第5話 死の森探索
「よし」
今日はテトモコに起こされるよりも前に起きることができた。
体を伸ばし、頬っぺたを軽く両手でたたき気合を入れ、リビングに向かう。
今日は死の森探索デビューだ。
準備は昨日済ませているがもう一度確認しよう。
・鉄製のナイフ
・漆黒のローブ
・黒を基調とし、細部に緑をあしらってあるブーツ。
・昼ごはんのサンドウィッチ
このローブとブーツはテトの影収納に入っていたものだ。
影入りしたときから、影収納について調べていたのだが、影収納は影世界へと収納しているのではないらしい。
厳密には影世界なのかもしれないが、その場合でも、俺たちが入る影世界ではない。
影収納には生物をいれることができない。
それに加え、俺たちが入る影世界の中で、どこでも影収納からものを取り出せること自体がおかしい。
影世界で動かなければ、俺たちは表世界で同じ場所からでてくる。
おそらく、マジックボックスのような異空間に収納している可能性が高い。
テトがいうには、ローブとブーツは神様にもらったらしい。
俺が異世界転移をした日にもらった手紙もモコが神様からもらい、影収納に入れていたのを渡したのだ。
神様印のローブは破格の性能で、木々を木っ端みじんにしたテトの水魔法を受けても耐えきることができた。
着用時に魔力を通さないといけないが微々たるものである。
そしてブーツは影魔法と風魔法との相性が抜群で、影入りを一瞬で行うことができるようになった。
また風魔法でブーツを纏うと、移動速度が急激にあがった。
これを転移してから一年たったぐらいの時に、そういえばみたいな感覚で、テトが出してきたときは唖然とした。
これがあれば、おにごっこがもっと楽になったじゃないか。
そんなことを言ったが、結局、特訓は普通の靴で行われた。
テトモコが「いつもその服きる?」「靴脱がない?」と聞いてきているようににゃんわん言ってきたのだ。
たしかに、神様印のものに頼りきるのは危険であると感じたので、特訓は神様印なしで行った。
着替え終わるとテトモコも起きてきたので、朝ごはんにする。
今日は朝からとんかつだ。パン粉がアイテムボックスにはないので、パンを刻み、衣にした。
とんかつと言ったが、豚肉であるかは定かではない。
とんかつ風にくかつ。おいしければなんでもいい。
テトモコなんて何も文句言わず、二枚目のにくかつを頬張っている。
口いっぱいに肉を入れている姿が可愛い。
「チッ、だめか」
はむはむと租借しているテトを撫でようとするが、寸前のところで避けられてしまった。
モコは撫でられながらも、にくかつを堪能している。
猫は食事中に邪魔されると怒るらしいが本当なんだな。
テトを猫って呼んでいいのかはわからないが、二年間一緒にいて、テトがアサシンタイガーであろうと俺の中でテトは猫だ。
モコは犬だ。もともとウルフだし。現代日本に住んでいても、ウルフと犬の違いなんてわからない。
みんな食事を食べ終わったので今日の流れを確認する。
「今日は俺主体で死の森を探索する。もちろん、テトモコも索敵を行い、警戒していてもらう。第一の目標は戦闘だ。俺がどこまで死の森の魔物相手に通用するかを確認しに行く。今回はあまり結界から離れるつもりはない。だから、もし俺が結界から離れすぎたら、その時は教えてほしい。また、俺だけでは厳しいと感じたらテトモコも戦闘に参加してくれ。
第二の目標は、魔物の肉や野草、キノコなどがあれば採取したい。これに関しては、俺はさっぱりわからん。俺が食べることができそうな物があれば教えてほしい。以上だけど、テトモコからなにかある?」
「わふわふ、わん?」
「あー、索敵で先に見つけたらどうするかって?」
「わふ」
「やばそうなら教えてくれ。そうでないなら俺が気づくまで教えないでいい。索敵の練習にもなる。他にはなにかある?」
「にゃー」
「わん」
二匹ともなさそうだ。
「よし、いくか」
そして俺たちは結界の外へと足を踏み出した。
「結界の中とあまり変わらないな」
生い茂る木々を見つめているが、あまり生き物の気配を感じない。
強い魔物がいるはずなんだけどな。
森を歩くこと数分。
ちらほらと、キノコ、野草が生えているのが見える。
テトモコが時々俺から離れているので、採取しに行ってくれているのだろう。
ありがたい。っと思っている間に俺の索敵に反応がある。
「木の上か」
見えるのは木を伝ってこちらに向かってくる、茶色の毛をしたゴリラのような魔物。
器用に枝から枝に飛び移り、距離を詰めている。
「ウィンドーアロ」
木を移動しているゴリラに向けて風の矢を放つ。
魔法に気づいたのか、避けようとするが、間に合うず、ゴリラの右肩へと突き刺さり血飛沫があがる。
「やったか」
俺がそう声をあげると同時に後方から水が破裂したような音がした。
後ろを振りむくと、人間の頭部ぐらいの大きさの岩塊が数個転がっていた。
さらにその後ろには猿のような魔物が二体、首と胴体が離れた状態で死んでいた。
「テトがやってくれたのか?」
「にゃ」
近づいてきていたテトがそうだよというように短く鳴く。
助けられたのか。
目の前にいたゴリラの魔物にひきつけられている間に後ろからの攻撃。
水の音がしたのはテトがこの岩塊を砕いた音だな。
まったく気づくことができなかった。
そういえばと慌てて、ゴリラの方をみてみると、モコが爪でとどめをさした後であった。
これは反省会だな。
異世界での初戦闘は悔しい結果になってしまった。
魔物を影収納にいれ、テトモコに聞く。
「テトモコは後ろの猿には初めから気づいてたのか?」
「にゃー」
「わふ」
もちろんと。
「にゃにゃにゃーなー」
なるほど、確かに、ゴリラの反応をとらえてから周りへの索敵は疎かにしていた。
常に全方位の索敵をしつつ、敵へ攻撃する。
難しいことだが、それができないと死の森では生きていけないのだろう。
「わんわーん」
「それはよかった。ゴリラを瀕死に追い込むことができたのは、この戦闘で唯一の成果だな」
視界が木々で遮られる中、ホームグラウンドの敵を射止めれたのはでかい。
威力、速度ともに合格点だ。
「反省会終了っと、次いってみよう」
これから体力つきるまで、魔物狩りだ。
日が暮れ始めたころ。
へとへとな状態で結界内に入り、家の椅子に崩れ座る。
あれからゴリラ二体、猿四体、牛の魔物を討伐した。
初戦以外、失敗はなくスムーズに倒すことができた。
特に影入りして接近し、影世界から出た瞬間に風魔法を発動させる戦い方は完璧だ。
よほど索敵に長け、反射神経が良い魔物以外避けれないだろう。
「にゃにゃー」
「わんわん」
テトモコが牛肉食べたいーと訴えているが、俺が解体できるわけないだろう。
いや、いけないこともないが、今日は勘弁してほしい。
初戦闘でくたくたなのだ。
「昨日作っておいた肉じゃがを温めてあげるから許して」
まだあきらめられないのか、にゃんわん言っている。
しかたがない。
「わかった。絶対明日解体してみるからそれまで待って。待てたら明日は昼から牛ステーキだ」
この一言で満足したのか、肉じゃがの催促をしてくる。
可愛いやつめ。
肉じゃがを火にかけている間に、テトモコを思う存分撫でまわし、今日の感謝を伝える。
「ありがとね、またよろしく」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます