第17話 久々の戦闘


「なぁー、ルイ。スレイロンで他に観光するところはないか?」

「なんでオレに聞くんだよ。てか、騎士の詰所に勝手にくるんじゃねー」


 俺たちはスレイロンで暇を持て余していた。


「いやさー、ティナのローブが出来上がるのが一週間以上かかるらしくてさ、遠出できないわけよ」

「ここにいる答えになってないぞ」

「だって俺の知り合いルイしかいないぞ?」

「お前さ、十歳だろ?知り合いが二十八歳のオレしかいないって悲しくないわけ?」

「そこで寝ているティナとうちの子たちがいるかぎり悲しくなんかなるはずないだろう、バカなのか?」

「お前がバカなのはわかった」

「バカっていうほうがバカなんだぞ」

「そんな暇なら魔物でも倒して来いよ。お前冒険者だろう?」

「んー、お金に困ってない」

「とんだクソガキだな」

「うるさいわ」

 

 お金はあるけど、この街であまり欲しいものもないし、観光するところもない。

 ルイのいうとおり、依頼でもうけてみようかな。


「じゃー、ダンジョンなんかどうだ?お前大鎌買ったんだろ?自慢してたじゃないか。試し切りでもしてこい」

 

 おっ、ナイスな提案だ。

 そういえば、大鎌買ったのはいいものの、実際に使ったことなかったな。

 買ったという行為で満足していたよ。

 日本でもよく本やゲームで同じ現象を起こしていた。

 買ったときは読む気、やる気満々なんだけど、時がすぎると手を付けなくなり、棚の肥やしになる。

 

 ダンジョンか。神がつくりしもの……気になるな。


「ここの近くにダンジョンあるのか?」

「ここの近くには二つあるな。一つ目はEランク認定されているコトサカ草原だ。洞窟に入ると、そこから一面草原に代わる。全十階層で、すべでの階層が草原フィールドで、出てくる魔物もゴブリン、スライム、角ウサギ、角ピッグなどの弱い魔物しかでてこない。最後のボス部屋はオークが出てくるが、お前たちにとっては楽な相手だろう」

「なるほど、初心者ダンジョンって感じか」

「そうだな、E,Fランクの冒険者が通っているダンジョンだ」

「もう一つは?」

「もう一つは漆黒の闇だな。Aランク認定されていて、まだ、最下層に到達したことがないダンジョンだ。最高到達地点は三十九階だったかな?フィールドは、洞窟、草原、山岳、森林なんでもありだそうだ。それに加え一切の光がなく、ランプや、火、光魔法で明かりをつけるしかないことが問題になる」

「周囲が見えないのはつらいな」

「オレも一度行ったことがあるが、もういきたくはない。暗闇から遠距離攻撃なんてざらにあるから、常に魔力感知しとかないと死ぬからな。まあ、死の森に比べたら魔物の強さはマシだけど」


 ほう、暗闇さえなんとかすれば、死の森より楽なのか。

 てか、そんなに死の森の魔物はやっかいだったんだな。

 

「死の森ってそんなに危険だったんだな」

「……それを平然と言っているお前が怖いよ。死の森の魔物は知性があるのか、連携とって攻撃してくるし、罠や囮なんかも使ってくるしでめんどくさいことこの上ないぞ。しかも戦闘音や血の匂いを嗅ぎつけ、周りからひっ切りなしで襲ってくるし。あそこは魔物の世界だ。人間の立ち入る場所じゃない。それが俺たちの見解だ」

「にゃーにゃにゃにゃ」

「あー、テトモコがいたからあまり寄ってこなかったのか」

「それは……ありそうだな。お前らみたいな化け物がいたら周りの魔物は身をひそめるか、逃げるかするかもな」


 返事をしたテトをなでて、ルイは言う。


「うちの子たちを化け物って呼ぶなよ」

「強いって褒めてるだけだよ。それに、ソラも化け物に仲間入りしてるからな」

「そんなつもりはない」


 まあ、ティナもいるし今回はコトサカ草原かな。

 シロを見つけてから戦闘らしい戦闘も行ってないし、シロがどれだけ動けるのかも知らないからな。

 

 俺たちは文句をいいながらも教えてくれたルイに礼をいい、騎士の詰所を出る。


「ダンジョンいくの?」

「そうだぞー。この大鎌の試し切りとシロの戦闘をみてみたい」

「きゅ?」

「シロちゃん戦える?怖くない?」

「きゅーーー」


 やる気に満ちているシロをつれ、街をでる。

 南にのびている街道を進めば、三十分ぐらいでギルドの出張所が見えてくるとのことだ。

 街道をにぎやかに歩くうちの子たち。

 ティナも「おさんぽ、おさんぽっ」と上機嫌だ。


「今回の作戦を言う」

「はいっ」

「にゃー」

「わふ」

「きゅー」


 ギルドの出張所の前で円陣を組んで、お昼ご飯をたべている俺たち。


「ティナはいつもどおり、モコの上に乗って進む。草原を歩きたいときはテトモコに了承を得ること」

「あいあいさー」

「まず初めに、俺が大鎌の検証を行う。その次は、シロの戦闘だ」

「きゅー」

「シロはどんなことができるんだ?」


 シロは、すっと俺たちから離れる。


「きゅーーー」

 

 シロが鳴くと、土の壁が目の前に現れる。

 そのあとも、土の塊を宙にうかべたり、その上に乗ってヒュンヒュンと移動したりしていた。

 地属性の魔法かな?便利な使い方ができるんだな。

 

「きゅきゅきゅー」


 元気に声をあげると、シロの周りに透明な膜が発生する。

 おおー、あれが、岩のくぼみでウルフの攻撃を弾いていたやつか。

 披露を終えたシロはティナのところに走っていき、ティナの胸へと飛び込む。


「シロちゃんすごいねぇー」

「きゅうきゅう」


 ティナはシロの魔法をみて大騒ぎだ。


「それはティナも守れるか?」

「きゅー」


 おお、それはいいことだ。

 死の森のサイクロンウルフの攻撃を防げるなら、大体の攻撃を防げるからな。

 ダンジョンの中ではずっと張っていてもらおう。

 俺たちは出張所に入る。

 受付に向かい、男性の職員に話しかける。


「ダンジョンにはいりたいんだけど、どうしたらいい?」

「ギルドカードをみせてくれ」

 

 ギルドカードを職員に手渡す。


「その年でDランクか。優秀なのだな」

「どうも」

「ダンジョンにはいるのは初めてか?」

「うん」

「では、説明するぞ。ダンジョン内での行動はすべて自己責任だ。なにがあろうと基本的にギルドは不干渉だ。魔物の横取り、なすりつけはタブーとされているので気をつけてほしい。そういった行動は冒険者の中ですぐに広まるので、今後も平穏に冒険者活動したいのならしないほうがいい」

「苦戦していそうな人がいたらどうするんだ?」

「その時は声をかけて、了承を得てくれ。断られたらそれはもうしかたがない。自分の力量を誤ったそいつらの責任だ」

「わかったよ」

「それと、近づいてくる人間にも注意を怠るなよ。ダンジョン内で殺人が起きても、ギルドがそれを証明することができない。当人が生き残り、攻撃をうけたと言っても、証明ができないので、同じくギルドは干渉することができない。自分の身は自分で守ってくれ」


 殺伐とした世界だ。

 ダンジョン内は治外法権ってことだな。

 誰にもばれない、密室の完全犯罪が行えるということだ。


「気を付けるよ。ありがとう」

「コトサカ草原は低ランクの人しかいないからあまり問題も起きていない。ダンジョン探索楽しんでくれ」

「行ってきます」

「いってきますっ」


 俺たちは受付の横にある通路をとおり、洞窟の入り口につく。

 入り口を通ると目の前には広大な草原が広がっている。


「情報通りだな。空まであるし、風も吹いてる。不思議な空間だ」

「ねー。気持ちいいねー」


 街道を歩いていた時より、ここちよい風が吹いている。


「じゃー、魔物を探すか」


 俺たちは草原をまっすぐ進んでいく。


「わふわふ」


 モコの探索に魔物が引っ掛かった。

 ゴブリン二体だな。

 風を纏い、すばやくゴブリンに近づき、大鎌を振りおろす。

 豆腐を切るように、ゴブリンの左肩から、右腰にかけて大鎌の刃が切り抜ける。

 切れ味がすごいな。切っている感触がほぼなかったぞ。

 手首を返し、戻す反動でもう一体のゴブリンを薙ぎ払う。

 ゴブリンは反応することができず、首と胴体がおさらばした。


「思ったより、使い勝手がいいな」


 俺の背丈より長い、大鎌を振り回す。

 下からの風を発生させ、宙に浮き、草原に生えている木を大鎌で切り裂く。

 木の棒を使っているような感じだ。

 子供がびゅんびゅんさせるみたいに、大鎌を振り回す。

 楽しいなこれ。


 遠くの方に水色の魔物が一体。

 大鎌に風の魔力をこめ、振りぬく。

 すると、大鎌から風の刃が発生し、斬撃として、そのスライムを切り刻む。

 思った通り、風の魔法を込めることができた。

 

 今度は影の魔法をこめてみる。

 角がついたピンク色の豚に影の魔力を注ぎこんだ大鎌で切りつける。

 大鎌は影の魔力を吸収すると、刃の部分に黒い霧を纏う。

 その纏った霧の部分が通ったところの豚の体が消滅した。

 残ったのは、刃の通っていない上半身と、おしりと後ろ脚の部分のみだ。

 消滅か。これはどういう現象なんだろう。

 そう考えていると。テトが影入りをする。

 影世界からでてきたテトは、消滅したはずの豚の肉体を持っていた。


「なるほど。これは興味深いな。テトありがとう」


 霧の部分を物質にあてると、その部分だけ影入りするのか。

 これは……強すぎるな。

 魔法防御がどうかみ合うかわからないが、基本的に、物理防御力を無視して、肉体を切り裂くことができるのか。

 また、霧を操作できれば、相手にふれなくても、影世界に送り込むことができるかも。

 

 数分間、影の魔力をさらに送りこんでみたが、刃の周り以上に霧が大きくなることはなかった。

 そして、霧を移動させることもできなかった。

 まあ、霧を纏う攻撃だけでも十分すぎるほどの強さだ。

 

「よし、大体の検証はできたぞ」

「すごいよっ。ビュンビュンのばっさばさだよ」

「ありがと。次はシロやってみようか」 


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