神様から国を作れと言われた俺。

高岩 沙由

第1章 国をつくるために

第1話 ここはどこ?

(なんだか、体中が痛いんだけど……)

 男は少しずつ目を開けていく。

 太陽がまぶしくて、腕で少し目を覆う。

 青い空、白い雲。鳥のさえずりが風に乗り聞こえてくる。

(いい天気だなぁ……)

 目が覚めてくると体の感覚も戻ってきて、背中の感覚は柔らかい土の上に横たわっていることを教えてくれる。

(ん?なんで俺、ここで寝ているんだろ?)

 体の感覚が戻ると、脳みそも働き始める。

 土の上に右手を置き、起き上がろうとしたが、

(いや、かなり体が痛い……!)

 どこかの骨が折れているんじゃないだろうか、というくらいの激痛に見舞われながらやっとの思いで上半身を起こすと、あたりを見回す。

 遠くに林が見えて、座っているところは原っぱで、背の低い草があちこちに生えているのが見える。

 片足を膝立にして、何とか立ち上がり後ろを振り返るとレンガ造りの建物が見える。

 あそこに誰かいるかもしれないな、と思ってその建物に向かって重い足を引きずるように歩き出した。


 時折冷たい風に吹かれながら、やっとの思いで到着した建物は2階建てだが、2階部分の半分は回廊になっているように見える。

 1階の木のドアの前に立ち深呼吸をしてから思い切り引いて開けると暗闇しか見えない。

「あの~誰かいますか~?」

 と中に向けて声を掛けてみる。

 が、返事などなく、躊躇したが、そのまま中に入る。

 かつん、かつん、と足音を立てながら、ゆっくりと歩いているうちに暗闇に目が慣れてきて、あたりを見る余裕も出てくる。

 今歩いているところの壁は赤いレンガで、廊下は石畳、何も置いていない殺風景な場所で、少し先に目をやると、光が差し込んでいるのが見える。

 痛む体に鞭うってそこまで歩くと、光が差し込む場所に体を向ける。

 そこは小さな庭で、見渡す限り色とりどりの花が咲き、鳥の鳴き声が響く、オアシスを思わせる場所で、光に誘われるよう一歩足を踏み入れると、木々の奥に噴水のようなものが置いてあるのが見える。

(そういえば、喉乾いたな)

 と思い噴水に向かいゆっくりと歩いていく。


(きれいな水だ……飲めそうだな)

 そう思って、両手ですくい水を飲む。

 甘みを感じる美味しい水で、何回か両手ですくい水を飲む。

 と、その時、

「お主は誰じゃ?」

 と背後からしわがれた声の男性の声が聞こえてきたので、慌てて振り向く。

 そこにいたのは、頭に何か金色のわっかをのせていて白い髪が肩まであり、真っ白な布を体全体にまとい、手には肩くらいまである杖を持っている男性で険しい顔でこちらを見ている。

 しわがれ声だったので、年いってるのかと思ったけど、顔のほりが深いものの、しわのない顔をしている。

 まじまじと不躾にその男性を見つめていたら、段々と目つきが鋭くなってくるのがわかる。

 慌てて自己紹介をしようとした時に、ふと、気づく。

(俺の名前は……?それに、どこからここにきた?)

 いきなり考え込む男を見て、男性は低く険しい声で、

「名を名乗れ!」

 と怒鳴り、手に持っていた杖を廊下の石畳に打ち付ける。

 その声と音にビビり肩をすくめて、

「あ、すみません。実は、名前が思い出せなくて」

 と素直に言うと、男性は目を丸くすると呆れた声で、

「馬鹿なことを言うな」

「いえ、本当なんです。気づけばここにいて……ってここはどこですか?」

 男性は慌てている男の顔に哀れみの眼差しを向けると、

「ここは名前のない国だ」

 と一言、吐き捨てるように言う。

「名前がない国?」

 不思議に思いオウム返しに聞き返す。

 男性は低い声で、

「そうだ。一度滅びたこの国に新しい名前をつけようとしていたところ、建物に不審者がいると言われて探しにきたのだ」

「一度滅びた国……?」

 言われた言葉を理解しようと考え始めるとその様子を見ていた男性は突然、

「そうだ、お主は帰るところがないんだよな?」

 一瞬何を言われたかわからず、首を傾げるが、そういえばそうだな、と思う。

 なんせ、どこからきたのかはっきりと覚えていないのだから。

「その顔は図星だな。よし、建物に無断で入ったことはこの際、目を瞑ろう」

 男性は先ほどの険しい顔から一転、満面の笑みを浮かべると、

「その変わり、この国を作れ」

「はあ!?」

 男性の言葉の意味が分からなく、大きな声で聞き返してしまう。

「一緒に国を作っていくぞ」

「いや、ちょっと待って!どういうことか、説明してくれ!」

 男は慌てて男性に質問するが、

「説明はあとで」

 と言い、呆然としている男の首根っこを掴むと引きずるように建物の中に入って行った。


 引きずられ連れて行かれた部屋はいたってシンプルだった。

 天井からは小ぶりなシャンデリアが等間隔で3台ぶら下がり、赤い絨毯の上には10人掛けのテーブルが部屋の真ん中に置いてあり、壁際にソファーや棚が置けるほど広い部屋で、そこのテーブルにぽつん、と白い長袖の洋服を着ている1人の女性が座っている。

「アリーナ、待たせてすまん」

 名前を呼ばれた女性は、美しい、と形容できる人で、プラチナブロンドに青い目、唇は薄く上品な微笑みをたたえている。

「いえ、ガエウ様、大丈夫ですよ」

 とガラスが響き合うような透明感のある声で男性をガエウと呼び、話しかける。

「こやつがアリーナの言う不審者でな、連れてきたぞ」

 ガエウはかっかっ、と笑うと、

「えーと名前はなかったのだな?」

 男がアリーナに見惚れている時に話しかけてきたので、慌てて男性に向かい頷くと、

「アリーナ、こやつに名前を付けてくれないか?」

 一瞬眉をひそめたアリーナだったが、ため息をつくと、

「ガエウ様には逆らえませんから」

 と言うと丸く大きな透明感のある玉をアリーナの手元に置き両手をテーブルの上で組むと険しい顔をして丸い玉じっと見つめ始めた。

 言葉を掛けられる雰囲気ではなかったので、そのまま凝視していると、突然アリーナの声が部屋に響く。

「ガエウ様、水晶が教えてくれたのは、マレ、という単語でした」

「そうか、ありがとう」

 ガエウはアリーナに礼を言ったあと、男の方に振り向くと、

「今日から、お主はマレだ」

 名前を思い出せない男はマレという名前を与えられたが、

「いや、ほんと、意味がわからないんだが?」

マレは呆然と呟いた。

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