第16話 ふれあいタイム

 

 ギルドに到着し、馬車にのせてもらう。モコは子犬サイズだ

 

 今日はみんなおしゃれさんだ。

 ティナもエレンさんに三つ編みしてもらいリボンをつけている。

 うちの子が天使すぎる。

 テトモコシロもスカーフを巻き、堂々としている。


 入ったことのない貴族街の門をくぐる。

 大きな屋敷が並んでいる。

 こんな世界があるんだな。

 馬車に揺れること十分。

 目の前にひときわ大きな屋敷が見え、馬車はその門の前で停止する。

 

「つきましたので、おりてください」

 

 御者の人が扉を開ける。


「ようこそいらっしゃいました。天使の楽園様。ラキシエール家の執事をしているセバスと申します。伯爵様がお待ちですのでご案内いたします」

 

 そういうと執事さんは俺たちを連れ、屋敷へと入る。

 屋敷の中はシックな作りで、目の前に大きな獅子のはく製が見える。

 白い毛皮を纏い、鬣が黄金に輝いている。


「わぁー、ピカピカだね」

「そちらは伯爵様が現役の時に討伐された、キングレオでございます。伯爵様はAランクパーティーに所属しておりまして、領地での仕事をなさる前は世界各地を巡って、冒険されておりました」

「Aランクパーティってすごいことだな。どうして引退したんだ?」

「同じパーティーで活躍されていた奥様が懐妊されまして、伯爵様も領地経営を始めるとのことで引退されました」

「なるほどね。貴族と平民は結婚できるんですね」


 寿退社したら、貴族のお仕事を始めました。って感じか。


「なされるケースもございますが、奥様のご実家は侯爵家でございますので、当時から奥様自身も貴族でございました」

「これは失礼しました」


 おっと、貴族同士でパーティーを組むこともあるのか。

 てっきり、従者とか騎士の人とパーティー組んでいたのかと思ったよ。


「エド様、天使の楽園様をお連れしました」

 

 中から「入ってくれ」と返事がある。


「失礼します」

「失礼しますっ」

「にゃ」

「わん」

「きゅう」


 セバスさんがドアを開けて俺たちを部屋の中に誘導する。

 部屋には大きなソファーが二つと間にテーブル、その奥に執務に使うのか大きなデスクがある。

 壁には棚が設置してあり、本や書類が入れられている。

 執務室に座る男性は三十代後半のように見える。

 思ったより若さそうだ。


「ソファーに座っててくれ、あと五分ほどで終わる」


 素直に腰かける。

 一応テトモコシロは床にお座りだ。

 セバスさんの後ろについてきていたメイドさからお菓子とお茶をもらい嗜む。


「またせたな。思ったより幼いじゃないか。それに従魔はうわさどおりの賢さだな」

「これでも一応十歳なのですがね。私はソラ・カゲヤマです。こちらが妹のティナリア・カゲヤマ。黒猫がテト、黒犬がモコ、白キツネがシロです」

 

 うちの子たちがそれぞれ挨拶をする。


「俺はエド・ルシエールだ。伯爵位を引き継ぎ、辺境都市スレイロンの領主をしている。あまり緊張してくてよいぞ。堅苦しいのは俺も嫌いだ」

「ありがとうございます。あまり貴族の礼儀作法をしらないもので」

「おや?情報では貴族だときいておったが?」

「元ですね。家から追放され、今では家と縁をきり、冒険者として生活しています」

「幼いのに大変であるの。でもソラたちなら問題なく、生活できていそうだな」

「従魔が優秀で助かりましたよ。おかげで、ティナの服やうちの子たちの食事に困っていませんね」

「ふむ、ルイの情報通りだな」

「ルイ?」

「あー、ルイとは冒険者時代、同じパーティでな。今でもこの街のために働いてもらっているんだ」

「あいつ言いやがったのか」

「大丈夫だ。家をでた理由についてはルイから言えないと言われたよ。直属の上司ではないが、俺の方が年上だし、一緒に冒険した仲なのにな。泣けてくるよ」


 疑ってごめんルイ。お前はいいやつだ。

 今度、うちの子たちをモフらせてやるからな。


「ルイから聞いたのは、ソラの中で、少女と従魔が第一優先。そして、その者たちに危害を加える相手が誰であろうと敵対するだろうと」

 

 エドさんの口調が変わり、警戒の色がみえる。


「そうだね、そう思ってくれていいですよ」


 何事もなかったかのように平然とこたえる。


「肝が据わった坊主だな」

「依頼の話すすめませんか?」

「すまない。話がすこしずれてしまったな。今回の依頼は、娘に、君たちの従魔との時間を作ってほしいのだ。街で噂になっている従魔に会いたいと言っておってな。別にこれといって何かしてほしいわけではない」

「わかりました。庭をお借りしていいですか?」

「よいぞ。庭に娘を呼んでおこう。セバス案内してやってくれ」


 俺たちはセバスさんについていき庭へとでる。

 メイドさんは娘さんを呼びに行ったようだ。


「お待たせしました。今日は来ていただきありがとうございます。私がフィリア・ラキシエールです」


 屋敷から出てきた金髪ウェーブ少女が俺たちに声をかける。

 年齢は俺と同じくらいか、俺より上かな。

 てっきり、ティナに近い年頃の子が来ると思っていた。

「天使の楽園のソラです。今日はよろしくお願いします」

「……ティナです」

「にゃ」

「わふ」

「きゅー」


 うちの子たちも順番に声をあげる


「かわぁいいい。黒いサラサラの毛で私を惑わすかのような水色の瞳もつ黒猫。小さな手をあげ、肉球をみせて、私の心をひきつけるなんて。いけない子。そして、獰猛な獣とみせかけて、黒きモフモフで少女をいやす、灼熱の瞳をもつ優しきウルフ。あ、あれ?小さくもなれるの?偽りの姿でさらに攻撃を加えてくるなんてやるじゃない。最後には、白きふわりとした毛、ぱっちりブラウンの瞳で数多の狂信者を生み出す白キツネ。ダメよ。そんなに私の目をみないで、この世界に戻ってこれなくなる」


 金髪ウェーブ少女が高速で言葉を並べる。

 こいつはやばいやつかもしれない。

 客観的にみて俺はこのように見えているのだろうか。

 いや、ここまで重症ではないはずだ。

 もし、このように見えているなら自重しよう。

 もちろん、この少女フィリアが言ったことは共感できる。

 だがな、初対面で、言葉に表してはいけないと思うんだ。

 うちの子たちが嫌がってないからいいけど、外ではしないほうがいいぞ。君のために。


「フィリアお嬢様、心の声がすべて言葉に出ております」

「はっ……可愛いらしい従魔ですわね」

 

 セバスさんが小声でフィリアにつぶやく。

 もう遅いぞ。やり直せないぐらいの第一印象がついてしまっている。


「でしょー?テトちゃん、モコちゃん、シロちゃんは可愛いんだよ」

 

 ティナが自慢するように出てくる。


「どの子がテトちゃん?モコちゃん?シロちゃん???」

 

 鼻息荒く、ティナに詰め寄り問いかけるフィリア。


「……黒猫のテトちゃん、黒犬のモコちゃん、白キツネのシロちゃんだよ?」

「テトちゃんっていうのね、よろしく。あ、モコちゃんよろしく。シロちゃんもよろしくね」


 テトモコシロに近づき、一匹ずつ目を合わせて、挨拶を交わしている。

 忙しい少女だ。


「ソラ様申し訳ありません。天使の楽園の存在を知った時のフィリアお嬢さんは、すぐに宿に押し掛けるといって興奮しておりまして、エド様からのお叱りで静かになったのです。その時の約束の結果が、指名依頼として屋敷に招くことでしたので、このような状態になっているのです」

「なるほど。宿に突撃されるよりはよかったです」


 領主の娘が護衛をつけて、宿に突撃してくるとか勘弁してほしい。


「えっとね……今日すること考えたの。おねえちゃんは何かしたいことある?」

「あら、考えてくれたの?私はね、モフモフに埋もれながら、みんなの足を顔の上に……」

「フィリアさん。少し落ちついてもらっていいですか。初めはうちの子が考えてきた遊びをしたいのですが」

「そう?じゃーそうしましょう」


 そういうと、フィリアはうちの子たちについていき、遊びはじめた。

 こいつ、足で顔を踏まれたい的なことを言うつもりだったな。

 別にそう思っているのはいいんだが、少女の口からそんな言葉を聞きたくない。

 ちなみに、テトモコシロをガラス机の上にのせて、下から見た世界は幸せでした。


 フィリアは遊びの時でもそのスタイルを変えることはなさそうだ。

 おにごっこで逃げず。かくれんぼで隠れず。唯一ちゃんとできたのは石投げだった。

 とって戻ってくる表情がたまらないとか。

 まあ、フィリアとうちの子の両方とも楽しく遊べているので俺からはもう何もいわん。

 

 お昼ご飯は、フィリアの要望で、一緒に食べることになった。

 ご飯もすべて用意してくれており、屋台でよく食べているものも見られた。

 フィリアは、食べているところをずっとみているので、あまり自分は食べれていない。

 まあ、今日一日だしな。存分に堪能してもらおう。

 ご飯を終え、何をするのかと思ったら、まったりタイムにはいるそうだ。

 これには、フィリアもノリノリだ。

 モコが大きくなり、寝転ぶ。

 そこにフィリアが寝て、テトシロの添い寝で完成。

 ティナも寝るみたいだな。

 俺はこの前買った本を読みながら時間をつぶそう。


 あたりが暗くなる前に、セバスさんがフィリアをモコから引きはがし、依頼完了ということになった。

 受注書にサインを書いてもらい、ギルドに提出すれば依頼完了だ。

 この世界には魔法でかける筆があるらしく、それは魔力識別ができ、偽造でないか判別できるらしい。

 今度俺も買っておこう。

 

 フィリアはまた依頼すると言っていたが、別に依頼をしなくてもこんなことなら気軽によんでほしい。

 ただ遊んで金をもらうのはなんか申し訳ない。

 そう告げると、フィリアは思いのほか喜んでいた。

 ティナも最終的にはフィリアおねえちゃんと呼んで、なついていたので、いいことなんじゃないかな。

 俺以外の人間と関わることは必要だし、これからもいい関係を築いていってほしい。

 俺たちはエドさんとセバスさんにお礼を言い屋敷をでた。



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