさせてもらうよ」

「気にしないでくれ、俺たちも目的があって、ダンジョン探索をしてなかったからな」

「ダンジョン踏破を目指していたのじゃないのか?荷物もなくなったし下を目指しても大丈夫だぞ?」

「それだと帰りが遅くなるだろ?」

「ボスを倒せば、その部屋に転移陣が発生するから、それに乗れば一瞬でダンジョンの外に出れる」


 なるほど。便利なものがあるのだな。

 ここからだと、上に五階層、下に三階層とボス部屋だ。

 そちらの方が早いか。


「それなら下を目指そう。走れそうか?魔物の相手はすべてこちらでやる」


 そう告げると、俺はティナをモコに乗せなおしシロを渡す。


「大丈夫だ。セロ、マリー、バティスト今回はこの子たちについていくぞ」

「「「了解」」」


 キロたちのパーティーは俺に荷物を預け、装備と武器だけの身軽な格好になる。

 ケガをしていたバティストという男性も見る限り無理はしていないようだ。


 そこから草原フィールドを駆け抜け、俺たちは二時間ほどでボス部屋までたどり着くことができた。


 道中、キロたちはテトの戦いに驚いたり、スピードについていけなくなったりしていたが、なんとかここまで連れてくることができた。

 聞くところによると、角ピッグは六階層から多くリポップするらしい。それまでの階層にはあまりいないそうだ

 そのため、角ピック狩りをするときは早朝にダンジョンに向かい、六階層まで行き、狩りをするとのこと。

 行きだけで二時間以上かかるらしい。大変な作業だな。


 普通ゴブリンやスライムを倒したときは、魔石だけを取り、死骸は放置しているらしい。

 素材が売れる魔物は素材と魔石を回収して、死骸の大半はダンジョンにのみこませるとのこと。

 テトの影収納には何もせずいれてあるので、今回はそのまま解体にだそう。

 ごめん。グスタさん。

 

 ボス部屋の扉をあけ、全員で中に入る。

 部屋は円形で洞窟の中のようにごつごつした岩に覆われている。

 見えるのは石斧を持ったオークとゴブリン数匹。

 

 今回はモコが戦いたいみたいなのでモコにお任せする。

 これまで、ずっとティナを乗せており、戦闘に参加してなかったからな

 思う存分にあばれてもらおう。



「わおーーーーん」


 戦闘の合図としてモコは相手に威嚇し前へ出る。

 数個の火の玉を浮かべ、威嚇でひるんだ状態のゴブリンへととばす。

 そしてゴブリンへと着弾すると、その体を包み込み、体を燃やし尽くした。

 その場にカコンと音をならして落ちる魔石。

 

 その勢いのままモコはオークに近づき、お尻をフリフリ。

 あまり見ない行動だが、みんなに見られているのでおそらく楽しくて挑発しているんだろう。

 その挑発を感じ取ったのかオークが斧を振り下ろすと、モコはステップで交わし、降りてきていた顔面に爪で攻撃を加える。

 顔を抑えるオークに追撃をと。飛び上がり首にかみつきそのまま首をかみ砕く。


 痛みにもがいていたオークは一分もすると動かなくなっていった。。


「モコお疲れ様。楽しめたか?」

「わふー。わふわふ。わふー」


 少し興奮した状態で「楽しかった。どう?モコかっこよかった?」と訪ねてくるモコ。

 ティナもやってきたモコに飛びつきモフモフとしている。

 

「宝箱があるからみておけよ」


 キロが教えてくれる。


「宝?」

「ボスを倒すとでてくるんだ。中身は素材や金、魔道具といろいろだ。ほらそこにあるだろ」

 

 指さされている宝箱に近づき中をみる。

 中身は大銀貨一枚と銀貨数枚。瓶に入った緑色の液体が三つ。

 ここまできて、約二万円と瓶三つか。

 ダンジョンの宝箱って大したことないな。


「おー、ポーションか。あたりだな」

「ポーション?」

「ケガを治すものだな。ダンジョン産は教会がつくっているポーションより効き目がいいぞ。いまさっきのケガぐらいなら、一本振りかければ治る」


 回復できる魔法薬か。

 これはあっても困らんな。

 俺たちに万が一のことはないだろうが、ティナがケガをしたら大変だ。


 オークを収納にいれ、みんなで転移陣に乗る。

 視界がゆがんだと思ったら、入る時に見た洞窟の入り口にいた。

 ほんとに不思議なもんだ。

 どうゆう原理とかさっぱりわからん。

 空間魔法みたいなものがあるんだろうな。


 俺たちはギルド出張所の受付にいき、出たことを伝え、街を目指す。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る