第5話 計画を立てましょう。

 マレは地図を見ながら、どこから手を付けるか頭の中でシミュレートしていく。

 ガエウはマレが考え込んでいる様子を見て、静かに椅子に座ると地図を眺めている。


「ふぁ……」

 静けさを破るように、ちょっと間の抜けた声が聞こえてきて、マレとガエウはアリーナを見る。

 アリーナは椅子に座ったままで両腕を目いっぱい上に伸ばし、体を伸ばしながらあくびをしている。

「ふぅ。よく寝た~」

 と寝ぼけた声で言うと目を開けると、はっとする。

 マレは見てはいけないものを見た気がして、慌てて視線を地図に戻す。

 ガエウは気にせず、ニコニコと笑いながら、

「アリーナ、少しは疲れが取れたか?」

 その言葉にアリーナは椅子の上で居住まいを正すと、澄ました顔をして、

「はい。だいぶ疲れが取れました」

 とにこっと笑って言う。

「それなら、国作りの会議を再開しようかの?」

 ガエウの言葉に、アリーナとマレは頷く。


「まず、人を借りてこないと話しが進まないな?」

 ガエウの問いかけに頷く。

「ヴィーレア国に向かい、国王と謁見し、契約書を叩きつける、と。ああ、マレ、悪いが会議の内容を簡単に紙に書いてもらえるか?」

 ガエウは地図を裏返すと羽ペンと一緒に渡す。

 マレは先ほどガエウが話した言葉を声に出しながら書いていく。

「まず、最初にヴィーレア国に行き、国王に謁見し、契約書を見せる、と……」

 ガエウは聞きながら頷き、

「契約を忘れていた場合だが、その時はアリーナの出番でよいな?」

 アリーナに視線を向けてガエウは確認すると、

「もちろんです。何年経ってもデュアルトの民を殺したことを許しません」

 透明感のある声なのに、言っていることが物騒すぎるな、と思いつつも、

「デュアルトって?」

 と2人に聞き返す。

「ああ、デュアルトと言うのは、民が滅びる前の国の名前だ」

 ガエウの言葉にマレは首を傾げる。

「その国の名前を使わずに、なぜ新しい国の名前にするんだ?」

 ガエウは寂しそうに微笑むと、

「魔物に滅ぼされた国の名前など、よい印象はないからな。新しい国の名前で再スタートをしたかったのだ」

 そういうんもんか、と思ってマレは頷く。

「話しをつづけるぞ。契約を覚えていた場合、何度かに渡って人を借りる。借りた人達の食費と食料はヴィーレア国に負担させる」

 魔物使いが国を滅ぼしたせいで、かなり不利な条約を結ばされたんだな、とマレはヴィーレア国に同情し始める。

「人数だが、まずは、この建物の周りから町を作り始めるのにあたり、土地の整備に10人、建物を作る人、資材を運ぶ人合わせて30人くらいで大丈夫だろうか?」

 マレは頭の中で家を作るために必要な動きをシミュレートしながら、

「最初はその人達がこの国で生活するための建物を作るとして、土地の整備10人、建物はもっと人数がいた方が早くできると思うから、建物を作る人で20人……。建物はレンガで作るのか?」

 マレが建物の素材を確認するとガエウは頷き、

「そうだな。レンガで作る。最初はレンガをヴィーレア国から貰い、その後はこの国で作る。レンガ造りの職人も入れると、50人は必要かの?」

 ガエウの言葉に頷くとアリーナはにっこりと笑い、

「人が必要になったら、またヴィーレア国に行けばいいのです」

 ガエウとマレは頷くと、

「えと、じゃあ、土地整備に10人、建物を作る人が20人、資材を運ぶ人、レンガを作る人で30人、合計60人、と」

 マレは声に出しながら地図の裏に書いていく。

「ああ、畑も一緒に作れればよいの」

 ガエウの言葉に、アリーナとマレは頷く。

「では、畑を作る人とその種ですね……」

 マレは言葉に出しながら書いていく。


「とり急ぎ決めることはこれくらいかの?」

 ガエウは2人の顔を見合わせ、確認する。

 マレとアリーナはしばらく考えて、

「大丈夫だと思います」

 アリーナの言葉にマレは頷く。

「それなら、国王宛に書簡を書くかのう。それを持ってヴィーレア国に乗り込むか」

 ガエウの言葉に2人とも頷く。


「では、今日はここまでにしよう」

 ガエウの声に部屋の緊張感が緩んだ。

 窓から外を見ると、空がオレンジ色をしているので、夕方くらいだろうか。

 マレは椅子に座ったまま、両腕を上に伸ばし、体をほぐす。

「あっ。俺はどこに行けばいいんだ?」

 まもなく夜を迎える。できれば外で眠りたくないんだけどな……。

 ガエウは少し笑うと、

「この建物に客間があるから、使えばよかろう」

 マレはそれを聞いて安堵の表情を浮かべる。

「それと食事だが、そんなに多くは出せない。しばらくは我慢してくれ」

 ガエウの言葉に、マレのお腹が、ぎゅ~、と鳴る。

「そういえば、ここにきてから何も食べていない……」

 マレの情けない声に、アリーナは横を向いて笑っている。

「先に食事をしてから、部屋に案内するかのう」

 ガエウも笑いながらマレに言う。

「マレ、ここで待っていてくれ。アリーナ食事を準備してこよう」

 ガエウの言葉にアリーナは頷くと、椅子から立ち上がり2人揃って部屋から出て行く。


 部屋に1人となったマレは、ここにきてからのことを思い返す。

 目が覚めたら、知らない場所で。

 近くにあった建物に入って水を飲んでいたら、神に見つかって。

 神に連れてこられた先ではシャーマンがいて。

 国を作る手伝いをすることになって。


 たった、1日、というよりは、半日だろうか?

 マレはふぅと、息を吐いた時に体のあちこちに痛みが走ったのを感じる。

(まぁ、そうだよな。アリーナの夢が本当だとしたら、空から落ちてきたんだものな)

 歩けるし、字も書けたので、わかる限りでは骨が折れていないだろう、と予想はする。

 マレはため息をつくと、

(これ、夢だった、というオチにならないかな)

 とふと思った。

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