第6話 1日の終わりに。
会議が終わり、その部屋でパンと野菜スープという簡単な食事を終わらせるとガエウは、
「それでは、客間に案内しようかの。アリーナ片づけを任せても大丈夫だろうか?」
アリーナは少し笑みを浮かべて、
「大丈夫です。明日の朝はいつも通りでいいですか?」
アリーナの質問にガエウは頷く。
ガエウの返答にアリーナは椅子から立ち上がり食器を片付ける。
マレも椅子から立ち上がると、使った皿を重ね、カトラリーを一番上の皿にまとめる。
「ありがとうございます」
アリーナはマレの近くに寄り、にこ、と笑いかけ、まとめた皿を受け取ると部屋を出て行く。
(武勇伝聞かなければ、綺麗な人だよな)
マレはアリーナの笑顔を見てニヤついてしまう。
「では、マレ、部屋に行くかのう」
ガエウの声に顔を引き締めて部屋を出た。
会議をしていた部屋は1階の一番奥にあるようで出ると真っ直ぐに廊下が続いていた。
部屋を出るとガエウは廊下を歩きながら、食堂、アリーナの部屋と教えてくれる。
そのまま突き当りまで行くとガエウは、
「ここがマレに使ってもらう部屋だ」
と言い、ドアを開ける。
ガエウが先に部屋に入ると灯りをつけた。
マレは灯りの点いた部屋を見回す。
狭くもなく広くもない部屋は、ベッドと腰くらいの高さのチェスト、それと小さなテーブルと1人掛けの椅子が置いてある。
ドアの正面を見ると、窓が大きく作ってあり、今は暗闇しか見えない。
「マレ、中に入れ」
ガエウの言葉に、
「おじゃまします」
と言って部屋に入るが、ガエウはなぜ、肩を震わせているのだろう?
そのまま、ガエウは風呂場とトイレを案内したあとにチェストの引き出しを開ける。
引き出しの中にタオルと寝間着、毎日着る洋服が5着入っていることを教えてくれた。
「アリーナが若い男性がくることを教えてくれたのでな、用意できたのだ」
ガエウは穏やかな声で伝える。
「ありがとうございます」
マレのお礼にガエウ目を細めると、
「今日は疲れただろう。マレが環境になれるまではヴィーレア国に行くことはないから、ゆっくりと過ごしてほしい」
そう伝えたあとにガエウは、
「わしの部屋は2つ隣の部屋になる。なにかあれば部屋にきてくれ。おやすみ」
そう言うとマレの返事を待たず、部屋を出て行った。
ガエウが出て行ったあと、マレは体を洗おうと思い、チェストからタオルと寝間着を出すと風呂場に行き服を脱ぎ始める。
そんなに複雑な着方ではなく、腰ひもを解き、両腕で服の端を掴み頭から脱ぐだけだ。
風呂場に鏡があったので、背中にけががないか確認したが、特にけがもなく、青あざになっているところもなかった。
ほっとして、そのままバスタブにお湯を貯めながら、体を洗い流しているうちにバスタブにお湯が溜まったので、ゆっくりと体を沈める。
バスタブにつかりながらも自分の体にけがをしているところがないか確認をする。
見える範囲は大丈夫そうでも、頭はどうだろうか、と思い両手を使って確認したが、けがや痛みが走るところはなかった。
(確認したけど、けがはなさそうだし、青あざもなさそうだな)
マレはほっとしてしばらくバスタブにつかっていた。
バスタブから出ると、タオルで全身の水気を拭きとり寝間着に着替える。
寝間着は先ほどまで着ていた洋服と同じで、頭からすっぽりとかぶる。
裾は足首まであるのだが、袖がついていないので腕がむき出しのままだけど寒さは感じなかった。
着替え終わると今日着ていた洋服を無造作に掴み、ベッドの上に置くと簡単に畳む。
畳み終わった洋服をチェストの上に置き、濡れたタオルは椅子の背に掛ける。
そのまま部屋の灯りを消すと、窓に近づき外を見てみる。
「寂しい光景だな」
見渡す限りの闇で、灯りなどなく、前の国が滅びてから人が住んでいないことがよくわかる光景だった。
「この国だけ、人がいないんだよな……」
両隣の国には今も生活している人はいるが、結界を張っているここは悪意のある人間は入れない。
だけど、悪意のない人間ならこっそりと入ってきているかもしれない。
「もし、そういう人がいるなら、国作りを手伝ってもらうことはできないのか?」
マレは頭に浮かんだ考えを何かに書こうと思い部屋の中を見回し、
「スマホどこに置いたかな?」
と呟いたあとに、
「スマホ?」
突然自分の口から出てきた言葉に疑問を感じる。
「スマホってなんだ?」
マレは懸命に考えるが、どういった形をしている物なのか想像がつかなかった。
窓際に立ったまま、両腕を体の前で組み考えているが、一向に思い出せなかった。
「自分の名前さえも憶えていなかったのだから、記憶の欠落があるのかもしれないな」
と無理やり自分を納得させて、
「この国に人が潜り込んていないか、明日ガエウやアリーナに聞いてみよう」
そう思ったマレは窓のカーテンを閉めて、ベッドに潜り込む。
ベッドの布団もかけ布団もふわふわで柔らかく、全身を包んでくれるような感じに安堵感を感じる。
「長い1日だったな。明日は何をするのかな」
そう呟くと、あっという間に眠りに落ちていった。
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