第3話 いろいろと疑問が……。
マレは心の中にもやもやが残るまま、ここに残り国作りを一緒にしていくことを不本意のうちに決める。
(ガエウの言うとおり、帰る場所がどこにあるのかわからない今、雨風をしのぐことができ、安心して眠れるかもしれないし、ごはんが食べられるなら、ここに居候させてもらえばいい)
そう思ったマレは自分自身を無理やり納得させるように頷くと2人に向けて、
「俺がなぜここにいるのか、はっきりとした理由を教えてもらえないのは残念に思うが、国を作るということに協力しようと思う」
2人の顔にほっと安堵の色が浮かぶが、
「だけど、どうやって作っていくのだ?」
マレは疑問をぶつける。
「国を作ると言っても、まずは土地を整えて、資材を持ってきて組み立てる。そのどれにも人は必要だが、手伝う人間なんてどこにいるんだ?」
マレは寝ころんでいた草原、この建物の中に入った時のことを思い返しているが、どこにも人の気配はなかったはず。
マレの言葉にガエウは苦笑いを浮かべると、
「ヴィーレア国にいる魔物使いをアリーナが迎えに行った時に、ヴィーレア国王とも面会してきていてな。この国が滅んだのはお前の国の魔物使いが原因だろう、と詰め寄ったらしい」
マレはアリーナの行動力に驚く。
「ヴィーレア国王も、アリーナの迫力に負けたらしくてな、何かあれば人でも資材でもなんでも提供する、と約束をし、ヴィーレア国王の署名入りの書類と一緒にこの国に戻ってきた」
ガエウは椅子から立ち上がり、部屋の隅にある腰ほどの高さの棚の上に重ねて置いてある紙の山から1枚の資料を持ってくるとマレの前に出し、
「これがヴィーレア国王の署名入りの書類だ」
と言うが、マレは疑問が出てくる。
「署名入りの書類とはいえ、今から100年前の書類だろ?今でも効力あるのか?」
そういうマレにガエウは書類のある箇所を指し示す。
「ここにな、“この書類の有効期限は定めない、未来永劫の約束としてヴィーレア国王族に代々伝えていくこと”と書いてあってのう、約束を破った場合、ヴィーレア国を滅ぼすと条件を付けているのだ」
マレは、アリーナなら国を滅ぼすのも容易そうだな、となんとなく思ったが、口に出さずにガエウを見て、
「あとは相手国が覚えているか、この書類を持っているか、か」
ガエウは頷く。
「あっ、でも、なんで、今になって国を作る、って言っているんだ?100年前にカタの付いた話しだろう?」
マレは疑問に思ってガエウに聞くと、遠くを見つめながら話す。
「100年前、民が滅びたこの国は、崩れ落ちそうな建物が多くあり、土地も荒れ果ててしまってのう。その時にヴィーレア国から人と土地を耕す道具等を借り、中断した年もあったが約30年の歳月をかけ建物をすべて壊し、土地も整備してもらったのだ」
ガエウは一息つくと、
「土地の整備を終えヴィーレア国に人を返した後、アリーナと2人で魔物が残存していないか国を歩いて確認をしていたのだ。そこまで確認したあとに、2度とこの国を争いに巻き込まないためにどうしたらかよいか相談した結果、結界を張ろうということになってのう」
ふぅ、と息を吐きだすと、
「また2人で歩いてところどころに結界の目印を埋め込み、ここに戻ると、その目印をすべて繋ぎあわせ、国に結界を張ったのだ」
壮大な話しだな、とマレは思う。
「その結界というのは、どういった効果があるのだ?」
「この国に悪意を持つ人間は入れないようになっている。もし、結界をかいくぐり、この土地に入ったとしても、結界の目印から遠くないところで何かしらの天罰を下すことにしている」
そこまで聞いてマレは、どうやってこの国に入ったのか疑問に思う。
「この結界はできて5年程だ。その間に魔物はおろか、他の国からも人など入ってくることはなかった。これで、まっさらな土地に国を作るための基盤が整ったと思い、国作りの計画を立てようとした時に……」
そこでガエウがちら、とアリーナを見る。
「今年になってすぐの頃かのう?アリーナは近いうちに記憶をなくした若い男性が空から降ってきて、この建物に侵入するだろう、と予言してな」
「ほう」
「それなら、その男性と一緒に国を作るか、とアリーナと話しあったのだ」
「なるほど。俺がくることは予言されていたのか……」
マレは顎に手をあてると考え込む。空から降ってきたのが俺ならば、体中が痛いことが理解できる。というか、一歩間違えれば死んでいたってことか……。
「アリーナはシャーマンである、と伝えたな?寝ている間に時折、そういった予言夢を見るようでな。予言夢を見たあとは、熱を出して寝込んでしまうのだ」
マレとガエウの会話を聞いているアリーナは苦笑いを浮かべ、こちらを見ている。
「体を使うんだな……。シャーマンは誰でもなれるものなのか?」
ガエウは首を横にふると、
「シャーマンはなりたいと言ってなれるものではないのだ。先代シャーマンがたくさんいる子供たちの中から1人を選び出し、育てていくのだ。1度シャーマンとして認められると、後継者を見つけ育てない限り、やめることはできないのだ」
「……それは、神であるガエウで解決できないのか?」
ガエウはため息をつくと、
「シャーマンの能力自体が全ての人間にあるわけではないからのう……能力のある子どもがたくさんいればシャーマンの役割を分担させることもできるのだが……今は候補者もいないからのう」
国を作って、人が住み始めても、解決までには時間がかかりそうだ……。
「うん?人はどうするんだ?」
唐突なマレの質問にガエウは首を傾げる。
「ああ、すまん。えと、国を作る時に必要な人間以外に、国ができたあとに住む人間はどうするのか?と思って」
マレの説明にガエウは納得すると、自信満々な声で、
「それはヴィーレア国から引き込む予定だ」
「どうやって?」
「新しい国ができるというのは、いろんなチャンスがある時だからのう。国王に仕える人、国を守る騎士、ヴィーレア国では王国の関係者になれなくてもここではそのチャンスがあるのだ」
「はぁ~なるほどな」
マレは大きく頷いて納得する。
「もちろん、王国関係だけではなく、新しい土地を開拓したい人もいるだろうから、そういう人も呼び込むつもりでいる」
「なるほどな」
マレは再び頷きながら、国を作っていく、と言う過程を頭に思い浮かべていった。
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