第6話 ドラゴンさんと天使?

「ううー、重いよー」

 

 死の森での戦闘にもなれ、一泊探索を行えるぐらいにはなってきた。

 そんな俺だが現在、家の前の広場であくせくと魔物の解体に生を入れている。


 はじめて牛の魔物を食べたときのことは忘れられない。

 口の中にいれるととろけるようで、一噛みすれば旨味があふれだす。

 日本にいたときは、高級な肉を食べていたといえるほど食べてはいないが、A-5ランクの肉ぐらい食べたことはある。

 だが、圧倒的に死の森産の牛肉の勝利である。

 牛肉を食べ終わった時にはすでに、俺たち、二匹+一人の心は一つになっていた。


 牛さん大量討伐。


 食に対する気持ちが熱い俺たちは絶対にミスをしない。

 

 まず、偵察部隊のテトモコにより、死の森に生息している牛の頭数を確認した。

 ここでは結構強い魔物に分類されているのか、それなりの頭数が死の森中心に生息していた。

 牛が生存、繁殖できるように一定数以上の討伐をしないことを誓い、日々牛と追いかけっこだ。


 最近ではゴリラと猿は持って帰らず、牛の生息地域にポイ捨てしている。

 あいつらは固いし、まずいしで食えたもんじゃない

 いつかのためを思い、毛皮とか爪は影収納にある程度ストックしてある。

 まずい肉だが、牛さんの栄養分として活躍してくれ。


 そんな大量討伐を終えた今、影収納の中には大量の死の森産牛肉があった。

 解体は俺以外することができない。

 テトは大雑把に水魔法で切ってブロック状にすることができるが、皮とか剥ぐのは俺の仕事だ。

 内臓はまとめて大釜で煮込む。

 テトモコにも止められていないし、今のところ体に異変はないので、これからも牛内臓はすべでもつ煮込みだ。


「わおーーーーーーーーーん」

「シャーーー」


 いままで聞いたことがない、モコの遠吠えと、テトの威嚇が聞こえた。


「どうしたんだ?テトモコ」

 

 テトモコが急に駆け寄ってくる。

 二匹は上空を見て、臨戦態勢だ。

 毛が逆立ち、あたりに火や水を浮かべている。


「そこの人間よ、結界の中に入れてはくれないだろうか?」


 突然、上空からやわらかな声が聞こえ、顔を向ける。

 

「なぁっ、ド、ドラゴン」

 

 そこには真っ白な巨体で、すこし青みがかった翼を羽ばたかせているドラゴンが見えた。

 はるか上空にいるにもかかわらず、白き鱗が太陽の光を反射することで、存在感を強めている。

 

 いやいや、ドラゴンの登場は予期してない。

 声はおそらくドラゴンからしたのだろうが、まずドラゴンの登場だけに驚かせてくれ。

 ドラゴンが人語を話せることでさらに俺の頭の中は混乱している。

 しかも入れてほしいってなんでだよ。

 ここは結界に守られた安全な場所なんだけど……そこにドラゴンを入れるバカがどこにいる。

 テトモコが今まで見せたことないほど警戒しているし、どこか行ってくれないかな。


「早くこの子を結界の中で休ませたいのだ。」


 呼びかけに答えることなく、ただどこかへ飛び去ることを祈っていると。

 再度、白きドラゴンから声がかかる。

 この子?どの子だ?

 周りに白いドラゴン以外のドラゴンは見あたらない。

 ドラゴンをよく見ると、ドラゴンの足に女の子がつかまれている。

 

 人間のように見えるが、遠くで確認でできない。

 おそらくドラゴンが言っているこの子はその女の子なのだろうけど……

 今も俺の隣には警戒をといていないテトモコがいる。


「入れても大丈夫だと思うか?」

「にー…」

「くぅーん」


 小声でテトモコに問いかけるが、迷っているのか返事の歯切れがわるい。

 難しいよな。俺もすごく悩んでいる。

 ただ、声からして悪い気を感じないんだよな……


「よし、決めた。入れることにしてみる。ドラゴンは神の使いなんだろ?女の子の心配をしているし、声を聴く限り俺たちに敵意があるとは感じられない。もし、危なくなったらテトモコは逃げてくれ」


 テトモコは言葉を聞き、気持ちを引き締めたのか、ぴったりと寄り添いお座りをする。

 頼りになるもふもふだ。


「ドラゴンさん、あなたとその女の子が結界に入ることを許可するよ。ただし、条件として、何があってもテトモコには危害を加えないでくれないか?」

「いいだろう。たとえ我に攻撃してもそやつらには攻撃しないと誓おう。許可感謝する」


 白きドラゴンは言葉を聞き、躊躇することなく返答をしてきた。

 結界の許可をすると、上空からドラゴンはログハウスの横へと旋回しながら降りてきた。

 

 ドラゴンにつかまれていた女の子は地面に降りると、疲れているのか、その場に座り込んでしまう。

 んー五歳ぐらいかな?

 肩まで伸ばしているプラチナブロンドの髪に目がいくが、顔の作りも美しくあり年齢による幼さが見える。

 この子は人間ではなく、天使だったのか。

 俺の目には女の子の周りに花びらが舞っているようなオーラが見える。


 でも、女の子だけを見ていても何も始まらないな。

 さて、聞きたいことは山ほどあるぞ。


「あらためて感謝しよう、人間。下手に人間が生活しておる街にも降りるわけにはいかなくて困っておったのだ。そして安全な場所を探していたら、神の休憩所を思い出してな。まさかここに人間と影の支配者がいるとは思わなんだ」

「影山空だ。俺のことはソラでも影山とでも呼んでくれ。そりゃー、ドラゴン様が人間の街に降りたら大混乱だろうな。聞きたいことは山ほどあるんだが、まず、神の休憩所ってなんだ?」

「そんなことも知らずにここにいるのか?ここは神が現世に遊びに来るときに使う家じゃ」

「気づいたらここに転移していたんだよ。俺はこの世界の人間ではない。前の世界で死んで、神様に転移させてもらった。そんで、死の森を出れるようになるまではここで生活しているんだ」

「なるほどのー、異世界の者か。懐かしいの。異世界の者に会うのは何百年ぶりだろうか」


 へぇー。俺の他にもこの世界にやってきた人がいたのか。

 まあ、そうだよな。俺だけが特別だなんて思っちゃいない。

 その人にはその人の物語があり、国を作ったり、勇者したりしているんだろうな。

 先輩転移者の痕跡を探すのもおもしろいかもしれないな。


「一番気になっていることだが、その女の子は天使か?」

「何を言う、ティナは人間だ」


 なんだ。違うのか。ちょこんと座り、恥ずかしいのかもぞもぞと体を動かしている姿を見ても、天使以外のなにものでもないぞ。

 それにティナという名前なのか。うむ。可愛い。

 女の子を見つめていると、あっち側から目を合わせてきた。

 

 その瞬間、胸の鼓動が高鳴る。

 

 あー。これが恋か。


「あ…あのね。」

「うん。どうしたの?ゆっくりでいいよ」


 少女の妖精が歌っているような心地いい音色に癒され、即座に優しく答える。


「トイレ……」

「ついてきて」


 一大事だ。

 ティナと呼ばれた女の子をつれ、家に入る。

 使い方がわかるか聞いたが、わかるようなのでそのままトイレに入ってもらう。


「えーと、ドラゴンさん。小さくなることもできるのか?」

「この姿の方が小回りが利くし、寝るところも小さくていいので便利じゃぞ」


 ティナの後をついてきていた白いテトサイズのドラゴンにあきれた声で問う。

 

 次々に新しい情報を入れないでくれ。

 そして便利とか知らん。

 モコもサイズを変えることができるし、そういうものだと割り切ろう。

 テトモコは先ほどまでの警戒をみせていないが、俺にぴったりとついてきている。

 あのー、うれしいのだけど歩く時に少し気になるんだよね。


「終わったよ」

 

 ティナは何事もなくトイレをすませたようだ。

 俺には変な趣味なんてないからな、ただ。可愛いものやもふもふに弱いだけだ


「それでなんでドラゴンさんとティナはここにきたの?」

「あのね……」

「それは我から話そう。ティナは命を狙われておったのだ。そこを我が助け、連れ出した」


 少し時間をいただいてもいいだろうか。

 いきなりこのドラゴンはなんて言った?

 俺の耳にはこの天使のように可憐なティナが命を狙われ、ドラゴンが助けたように聞こえた。

 命、俺が知っている単語であっているのだろうか。

 この世界での知識では違う意味を持っている可能性は?

 テトモコを見るが、なぜか頷いてる。

 

 命は命であっている。ということか?

 だとしたら、なんでこんな天使が命を狙われなくちゃいけないんだよ。

 

「ティナはね……お家にいちゃだめ……みたい」


 ティナが身をちぢこまらせて言う。

 それは小さな体で精一杯に絞りだした声だった。。

 

 よし、殺す。確定。

 どこのどいつだ。こんなか弱い天使の心をずたずたに引き裂いたのわ。

 

「毒々しい殺気を放つのをやめよ」

「ごめん。動揺していた」

「落ち着いたのならよい。ティナリア・モンフィールこれがティナのフルネームだ。アトラス王国にあるモンフィール公爵家三女。公爵とメイドの間に生まれた子らしく、公爵家内での地位は高くなかった」

 

 貴族様か。この世界にも存在するのだな。

 どの小説でも貴族に良いイメージはない。

 できれば関わり合いたくないが、もうティナのことを知ってしまったから、関われないとは言えないな。

 

「あのね……ママ……亡くなっちゃったの」


 ティナの悲し気な今にも泣きそうな声で、場に沈黙が訪れる。

 俺はそのことについて何も言葉が思いつかなかった。

 どのような生活をして、どのように生きていたのかは詳しく知らない。

 ただ、5歳の少女が、泣きながらも母親の死亡を伝える姿を見て、行動に移すことはこれだけだった。


「そうか。ティナ」


 ティナを呼び抱きしめる。

 ティナも抵抗することなく、そのまま俺にしがみついてくる。

 どうやら反対側ではテトモコも寄り添い、体をあてているみたいだ。。

 

 ティナはたまっていた涙があふれだすように、声を上げて泣き始めた


 俺たちは音を発することなく、ただ頭をなで、ティナが落ち着くのを待った。


「眠ってしまったの」

 

 数分後、ティナは俺の服をつかみながらすやすやと寝息を立てていた。


「寝かせてくるよ」

 

 ベットに向かい、ティナを寝かせる。

 

 いままで大変だったんだろうな。

 どんな状況で、どんな生活だったのかはわからない。

 でも、敵だらけの家で心の救いである母親を亡くし、命まで狙われた。

 こんな小さな女の子が抱えられるほどのものじゃないことだけはわかる。



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