第7話
「みんな揃っているね」
フェイは研究所のロビーの机周辺に職員たちを手招いた。机の上の紙には薬草園の見取図が描かれていた。
「ラングドンによると、第一王子殿下とゴーシェたちが午後の政務の後で来園予定だ。それまでに、もう一度薬草園及び研究所内の捜索をしたい。午前中と捜索場所を入れ換える。よって、ナハ、クルスク、タミアが研究所内、ササラ、イータ、ダンカは薬草園、ヤハマとディアは薬草園の道具小屋と温室、ラングドンは研究所の建物周辺を頼む」
「所長はどこを探す予定なの?」クルスクが尋ねた。
「わたしは、第一王子の離宮と薬草園の間を中心に、薬草園の外側を探す」
「イツカの通勤経路ってことね」クルスクは納得したように頷いた。「クゥも所長と一緒かしらね」
「では、それぞれ捜索お願いします。今日は、湿っぽく暑い日ですから、水分補給を忘れずに!薬草園を担当する職員は、日除けもしてください」
くれぐれも無理しないように!とフェイは職員たちに伝えた。水張月下旬のヒースラント王国は湿度が高く、熱中症になりやすいのだ。
「では、2時間後に一度ロビーに集合してください。捜索していない範囲を確認します」フェイは「捜索始め!」と号令を掛けた。
「あ、その捜索ちょっと待った」
ロビーの入り口から、捜索に待ったの声がかかった。オレンジの癖っ毛が扉の隙間からのぞいた。
「ゴーシェ!」
フェイは職員に少し待つように指示をだすと、ロビーの扉へ歩みよった。
「どうしたの?聞いていたより、早いじゃないか」
「早めにフェイたちと合流しようと思ったんだよ」
「とにかく、中へ入りな……よ」
入口の扉に手を掛けて、ゴーシェに早くロビーに入るよう促したフェイの語尾が不自然に途切れた。
「所長どうされましたか?」固まってしまったフェイにダンカが声をかけた。
「……イツカ」フェイは静かに驚いていた。
「イツカ!?」ダンカはあわてて、フェイの後ろから扉を開ける。
ゴーシェはダンカににかりと笑い掛けた。
「ありがとな。さすがに扉が開けにくかったんだ」
ゴーシェはダンカが扉を開けたので、差し込んでいた足を引いた。ゴーシェは自身の片腕と上体を主軸に支えていたイツカを両腕に抱え直した。イツカはくたりと力なくゴーシェにもたれかかったままだった。
イツカを抱いたゴーシェを職員たちは、ロビーへと通した。
「ゴーシェさん!ソファを使ってください」ナハがソファの座面を叩いて場所を示す。
「わたくしの机に膝掛けがあるわ。持ってきます」ディアが立ち上がった。
ゴーシェがそっとソファへイツカを横たえた。ヤハマがそっとソファの横に膝をついた。
「呼吸は浅く、顔が赤らんでおる、体温も上がっている……」
ヤハマは、イツカの手首をとり脈を計る。ヤハマはイツカの手首をそっとソファへ置き、ラングドンを見た。
「ラングドン。守衛室に氷はあるか?」
「氷?たくさんはないぞ、それに昼も過ぎているからだいぶ溶けていると思う」ラングドンは今持ってくると守衛室に戻った。
ダンカはまだ呆然と立っていたフェイに近づいて「所長も、はやく」と移動を促した。
守衛室から戻ったラングドンは片手で持てるほどの大きさの木桶を持っていた。
「今ある氷はこれだけだ」
木桶の中の氷は溶けていて、残っているのは小さな欠片のみでほとんどが水だった。水音に紛れて、氷の欠片が木桶にあたったらしい小さな音がした。
「ラングドン、ありがとう」ヤハマに桶を手渡してラングドンは「どういたしまして」と返した。
ヤハマは木桶の氷水に手巾を浸して絞るとイツカのおでこにのせた。
「暑気あたりだろう。風通しの良い日陰で冷やしながら様子を見る。脱水も起こしているから、水と塩と砂糖を持ってきてくれ」
「ヤハマさん、これイツカさんに」
ディアは膝掛けを広げた。薄手の柔らかな布はシンプルながら上質なものだ。ディアはイツカの脚にそっと膝掛けを広げて、イツカの脚を隠した。今日のイツカは作業着として、シャツとスラックスを着用していた。イツカのスラックスの膝下は泥や草の汁で汚れていたが、ディアはそのまま膝掛けをイツカに被せた。イツカのシャツは汗で肌に張り付いてやや透けてしまっていた。ディアは困ったわと眉を寄せた。
ふらりとイツカにもう一枚布が欠けられた、薄く通気性の良さが伝わる大判の一枚布だった。
「わたしのストールです。何もないよりは良いでしょう」とササラがイツカを覆いすぎて熱が逃げるのを邪魔しないように気を付けながら、透けてイツカの身体の線が出ていた部分を隠した。
クルスクは身体を冷やすために追加の手巾を持ってきた。ヤハマの指示に従って、氷水に浸して絞っていく。クルスクに手巾を渡されたヤハマは、イツカの首筋や脇の下に手巾を挟んで応急手当をしていった。
タミアは守衛室の簡易台所で、水と食塩と砂糖を混ぜた飲み物を用意してヤハマに「この机に置いておくわね」と伝えた。
フェイは一連の様子をソファから少し離れたところで見ていたのだった。
◇◇◇◇
「暑気あたりってさ、たしか<来る人>が教えてくれたんだっけ?」イータがロビーの隅で呟いた。
男性陣はイツカが横になっているソファの背を見ていた。
「そういえば、そうね。近頃は病名も対処法も随分浸透してきたわ」クルスクがのイータ呟きに返答した。
「……イツカと同日にやって来た<来る人>───第2王子に保護されたイオリ──は熱中症と呼んでいたよ。経口補水液を飲みやすくしたいと言うておったの」ヤハマはタミアが作ってくれた飲み物を示した。
「経口補水液?」ダンカが首を傾げた。
「わたしが前々回の<来る人>聞いたときは、スポーツドリンクって呼んでたよ?」タミアも不思議そうにしていた。
「そもそも病名が変わってるじゃない」クルスクも疑問を口にした。
「ふむ」ヤハマは説明しあぐねているようだった。
「<来る人>の世界はわたくしたちの世界より、世の中の変遷が激しいのかも知れないわねぇ」とディアは私見を述べた。
「それは、あるかもしれないわ」クルスクが同意した。
「<来る人>の服装や趣味嗜好ひとつとっても、前回の<来る人>と重なる部分を見つけることの方が難しいもの。今回同時にやってきた3人の<来る人>もそれぞれ系統が違うようだし」面白いわよね、商品の参考になるわ。とクルスクは語った。
「今度はどんな商品をおつくりになるの?」ササラがクルスクに尋ねた。
「イツカと同日にやって来た<来る人>───第1王女に保護されたマドカを見て閃いたのよ!そうだわ、種類を増やそう!ってね」
「種類?もう幾つかあるじゃないか。たしか、保湿用と日除け用と…」ダンカがどういうことだと、首を傾げながらクルスクの商品を指折り数えていった。
「化粧水と乳液と日焼け止めと洗顔料ね」クルスクは「他にもあるけど」としょうがないなぁといわんばかりに肩を竦めた。
「……化粧水にも幾つか種類を増やすってこと?仕上がりのイメージの違うものとか、より肌の悩みにあうようなものとか」
「そう!そうなのよイータ!わかってるじゃない」クルスクは嬉しそうにイータの背中をパンと張った。
「ほら、イツカは……奥ゆかしいというかふんわりした可愛さなんだけれど、マドカはハッキリしたカッコいいキレイさなの。2人をイメージした商品をつくりたいのよ」クルスクは力説した。
「今の商品を基本タイプにして、なりたい自分のイメージに近い商品を選んでもらうのよ」ふふとクルスクは愉しそうに笑った。
「面白そうなこと考えるんだな」とゴーシェは職員たちの雑談を聞いて感想を述べた。
「<来る人>のイメージを前面に出して商品化するときは、<来る人>本人とその後見の許可は申請しておくように」フェイは良いとも悪いとも言わず、クルスクに企画を通す前にと注意をひとつした。
「それで?ゴーシェ、イツカをどこで見つけたのさ」フェイは、イツカが横になっているソファの背を見ながら尋ねた。
「この建物の前だな」
「はい?」フェイがまさか、という顔でゴーシェを見た。
「この研究所のエントランスに植え込みがあるだろう?あそこで寝てた。第一王子殿下や宮廷騎士団たちに先立って、殿下の近衛数名と来ていたからな。彼らに発見の報告のために走ってもらってるよ」
「そういえば、発見の報告してなかった……。ゴーシェ、ありがとう」
「いいってことよ。ま、状況が変わったら次から報告な」
「はい」素直に返事をしたフェイに、ゴーシェは面食らった。ゴーシェはフェイのことだから、ゴーシェの癖に、と拗ねるか、あの小さかったゴーシェもすっかり頼もしくなって、と茶化してくると思ったのだ。それが二人の間のいつものお決まりであった。ゴーシェは坐りの悪さを感じた。
「う……」
ゴーシェが口を開き掛けたところで、イツカが呻き声を出した。もぞりと身体を動かしてイツカが目を開けた。
「イツカ」一番イツカの近くにいたナハがイツカの顔を覗き込んだ。「大丈夫?」と眉尻を下げた。
「にゃや?」イツカは、ナハの名前をうまく発音できなかった。イツカは声を出すこともつらそうな様子だった。
「ナハ、少し代わってくれるかの」ヤハマがそっとナハの肩を叩いた。ナハは頷いてヤハマに場所を譲った。
『イツカ嬢。熱中症による脱水を起こしておる。これを飲めるかの?経口補水液だ』
『はい、ありがとうございます』とヤハマに伝えた。
イツカが上体をゆっくりと起こすのをナハが見守った。ナハはいつでも手を貸せるようにと、イツカに寄り添った。ヤハマはイツカがソファの背もたれに身体を預けたのを確認すると、グラスを手渡す。
イツカは渡されたグラスに口をつけた。ちびちびと一口ずつゆっくりと口に含んでいく様子をヤハマは診ていた。
「意識もはっきりしておるようだから、もうすこし水分をとって経過観察でよかろう。ま、今日は安静にしておいた方が良いの」と心配そうな顔をしてイツカの様子を注視していた職員たちに伝えた。ヤハマは同じことをグラスを空にしたイツカにも伝えた。
『イツカ』
フェイはソファを回り込んでイツカの前に立った。ナハはササラのストールをイツカの肩に掛け直した。
『君は、何処にいたの?心配したんだ、すごく』
フェイはイツカに尋ねた。フェイの顔はイツカからは見えなかった。
「所長、もう少しイツカの容態が安定してからの方が……」ダンカはフェイの話に口を挟むが、ササラはそれを制止した。
「どうしたのかしら?」とクルスクが呟いた。「所長が、心配したって、イツカに言ってる」とイータが<来る人>の言語を通訳した。
「……所長らしくないわ」タミアがイータの訳を聞いて心配そうな顔をした。
『……みなさんの、お仕事の足を引っ張って、ごめんなさい』イツカはフェイに頭を下げ、近くにいたナハとヤハマに頭を下げた。立ち上がろうとしたのをヤハマとナハに止められたので、上体を捻って自身の後方にいたダンカたちに頭を下げた。
『それから、探してくださって、ありがとうございました』
イツカはもう一度フェイに向き直ると、彼を見上げた。
『わたくし、何処にもいっていません』
『……どういうこと?』フェイは自分が恐い顔をしている自覚があった。肚がふつりふつりと沸騰する直前の水のようにエネルギーを溜め込んでいた。
『わたしは、ずっと研究所の建物の前にいました』
フェイはイツカの話を聞かなくては、と自分に冷静になれ、冷静に……と言い聞かせていた。
『ならば、みんなが探していたことは?気づいていなかったの?』
『探してくださっていることは、感じていました』イツカは言葉を選ぶように、ゆっくりとフェイに返答をしていった。
『なら……どうして』フェイは詰る口調になってきた。フェイは自分の感情をうまく制御出来なくなっていくのを感じた。フェイは肚の中から植物の棘を刺されたようなツキリとした痛みを感じた。自分の刺で自らの葉を傷つけてしまうレモンの木のような気分だった。
『研究所の中に入って来てくれたら良かったんだ。そうしたら……っ!』
フェイは自分で刺してしまった棘を抜くことができなかった。大きな声を出してイツカを詰っていく自分を、もう一人の冷静な自分が俯瞰しているようにも感じた。それでも、止まれなかった。
フェイは不安だった。イツカが何を考えているのか、フェイにはわからなかった。同じ異世界から来た父よりも、フェイにはイツカの考え方は理解ができなかった。フェイは<来る人>の言葉を話すことができた。父母との会話も師匠であるクゥとの会話もイツカに話す時と同じ言語を使っていた。だから、自信があったのだ。イツカを理解できる、手助けをできる自信がフェイにはあった。だから、イツカの通訳に指名された時は嬉しかった。しかし、イツカはフェイが思うほどには、フェイを頼らなかった。フェイには、それがもどかしくて堪らなかった。
イツカがもっと自分を頼ってくれたなら、フェイは彼女に不自由をさせずに済むと思った。もっと、快適にここで生活できるように、手を尽くすことがフェイにはできると思った。
『もっと!頼ってよ!イツカ。言って、そうしたら、僕は……!もっとイツカに頼りにされいんだよ……』
イツカはフェイの訴えをただ哀しそうな顔をして聞いていた。何度か言葉を返そうとしたようにも見えたが、イツカは言葉を紡ぐことなくフェイの話を聴いていた。
フェイの訴えが一区切りついたのを見計らって、イツカはフェイに静かに話しかけた。
『フェイさん。心配してくれて、いつもわたくしのこと、気に掛けてくださって、ありがとうございます』
イツカは、ふうっと哀しそうにフェイに笑い掛けた。何かを伝えようと口を動かすも、音にすることが出来ないまま、やがて口を閉ざした。
イツカは一度、目蓋を閉じて、息を吐き出した。そして、フェイに視線をあわせた。その時には彼女はいつもの困ったような笑みを浮かべてた。
フェイはイツカの表情をみて、胸が一杯になった。フェイはイツカのこの笑みが好きではなかった。
『今回の件について、みなさんにとてもご迷惑を掛けてしまいました。本当に申し訳ないと思っています。ただ、……わたくしも困っていたのです』
イツカはフェイの様子を伺いながら、静かな声でゆっくりと話を続けた。
『わたくしはこの研究所の建物の近くにいました。しかし、建物の中には入ることができませんでした。一定の距離以上の移動ができませんでした』
『……どういうこと?』フェイが何を言っているのだとイツカを見た。
『わたくしは研究所に戻ることが出来ない状態でした。かつ、みなさんの声は聞こえるのに、その姿を見ることが出来ない状況でした。わたくしの姿もみなさんからは見えず、声も届いていないようでした』
わたくし自身とても困っておりました、とイツカは淡々と状況を説明していった。
『最後は、脱水状態になっていたのは自分でもわかりましたので、木陰で休んでいたのです。いつの間にか眠っていたようですが……』
眠っていた間にわたくしの身に起きていた困った状態は解消されていたのですね、とイツカは話を締めくくった。
『……イツカ。ひとつ聴いてもいいですか?』
イツカの話を聞いたフェイが何かを考えている間に、ダンカは挙手をして発言をした。
『ひょっとして、昨日資料庫に閉じ込められていたときも同じ現象が起きていましたか?自分では一定範囲以上動けないのに、助けを求めることも出来ないような』
『……!そうです。昨日も部屋の扉に近づくことができなくなってしまたんです』
『イツカ。それ、聞いていないんだけど』フェイは低い声で言った。
『そういう、ものなんだと、思ったんです。掃除が終われば、部屋から出られるんだと、わたし、思ったんです。違うんですか?』イツカは動揺したように口調が乱れ始めた。
『おかしいって、思わなかったの?』
イツカは傷付いたような表情で、唇を震わせて何かを呟いた。しかし、余りにも小さな声であったので、誰の耳にもその音は拾われることはなかった。
イツカはふう、と息を吐いた。そして、フェイをひたと見据えた。真剣な表情で、ゆっくりと、静かし話し出した。
『わたくしの暮らしていた世界と、この世界は異なる世界です。わたくしの常識が通じることの方が少ないのだ、とわたくしは考えています。ですから、不思議なことがあったとしても、こういうものなのだろう、と状況に自分を合わせていくしかないと思ったのです』
そこでイツカはふっと、目尻を弛めていつもの笑みを浮かべた。
『ですが、わたくしの状態はこの世界の常識に照らしても異常だったのですね。フェイさん、教えてください。わたくしは、今後、どうしたらよいのでしょうか?』
静かにものをいわないイツカは、のんびりした性格なのだとフェイは思っていた。とんでもない。イツカは自分の感情を捩じ伏せることができるだけなのだ。自分の激情も呑み込めてしまうのだ。表に出す感情をコントロールできるだけで、その感情の揺れは確かにイツカの中にあるのだ。
唐突にフェイは、イツカが自律した思考を持つひとりの人なのだ、ということが腑に落ちた。イツカは、大人なのだ。
『……イツカ、あの、きみは……ひょっとして、結構なお年なのかい?』
イツカはフェイの顔を見て、初めて呆然とした表情をした。
『リースウェル所長!!聞き方!』ダンカは、頭を抱えていた。
『さすがに、その尋ね方はよろしくないですわ』ササラも打つ手なしと言わんばかりに首を振った。
「むしろ、所長はイツカの年齢や育ちも知らずにいたの……?」イータが皆に通訳をしながらぼやいた。
ロビーのざわめきは、イツカの咳払いで鎮まった。職員たちもイツカに注目していた。
『フェイさん。わたくしたち、お互いのこと何も知りませんでしたね。……すっかり、忘れていましたけれど』
イツカはフェイにゆるりと微笑んだ。
「そうだ!歓迎会しましょうよ」ヤハマの通訳でイツカとフェイの会話を聞いていたナハは、勢い良く立ち上がって提案した。イツカとフェイは突然立ち上がったナハに驚いていた。
「歓迎会?」フェイが首を傾げた。
「そうです。昨日はイツカも所長も帰ってしまいましたし。全員参加できる日に、改めて開こうねって、ダンカも言ってましたよね!」
「そういえば、そういう話になりまたね」ナハの話にダンカは頷いた。
「今日なら、職員も常勤の人は全員いますし!この後の仕事も片付いています。今からしましょう!このロビーで、お茶会しましょう!」ナハが力強く説くと、賛成の声が上がった。
「確かに今なら、仕事も片付いているし……」とイータ。
「良く考えなくても、まだ教務時間よね?」とササラ。
「簡単なお茶会なら、守衛室を借りればなんとか?」とタミアがラングドンに尋ねると、
「まあ、茶葉と日持ちする菓子類なら、出せますよ」とラングドン。
「俺も参加していいか?」とゴーシェが挙手をした。
「是非、参加してちょうだい。のんびりお話ししましょう。わたくしたちも、自己紹介しなくちゃね」とディア。
ディアに頷くようにクゥも「クゥ!」と元気良く声を挙げた。
「そうですの。イツカの経過観察も兼ねて、ちょうどよいかもしれん」ヤハマも
「……ということで、賛成意見かしら?」とクルスクがまとめた。
職員たちの期待の眼差しに、フェイはやや気圧されつつながら、わかりましたと頷いた。
「……今から終業時刻までの2時間程度は会議を行います。職員はロビーに集合してください。以上です!」
職員たちは銘々、飲み物や秘蔵のお菓子を持ち寄るのだ、と楽しそうに動き始めた。
フェイはそっとイツカの顔を見た。イツカは静かに職員たちの動きを観察していた。イツカは不思議そうにロビーを見渡したあと、肩にかけられていたストールを掻き寄せた。ストールがもぞもぞと動いていたが、やがてストールを肩から外した。彼女はストールの下で看病のために緩められていたシャツの第一ボタンをとめ直していたようだ。膝掛けもストールと同様に丁寧に畳みはじめた。
フェイはイツカにそっと話しかけた。
『……イツカ。みんなが、イツカの歓迎会をしようって。ここで、お茶会を開くことになったよ』
イツカはフェイの顔を見て『歓迎会?わたし、の?』とこてんと首を傾げた。
イツカはもう一度ロビーを見渡し、職員たちが持ち寄った菓子類を見て『今日は解散、ということではなかったんですね』と小さな声で呟いていた。
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