第4話 まずは国の名前を決めるか?

 マレが納得したところでガエウは、

「では会議を始めてもよいかのう?」

 とマレに声を掛けると頷く。

「まずは国の名前を決めることからだな」

 その言葉にアリーナはテーブルの上に置いてある書類の山の中から1枚の紙を取り出すと、

「ガエウ様、こちらを」

 とガエウに向かって差し出す。

「国名の候補だな?」

 アリーナは頷く。

 ガエウは受け取ると、隣に座るマレにも見せる。

 その紙には大きな円が書いてあり、それを四等分にして、区切られたコマには何やら文字が書いてある。

 マレはよくわからないままにその紙をガエウと一緒に見ていると、かちゃり、とテーブルに何か乗せる音が小さく聞こえてくる。

 テーブルの上を見ると人間の親指ほどの大きさの円錐形の物が置いてあり、透明なそれは、人が持てるくらいの長さの金色の鎖がついていて底に近い部分に鎖がぐるりと巻き付けてある。

 ガエウも音に気付いて円錐形の物を見ると、

「アリーナ、頼む」

 と手に持っていた紙をアリーナに戻す。

 テーブル越しに紙を受け取ったアリーナは深呼吸をすると、円錐形をしている物からのびている鎖を自分の左手に巻き付け、手元に紙を置く。

 紙の中心に円錐形の咎っている部分を合わせると、

「始めます」

 その言葉に部屋は緊張感に包まれていく。

ガエウは静かに頷くと円錐形の物を見つめ始める。

 紙から少し浮いている円錐形の物はゆらゆらと揺れていて、少しずつ揺れが小さくなり……やがて止まる。

 円錐形のものが動かなくなった頃を見計らうとアリーナは目を瞑り、

「この中で国の名前にふさわしいのはどれでしょうか?」

 と低い声で問いかける。

 とその声に反応したかのように、円錐形の物が大きく円を描くかのように動き出す。

 やがて動きが小さくなってくるとアリーナは目を開き、円錐形の動きをじっと見つめる。

 そのうち円錐形の物はあるコマの上で激しく動き始める。

「ありがとうございます」

 アリーナは低い声で言うと、円錐形の物は少しずつ揺らぎが収まっていく。

 マレはただ、目の前の光景に驚き、口をぽかんと開けていた。


「ガエウ様、決まりました」

 その声にガエウは頷くと、

「この国は、ルアールとなりました」

 アリーナが新しい国の名前を涼やかな声で告げた。


「ガエウ、今のはなんだった?」

 マレは呆然とした顔をガエウに向けて質問する。

「円錐形の物はペンデュラムと言ってな。水晶で作られており、YesかNoかを告げてくれるのだ」

「へぇ~」

 マレは感心しつつも先ほどの様子を思い出しながら、

「でも、自分の手に鎖を巻き付けているのだから、自分の意志でどうとでも動くんじゃないか?」

 ガエウはあっさりと、

「そうだな。だから、ペンデュラムを使う時は、迷いがある時だな」

 ガエウはテーブルの上の紙を見て、

「今回、国の名前の候補として10近くあったのだが2日かけて4つまで候補を絞った」

 アリーナは再び紙をガエウに渡す。

「この4つ全てがいい国の名前だと思ったので、アリーナの最終判断に任せたのだ」

 受け取った紙を見ながらガエウは話す。

「最終判断、と言うのは、アリーナの心の奥底にある意識のことで、ペンデュラムはその意識を感じ取り、揺れるのだ」

 ガエウは説明を終えると、紙から目を上げ、マレにいたずらっ子のような微笑みを浮かべ、

「ルアール、とは月光、という意味がある。素敵だと思わんか?」

 マレはどう返答したらいいかわからず、引きつった笑いを浮かべてごまかした。

 ガエウはその様子を呆れた様子で見て、アリーナに視線を向けると、

「アリーナ、国の中心となる町の名前はどうなった?」

「はい、そちらは、ルィス、と教えてくれました」

 アリーナは疲れた様子で答える。

「アリーナ、お疲れ様。少しそこで休んでいてくれ」

 アリーナは頷くと、椅子に深く腰掛け目を瞑る。

 マレが痛ましい表情でアリーナを見ているとガエウは、

「ペンデュラムを使う時は、精神を極限まで研ぎ澄ますから重労働なのだよ」

 とアリーナを見ながらマレに教えた。


「さて、と」

 ガエウは椅子から立ち上がり、部屋の隅にある腰ほどの高さの棚の上に重ねて置いてある紙をぺらぺらとめくると、

「これだな」

 と、紙同士のこすれる音がしたあとに1枚の紙を丸めて持ってテーブルに戻ってくる。

 ガエウは椅子に座ると、丸めた紙をテーブルに広げる。

「これはこの国の地図なんだよ」

 マレはテーブルに広がった地図を見る。

 その地図は三方に山が、下の方は波模様が黒一色で書いてある。

 マレは面白い形をした国だな、と思った。

 国の領土としては、台形、という感じで左右の山は下に近づくにつれ広がっている。

 ガエウはその地図の真ん中を指すと、

「ここが、この建物がある場所だ」

 マレはガエウが指しているところをみる。ちょうど地図のど真ん中あたりで、何か建物の絵が描いてある。

「建物の絵が書いてあるところが、ここ、ってことか?」

 マレの質問にガエウは頷いて返す。

 ガエウはテーブルの端に寄せていた、羽ペンと墨を手元に寄せると、地図の左上に、ルアール国、と大きく書き、建物の書いてあるあたりに、ルィス、と書き込んだ。

 ガエウは羽ペンを戻すと、大きく頷き、

「これから国を作っていくぞ、マレ」

 と地図から目を離し、にっこりと笑いマレに話しかけた。

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