第2話 ところで、お2人は?

 呆然と突っ立っているマレを見ながらガエウは、

「マレ、とりあえず座るか」

 と声を掛け、杖をドアの近くに立てかけると、アリーナの対面に座る。

 マレはどこに座ればいいのかわからず、戸惑っていると、

「マレはわしの隣でよかろう」

 とガエウが座っている左側の椅子を後ろに引くと、座面をぽんぽんと叩く。

(埃を払ってくれたのかな?)

 マレは戸惑いながらも指定された椅子に、

「失礼します」

 と言ってから座る。

 なかなか柔らかくて、座り心地のいい椅子だな……と座り心地を堪能していたら、

「ほう、なかなか礼儀のあるやつだな」

 ガエウはかっかっと笑うと、

「では、国作り会議を再開するかのう」

 アリーナとガエウはテーブルの上にのせている紙類を見始めていたが、マレはおずおずと挙手すると、

「あの、その前にお2人の自己紹介をお願いできないでしょうか?」

 マレの言葉にガエウは、はっとして、

「ああ、すまんな。そうだった」

 ガエウはアリーナと視線を合わせて頷くと、

「わしはこの土地を守っている神で、ガエウ、という。正面に座っているのはシャーマンのアリーナだ」

 紹介されたアリーナはマレに向けて笑顔で会釈をする。

 マレも笑顔で会釈を返す。

「じゃあ、なぜ神とシャーマンが国を作ろうとしているんだ?」

 疑問に思ったマレは2人に聞いてみると、ガエウが少し落ち込んだような声で話し始める。

「この土地も少し前までは、人が住んでいたのだ」

 その言葉にマレはさっきまで寝ていた草原を思い出すが、人の気配もなく、この建物以外、何もない、見渡す限りの草原だった気がする。

「東と西の国の領土争いに巻き込まれてしまってな。東のヴィーレアという国に強大な力を持つ魔物使いが住んでいて、この土地に魔物を送り込んできたのだ。ここの土地との相性がよかったのか魔物たちはどんどん力を蓄えていってな。西のザラール国の兵士をあっという間に滅ぼすと、この土地の人間にも手を出し始めて、少しずつ民が減っていったのだ」

 ガエウはその時のことを思い出しているのか、沈痛な表情になる。

「わしも何とか魔物たちに立ち向かったのだがな、強力な炎の魔法を使っても大きな雷を空から落としても、いっとき、魔物は減るのだが、少しずつ復活するのだ」

 ガエウは視線を落とし、ため息をつくと、

「もうなんの手立てもなく、諦めようと思った時にアリーナがあらわれてな」

 顔を上げてちらとアリーナを見るガエウ。

「この土地のどこかにある2か所の魔物溜まりそれぞれに魔法陣を描き、魔物たちを一旦眠らせましょうと言ってくれてな。アリーナに手伝ってもらい何とか魔法陣を描いたのだが……」

 ガエウが話しを止める。

 マレはどうしたらいいのかわからず、そのまま沈黙する。

 ガエウは、はぁ、とため息を1つこぼすと、

「魔物溜まりを見つけるのに時間がかかってしまってな。結局この土地の人間が全て滅びてしまったのだ」

 ガエウは涙を零し、鼻をすすっている。

 アリーナもその時を思い出しているのか、唇を噛みしめ、目に涙を浮かべている。

「わしとアリーナは荒れ果てた地を見て、己の不甲斐なさに嘆き悲しんだものだ」

「その、魔物、っていうのは今でもいるのか?」

 マレは疑問に思って聞いてみると、ガエウは首を横に振り、

「アリーナが怒りに任せて、ヴィーレア国に乗り込み、原因を作った魔物使いと一騎打ちしたらしくてな。その魔物使いを縄でくくりヴィーレア国から馬に乗せて帰ってきたな」

 アリーナの優しい雰囲気からは想像できず、だが、アリーナを見るのが怖くてガエウを見たまま話しを聞く。

「縄でくくったままの魔物使いを脅して、魔物たちを食べさせたな……」

 ガエウは遠くを見つめている。

「ちょっと、まって。えーと、魔物たちは魔物使いが食べた、ということか?」

 ガエウは遠い目をしたまま、マレに向き直ると、うん、と頷く。

「魔物を食べた魔物使いはそのまま魔物に蝕まれ、息を引き取った」

 ……背筋の凍るような話しだな。

「アリーナは、まだ怒りが収まらなかったらしくてな。魔物使いを灰になるまで焼いたな……」

 ガエウは遠い目をしたまま、

「それ以降、アリーナを怒らせないように気をつけてきた」

 マレもそうしようと、心に刻み込むと、

「そんなことがあったのか……で、それは何年前の話しなのだ?」

 ガエウに尋ねる。

「その出来事は今から100年程前のことだ」

 ガエウはさらっと、言っているが、マレは聞き違いかと思い、

「えーと、何年前?」

 と尋ねると、

「100年程前だ」

 空耳などではないことにマレは固まる。

「えーと、年を尋ねても?」

 その言葉に2人は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしているが、ガエウは、

「わしは神だからの。年齢という概念はないのだ」

 マレは乾いた笑いしか出ない。

「それと、女性に年齢を尋ねるのは失礼であろう」

 はっ、としてアリーナを見ると、視線で人を殺せそうなほどの冷たく痛い視線を送っている。

 マレはつい、と視線を逸らし、明後日の方向を向く。

「では、会議を始めてもよいかのう?」

 ガエウの言葉に、マレは慌てて、

「聞きたいことがあるのですが……?」

「何かのう?」

「なぜ、俺はここにいて、国を一緒に作るのですか?」

 マレは先ほどから疑問に思っていることを2人に尋ねる。

 その質問にガエウはアリーナに視線を送り、

「アリーナ?」

 と呼ぶ。

 急に名前を呼ばれたアリーナは体をびく、とさせ、目を泳がせつつ首を傾げて、

「えーと、何かに呼ばれた、とか?」

「何に呼ばれたんですか、俺は?」

「さぁ?」

 アリーナはマレと視線を合わせずに答える。

 答えが出てこないことに落胆したマレを見て、ガエウはかっかっと笑うと、

「まあ、なぜここにいるのか、いずれわかる時がくるだろう。それまでは、帰る場所などわからないのだから、国を一緒に作りながらここで過ごせばよい。食事は出すぞ」

 マレは解消しない疑問を抱えながら、ガエウの言葉に従うしかない、と思った。

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